コリアうめーや!!第282号

コリアうめーや!!第282号

<ごあいさつ>
12月になりました。
この挨拶を厳寒のソウルで書いています。
ソウルは今年いちばんの冷え込みということで、
気温は見事に氷点下のあたりをウロウロ。
道端の水たまりもピキピキと凍っています。
このまま寒さに耐える日々を思うと頭が痛いですが、
幸いなことに出張は今日でおしまい。
これから飛行機に乗って日本に帰るところです。
なお、今回の出張報告は仕事の兼ね合いもあるため、
いずれまたゆっくりということにさせてください。
なので、今号のテーマは180度ひねって、
思いっきり過去をほじくり返す、昔話を用意。
久しぶりに留学時代の話題を振り返り、
若かった自分の姿を、第三者的に見つめます。
コリアうめーや!!第282号。
あの日、夢破れた瞬間の、スタートです。

<1999年の日式料理を振り返る!!>

先日、ある仕事の準備として、
日式料理について調べる機会があった。
韓国料理における日式料理の立場をテーマに、
セミナー形式で語るといった内容。

もろもろ調べたうえで、

・日式料理とは?
・韓国に定着した代表的な日式料理
・日本料理の受容と普及の過程
・地方の郷土料理に見る日本料理の影響

上記のような項目を立てて話をした。

それぞれ必要な部分では写真も準備。
それらをスライド形式で見てもらいながら、
韓国ならではの日本料理を語った。

最近の韓国では本格的な日本料理も増えているが、
古くに伝わってコリアナイズされたものも多い。
長い年月の間に韓国的な好みで改良が進み、
すっかり韓国食文化の一部分として定着している。

中にはだいぶ変貌を遂げたものも多いので、
日本人の立場としては、

「こんなものは日本料理ではない!」

と思えてしまうことも多々ある。
だが、それは正直、日本における外国料理もお互い様。
ここは広い心で受け止めて、

「ほほう、日本料理がこんな姿に!」

と楽しんだほうが精神衛生的にもいい。

ただ、そう思えるのは心に余裕があるからで、
そうでないと、食のイライラはむしろ恨みとして残る。
日式料理についてあれこれと調べながら、
心に余裕のなかった留学時代がよみがえってきた。

以下は、僕が留学時代に書いた日記をもとに、
再構成して書いた日式料理の体験記である。

舞台は1999年。僕は23歳の若造だ。

――外国で日本料理を食べるのは楽しい。

美味しい日本料理との出会いは感動的であるし、
なんだこれはと、理解に苦しむ出会いもまた楽しい。
ただ、その意味からすると、韓国は距離的にも文化的にも近く、
理解に苦しむ日本料理も、常識的な範囲で物足りない。

かつて僕がネパールで出会った、

1、ライスのうえに千切りキャベツを載せる
2、その上に真っ黒に焦げたひと口カツを載せる
3、さらに卵2個の目玉焼きを載せる
4、誰がなんといおうと、これはカツ丼!

というような仰天メニューはあまりない。

韓国で食べる日本料理は、見た目からよく似ているし、
日本人が食べても、まずまず美味しいものが多い。

一般的な韓国料理を食べるよりは、どうしても値段は張るが、
よほどの高級店でなければ、目が飛び出るほどでもない。
今日はちょっといいもの食べるか、くらいのものだ。

僕の住む新村の町にも日本料理店は多い。

日本式ラーメンを出す店、回転寿司店、日本居酒屋。
あるいは日本スタイルの、ほかほか弁当店も最近できた。
ここでは揚げたてのトンカツも容易に購入できる。

日本料理に飢えた留学生には救世主的存在だ。

余談だが、韓国に住む日本人の日本料理への反応は、
大きく3パターンに分類できるように思う。

・日本料理に固執するタイプ
・日本料理を食べないことに固執するタイプ
・その中間に位置する「ふーん」という人たち

日本食料理が食べられるという情報を得て、
助かったと飛び出していく人があれば、

「俺は韓国にいる間は韓国料理しか食わん!」

と意地を張る人もいる。

その中間で、食べたければ食べるけど、
なければ別にそれでかまわないという人も多い。

僕はどちらかといえば固執するタイプだったようで、
特に留学初期の頃はいつも日本料理に飢えていた。
韓国料理が嫌なのではないが、毎日だとやっぱりつらい。
日本料理が食べたいなあと、しみじみ思っていた。

そんなある日のことだった。

僕らの元に素晴らしい日本料理情報が舞い込んだ。
なんと延世大学の学食が日本料理フェアを開催するという。
学食といえば、格安の値段で腹いっぱい食べられるのが魅力。
しかもメニューはかなり豊富に揃えられるという。

「これはまたとないチャンス!」

僕らはクリスマスを待つ子どものような気分で、
当日を指折り数えながらワクワク過ごした。

そして迎えた日本料理フェアの日。

僕らは学校の授業が終わるのももどかしく、
延世大学の学食を目掛けてバタバタ駆け出して行った。
当然のごとく、大混雑、大行列という状況だったが、
日本料理が食べられるなら、それも苦ではない。

「今日を逃して日本料理フェアは体験できぬ!」

行列の最後尾で、品切れにならないことを祈りつつ、
やきもき、じりじりと自分たちの順番を待った。
牛歩戦術のような歩みで、日本料理に迫る気分は、
宝の山を目前に、沼で足を取られたような感じである。

永遠とも思われる、おあずけタイムに耐え、
ヨダレが足元に水たまりを作った頃。
ようやく僕らの目の前に日本料理が現れた。

このときの気分を今も忘れられない。

忘れられない。
忘れられない……。
忘れたくても、忘れられない……。

忘れてたまるか、このヤロー!

