コリアうめーや!!第249号

コリアうめーや!!第249号

<ごあいさつ>
7月15日になりました。
節電の夏がいよいよ本格化しています。
窓を開ければ、熱風が吹き込み、
扇風機がほとんど役に立ちません。
室内でじっと立っているだけでも汗がにじみ、
わずかでも動けばそれだけでもう滝汗。
夏生まれで暑いのは嫌いじゃありませんが、
口を開けば「暑い」しか出てきません。
でも、そのぶんアイスが美味しかったり、
素麺のありがたさが身に染みたり。
今年の夏が暑いのは、仕方ないことなので、
できるだけ楽しむ方向でいきたいと思います。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
前号に引き続いて麗水の話を続けます。
ハモ料理のほうもたいへん美味でしたが、
麗水にはそれ以外にも魅力的な魚介がたっぷり。
夏の暑さ以上に熱を込めつつ、
ガシガシと語ってみたいと思います。
コリアうめーや!!第249号。
猛暑と張り合う、スタートです。

<麗水で味わう魚介オンパレード!!>

僕が麗水に行くという話を聞いて、
ならばと助言をくれた韓国人がふたりいた。
ふたりとも麗水で暮らした経験があり、
一様に麗水の料理を絶賛していた。

ひとりめの推薦料理はチョノバムジョッ。

最初聞いたときは単語を聞き取れず、
3回ぐらい聞き返すハメになった。

「チョノバムジョッ」
「は!?」

「チョノバムジョッ!」
「ちょ、ちょのばん……じょん!?」

「チョノバムジョッ!!」
「ちょのばむじょっ!!」

聞き取れないのは知らないと同義。

どんな料理でも存在そのものを知らなければ、
偶然、出会ったとしても敏感に反応ができない。
僕も郷土料理については興味を持って調べていたが、
チョノバムジョッというのは初耳だった。

「なんすか、その、チョノバムジョッて?」

問いかける僕に、友人は満面の笑顔で答える。

「チョノ(コノシロ)って魚がいるよね」
「チョノには栗みたいな形をした胃袋があるんだけど」
「その豆粒ほどの胃袋を集めて塩辛にするんだよ」
「値段は張るけど、それはまあ見事な味だよ!」

「なるほどぉ……」

・チョノ=コノシロ
・バム=栗
・ジョッ=塩辛

という3単語が連なってチョノバムジョッ。
コノシロの栗(胃袋)を使った塩辛という訳だ。

韓国はもともと塩辛の豊富な国であるが、
わざわざ胃袋だけを集めるというのは驚きである。
チャンジャ(スケトウダラの胃袋の塩辛)の例はあるものの、
スケトウダラとコノシロでは魚のサイズが違う。

「それは、うまそうですなぁ……」

話を聞き終えたとき、右くちびるの脇から、
ヨダレがつつーっと垂れ下がるのを止められなかった。

そして、ふたりめの韓国人。

彼もまた謎の単語で麗水の魅力を語った。

「麗水に行ったらクムプンセンイ!」
「焼き魚にして食べると白身の上品な味わいが最高!」
「クムプンセンイを食べたら、次はトルケジャン!」
「麗水で食べると1人前7000ウォンでOK!」

クムプンセンイは麗水方言でセトダイのこと。
標準語では、クンピョンソニと呼ばれる。
調べたところ、日本では瀬戸内海での漁獲が多く、
それもあってセトダイの名がついたのだろう。

一方、トルケジャンはイシガニを漬けたもの。

標準語ではミンコッケと呼ばれるイシガニを、
麗水ではトルケと呼び、醤油漬けやピリ辛の薬味ダレ漬けにする。
全国的にはワタリガニを使って作ることが多い料理だが、
それを麗水ではイシガニで作っているらしい。

「なるほどぉ……」

といいかけたとき、やはり左くちびるの脇から、
大量のヨダレが、つつつつーっと流れ落ちた。

左右から滝のように流れるヨダレは、
アゴの下でどぼじで状のアメリカンクラッカーに。
麗水への期待は高まる一方であった。

そして、麗水。

力の限り食べようとの思いで乗り込んだが、
残念のことに、アドバイスのひとつは食べ逃してきた。
あれこれ食べてのタイムアップだったのだが、
チョノバムジョッを次回以降の宿題として残す。

よって、今号ではクムプンセンイとトルケジャン。
この2料理について語ってみたいと思う。

まずはクムプンセンイからだ。

前号では麗水のハモ料理について語ったが、
それを食べた翌日、朝食として郷土料理店に出かけた。
地元でも名声の高い「九百食堂」である。

ちょうど麗水水産市場のすぐ隣にあって、
新鮮な地魚料理を中心にメニューを構成している。
朝8時頃から営業しているというのも嬉しい。

メニューを確認して、まずクムプンセンイを頼み、
次いで、事前に下調べをしておいたソデフェも注文する。
ソデフェはシタビラメの刺身を生野菜と和えたもので、
こちらも麗水を代表する郷土料理のひとつだ。

いずれの料理も1人前1万ウォンなので、
朝から食べるにしては、ちょっと贅沢な定食である。

注文からほどなくして、料理がテーブルに並ぶ。

ソデフェ、クムプンセンイに加えて、
ステンレスの大きな器にごはんが盛られてきた。
冷麺に使うような大きな器である。

こういう料理の出し方は、

「混ぜて食べてね!」

といわれているのに等しい。
店員さんに念のため食べ方を確認すると……。

1、ソデフェをごはんの上に載せる
2、大豆モヤシのナムルも好みで一緒に載せる
3、備え付けのゴマ油をさっとかけ回す
4、スプーンでかき混ぜてビビンバのように味わう

