北朝鮮報告(4)~咸興のフルコースはカステラに始まり冷麺で終わる。

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 北朝鮮報告(1)(2)(3)から続きます。

 北朝鮮の人口は約2300万人で、そのうちの300万人が平壌に住んでいるそうです。それに続く第2の都市が咸興(ハムン)。咸鏡南道(ハムギョンナムド)の道都であり、150万人の人口を有する化学工業、機械工業が盛んな町です。

 というのは、ガイドさんの受け売りですけどね。あいにくの曇り空で町が暗く見えてしまうかもしれませんが、第2の都市だけあってなかなかに立派でした。

 ただ、平壌から行くとなるとけっこう大変で、途中の元山(ウォンサン)を経由しながらほぼ1日がかり。8時に平壌を出発し、途中のサービスエリアで休憩を挟みつつ、スキー場なども軽く見学しながら、元山に着いたのが13時過ぎ。元山で昼食をとって万景峰号の写真を撮った後、またずっと車で移動して咸興到着が17時。道路事情がよくないため、地方都市まで繰り出そうと思うととにかく時間がかかります。

 それでも地方へ出たほうが面白かったですけどね。

 道路事情だけでなく宿泊事情(咸興では1時間限定でしたがお湯も出ました)も劣りますが、食事や観光の満足度は地方のほうが圧倒的に高かったです。北朝鮮報告(3)で書いた開城(ケソン)しかり、今回の咸興しかり、そして先ほどサービスエリアと書きましたが、そこで食べた昼食も予想外に素晴らしいものでした。

 今回のツアーでは行けませんでしたが、いずれ機会があるなら、西海岸に面した南浦(ナムポ)や、海州(ヘジュ)、中国との国境地域にある新義州(シニジュ)、東海岸沿いの羅先(ラソン)、清津(チョンジン)あたりも食べ歩いてみたいですね。ガイドさんからどこどこは何が美味しい、何が名産と山ほど聞いてきましたので、当面はそれらをリスト可してニヤニヤ妄想にふけりたいと思います。

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 さて、先ほどの高台から反対に目を向けるとこんな光景が。

 ちょうど訪れたのが太陽節(金日成主席の誕生日)という祝日だったため、前日から国の至るところがお祝いムードに包まれていました。

 各町にはこうした金日成主席や、金正日総書記の銅像が建てられているか、または肖像画が掲げられているので、そこに花を捧げてご挨拶に行くのが習わしのようです。ご近所同士なのか職場の集まりかはわかりませんが、たくさんの団体が町の1ヶ所を目掛けて移動する光景はなかなかに壮観でした。特に女性の場合は色とりどりの伝統衣装に身を包んで華やかであることこの上ないです(対して男性はひたすら地味)。

 たぶん厳粛な行事でもあるのでしょうが、子どもたちなんか浮かれ半分で、こちらが外国人と見るや……。

「ハロー!」
「ニイハオ!」

 の大合唱。

 基本的にどの町へ行っても外国人であるのはモロバレなので、あちこちでにこやかに手を振ってきました。どこでも大ウケです。

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 咸興ではまず、金日成主席、金正日総書記の事績館を見学(写真は後述の咸興本宮)。

 地方においてはいかにこのお二方、そして最近は金正恩元帥が直接足を運び、どんなお言葉を残したかが郷土の誇りとなります。首領様がどこそこの景勝地を褒めたとか、将軍様がなになにの産業を伸ばすように指示したとか、そういった話が主になるのですが、美辞麗句はともかくこれがけっこう地域を理解するのに役立ちます。

 ひとつ余談ですが、金日成主席、金正日総書記、金正恩元帥の肩書きはそれぞれガイドさんから聞いて、現地でそのように使っていたものです。日本のメディアでは金正恩第1書記としている例が多いようですね。

 現地解説員の話を聞いているとお三方の名前が頻繁に登場するのですが、偉大な(위대한)とか、敬愛する(경애하는)とか、父なる将軍様(어버이 장군님)といった表現が重なるため、いま誰が出てきたのか把握するのがたいへん難しいです。逆に文脈上でそれらが省略され、ただ首領様となったりもすることもあって、ますます混乱をきたします。

 加えて、北独特のイントネーションや、単語の違いもあるため、ヒアリング能力は南にいるときよりも格段に落ちますね。対して話すのは問題ありません。単語の違いはともかく、問題なく通じました。

 ともかくもそうやって事績館で地域のイメージを大枠として作った後、写真の咸興本宮を見に行きました。朝鮮王朝を建てた李成桂(これもイ・ソンゲでなく、リ・ソンゲ)が晩年を過ごし、またその子孫が位牌を祀った場所でもあります。

