北朝鮮報告(7)~北朝鮮に行って僕が考えたこと、そして今後について。

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 北朝鮮報告(1)(2)(3)(4)(5)(6)から続きます。

 僕らのツアーは4月10~16日という日程で行われ、初日は中国の瀋陽に泊まった後、翌11日から北朝鮮入りしました。帰国前日の15日は金日成主席の誕生日に当たり、太陽節(태양절)という祝日になっています。写真は平壌市内の様子ですが、観光客も入り乱れながら音楽に合わせて踊る市民の姿が見られました。

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 祝日ということもあってか、公園では大勢の家族連れが遊んでいたりも。お父さんが子どものブランコを揺らしてあげているような光景は、どこの国でもおんなじですね。

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 さて、これが最後の記事になりますので、時系列がバラバラだったりもするのですが、平壌で撮った観光の写真をもう何点か載せておこうと思います。

 こちらの空中ブランコは平壌サーカスの一幕。

 これが予想以上に楽しくて、空中ブランコのような本格的なものがあるかと思えば、本物の熊が出てきて芸をしたり、手品や大道芸、綱渡りなどを披露したり。観客が舞台に引っ張り出されてイジられたりもするなど、拍手喝采と爆笑の連続でした。

 なお、サーカスのことは漢字語で巧芸(교예)。南ではソコス(서커스)。

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 地下鉄にも乗ってきました。

 平壌市民の足としては地下鉄のほか、路面電車やバスもたくさん走っています。ちょっとした移動でしたが、アトラクション的にこういう地下鉄体験を加えてもらったのは嬉しかったですね。暮らしを垣間見える瞬間は貴重です。

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 そんな地下鉄を降りて向かったのは祖国解放戦争勝利記念館。

 日本でいう朝鮮戦争、韓国では韓国戦争(한국전쟁)か開戦の日にちなんで625(육이오)、北朝鮮では祖国解放戦争(조국해방전쟁)と呼ぶそうですが、ともかくもその戦争における資料などを展示した施設です。施設名に「勝利」と入っているように、すべて北の立場から説明するものなので、僕らの知っている歴史とは異なる点も多いです。

 当然、考えさせられることも多いし、戸惑うことも多い。サーカスで笑ったり、地下鉄にワクワクする一方で、政治的な対立も間近に感じるというのが、首都平壌らしい観光の姿だったかなと思います。

 そのほか北朝鮮報告(1)で紹介した凱旋門、万寿台に加え、錦繍山太陽宮殿(金日成主席、金正日総書記の遺体を保管している場所)、金日成主席の生家、金日成広場、平壌駅、外国人向け書店、朝鮮切手博物館といったところを見学しました。平壌は3泊でしたが、時間を有効活用してずいぶんたくさんの観光をした印象があります。

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 太陽節の夕食は、僕らにとってツアー最後の晩餐。

 平壌市内でアヒル料理の専門店を訪れました。お店は楽浪区域にある「平壌アヒル肉専門食堂(평양오리고기전문식당)」。看板の下には……。

「위대한 수령님은 공화국에 영원한 주석(偉大な首領様は共和国の永遠なる主席)」

 という慶祝のメッセージが掲げられていました。

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 1人前ずつ盛り付けられたアヒル焼肉のセット。

 北ではプル(부루)と呼ばれるサンチュに、甘酸っぱいタレと、コチュジャン、そしてカクトゥギ(大根の角切りキムチ、깍두기)が並んでいます。

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 肉質も柔らかく美味しかったですね。

 北朝鮮報告(6)で海産物事情をまとめましたので、食肉事情にも触れますと、牛肉(소고기)、豚肉(돼지고기)、鶏肉(닭고기)、キジ肉(꿩고기)、アヒル肉(오리고기)、ガチョウ肉(게사니고기、南では거위고기)、ダチョウ肉(타조고기)、ウズラ肉(메추리고기)、ヤギ肉(염소고기)、ヒツジ肉(양고기)、犬肉(단고기、南では개고기)、ウサギ肉(토끼고기)、イノシシ肉(메되지고기、南では멧돼지고기)、ノロジカ肉(노루고기)まで食用とされているのを確認しました。

