コリアうめーや!!第193号

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コリアうめーや!!第193号

<ごあいさつ>
3月15日になりました。
花粉のせいで涙と鼻水にまみれています。
油断をするとすぐ目が真っ赤になり、
口元まで、つつーっと鼻水がたれてきます。
本当にどうにかなりませんかね、この季節。
とつい愚痴をこぼしてばかりの毎日です。
さて、気を取り直して本題に。
今号のメルマガでは少し変わった切り口に挑戦します。
いつも料理の話ばかり書いていると、
その中でも変化をつけたくなるんですよね。
新たな試みなので、うまくいくかはわかりませんが、
自分の中では、かなり盛り上がって書きました。
なにはともあれ、ごらん頂ければ幸いです。
コリアうめーや!!第193号。
労を惜しまぬ、スタートです。

<韓国料理のネーミングセンスを考える!!>

食べる前から美味しい料理がある。

運ばれてきた瞬間のオーラ。
見た目の美しさや、料理が発する音。
湯気とともに鼻をくすぐる香り。

溜め込んだ食欲を頂点にまで押し上げ、
空腹の極みにあった胃袋を狂喜で震わせる。
箸を取る手にも力がこもる瞬間だ。

その一方で。

食べる前はおろか、運ばれるよりも前。
名前からして美味しい料理、というのもある。

「霜降り豚のとろとろ吟醸煮」
「朝とれ白菜の瞬間冷却サラダ」
「1本釣り真鯛の春風焼き」

いずれもいま適当に作った想像上の料理。
実際の料理としてあるかどうかは知らないが、
聞いてぐっと来る料理名を目指してみた。

料理名は食前の期待感をあおるとともに、
イメージを予見させることで、味覚にも直結する。
料理名が実際の料理に与える影響は大きい。

といった前提を踏まえて。

僕は以前から韓国料理のネーミングに不満があった。
料理そのものは大好きなのだが……。

「いずれも料理名が安直すぎるのだ!」

ジャジャーン!
ババーン!
ドンガラガッシャーン!

重要な指摘、というアピールで擬音を補ってみた。
必要に応じて各自、頭の中で描いて欲しい。

また、上記のセリフを発している僕の姿は、
真剣な目つきをしており、2枚目度が少し上がっている。
そのあたりも考慮の上、この先を読み進めること。

さて、本題に戻って対比をひとつ。

身近なところで日本料理のネーミングセンス。
これはごく基本的な料理にも光るものが見える。

例えば蕎麦やうどん、丼料理、寿司など。

卵を入れた麺料理を「月見」と表現し、
油揚げを乗せたものは「キツネ」と呼ぶ。
派生した「タヌキ」もまたしかり。

鶏肉を卵でとじた丼は「親子丼」。
牛や豚など別の肉を卵でとじたら「他人丼」。
地名からとって「深川丼」というのも風情がある。

キュウリを巻いた海苔巻きは「カッパ巻き」。
マグロの赤身は鉄火場(賭博場)に由来し「鉄火巻き」。
海苔で巻いた握り寿司は「軍艦巻き」と見立てる。

いずれも普段から当たり前に使っている名前だが、
それぞれの意味を振り返ると、なかなかに感心させられる。
この粋なネーミングセンスが韓国料理にも欲しい。

その思いから、少し分析をしてみた。

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光るネーミングセンスの月見うどん(具多め)。

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光るネーミングセンスの深川丼。

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光るネーミングセンスの軍艦巻き。

このメルマガを書くにあたってまず行ったのが、
270種類の韓国料理をピックアップすること。
その料理名を翻訳し、名前の由来を系統立てて分類。
韓国料理におけるネーミングの方向性を調べた。

結果、もっとも多かったのは食材名と調理法の融合だった。

例えばキムチチゲという料理が該当する。
キムチという食材を、チゲという料理に仕立てている。
料理名は「白菜キムチの鍋料理」という意味だ。

名前の付け方としてはもっともストレート。

このパターンで名付けられている料理が、
なんと、51.4%(139例)にものぼった。
半分以上が「食材名+調理法」で名付けられている。

ただし、このネーミングは韓国料理でなくとも、
世界各国、どこにいっても多いことだろう。

・焼き鳥
・チャーハン(炒飯)
・ローストビーフ

単純なだけに誰でも命名できる。
見た目一発なので、注文しやすいメリットはあるが、
芸がない、との見方もできる。

なお料理名に食材名を含む料理は79.3%(214例)。
調理法を含む料理は58.5%(158例)であった。
このうち重複するのが51.4%(139例)ということだ。

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ストレートなネーミングの焼き鳥(ただし韓国式)。

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ストレートなネーミングのチャーハン(ただし韓国式)。

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ストレートなネーミングのローストビーフ(というか焼肉)。