学食のテーブルを前に無言の我ら。

「……」
「……」
「……」
「……」

僕らはできるだけたくさんの日本料理を食べるため、
各人が違うメニューを選び、シェアすることにしていた。
その意図通り、僕らの前に日本料理はずらり並んだが、
場の雰囲気はずっしり重く、それぞれの表情も暗い。

「……」
「……」
「……」
「あの……」

重苦しい空気の中、ひとりが口を開く。

「これ、日本料理かなぁ?」
「うん……」

隣のひとりが静かにうなずく。

「日本料理、いや日本風料理って感じだね……」
「あー、そうね……」
「……」
「……」

ずらりと並んだ日本料理。

しかし、それはずいぶんと面妖な代物だった。
ひとつひとつ、じっくり見ていくとしよう。

まず、オデン。

これは明らかに韓国の町中でよく見かける、
屋台式の韓国オデンを、そのまま器に盛ったものだ。
卵やコンニャク、はんぺんといった日本で定番の具が見えず、
ただ、ひたすら練り物の具が皿に盛られている。

だが、味自体は日本のオデンとさほど遠からず、
目新しさはないが、これはこれで大きな文句はない。
 
次に、お好み焼き。

これは明らかに韓国料理のパジョン(チヂミ)だった。
ソースがかかっていないし、カツオブシも振られていない。
ネギが入った小麦粉の生地をただぺったり焼いただけ。
しかも、あろうことか具にキムチが入っている。

そして、天ぷら。

衣がやけに分厚く、むしろフリッターのような見た目。
ゲソが中に入ったこの天ぷらは、これまた屋台でよく見る、
韓国式のティギムをそのまま出したようであった。

さらに、寿司。

握り寿司や巻き寿司が盛り合わせになっているのだが、
その巻き寿司がまず、キムパプ(韓国式海苔巻き)である。
ゴマ油が表面に塗られてテカテカ光っている。

その隣には韓国語でユブチョバプと呼ばれる稲荷寿司が鎮座。
一応、握り寿司らしきものも、いくつか混じっていたが、
形が妙にまん丸く、刺身を貼りつけたおにぎりのようだった。

圧巻は刺身丼である。

どんぶりごはんの上にサンチュと白身魚の刺身。
そこにワサビ醤油がかかっていれば、まだ納得できたが、
チョジャンと呼ばれる酢とコチュジャンを混ぜたソースがかかる。
どうみてもこれは韓国のフェドッパプ(刺身丼)だ。

刺身盛り合わせにも、チョジャンがかかっている。

えらくスジ張った上に、半分凍ったままのマグロ。
やけに水っぽい白身魚の刺身と、茹でたゲソにワカメ。
これらが大皿の上で、乱雑極まりなく転がっている。

「……」
「……」
「……」
「……」

「日本料理フェアって書いてあったよね」
「うん、書いてあったね」
「これ、ほとんど韓国料理だよね」
「そうだね」

期待が大きかったぶん、僕らの落胆も大きかった。
ほぼ無言のまま食事を終え、とぼとぼと学食を後にした。
足取りは鉄ゲタを履いているかのように重かった。

1999年、敗北の日式料理体験である――

以上が僕の日式料理体験記である。

学食主催のリーズナブルなフェアではあるが、
期待が大きかっただけに、僕らの失望は大きかった。
留学初期、日本料理に飢えていたからこそ、
その傷は大きく心に残ったのだと思う。

いま振り返っても、そのときの悲しみは生々しい。

ただ、その悲しみを冷静に振り返るなら、
それは貴重な90年代の日式料理体験だったともいえる。
時代が進んだいま、似たようなフェアを行うなら、
低予算でも、もっと日本的な料理が出てくるだろう。

それだけこの10数年で日韓の距離は近付いた。

今回の出張中にもたくさんの日本料理店を見た。
韓国で活躍する、日本資本の外食チェーンも増えている。
日本と遜色のない日本料理はもう珍しくない。

だが、その一方で乖離し続ける面白さもある。

今回の韓国出張でもっとも印象的だったのが、
ソウルで流行の兆しを見せている、韓国式のコロッケ。
名前こそ、日本由来のコロッケが使われているが、
韓国でのコロッケは、カレーパンのような揚げパンに近い。

詳細は不明だが、古い時代にねじれた状態で伝わり、
そのままパンの一種として広まったらしい。

そのコロッケが韓国で新たな進化を始めている。

出張中の興奮そのままに書いた記事があるので、
ここでは省略し、下記にリンクを貼っておくとしよう。

リビングWeb/来年の韓国にコロッケブーム到来!?
http://mrs.living.jp/entame/korea/2012/11/26/post-246.html

これを見て、日本料理と違うと憤慨するか、
これもまた食文化のひとつと面白がってみるか。
どちらを選ぶのも、

「また楽し!」

と思える心の余裕を大事にしたい。

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
コロッケとの出会いは衝撃的でした。
当面、熱く韓国のコロッケを語りたいと思います。

コリアうめーや!!第282号
2012年12月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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