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 見事だったのは樹齢450年という松。

 写真の右側に平たく伸びている部分まですべてがひとつの木です。これを見るだけでも価値があるという場所でしたが、かつての姿を残した古い建物なども見ごたえありました。

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 さて、ここからが本題。

 観光を終えた後は、1970年代に創業したという老舗冷麺店の「新興館」で夕食です。咸興と言えば冷麺、冷麺と言えば「新興館」というほどの有名店。通されたのは、フレンチのフルコースでも出てきそうなゴージャスな個室でした。

 なお、この日は太陽節の前日ということで本当はお休みだったのですが、料理に関心のある外国人観光客が来るということで、特別に開けていただいたそうです。スタッフの方々には申し訳ないことをしましたが、おかげさまで貴重な冷麺を味わうことができました。

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 で、テーブルにつくとこんな感じ。

 写真上にあるのがタイトルにあったカステラとパン。写真左の皿がポテトチップ。なんだか妙な組み合わせだなと思いつつも、ビールと、地元のマツタケ焼酎で乾杯をし……。

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 ほどなく前菜が運ばれてきました。

 宮中料理のタンピョンチェ(宮中式の和え物、탕평채)かと思いましたが、店員さんに確認をしたところ……。

・リャンジャンピ(両張皮、中華風の冷菜、량장피)

 という説明でしたね。南でいうヤンジャンピ(양장피)。

 両張皮と呼ばれるでんぷんを固めたものを細切りにし、野菜や豚肉、キノコとともにマスタードソースで和えた料理。と書けばタンピョンチェとほとんど違わないですね。

 南では出てくる店がまったく違うので(タンピョンチェは宮中料理店や韓定食店、ヤンジャンピは中華料理店)、これまで意識したことがありませんでしたが、ちょっと違いを研究したいと思います。

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・カムジャチヂム(ジャガイモのチヂミ、감자지짐)

 最初、ロクトゥチヂム(緑豆のチヂミ、록두지짐)かと思って尋ねたのですが……。

「ジャガイモです。今日の料理はみんなジャガイモですよ」

 と言われて、えっ? と目を丸くすることに。

「最初のカステラとパンはジャガイモで作ったものです」
「もうひとつの皿もジャガイモを薄く切って揚げたものです(ポテトチップ)」
「リャンジャンピもジャガイモのでんぷんで作りました」

 と説明が続いてすべてを理解しましたが、カステラもパンもふんわり柔らかで、言われなければジャガイモで作ったとは思えない味。よーく味わってみると確かにでんぷんのような風味はありますが……。

「いやはや、これは驚いた」

 と不意打ちをくらった次第です。

 冷麺を食べにきてカステラから始まるのも驚きでしたが、冷麺の麺はそもそもジャガイモのでんぷんから作るんですよね。なので、それを食べる前にジャガイモ尽くしの前菜を用意するというのは、なんともしゃれた趣向ではありませんか。

 先ほどフレンチのフルコースでも出てきそうなと書きましたが、ここはジャガイモのフルコースを出す店だった訳です。

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 かと思えば直後に……。

・ナクチボックム(낙지볶음、テナガダコではなくイカ炒め)

 が出てきて、

「こちらにジャガイモは入っていません」

 と肩透かしを食らったりするのはご愛嬌。

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・タルガルコンギチム(닭알공기찜、茶碗蒸し)

 南でいうケランチム(계란찜)にもジャガイモは入っていませんでした。かわりにカニの身が少し入っています。南ではトゥッペギ(チゲ用の器)でボコボコに煮立てることの多い料理ですが、北では日本の茶碗蒸しに似た滑らか仕立てが多かったです。

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 ジャガイモ料理に戻って……。

・カムジャソンピョン(ジャガイモの松葉餅、감자송편)

 これは手の込んだ料理でしたね。

 手前の黄色っぽいほうがジャガイモを蒸してから餅にしたもの。奥の黒っぽいほうがジャガイモをすりおろして餅にしたもの。中の具も違って、黄色いほうはキャベツと豚肉を炒めたものが入って餃子風。黒いほうはジャガイモの麺が入っていて、どこか春雨入りのスンデ(腸詰め、순대)を思わせるものでした。

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・マンドゥクッ(餃子スープ、만두국)

 こちらは皮がジャガイモのでんぷんで作られておりクニクニ食感。他の店でもマンドゥクッは出てきましたが、巾着のようにというか、てるてる坊主のようにというか、きゅっとつまむように形作った餃子が多かったです。