さて、ここからである。

料理名の大半は食材名と調理法でできている。
これは予想された結果であり、求めるべきはそれ以外だ。
残りの半分にこそ、凝った名前が眠っているはず。

ということで、それぞれを詳細に分類。
以下のような要素が抽出できた。

なお、要素は重複するので合計は100%にならない。

・既存料理名を変化して使用(15.2%、41例)
 →コリコムタン、トルソッピビムパプ、オギョプサル

・外来語をそのまま使用(5.6%、15例)
 →ウドン、チャンポン、フライドチキン

・調理器具、または食器を料理名に使用(4.1%、11例)
 →カルグクス、クジョルパン、シンソルロ

・比喩表現を料理名に使用(3.7%、10例)
 →トッカルビ、ピンデトク、ヤッパプ

・発祥地、発祥由来を料理名に使用(3.7%、10例)
 →ソルロンタン、プデチゲ、ホットク

・提供方法を料理名に使用(2.2%、6例)
 →韓定食、タロクッパプ、アムゴナ

・料理の用途を料理名に使用(1.5%、4例)
 →ヘジャンクク、ポシンタン、スルクク

・味や食感を料理名に使用(0.7%、2例)
 →メウンタン、チョルミョン

一応、例として料理名も挙げてみたが、
ひとつひとつの詳細な説明はスペースの都合上割愛する。
かわりに以下で、いくつかを由来とともに詳述したい。

ともかくも全体的な傾向がこれで見えた。

ここからわかるのは全体的なバリエーションの少なさ。
そして、少ないバリエーションの中に納まる料理も、
絶対量として、非常に少ないということである。
特に比喩表現を用いた名前、発祥由来を含む名前が少ない。

あくまでも僕が抽出した料理だけの統計だが、
漠然と考えていたことが、裏付けられた結果だと思う。

韓国料理はもっと多様な名前が付けられていい。
風流な名前、粋な名前、食欲をそそる名前があっていい。
いや、むしろ前向きに工夫を凝らすべきである。

「僕はそれを強く訴えかける!」

ガツン!
ビシッ!
ズババーン!

先ほどと同様に、力強さの表現。
また、今回僕の表情は眉間に少しシワが寄っており、
男前度が2割ほど増していることを加えておく。

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韓国語では日本語をそのまま流用してウドン。

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韓国語では「なんでも」という意味のアムゴナ。

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韓国語では「酒の汁」という意味のスルクク。

そして、ここからは可能性。

いたずらに韓国料理のセンスをけなしてきたが、
よくよく見ると、光るネーミングも少なからずある。
統計の中に埋もれてしまいがちな具体例の白眉。
それらを個人的に分類し、部門ごとに評価したい。

なお、前もって断りを入れておくが、
ここからは料理の由来や薀蓄の羅列となる。
テンポよく短めに語っていくつもりだが、
かなりの密度なので、覚悟をもってお付き合い頂きたい。

それでは……。

パンパカパーン!
ドンドンパフパフ!
パチパチパチ!

華やかさの表現なので、以下略。

<逸話部門>
1位:タンピョンチェ(緑豆のムクやナムルの和え物)
2位:ソルロンタン(牛肉や牛骨を煮込んだスープ)
3位:チョングッチャン(即席味噌で作った鍋料理)

タンピョンチェ(蕩平菜)は「蕩蕩平平」という四字熟語に由来。
どちらにも偏らないという意味で、多くの食材を融合させて作る。
朝鮮時代、権力闘争に明け暮れる貴族たちをいさめる目的で、
公平の象徴として作られたことから名前がついた。

ソルロンタンは「先農祭」という国家主催の農業祭が由来。
この農業祭の一環として、集まった民衆に牛のスープが振舞われ、
これを先農湯(ソンノンタン)と呼んだのが始まり。

チョングッチャンは漢字で清麹醤、または戦国醤と書き、
朝鮮時代に清の国から、戦争時の糧食として伝わった。
熟成期間を置かず、作ってすぐ食べられる味噌として重宝され、
その味噌を使った鍋料理も同名で呼ばれるようになった。

いずれも歴史的な逸話を備えた重厚感ある名前。
料理名そのものが、自身の奥深さをよく語っている。
こういう料理は文章を書いていても楽しい。

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朝鮮時代の両班文化を感じさせるタンピョンチェ。

<トリビア部門>
1位:ホットク(中に蜜の入ったお焼き)
2位:スジェビ(すいとん)
3位:マッタン(大学芋)

ホットクは直訳すると「胡の餅」。
胡が中国を意味するので、中国風の餅という意味になる。
19世紀末に中国から伝わったことに由来し、
冬の屋台オヤツとしては100年続くロングセラー。

スジェビは「スジョビ」がなまった料理名。
手でたたむという意味で、小麦粉をこねる調理法が名前になった。
韓国人も語源を知らない場合が多く薀蓄としても秀逸。

マッタンはなまじ韓国語を知っていると、
「味+糖」という単純な単語の融合に思えてしまう。
だが本当は「麻糖」という、元の時代に伝わった料理が源流。
中華料理にルーツを持つ、歴史の古いお惣菜だ。

こういうトリビア的要素を含んだ料理も魅力的。
食べているときに、さりげなく語れると自己満足に浸れる。
僕のような薀蓄好きにはうってつけである。

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原産国の名をさりげなく現代に残すホットク。

<焼肉部門>
1位:カルメギサル(豚ハラミ肉の焼肉)
2位:チャドルバギ(牛バラ肉の焼肉)
3位:チュムルロク(牛ロース肉に下味をつけて揉み込んだ焼肉)