 牛、豚、鶏はもちろん、アヒル、ヤギ、犬もずいぶん食べている印象がありましたね。

 ヤギの場合は苦難の行軍と呼ばれる90年代の食糧危機時に飼育が奨励されたそうです。人間の食糧でもある穀物を飼料とせず、草と引き換えにヤギ乳とヤギ肉を得られるとの理由から。現在も郊外に出れば、ヤギの飼育風景はたくさん見られます。

 そのほかアヒルの飼育風景もよく見かけましたし、道路脇をバサバサとキジが飛んでいるのも見かけました。

 犬肉もたいへん人気があるようです。南ではケゴギ(개고기)と呼びますが、北ではタンゴギ(直訳では甘い肉、단고기)と呼びます。一般的な食堂のメニューとしてもタンゴギタン(犬肉のスープ、단고기탕)はよく見かけましたね。

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 サイドメニューには……。

・オリプルグンジョリム(アヒル肉の煮物、오리붉은졸임)

 いま気付きましたが、煮物(졸임、南では조림)のスペルも違いますね。この料理の「붉은졸임」というのがよくわからなかったのですが、直訳するなら赤い煮物。これも中華風というか、あんかけの冷菜という感じでした。

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・トゥブボックム(豆腐炒め、두부볶음)

 見た瞬間、厚揚げの麻婆豆腐かと思ったのですが、食べてみるとそこまで麻婆豆腐的ではなく、やっぱり中華っぽい炒め物という感じです。

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・カムジャボックム(ジャガイモ炒め、감자볶음)

 こちらはなんというかシチューのような見た目。でも食べるとやっぱり中華風の味付けで、平壌の料理は本当に国籍不明なものが多いです。

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・タルガルボックム(卵焼き、닭알볶음)

 これが出てきたとき、覚えたばかりの単語を使いたくて、

「シイタケ(참버섯、南では표고버섯)入りですか?」

 と尋ねたところ、シイタケに見えたものは塩漬けのキュウリでした。思わず笑いをこらえるお姉さん。ただ、このキュウリの塩気と食感が実にいい塩梅で、卵焼きのふんわり食感と絶妙にマッチする組み合わせでした。これは真似をしたいです。

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 アヒルだけでなく牛肉もありますよ、とのことで追加注文。

 ただ、見ての通り、いかにも赤身という部位で、焼いて食べてもずいぶん固かったのは残念でした。アヒル肉の専門店だけに、アヒルを目指したほうがよいようです。

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・オリゴギマンドゥクッ(アヒル肉の餃子スープ、오리고기만두국)

 餃子の具にアヒル肉が使われていました。南にいるときよりも、マンドゥクッ(餃子スープ、만두국)の出てくる頻度が多かったように感じるのは、これも中国経由で伝わった北部の食べ物ということなのでしょう。

 といった感じで最終日もよく食べました。

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 食後は太陽節を祝う花火を鑑賞。

 大勢の市民でごった返す中、一緒になって花火を眺められたのは思い出深いですね。最後の夜にふさわしい印象深いフィナーレとなりました……。

 さて、ここからは全体のまとめですが、書き始めたら予想以上の長文になりました。タイトルにある「北朝鮮に行って僕が考えたこと、そして今後について」。やや堅い話にもなりますが、率直な感想を綴ってみます。

 今回、北朝鮮を訪れるにあたり、いろいろなことを考えました。行ってからではなく、行く前の話です。本当に行くべきなのか。行ってもよいのか。そもそも日本と北朝鮮の間には国交がなく、また日本は北朝鮮を国家承認していません。

 外務省の海外安全ホームページには……。

「日本と北朝鮮との間には国交がなく,北朝鮮には日本の在外公館等の日本政府の機関がありませんので,北朝鮮において事件・事故等何らかのトラブルに巻き込まれた場合でも,通常行われている邦人援護活動を行うことは極めて困難です」

 と書かれています。北朝鮮を訪れようという人は、まずここから考える必要があることはしっかりお伝えしておくべきかと思います。

 そのうえで、上記のページには……。

「2014年7月4日,日本国政府は,日本から北朝鮮への渡航自粛措置等の解除を発表しました」

 とあります。同日の内閣官房長官発表(PDF)を背景とするものですが、これを踏まえて危険情報のレベルが、第3段階の「渡航の延期をお勧めします。」から、第2段階の「渡航の是非を検討してください。」に引き下げられました。昨年の夏以降、複数の旅行会社から北朝鮮ツアーのお誘いが来たのは、こういった変化が理由だったと思われます。