 彩りに浮いているのは、ここでもパクチー。

 北朝鮮報告(3)でキムチに入れることを報告しましたが、意外と汎用性のある香草として扱われているのかもしれません。

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 真打ち登場。

 ここまで冷麺、または咸興冷麺と書いてきましたが、

・ノンマグクス(ジャガイモ冷麺、녹마국수)

 と現地では呼びます。ノンマというのがジャガイモのでんぷん、グクスが麺。南ではノンマル(녹말)という言い方をしますが、それが北ではノンマとして定着しています。レンミョン(冷麺、랭면)でも通じますが、現地ではノンマグクスというほうが多いようですね。

「咸興冷麺にピビムネンミョン(混ぜ冷麺)が中心という常識はない」

 という予想外の現状は北朝鮮報告(1)でお伝えした通り。また、南では咸興冷麺というとサツマイモのでんぷんで作ることが多いのですが、現地で聞いた限り、ジャガイモ100%で作るのが一般的のようです。これも新しい発見でした。

 ジャガイモの産地としては咸興のほか、隣接する両江道(リャンガンド)がもっとも有名。旅行中ずっと担当してくれた運転手さん(キャリア20年で全国の道に精通)が、地方でいちばん美味しかったのは両江道のジャガイモ料理だとおっしゃっていましたので、それもいつか食べに行きたいですね。

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 面白かったのは、おかわり用のひと口麺が一緒に出てきたところ。

・トッククス(追加麺、덧국수)

 というそうですが、こういうの南でも地方に行くと出てきますよね。全州のコンナムルクッパプ(大豆モヤシのスープ、콩나물국밥)なんかもおかわりが一緒に出てきて、足りなければ食べてね、という昔ながらの情が伝わってきます。

 南と違うのはハサミが出てこない点。

 麺を切るのは縁を切ることに通じて縁起が悪いとされているため、噛み切るのにも難儀をするほどコシの強い麺ですが、むしろそれを楽しむのが流儀です。

 スープも見事でしたねぇ。豚肉、キジ肉、牛肉を煮込んだうえで徹底的に脂を除き、濃厚な肉のうま味だけを抽出したところへ粉唐辛子でピリッと引き締めます。黒く浮いているのはエゴマの実で、これがプチッと香ばしさも演出します。

 具は茹でた牛肉、豚肉の薄切りと、キジは小さな肉団子、梨、大根、松の実、ゆで卵、錦糸卵と、これらもだいぶ豪華です。

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 最後にアイスクリームが出てくるのは平壌の「玉流館」と同じ。

 とっても甘いですが、とっても濃厚で、いいアイスを食べたなという満足感があります。Facebookではオルムポスンイ(얼음보숭이)という呼び名を教えていただきましたが、今回見聞きした限りではアイスクリーム(아이스크림)を使っていました。外国人相手だからなのかもしれませんが、外来語がまったく使われていない訳ではないな、というのも感じたことのひとつです。

 個人的にいちばん難解だったのが……。

・バター(빠다) ※南では버터

 お菓子とかの原材料名に書いてあって、気付くまで相当に時間がかかりました。

 さて、そんな夕食を終えて出迎えてくれたのが、咸興における外国人旅行客の担当者さん。お休みであるはずの店を開けてくれたのは、たぶん彼が働きかけてくれたからでしょう。大満足だったことを伝えると満面の笑顔で……。

「いやあ、料理に関心の深い方々と聞いたので、厨房のほうに咸興式そのままで作るよう言ったんですよ。ヨーロッパからのお客様だと我々も辛さを減らしたりするんですけどね。今日召し上がっていただいたのは完全なる咸興の冷麺です!」

 と語ってくれました。笑顔の中にホッとしたような表情もあって、そのあたり外国人の応対というのは難しいんだろうなと推察されます。

 あれこれ会話を重ねつつ、印象的だったのは平壌冷麺のことを尋ねたときの反応。

「咸興の人は辛くて刺激的なものが好きなんですよ。平壌の料理はちょっと……ねぇ」

 と最後は言葉を濁したものの、あっちの料理はお上品すぎると言わんばかりで、そこでも咸興への郷土愛がひしひしと伝わってきました。冷麺だけでなく刺身やキムチも美味しいと力説されていましたので、いずれまた機会があれば、そのへんも制覇してみたいですね。

 さて、この北朝鮮報告も(4)まで来ましたが、現在の見込みだと(7)、はみ出しても(8)ぐらいでいったん区切れるかなと思います。おかげさまでアクセスも伸びていますので、責任もって一気に書き終えたいですね。情報の少ない国だけに不用意な誤解を増やさないように気を付けるつもりですが、あくまでも初めて訪問した個人の感想と受け止めていただければ幸いです。

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