カルメギサルは直訳すると「カモメ肉」。
韓国ではカモメも食べるのか、と勘違いする初心者も多いが、
切り離した部位の形が、カモメに似ていることから名付けられた。
カロマクサル(横隔膜の肉)がなまったとの説もあり。

チャドルバギは「石英の差し込んだ肉」の意。
この場合の石英は水晶などの美しい鉱物を意味する。
脂の差し込んだ様子を、石英に見立てた表現で、
日本の「霜降り」にも似た美しさがある。

チュムルロクは揉んだりいじくったりするときの擬音。
ロース肉にゴマ油、塩などを揉み込む調理法に由来する。
下味がつくとともに肉質を柔らかくする効果もある。

この焼肉部門は料理名でなく部位名称も含んだ。
韓国は肉の部位分けが豊富なので、名称も多岐に渡る。
美しい表現が見られるのも、当然かもしれない。

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空を羽ばたくカモメに見立てられたカルメギサル。

<矛盾部門>
1位:タロクッパプ(ごはんとスープの定食)
2位:チョッパル(豚足)
3位:タットリタン(鶏肉と野菜の鍋)

タロクッパプは「別盛りにしたスープごはん」。
クッパプはもともと、スープにごはんを入れた料理だが、
そのごはんを、あえて別(タロ)にしたという意味。
客の需要に応えた結果だが、1周して名前が元に戻っている。

チョッパルとタットリタンは重複語の例。
チョッパルのチョッは漢字で「足」と書いて足を意味。
パルも固有語で「足」を意味するため、直訳すると「足足」となる。
そこまで足を強調しなくても、という料理名。

同様にタットリタンはタッが固有語で「鶏」。
トリは日本語の「鶏」が転化したと考えられている。
タンは「湯」と書いて鍋料理の総称。

古い時代に「トリタン」と呼ばれたものが定着し、
外国語であるために意味が不明瞭となり、鶏を頭に追加。
結果として二重表現になったと推測されている。

以上は語っていても、ちょっとニヤッとしてしまう名前。
日本で「チゲ鍋」などという表記を見るとムカッとくるが、
韓国料理の範疇に収まっている場合はなぜか微笑ましい。

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矛盾を内包しつつも郷土料理として愛されるタロクッパプ。

<悲惨部門>
1位:ピンデトク(緑豆のお焼き)
2位:アムゴナ(揚げ物などのおつまみ盛り合わせ)
3位:ムルトムボンチム(アンコウの蒸し煮)

ピンデトクは名前の由来が2つ伝えられている。
ひとつはピンジャトク(貧乏人の餅)がなまったという説。
もうひとつはピンデ(南京虫)型の餅という意味。
どちらにしてもいい印象はなく、美味しいのに悲惨な名前。

アムゴナはビアレストランでよく見るおつまみ。
揚げ物やサラダ類が大皿に盛られ、団体客に人気がある。
直訳すると「なんでも」という投げやりな意味になり、
客の「なんでもいいから持ってこい!」というセリフに由来。

ムルトムボンチムのムルトムボンはアンコウの別称。
主に仁川地域での呼び名で、意味としては「水に捨てる魚」。
昔は食用としての利用価値がなく、水揚げされるそばから、
水(ムル)にドボン(トムボン)と捨てていた、という意味。

これらの料理からは妙な哀愁が漂っている。
たくさんの人に親しまれている料理であるにもかかわらず、
どこか後ろ暗い過去を背負っているような印象がある。
もう少しマシな名前はなかったか、と同情するのも味の一部か。

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名前はともかく味は富貴で豊かなピンデトク。

以上、5部門15料理の由来を語ってみた。
冒頭からさんざん、名前が安直だのとけなしていたが、
きちんと選りすぐれば、それなりに粒は揃っている。

しかも、ここに書いたのはほんの一部。

実際はこれを書くにあたり10部門を選定。
料理は次点も含めて、全部で40種類をピックアップしていた。
スペースの関係で、泣く泣くカットした次第である。

従って、僕は最後をこのような形で締めくくりたい。

「韓国料理は一見、安易、安直、ストレートな名前が多い」
「だが、つぶさに見ていくと、魅力的な名前も少なからずある」
「今後はこうした例がさらに広がっていくことを望む」

冒頭にも述べたように、料理名も味の一部。

そこに気を配ることができたとしたら、
韓国料理の魅力は、さらに豊かなものになることだろう。
これは輝かしい韓国料理の未来を願う……。

「僕からの熱き提言である!」

ぱちぱちぱちぱちぱち。
わーわー、キャーキャー、ステキー。
ひゅーひゅー、ぴーひゃらら。

全部略。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
とにかく準備に時間がかかって苦労しました。
僕のハイテンションが少しでも伝われば幸いです。

コリアうめーや!!第193号
2009年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



4 Responses to コリアうめーや!!第193号

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