 ただ、危険情報のレベルが下がったとはいえ、第2段階の「渡航の是非を検討してください」というのは、以下のような説明を踏まえたものです。

「その国・地域への不要不急の渡航は控えるようおすすめするものであり,渡航すべきか否かは,渡航目的の緊急性,とりうる安全対策等に応じて検討を行った上でご自身で判断されるようお願いするものです」
 
 これらを考えたうえで、やっぱりいま行くべきだ、と思ったから僕はツアーに申し込みをしました。その動機については北朝鮮報告(1)に書いた通りですが、結果としてリスクはあったものの満足のゆく体験ができたと思っています。行ってよかった、というのが正直な本音。これまでぶつかってきた壁の多くが、今回の短いツアーだけでもだいぶ取り除かれました。

 だからこそ興奮気味に7回にもわたって報告を続けたのですが、いま振り返って全体を見るに、ちょっと褒めすぎたかなという気持ちも正直ありますね。

 前提として、北朝鮮の観光は常時ガイドが貼り付く形式なので、自由きままに好きなところを見てまわるようなことはできません。こちらからのリクエストもある程度は通りますが、基本的に外国人が行けるところというのは決まっています。そうやって一定のフィルタリングがなされたところから、僕がさらにいいと思うところを切り取ったのが今回の報告なので、だいぶ偏った紹介であるのは間違いありません。

 ただ、その逆をしようとすればそれもまたできる。

 なにしろ情報の少ない国ですから、僕のさじ加減で、風呂のお湯が出なかったとか、道路事情が悪かったとか、自由な観光ができなかったとか、あるいはもっと政治的な部分、経済的な部分を取り上げて、悪く書くこともできる訳です。肯定的な見方があれば、否定的な見方もあるのは当然。ただ、それはいろんな人が足を運んで、いろんな視点で発信をして、いろんな受け止め方がなされることで、いずれ中和されていくものですが、いまの北朝鮮に対しては限られた情報しかないので、中和されないまま独り歩きすることが多いのではないかと思います。

 何しろここ数日で僕が受けた質問といえば……。

「やっぱり北朝鮮って貧しいの?」
「まったく自由がない国ってホント?」
「拉致されたりしないの?」

 という感じ。

 日本人の北朝鮮に対するイメージって、結局は「拉致、核、ミサイル、貧困、食料難、自由のない国」といったあたりに集約されるんだなと思いました。これはこれで必要な情報だとは思いますが、そこだけを切り取っても北朝鮮のすべてではありません。

 だからこそそこへ、

「メシうまかったですよ!」

 という情報もまぎれ込ませてみたい。

 ひたすら好意的な視点から報告をしていったのにはそんな意図があったりします。そしてそれは切り取り方が一面的であっても、その部分においてはウソでも誇張でもありません。ごく短い表面的な観光でしたが、もっと多くの人が評価をすべき魅力的な食文化がある。そう確信して帰ってきたことを、最終的な報告とさせていただきます。

 あとは今後についてですが、記事の中で何度となく書いたように、食べたいものがたくさん宿題として残ったので、いずれまた行きたい気持ちはあります。ただ、1度行くだけでも3~40万円はかかるので、気軽にホイホイ行く訳にはいかないですね。また、コツコツお金を貯めて、然るべきタイミングを待ちたいと思います。

 また、これらの報告を読んで、自分も行きたいという気持ちになった方がいるかもしれません。冒頭に書いたように、もろもろのリスクを検討する必要があるのを前提に、行くこと自体は可能です。僕が今回参加した三進トラベルだけでなく、同時期にKJナビツアーズからもお誘いをいただいていましたし、北朝鮮旅行としては古株である中外旅行社も有名です。日本の旅行社に限らず、中国の旅行社を通す方法もありますし、調べてみればルートはけっこうあるようです。

 安易なおすすめはできませんし、日朝関係を考えると北朝鮮にお金を落としてくること自体が批判の対象にもなるかもしれません。北朝鮮を見る視点が増えるのは歓迎すべきことと思いますが、くれぐれも慎重に検討を重ねてください。

 僕の北朝鮮報告はこれでおしまいですが、あと1本オマケとして、町で見かけた飲食店の看板ギャラリーというのをアップしようと思っています。長編の報告になりましたが、最後まで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます。また、今回のツアーにかかわったすべての方々に深く感謝御礼申し上げます。

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