コリアうめーや!!第134号

コリアうめーや!!第134号

<ごあいさつ>
10月になりました。
青空を見上げるとその高さに驚きます。
雨模様の日も多い今日この頃ですが、
晴れたときはやっぱり気持ちがいいですね。
外に出て思いっきり遊ぶにもいい季節だなと、
昨日は友人と外でバーベキューなどをしてみました。
肉や野菜を食べつつ、クイーっとビールを飲み、
腹ごなしにはキャッチボールなども楽しんだり。
投げたり、走ったりしながら大騒ぎしたのですが、
翌日起きるとやはりというか身体がミシミシ。
腕、足、背中の筋肉が軒並み悲鳴をあげています。
日ごろの運動不足がこういうときに響くんですね。
メルマガを書きながらも、身体が痛くてたまりません。
さて、そんなスポーツの秋から食欲の秋へ。
秋ならではの料理をひとつテーマに選んでみました。
久しく食べておりませんが、韓国では大事な秋の味覚。
でも、ちょっと苦い思い出があったりもします。
コリアうめーや!!第134号。
あるトラウマを語る、スタートです。

<ドジョウの呪いを断ち切るのだ!!>

9月が終わって10月へと移行するこの時期。
やっと秋の訪れが、現実のものとして実感できる。

9月になると同時に、秋だ、秋だと騒ぐものの、
実際は粘り強く残る残暑に汗を拭うのが常である。
カラッとした風に秋を感じるのはもう少し後だ。

こうした徐々に深まりつつある秋を感じ始めると、
いよいよをもって秋の味覚探求が忙しくなる。

「あれは食べた、あれはまだだ、あれも食べなきゃ」

冬の足音を遠くにらみつつ、食欲の秋制覇が忙しい。

ちなみに今シーズンにおける僕の達成度は、
今日10月1日現在で約7割というところだろう。

エース格のサンマの塩焼きをまだ未食なのは一大事だが、
戻りガツオ、栗ごはん、秋ナスあたりの面々を順調にクリア。
また、例年最難関として立ちはだかるマツタケ大先生も、
カナダ産の安物ではあったがきちんと制覇した。

さらにはマクドナルドの月見バーガーも食べたし、
季節限定ビールのキリン「秋味」も飲んだ。

サンマは比較的食べるのがたやすいので、
あとはせいぜい新米と果物類を制覇する程度。

今年の秋は充実度と満足度の高い秋となる。

といったあたりでひとりにんまりとしながら、
ふと、韓国における秋の味覚はどうだったろうと考えた。

韓国を代表する秋の味覚……。

まずは秋夕(チュソク)に食べるソンピョンがある。
秋夕とは陰暦の8月15日にあたるご先祖様の祭祀を行う日。
そのときに捧げられるのが、ソンピョンという蒸し餅である。
ご先祖様に感謝をしつつ、その年の新米で作るのが慣わしだ。

ちなみに今年の秋夕は10月6日。

東京のコリアンタウンにも伝統餅の専門店があるので、
その前後になったら、韓国系スーパーにもたくさん並ぶはず。

ちょうどその日は中秋の名月でもある。

月見団子がわりにソンピョンというのもオツかもしれない。

また、キノコをたっぷり入れたポソッジョンゴルも秋の味覚。
ポソッというのがキノコを表し、ジョンゴルは鍋である。
すなわち韓国式に唐辛子で辛く味付けたキノコ鍋ということだ。

入るキノコ類は日本とさほど変わらない。

シイタケ、ヒラタケ、エノキダケ、エリンギなどなど。
マツタケもぜひ入れたいところだが韓国でも同じく高級品。
話には聞けど、マツタケ入りのポソッジョンゴルは見たことがない。

