コリアうめーや!!第241号

コリアうめーや!!第241号

<ごあいさつ>
3月15日になりました。
本来であれば10周年を語るところですが、
地震の影響が心配でその気になれません。
テレビをつければ惨憺たる光景が広がり、
その被害は日を追うごとに拡大しています。
東京にいて何もできない自分が歯がゆいですが、
現状でできることはごく限られています。
節電、募金など最低限のことをしつつ、
被災地に向かって無事を祈る毎日です。
とはいえ、僕の住む東京は混乱しつつも無事。
下を向いていては何も始まらないので、
日々の暮らしを取り戻すべく努力したいと思います。
ということでメルマガもきちんと配信。
地震の話はごあいさつまでとして、
韓国のうまいものを、いつも通りに語ります。
コリアうめーや!!第241号。
しっかり顔をあげて、スタートです。

<これまでの済州島体験を振り返る!!>

済州島が好きだ。

東洋のハワイと呼ばれる済州島。
空港では南国の植物が出迎える済州島。
韓国有数のリゾート地として人気の済州島。
でも冬場は雪も降ったりする済州島。

かつて、冬のソウルから釜山、済州島と南下したら、
強風の吹き荒れる済州島がいちばん寒かった。
そもそも済州島は福岡県あたりと同緯度。

「どこがハワイ!?」

という話も少なからず聞くが、
そんなイメージギャップも嫌いではない。

むしろ四季があるからこその済州島。
寒い時期には脂の乗った魚が食べられるし、
ぐつぐつ煮込んだ鍋料理も美味しい。

「四季を楽しめる南国の島!」

というのが済州島の魅力ではと思う。
四季があるからこそ、食材にバリエーションが生まれ、
それが島独特の食文化へと繋がっていく。

韓国にも豊富な郷土料理を抱える地域は多いが、
済州島は豊富すぎる地元食材こそが何よりの魅力。
調理法自体にそこまでのバリエーションはないが、
済州島でしか食べられない韓国料理は多い。

「そんな済州島が本当に好きなのだ!」

カメラ目線でビシッと語った僕を横目に、
舞台袖では、スタッフのひそひそ話が始まる。

「あの人、あんなに済州島好きだったっけ?」
「あー、去年までは全羅北道がどうとかいってたよね」
「一昨年は確か仁川訪問の年でハマってたし」
「うん、そうだったそうだった」

「今年は済州島に目をつけたってこと?」
「なんでも、済州島に行く仕事が入ったみたいよ」
「あー、だからこんなこと書いてるのか」
「まあ、前振りでイメージ作っときたいんじゃない」

「なるほどねぇ」
「相変わらず手段がセコイよね」
「いえてるー」
「キャハハハハハ!」

壇上で熱く語る僕はそれに気付かない。
気付かないまま、済州島料理を語ってゆくのだ。

僕が初めて済州島を訪れたのは2002年4月。

大学を7年生で卒業したのがその前月であり、
社会人としての第1歩を順調に踏み外した頃だった。

この時点で僕の肩書きはフリーター。
いや、済州島へ向かう直前にアルバイトも辞めたので、
事実上、僕はただの無職であったと思う。

一応、前の年に学生のままライターデビューし、
コリアン・フード・コラムニストを名乗るも仕事はなし。
メルマガを書いたり、発表するアテもない雑文は書いていたが、
これといって収入がある生活ではなかった。

そんな状態で済州島に出かけて行ったのだが、
まるっきり無職の僕にも、僕なりの使命感があった。

当時、書いていた友人向けの私的メルマガに、
僕は済州島行きの意味をこんな言葉で書き綴っている。
若かりし頃の粗い文章だが、そのまま引用する。

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しかし、ハズカシながら八田氏。
最近はおおっぴらにK・F・Cを名乗っているにも関わらず、
済州島には今まで1度も行ったことがない。

正直にいうと、食は全羅道にありといわれ、
何よりもまず行かねばならない全羅道にも行ったことはない。
石焼きビビンバのうまさを声高に語っておりながらも、
全州にいって本場のビビンバを食べたことはないし、
サンナクチの味とウネウネ感をつらつら述べているにも関わらず、
木浦に足を踏み入れたこともない。

韓国の食を語っているように見せかけ、その実ソウルだけの、
いや、ともすれば新村の食だけを語っているのではないかという指摘は以前よりあった。

そのような極めて舌鋒鋭い指摘に対し八田氏は、
「な、な、な、なにをそんなデタラメを……」
と言葉を濁して北北東の方面に逃亡を図っていたが、これからは違う。
まずは済州島を手始めに、韓国全土の食を実体験をもって語り出すのだ。
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この時点でメルマガも1周年を過ぎ、
時期的にもW杯を目前とし、韓国の話題は盛り上がっていた。
大学を卒業し、自身の進路も考えたうえで、

「いま何かをしなければならない!」

という気持ちだけはあったのだと思う。
無職の僕は、時間だけはいくらでも融通できたので、
しっかり2週間を確保して韓国に出かけた。

ソウルでうろうろ飲み歩いたりもしていたので、
済州島にいたのは5日だったが、それでも大きな体験だった。
翌年1月に眞露から奨学金をもらって全国行脚に出るのだが、
その原点というべき体験が済州島にあったと思う。

