延辺報告(1)~中国の延辺朝鮮族自治州を食べ歩いてきました。

 久しぶりに韓国でない出張に行ってきました。

 中国東北部の延辺朝鮮族自治州。と書いてピンと来る人がどれだけいるか不安ですが、中国に行ってきました。中国の東北部に位置する吉林省の一部。北朝鮮やロシアと接するあたりに延辺朝鮮族自治州があり、朝鮮族と呼ばれる人たちが住んでいます。

 朝鮮族とは、中国に住む56の民族(大多数を占める漢族と、55の少数民族)のうち、朝鮮半島にルーツがあり、朝鮮語を話し、朝鮮文化とともに暮らしている人々。

 きちんと定義をするならもっと細かいもろもろがあるようですが、とりあえずざっくりとした僕の理解ではこんな感じです。なにしろ僕も初めて行きましたので、今回の報告にもいろいろ不正確なところがあるかもしれませんが、まずは第一印象のまとめということでご容赦ください。

 ともかくもそんな朝鮮族の方々が暮らしている延辺朝鮮族自治州に行ってきました。

 地図で見るとこんな感じ。

 延吉というのが延辺朝鮮族自治州の州都です。中国の東北部に吉林省という地域があり、吉林省の中に延辺朝鮮族自治州があり、その中に延吉市があります。滞在中、地方都市にも少し出ましたが、基本的には延吉で過ごしました。

 また、その読み方ですが、

・延辺:イェンピェン(中国語)、ヨンビョン(朝鮮語)
・延吉:イェンジー(中国語)、ヨンギル(朝鮮語)

 といった感じです。

 僕はずっと朝鮮語で話していたため、滞在中はずっとヨンビョン、ヨンギルと呼んでいました。日本語のときはえんぺん、えんきち。基本は漢字で書きますので、好きなように読んでいただければと思います。

 あと、一応の補足として「朝鮮語」と書いているのは別に「韓国語」でもよいのですが、今回は朝鮮族の人たちが使っている言葉として語ることが多いと思いますので「朝鮮語」としました。現地の人たちも「チョソンマル(朝鮮語、조선말)」と呼んでいます。

 街中は朝鮮語と中国語がごっちゃになっています。

 というよりほぼすべての看板が両言語で併記されていました。延吉市による2015年末の統計によれば、市の人口は約54万1300人。うち朝鮮族の人口が約30万8400人で全体の57%ほど。朝鮮族と漢族がともに暮らしているため両方の言語が必要になります。

 ちなみに朝鮮族全体の人口は2010年の時点で183万0929人(第六回人口普査より)。

 そのうち約76万人が延辺朝鮮族自治州に住み、そのほか吉林省、黒竜江省、遼寧省などにも多く住んでいます。

 一連の看板を見ていて思ったのは、振り仮名がついているようで便利だなと。

 僕は中国語がまったくできませんが、漢字である以上、なんとなくの推測はできます。朝鮮語はそれなりにできますが、チョソングル(朝鮮の文字=ハングル)と漢字が並んでいると、やっぱり漢字のほうが先に目に入ることが多かったですね。

 漢字をひと目見て理解できればそれでよし。日本では見かけない漢字で理解ができなければチョソングルで理解する。案内板のようなきちんとした文章は朝鮮語を読んで理解し、わからない単語を中国語の漢字で補う、といった便利な使い方ができました。

 ちなみに現地の人は、朝鮮族であれば両言語をネイティブ並に駆使し(母語は朝鮮語)、一方で漢族は朝鮮語をほぼ解さない、というケースが多いようです。

 朝鮮族自治州ではあっても、中国は中国ということなんでしょうね。

 ただ、逆に考えると中国にあっても母語が朝鮮語というのはちょっと驚きでした。漢族との同化が進んでいるといった話も聞いていましたし、日本における在日コリアンが日本語を母語として朝鮮学校などで学ぶように、母語は中国語との先入観が僕の中にあったようです。若い世代では地域や環境によって中国語が母語になるケースも増えているようですが、少なくとも僕が延辺で出会った2~40代の世代は母語が朝鮮語でした。

 また、多分に咸鏡道方言の影響を受けているため、その部分で聞き取りが難しいことは多少ありましたが、ソウルで学んだ僕の朝鮮語でまったく問題なく意思疎通ができました。

 街中を見ていて発見だったのは韓国文化がかなり浸透していること。

 これも先入観だったのでしょうが、位置的なことと、社会体制のことも含め、韓国よりも北朝鮮の影響が強いだろうと想像とは異なり、圧倒的に韓国の影響が強く見られました。むしろ街中に北朝鮮の姿を探すほうが難しいぐらい。

 国の呼び名としてもそうなのですが、

<韓国>
・プッカン(北韓、북한)
・ハングク(韓国、한국)

<北朝鮮>
・チョソン(朝鮮、조선) ※共和国とも呼ぶ
・ナムチョソン(南朝鮮、남조선)

<朝鮮族>
・プッチョソン(北朝鮮、북조선)
・ハングク(韓国、한국)

 となっているのに驚きました。

 北朝鮮に行って「北朝鮮」なんて言ったらえらく怒られますが、朝鮮族の朝鮮語では北朝鮮。韓国は韓国。むしろ最近は韓国の影響が強いため、民族衣装であるチマ・チョゴリや、パジ・チョゴリなんかも……。