海産物でいくとちょうどタイショウエビが旬を迎える。
あるいはコノシロの刺身なども重要な秋の味覚だ。

そして……というあたりで大事なことを思い出してしまった。

「しまった、そうか。アレもあったな……」

瞬間、僕の脳裏でドジョウの大群がビチビチと跳ねる。
やがてそのビチビチが伝染し、胃腸のあたりでシクシク痛む。
次々に湧き上がってくる嫌なイメージ。

「あのときはつらかったな……」

と苦い思い出がよみがえってきた。」

2003年の話だから、すでに3年も前だ。

僕はそのとき、韓国南西部の光州(クァンジュ)にいた。
かつては光州学生独立運動、光州事件の舞台となった町。
現在は芸術の祭典「光州ビエンナーレ」の開催地としても知られる。

この光州を中心とした南西部の地域を全羅道と呼び、
韓国ではもっとも食文化の豊かな土地だとされる。

気候がよく、水がよく、良質の作物がとれる。
他地域にはない豪華な郷土料理の多いエリアだ。

僕はそういった全羅道料理を味わう目的で、
光州にある有名な韓定食店を訪れた。

韓定食とは宮廷料理の流れを汲む豪華なコース料理。
このときに行った「松竹軒(ソンジュッコン)」という店は、
中でも特に全羅道の郷土料理を多く出すことで有名だった。

店は大通りから少し奥まったところにある住宅街にあった。

小さな看板がなければ気付かないくらいの場所。
韓屋(ハノク)と呼ばれる古い伝統様式の一戸建てで、
どこか料亭を思わせるような雰囲気を備えていた。

道庁からほど近い繁華街の裏手に位置するのだが、
喧騒はすっかり姿を潜め、緊張感のある静寂に包まれている。
どこか圧倒されるような店構えでもあった。

店の入口ではひとりの男性が出迎えてくれた。
人数を2人と伝えると、その男性は僕らを案内しかけて、
くるっと振り返ると、

「ここは初めてでらっしゃいますか?」

と僕らに問いかけた。
あれ、ここは一見お断りの店だったのかな? 
と一瞬戸惑いつつも、初めてである旨を告げると、

「お2人様ですと12万ウォンになりますが……」

というセリフが次に飛んできた。

すなわち1人前が6万ウォン(約6000円)。
韓定食としては特別に高いというほどではないが、
1回の食事と考えるとそれなりの値段だ。

どうやら普通の旅行者スタイルで行ったのがまずかったらしい。

格好を見て、この人たち大丈夫かな、と心配されたようだ。
幸いにも資金は充分に用意してあったが、

「もしかしたらえらいところに来たのかな……」

といきなり緊張を強いられることになった。
通された個室にも高そうな絵や壷などが飾られている。

僕らの担当として料理を運んできた女性も、
どうやら店の女将らしい風格のある人物であった。
静かな身のこなしにも、ビシッと筋が通っている。

出された料理にもひとつひとつ丁寧な解説がついた。
料理の概要から、食材の産地など、その詳細さ仰々しさは、
思わず説明を聞きながら背筋が伸びてしまうほどである。

次の料理を運ぶために女将が出ていくと、
僕らは少し肩の力を抜いて、もそもそと料理を味わった。

今思えばなぜそんなにもと思うものだが、
そのときは出てきたビールにさえも圧倒されていた。
ビンビールを頼んだところ、出てきたのが小ビン。
韓国の飲食店で小ビンのビールを見たのは初めてだった。

次々に出される料理は想像以上に豪華だった。

それぞれが技巧を凝らした料理である上に、
評判通り全羅道料理のオンパレードであった。
そしてまた出てくる料理の数がすごい。

韓国では「お膳の足が折れるほど」という表現を使うが、
そのくらいの量を出すというのがもてなしの基本。

目立った全羅道料理だけを並べても、

・ホンオフェ(エイの刺身)
・ホンオタン(エイのスープ)
・トッカルビ(骨から外して叩いたカルビ焼き)
・アムポン(豚の血液を入れた腸詰)
・ヨンポ(テナガダコの水煮)
・チュクスンチム(タケノコの蒸し物)

