コリアうめーや!!第175号

コリアうめーや!!第175号

<ごあいさつ>
6月15日になりました。
僕の住む東京では、夏を迎えたような暑さです。
梅雨とは名ばかりなのか、妙に乾いた感じの毎日。
雨が降るのも嫌ですが、降らないのも気になりますね。
どうせなら、ざばーっと景気よく降らんかい!
と空に向かってどなってみたりして。
まあ、それで降られてもまた悪態をつくのですが。
さて、そんな身勝手なことを語っている中、
今号もコリアうめーや!!のお届けです。
第175号ということで、恒例の25号刻み企画。
律儀に覚えている人も少ないでしょうが、
ちょっとしんみり、過去の思い出を語る記念号です。
時計の針をキリキリと巻き直し。
コリアうめーや!!第175号。
重大なお知らせも含む、スタートです。

<あの日あの時あの人と……7>
美味しいものを食べた思い出がある。
あの日あの時あの人と、一緒に食べた味わい深い思い出がある。

彼女と初めて会ったのは東京、大塚にあるビルの一室。
仕事の依頼を受けて行ってみると、

「えっと、わたしまだ名刺がなくて……」

と、恥ずかしげな笑いを浮かべていた。

言葉通りに判断するなら新人さん的なニュアンス。
だが、彼女はそのプロジェクトの責任的立場にあり、
自らもそう名乗っていただけに不思議だった。

僕にとっては仕事の発注者となるべき担当者。

その彼女が名刺のひとつも持っていないというのは、
その先、仕事をしていく上で少し不安であった。
もちろん仕事をしていれば、稀にある光景だが、
その依頼は他の仕事に比べて規模が大きかった。

そうした事情も含めて、

「この仕事、大丈夫なのかな……」

とぼんやり感じたように記憶している。
そして、その予感はある意味で確かに的中したのだ。

僕が初めてのミーティングに参加した時点で、
その仕事はすでに、けっこうな修羅場を迎えていた。
仕事のボリュームに比べて、時間がなさすぎる。

ほどなく僕もその修羅場に巻き込まれ、
睡眠もろくに取れないような日々が続いた。

メールのやり取りを重ねている時間はないので、
チャット形式で会話ができるメッセンジャー機能を使用。
リアルタイムで連絡を取りつつ仕事を進めていった。
それに連れて、担当の彼女についても徐々にわかってくる。

僕がフリーのライターとして活動しているように、
彼女はフリーの編集者として招聘されているのだった。
その大きな仕事をこなすための臨時スタッフ。
名刺がないのは、彼女も呼ばれて間もないからだった。

「なるほど、そういうことだったか」

と理解できた頃には、
仕事のやり取りもスムーズになっていた。

彼女はさすがフリーでやっているだけあって優秀だった。
僕よりもひとつ年下だが、フリーとしてのキャリアも長い。
その中でもギリギリの進行管理が見事であった。

お互い時間に追われてカツカツの状態なのだが、
こちらの進捗状況を、目で見ているかのような発注をしてくる。
仕事のボリュームに対し、なんとか対応できる締切設定。
無理なら断れるが、可能なだけに頑張らざるを得ない。

ひいひい言いながら、やっとのことで原稿を送ると、
そのフル回転が止まらないタイミングで次の依頼が来る。
一方で、細かい確認や質問にも迅速に対応してくれるので、
修羅場の中においても、仕事自体はやりやすかった。

ペースメーカーのついたマラソン選手のような気分である。

ただし、そのハンドリングは一部曲芸的で、

「夜遅くにご連絡してもかまいませんか?」
「あ、いいですよ。たいてい夜まで仕事をしているので」

と答えたら、深夜2時に電話が来るとか、

「メッセンジャーで連絡してもいいですか?」
「あ、いいですよ。常に起動しておきますね」

と答えたら、その最初の呼びかけが、

「はっちゃん!」

という妙に慣れ慣れしいセリフだったりとか。
テンパった状況の中で、明らかに非常識な行動もあったが、
結果的にはそれが仲間意識の濃いチームワークを作った気もする。

忙しい仕事になるほど、関係作りは重要になるもの。

「そういうコミュニケーションを取る人なんだな」

と若干戸惑いつつも、僕はそう理解することにした。

関係者全員が心身ともボロボロになった頃、
そのプロジェクトは予定を1ヶ月過ぎて一区切りがついた。
苦しかった修羅場が終わり、ほっと一息つけた瞬間だが、
プロジェクト自体は、立ち上げが終わっただけでまだまだ続く。

だが、驚いたことにその彼女は、

「次の仕事が始まりますので」

といい残し、颯爽と次の現場へと去って行った。

なんでも最初から立ち上げまでの契約であったとのこと。
なるほど。やはり優秀な編集者なんだな、
と思う一方で、なんだか妙な喪失感もあった。

再び、彼女から連絡があったのは1ヶ月後である。

「よかったら1度お疲れさまの会をしませんか?」

との誘いであった。
その頃もまだまだバタバタしていたが、
飲む話となれば、また別である。

「ぜひぜひ!」

などと能天気なメールを返したが、
ん、それは2人で? というさりげない疑問もあった。
打ち上げをするならばスタッフはたくさんいる。

話を聞いてみると彼女なりの心残りがあったようだ。

契約とはいえ、仕事を途中で放り投げている。
途中での慌ただしい仕事発注などももろもろ含め、
お詫びと慰労をしたい、という誘いであった。

ただ、そう誘っておきながら、

「お店は八田さんのオススメで!」

と丸投げしてくるあたりは彼女らしかった。
店の選択に少し悩んだが、当時見つけて気に入っていた、
東京、湯島の豚焼肉店を選んで紹介した。

その店はトゥンガルビと呼ばれる豚のスペアリブが有名。

下味をつけた骨付き肉を、鉄板でじりじりと焼き、
手づかみで食べる豪快さが魅力の料理である。

いきなり女性と2人で行くようなタイプの店ではないが、
彼女も韓国留学の経験があり、こうした料理は慣れている。
案内すると予想通り、喜んでもらえたようだった。

ひとつ予想外だったのは、食べる量である。

湯島の店にはその2週間前にも足を運んでおり、
そのときは男性の友人と一緒だった。

2人前を注文し、2人で食べてちょうどよかった。
今度は女性と一緒だから、ちょっと多いかもと思いつつ頼んだら、
彼女はその予想を大きく裏切って、ぺろりとたいらげた。