このとき僕が食べた郷土料理は以下の通り。

・チョンボッチュク(アワビ粥)
・オクトムグイ(アマダイ焼き)
・オクトムミヨックク(アマダイのワカメスープ)
・ヘムルトゥッペギ(海鮮入り味噌鍋)
・コドゥンオジョリム(サバの煮物)
・カルチグク(タチウオのスープ)
・モムクク(ホンダワラのスープ)
・トンベゴギ(済州島式茹で豚)
・オギョプサル(皮付きの豚バラ焼肉)
・フッテジプルコギ(黒豚の焼肉)
・クォンメミルグクス(キジ肉スープのそば)
・ポリパン(大麦の蒸しパン)
・ポリカステラ(大麦カステラ)
・ピントク(そばクレープ)

当時はまだ郷土料理に関する知識も乏しく、
済州島を訪れてからほとんどの存在を知った。
いずれの料理も、済州島ならではのもので、
いま見ても、ずいぶんマニアックな料理が多い。

よく探して食べ歩いたものだとも思うが、
その甲斐あって、当時得た感動も大きかった。
僕はそこからヘムルトゥッペギ(海鮮入り味噌鍋)と、
黒豚の豚焼肉をチョイスしてメルマガにも書いた。

第28号/海産物のうまい島、済州島!!
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume28.htm
第29号/黒豚のうまい島、済州島!!
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume29.htm

ヘムルトゥッペギは島という地域性を活かし、
周囲でとれる海産物をギュッと盛り込んだ鍋料理。
エビ、アサリ、トコブシ、ウニといった海鮮食材を、
贅沢に盛り込んで味噌仕立てにしている。

これがもう、スプーンを突き立てるたびに、
何が飛び出してくるかという魔法の宝石箱状態。

スープの中から、殻付きエビが出てきたと思ったら、
次の瞬間にはトコブシが顔を出して、それが連続で3つ。
ウニは気前よく浮いており、アサリもざくざく。

「これぞ島料理!」

とおおいに感動したのを覚えている。

一方、済州島は黒豚の産地としてもたいへん有名。
その肉質については、一般の豚に比べて筋繊維が細かく、
食感が柔らかいうえ、脂肪の入りもよいとされる。

個人的には当時、単語としても馴染みの薄かった、
オギョプサル(皮付きバラ肉)の味に感動した。

バラ肉ならではのほとばしるような脂に加え、
皮ぎしの脂と、皮そのもののクニクニした食感。
それらが一体となって口に飛び込んでくる感覚は、
それまでの豚肉体験を一瞬で塗り替えた。

ほかにも香ばしさが光るオクトムグイ(アマダイ焼き)。
市場で発見し、立て続けに2個食べたピントク(そばクレープ)。
上品さと辛さが共存するカルチグク(タチウオのスープ)。
ふんわり後を引くポリカステラ(大麦カステラ)。

いずれも新鮮な体験であり、その記憶はいまも色あせない。
これらはその後、きちんと仕事ができるようになって、
また取材で行くなど、大きな財産となった。

そして、取材で行くようになった後も、
済州島ではまだまだたくさんの郷土料理に出会った。
2回目以降に出会った郷土料理はこんな感じ。

・カルチフェ(タチウオの刺身)
・カルチジョリム(タチウオの煮物)
・カルチグイ(タチウオ焼き)
・コドゥンオフェ(サバの刺身)
・ハンチフェ(ヤリイカの刺身)
・チャリムルフェ(スズメダイの水刺身)
・ソンゲクク(ウニのスープ)
・オブンジャクトルソッパプ(トコブシ釜飯)
・ウムガサリ(トコロテン)
・クォンシャブシャブ(キジ肉のシャブシャブ)
・コギグクス(豚スープの温麺)
・オメギスル(粟マッコリ)

この中からメルマガに書いたのはふたつ。
郷土料理の豊富さに比べて、あまりに少ないのを、
いまこうして振り返りながら痛感している。

第168号/念願叶ってやっと語れるサバの話題!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=560926
第190号/済州島名物ラーメンのような麺料理!!
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-880.html

新鮮でないと刺身にはしにくいタチウオやサバを、
飲食店で常時提供できるのは産地である済州島ならでは。
個人的にはコドゥンオジョリム(サバの煮物)も、
新鮮な状態で味わうとまったく違うのに感動した。

後は王道の素材だがハンチ(ヤリイカ)も素晴らしい。

夜の漁港を散策していたら、ちょうど漁船が戻ってきて、
とれたばかりの新鮮なヤリイカを安価で売ってくれた。
その場でさばいて友人らとつつきながら焼酎をグビリ。
透き通ったヤリイカと夜の潮風は、まさに最高のつまみで、

「世の中にこれほどの幸せがあるか!」

とみんなで高笑いをしたのを覚えている。

そして、最後になるが今後の話。

冒頭にも少し書いたが済州島に行く予定がある。
この原稿を書いている段階で、地震の影響が大きいため、
本当に行けるかどうか不安だが、一応予定は予定。
当面は行くことを前提に下準備を進めている。

これまでも済州島の食文化には興味を持ってきたが、
今回はより細かな部分まで下調べをしてみた。
その甲斐あって、今回の取材はかなり有意義になるはず。
きちんと行けたら、頑張って食べ歩きたいと思う。

個人的には潤沢すぎる海の幸だけでなく、
済州島が裏で抱え持つ、貧しさの部分を掘り下げたい。
島である済州島はどうしても農産物が乏しく、
かつてはいろいろな工夫で日々の食をつないだ。

そんな生活の知恵から生まれた料理も数多い。

陸地に比べて、あるものも多いが、
逆にないものが多いのも済州島の特色。
そのあたりはむしろB級グルメによく見える。
地元に密着した食文化も探りつつ……。

済州島が好きだ。

そのセリフにもっと深みと真実味を持たせたい。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
毎日テレビから目が離せません。
最前線で頑張る人の無事を心から祈ります。

コリアうめーや!!第241号
2011年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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