とバリエーション豊富。
全体の皿数は40ほどにもなっただろうか。
食事の中盤あたりで、充分すぎるほどの満腹となった。

ただ、満腹であっても食べないわけにいかない。
なにしろめったに食べられない珍しい料理ばかりである。
これも勉強と、多少無理をしながらでも食べた。

やがて心理的な満腹を超え、物理的な満腹に。

腹の中心で胃袋が、「俺、胃袋です!」と自己主張している。

座っているだけでも満腹でつらいという状況だが、
それでもさらなる料理がどんどん運ばれてくる。

もうギブアップしようと何度も思うのだが、
料理の解説を聞くと、ならばひと口と思ってしまう。

それを繰り返した最後の最後。限界の限界。

「これで料理はおしまいです」

の声とともに運ばれてきたのがドジョウ料理だった。

熱した石板の上に、丸のままのドジョウと各種野菜。
ニンジンや春菊などが、まだ生の状態で盛り付けられていた。
どうやら石板の熱を利用し、その場で炒めるらしい。

これまた全羅道料理のひとつでミクラジスッケと言う。

ミクラジというのが韓国語でドジョウの意。
スッケは「熟鱠」と書き、火を通した魚介料理のこと。

すでに胃が硬直するほどの満腹状態だったが、
最後の料理ならばと、力を振り絞って箸を手に取った。

長さ10センチくらいのドジョウをつまんでみる。
シシャモよりやや小さいくらいだが、頭からかじるには勇気がいる。
尻尾のほうからいくか、頭のほうからいくか悩んだが、
やはり頭からが礼儀だろうとかぶりついた。

骨に固さが残っており、口の中でカリコリカリコリ音がする。

味付けは甘辛い薬味ダレをベースに、ちょっと酢が加わっている。
泥臭い魚であるためか、いくらか濃い目の味付けにしてあるようだ。
そのためかドジョウ本来の味というのは、あまり感じられない。

ただ、それは満腹がゆえ、ということもあったかもしれない。

空腹は最大の調味料とよく言うが、
反対に満腹のときは味もへったくれもない。

結局、このドジョウが胃袋へのラストアタック。
尋常ならざる満腹となり、店を出てもまともに歩けなかった。

それをおおいに後悔したのはその日の夜。

度を過ぎた満腹は、体調不良の引き金となり、
旅の途中であるにもかかわらず、3日間寝込むハメになった。
胃も腸もキリキリとちぎれんばかりの猛烈な激痛。

夜は痛みにうなされながら、ドジョウがわらわら踊る夢を見た。
それ以降、今に至るまでドジョウ料理を食べた記憶がない。

韓国にはチュオタンという美味しいドジョウ料理があるが、
それを食べたのも2002年秋が最後だった気がする。

チュオタンは漢字で「鰍魚湯」と書いてドジョウ汁のこと。
日本では秋の魚と言えば、「秋刀魚」と書くサンマだが、
韓国ではドジョウこそが秋を代表する魚なのだ。

ドジョウは全体をすりつぶして作ることが多いが、
ミクラジスッケのように丸のまま使用することもある。
丸ごとがソウル式、すりつぶすのが南部式というが、
僕自身はすりつぶしたチュオタンしか食べたことがない。

味付けには韓国味噌とコチュジャンが使われ、
仕上げに山椒をふりかけて薬味とするのが特徴。
栄養価が高く、滋養あふれる旨みが魅力の料理だ。

光州でのドジョウ地獄からすでに3年。
そろそろトラウマを捨ててもよい頃だろう。

秋の訪れとともに、チュオタンが食べたくなってきた。

<おまけ>
メルマガに登場したお店データ

店名:松竹軒(ソンジュッコン)
住所:全羅南道光州広域市東区南洞128-1
電話:062-222-4234
HP:なし

<お知らせ>
ドジョウ料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
朝日新聞のインターネットサイトでコラムを書いています。
月2回連載。第2回記事はマッコルリがテーマでした。

アサヒコム 朝日新聞国際ニュース
http://www.asahi.com/international/
第2回記事 マッコルリ
http://www.asahi.com/international/korea/TKY200609270193.html

<八田氏の独り言>
韓国では秋の料理ですが日本では夏が旬。
同じドジョウでも季節感は異なるのが面白いです。

コリアうめーや!!第134号
2006年10月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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