「最近は韓服(ハンボク、한복)って言うね」

 と変化しているようです。

 まあ、そんな会話を延吉空港の「Angel-in-us Coffee」(韓国の大手カフェチェーン)でしていたぐらいですから、暮らしのあちこちが韓国化するのは当然でしょうね。滞在中、ふたりの方の車に乗せていただきましたが、どちらもBGMはK-POPでした。

 さて、前提が長くなりましたがお目当てだった食の話。

 到着してまず食べに行ったのが冷麺でした。ちなみにこれも北朝鮮式のレンミョン(랭면)ではなく、発音はネンミョン(냉면)です。延辺冷麺という呼び方も聞きましたが、「延吉冷面」(面=麺)という名前で2013年に中国の商務部から「中国十大名面」のひとつに選定されていたりもします。

 山西刀削面、四川担担面などと並んでのベスト10は名誉ですね。

 牛肉をベースとした甘酸っぱいスープと、そば粉、小麦粉、でんぷんなどを用いた黒っぽい麺、そしてキャベツのキムチが載るあたりが、まず大きな特徴と言えます。これまでも甘味、酸味の強い冷麺という印象はありましたが、本場で食べてそうそうこれこれ、と思えたのが嬉しかったです。

 でも、その甘味、酸味がとんがってはいない。

 中央に見える唐辛子の赤い薬味を溶かしつつ、表面がぷよんとしつつもコシの強い麺とよく合います。具はキャベツキムチのほか、丸ごとのゆで卵、薄切りの茹で肉、千切りキュウリ、錦糸卵、見えていませんがそこそこ大きなリンゴ……。

 そして魚の肉団子が沈んでいました。

 具の構成もずいぶん特徴的ですね。これもルーツは咸鏡道の冷麺にあると聞いていましたが、2015年に咸興で食べたものとはまったく違いました。平壌冷麺にも似ていないし、咸興冷麺とも結びつかない。延辺ならではの冷麺であるということを改めて確認しました。

 じゃあ、この冷麺がどこからどのように発達してきたのか。

 そこではたと気付くのですが、これまでにそういった延吉冷麺のルーツを調べたことがまったくありません。普段からいちばん好きな韓国料理を問われれば「冷麺!」と即答するにもかかわらず、これまでの韓食生活で延吉冷麺について真剣に考えたことがなかった。自宅に戻って本棚を見ても、資料になりそうな本すらまったくない。

「あー、オレ関心なかったんだ……」

 と気付いたのがこの旅いちばんの衝撃だったでしょうか。

 延辺料理は日本でも韓国でも好きでそこそこ食べていたつもりでしたが、視界に入っていたにもかかわらず、何も見えていなかったことが旅の始まりからまず判明。それは朝鮮族という人たちについても、言語についても、暮らしについても同じことが言えます。

 冷麺と一緒に注文した拌干豆腐丝。

 朝鮮語ではコンドゥブムチム(干し豆腐の和え物、건두부무침)。これも延辺料理店に行けば必ず頼んでいたお気に入りです。特有のもさもさとした食感に、ニンニクがほどよく効いて美味。 

 こちらは拌明太魚丝。

 朝鮮語ではミョンテムチム(干しダラの和え物、명태무침)。乾燥させたスケトウダラを細く割き、コチュジャンをベースとした甘辛いタレと和えてあります。スケトウダラはロシアや北朝鮮から多く入ってくるようで、街中には専門店もたくさんありました。

 今回は食べられませんでしたが、看板の写真や料理名を見る限り、見たことのないスケトウダラ料理をいろいろ味わえそうです。

 さらに锅包肉(鍋包肉)。

 朝鮮語……というか朝鮮式の書き方ではクォバロウ(豚肉の唐揚げ、꿔바로우)。薄切りの豚肉にもち粉の衣をつけて揚げたもので、韓国ではチャプサルタンスユク(찹쌀탕수육)とも呼ばれます。最近、人気なのかよく見かけますね。

 ものすごい大量に出てきてぶったまげましたが、そもそもからして冷麺も大量。食べても食べても麺が減らず、副菜にもなかなか手が伸びず、結果的にだいぶ残してしまいましたが、どうやらそれも中国式のようで。もったいないとは思いつつも、いろいろ種類を食べられたのはありがたかったです。

 連れて行っていただいたのは、地元の方イチオシの「顺姬冷面(順姫冷麺、순희냉면)」という店。

 ほか延吉では「金达莱冷面(金達莱冷麺、진달래냉면)」、「服务大楼(服務大楼、복무대로)」、「三千里冷面馆(三千里冷麺館、삼천리냉면관)」といった名店があるそうなので、またの機会にあれこれ食べ歩いてみたいと思います。

 なお、今回の延辺行きは、こちらにご親戚のある友人にくっついて行った単なる旅行です。ただ、そのおかげで一般の旅行客ではできないような濃密な体験をさせていただきましたし、また何人かの朝鮮族の方と緊密に話をすることができました。

 いろいろ手探りになるとは思いますが、あと数回に分けつつ延辺報告をしていきたいと思います。

 年末で手元がバタバタしているので途切れ途切れになるかもしれませんが、できるだけ気持ちが熱いうちに書いていくつもりです。もし中国語に関する部分や、中国について、朝鮮族についてなど不正確な部分がありましたらぜひご指摘いただければ幸いです。

 次回「延辺報告(2)~対岸50m先に北朝鮮を眺めて夜は大同江ビールを飲みに。」に続きます。

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