どころか明らかに食べ足りなさそうな顔をしている。

料理を追加し、ホルモン系の焼肉も追加し、
さらに2次会にも行っても料理をずらりと注文。
なおかつシメとして、手打ち蕎麦まで食べた。

「この人、本当によく食べるなぁ……」

仕事を離れ、個人的な好意を抱いたのは、
このときが最初だったのではないかと思っている。

蕎麦を食べて時計を見ると、終電がない時間だった。
だがタクシーで帰るには、惜しい盛り上がりである。
どうしたものか、と考えていると、

「新宿2丁目にいいオカマバーがあるんですよ!」

と彼女が言い出した。

新宿2丁目でオカマバー……。

僕にとっては明らかに未体験のゾーンである。
そこへ女性と2人で行く、というのはいかなるものか。
緊張が走ったが、彼女は行き慣れているようだ。

ならば、そのまま任せてみるのも面白いかもしれない。

毒を食らわば皿まで、の気分で覚悟を決めたが、
結局、その日は定休日でオカマバー体験はできなかった。

残念なような、安心したような。

そのまま新大久保に移動し、始発電車が出るまで飲んだ。
朝までの飲み会になることは予想していなかったが、
話題は尽きず、盛り上がった一夜となった。

そのおかげか、2度目の話もすぐまとまった。

ちょうど彼女の新しい職場が新橋にあったため、
周囲には雰囲気のよさそうな居酒屋がどっさりとあった。
彼女はビールケースに座って飲むような大衆酒場を喜び、
焼き鳥の美味しい店を発見! というメールをくれた。

その頃、僕も大衆酒場で飲む魅力に目覚めており、
北千住、立石、曳舟、赤羽などを積極的に徘徊していた。
そんな僕にとって新橋情報はド!ストライクであった。

2度目の飲み会は、銀座の小料理店から始まり、
彼女が見つけたという、新橋の干物専門店へと進んだ。

キンメダイ、サーモン、サバ、ニシンといった魚の干物を、
それぞれ串に刺して、炭火で焼くという粋な趣向の店。
それを肴に、全国から揃えられたカップ酒を飲んだ。

座っているだけで、煙で目がシバシバするような店だが、
その雰囲気がまた楽しく、おおいに飲んで食べた。

そして、もう満腹で動けない、という頃。
彼女の口から出た提案は、またも意外なものだった。

「80年代の歌謡曲を聴きながら踊りましょう!」

オカマバーにも躊躇したが、踊るのはさらに苦手。
いま思えば、なぜそれに同意したのか理解に苦しむ。

連れて行かれたのは、会社員とおぼしき人たちが、
全員酔っ払いで、『ヤングマン』を合唱する異様な空間。
懐メロを聴きながら、30代の男女が狂喜乱舞する、
僕ひとりだったら、絶対行かないような店だった。

内心オドオドしながらも、僕は無理に手足を動かし、
ギクシャクしたまま酔いに任せて踊った。
いま思い出しても、赤面してしまうような光景である。

ただ、異世界の文化ではあるもの、それはそれで楽しく、
違った価値観を得るのはいいことだな、とぼんやり思った。
見れば目の前で、彼女が楽しそうに踊っている。

「あ、いいな」

と思った次の瞬間、僕は彼女を抱き寄せていた。

この話は昨年6月のこと。
ちょうど今から1年前の話である。

正確に書くならば6月20日の深夜。

場合によっては日付が変わっていたかもしれないが、
この日を僕らは付き合い始めた記念日としている。

そして、もうすぐ1周年がやってくる。

付き合い始めて、初めて迎える記念日だが、
僕らはそこにもうひとつの意味を付け加えようと思う。
始まりの1日を、もう1歩進めた始まりに。

2008年6月20日。

僕らは在住の区役所に婚姻届を提出する予定だ。
長い間、このメルマガを読んで頂いている皆様には、
この場を借りての、報告とさせて頂きたい。

人生の伴侶を得て、ますます精進する所存。
今後とも宜しくお付き合いください。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
今日5月15日発売の新刊が好評を頂いています。
韓国料理をテーマにした韓国語の初心者向け学習本。
新書というスタイルなので、韓国料理の薀蓄もたくさん絡めつつ、
読み物としてすらすら読める内容を目指しました。
本のゴールは韓国語のメニューを読んで注文すること。
ハングルの読み方から、発音変化、簡単なフレーズまで。
お店の人の心をくすぐる文句などもちりばめています。

タイトルは、

『はじめてのハングル「超」入門 ビビンバを正しい発音で注文する』

です。
出版社はソフトバンククリエイティブ。
ソフトバンク新書の1冊としてラインナップに並んでいます。
価格は税込で767円。全国書店での販売です。
見かけたらぜひ手に取ってみてください。

ネット上でも購入できます。

アマゾン
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4797345942
楽天
http://item.rakuten.co.jp/book/5671133/
セブンアンドワイ
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=32070907

<八田氏の独り言>
まず籍だけ入れて新生活を始めます。
式などは秋、冬に改めて行う予定です。

コリアうめーや!!第175号
2008年6月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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