というのが作法とのことだった。

すなわちこれは麗水式のフェドッパプ(刺身丼)。

ソデフェはサンチュ、キュウリといった生野菜に加え、
甘味、辛味、酸味の混ざり合った薬味ダレで和えられている。
この薬味ダレこそが、ソデフェを美味しく作るポイントで、
どの店も自家製のマッコリ酢(米酢)を使うのが定法だ。

麗水の郷土料理店では、みなマッコリ酢を自作しており、
それがソデフェをはじめとした料理の味を決める。
古くは家庭において、美味しいマッコリ酢を作れることが、
主婦としての1人前であった、との話も聞いた。

そんな秘伝も含めて味わえたかどうかはわからないが、
確かに腰の柔らかな酸味で、全体のバランスがいい。

シタビラメのシコシコと軽快な歯触りを引き立て、
朝からごはんがどんどん進む料理であった。

そして、次はクムプンセンイである。

こちらは1人前を頼んだところ2尾が出てきた。
尾かしらつきの状態で、大きさは大人の手のひらほど。
表面には薬味醤油がさらっとかけられている。

一瞬、カワハギにも似ているかなと思ったが、
背びれが鋭く、エラのあたりもトゲトゲしている。
うっかりすると指を刺してしまいそうな感じであったが、
逆に身のほうは、驚くべき柔らかさであった。

「おお、ふわっふわじゃないか!」

さらに食感もさることながら脂の味が濃く、
特に皮ぎしの部分は、とろけるようなコクがある。
ちなみに、このクムプンセンイという魚は、

「内臓ごと焼かなければ価値がない!」

といわれており、身とともに内臓も味わうのが重要。
確かに食べてみると、濃厚な味わいを楽しめたが、
僕の感覚では、一部生臭い部分もあるようであった。

また未消化のエビが、ひょこんと顔を出すなど、
内臓については好みが分かれるかもしれない。

だが、全体的にはうまい魚であるのは間違いなく、
骨の隙間や、頭部の肉までをもほじくって夢中で食べた。
麗水の底力を知らしめる、うまい地の魚である。

そこから間髪入れずトルケジャンである。

といいつつ実際には、朝食後に観光を挟んだが、
文章的な意気込みにおいては、間髪入れずといきたい。
ハモ料理、セトダイ&シタビラメに次ぐ第3弾として、
トルケジャンを目指して意気揚々と繰り出した。

到着したのは市内の鳳山洞という地域である。

鳳山洞にはトルケジャンの専門店が密集しており、
その中でも「トゥッコビ食堂」、「黄牛食堂」の2軒が有名。
どちらに入るか悩んだが、より客入りのよさそうな、
「トゥッコビ食堂」を選んで足を踏み入れた。

ちょうど昼時だったこともあって店内は大混雑。
メニューはきっぱりと、

・ケジャン定食(7000ウォン)

ひとつだけなので注文は不要である。

座布団を敷いて、よっこらしょと座るやいなや、
巨大なお盆を持った店員がせわしげに皿を並べ始めた。
その勢いに圧倒されつつも、目の前の料理を確認すると、
それは到底7000ウォンの定食ではなかった。

・コッケタン(ワタリガニ鍋)
・カンジャントルケジャン(イシガニの醤油漬け)
・ヤンニョムトルケジャン(イシガニの薬味ダレ漬け)

これらのカニ尽くしをメイン料理としつつ、
大盛りごはんと11種類の副菜がずらり。

これで7000ウォンは充分に破格値だが、
それ以上に、メインのトルケジャンは量がすごかった。

イシガニはワタリガニなどに比べて小ぶりだが、
醤油漬け、薬味ダレ漬けの、両方がなんと10杯以上。
2人前で頼んでいたので1人10杯計算になる。

これはもう、カニ尽くしどころかカニだらけ定食。

ワタリガニのケジャンが1杯と真摯に向き合うカニなら、
イシガニは、次から次へとやっつけていくカニである。
ふと気がつけば、両手と口まわりをベッタベタにしつつ、
イシガニの身をほじくるのに懸命な自分がいた。

両者のトルケジャンもそれぞれに美味しかったが、
個人的には、カンジャントルケジャンに軍配をあげたい。
ワタリガニのカンジャンケジャン(醤油漬け)も同じだが、
醤油にはごはんによく合うという魅力がある。

足の付け根あたりに、ガブッとかじりつくと、
サイズは小さいながらも、甘い身がぶりっと出てくる。
そのとき醤油のほどよい塩気が、身の甘さを強調するのだ。

甲羅の裏にも、内子(未成熟卵)こそ入っていないが、
味噌がしっかり詰まっていて、これが実に濃厚。

サイズ的に甲羅にスプーンは入らないので、
箸を使ってごはんの上にかき出して一緒に味わう。
ちまちまとした作業ではあるが、その濃厚な味わいは、
苦労に見合うだけの、大きな喜びがあった。

その喜びを踏まえて、僕はひとつ提案をしたい。

韓国ではワタリガニのカンジャンケジャンを、
ごはんによく合うとして「ごはん泥棒」と呼ぶ。

ならば、この麗水のトルケジャンは、

「ごはん盗賊団!」

と命名すべきものではないだろうか。

麗水のトルケジャンは軍団で力を合わせ、
やはり大量のごはんを奪っていく集団である。

そのチームワークとごはんの強奪力は絶大。

手元にあったはずの大盛りごはんは、
ふと気付くと、見事なまでにカラッポであった。

<店舗情報>
店名:九百食堂
住所:全羅南道麗水市校洞678-15
電話:061-662-0900

店名:元祖トゥッコビケジャン
住所:全羅南道麗水市鳳山洞270-2
電話:061-643-1880

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
麗水は本当に美味しいものだらけです。
ぜひ、ごはん盗賊団と一戦まみえてみてください。

コリアうめーや!!第249号
2011年7月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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