コリアうめーや!!第116号

コリアうめーや!!第116号

<ごあいさつ>
明けましておめでとうございます。
そして韓国語でも、セヘポンマニパドゥセヨ。
新年の福をたくさんお受けください、という意味です。
みなさまの2006年が素晴らしいものになるよう、
心よりお祈り申し上げます。
コリアうめーや!!は今年でいよいよ丸5年。
なんと6年目に突入することになります。
これだけ続けても、まだ尽きないのが韓国料理の魅力。
今年もさらに気合を入れて、
韓国のうまいものを紹介していく所存です。
2006年も宜しくお付き合いください。
さて、その2006年最初のコリアうめーや!!ですが、
昨年11月の地方料理ツアーから成果をお届けします。
前号のベストテンにもあげた地方料理3種。
今号より3号連続で書いていきたいと思います。
コリアうめーや!!第116号。
まずは第1弾から、スタートです。

<本場木浦で取れたてナクチ三昧!!>

「さて、どこに行こうか」

僕と友人M氏は道路地図を見ながら考えた。
韓国の地方を旅したい。美味しい地方料理が食べたい。
あそこはどうだ、ここはどうだと知恵を絞る。

漠然と全羅道方面を目指すことだけが決まっていた。

韓国で食の豊かな地方といえば、やはり全羅道が頭ひとつ抜ける。
後はどの町を目指し、どういうルートを取るかだ。

なにしろ僕らに与えられた時間は、土日の2日間だけ。
効率的な移動で、美味しいものを食べ歩かなければならない。

「いきなり木浦を目指すのはいかがでしょう」

とは、M氏からの提案であった。

木浦は韓国の南西部に位置する有名な港町。
日本では「木浦の涙」という歌の舞台としても知られる。

「深夜バスの時間が木浦だとちょうどいいんですよ」
「ソウルを夜中の1時に出発すると、木浦到着は朝7時」
「短い日程を最大限活用することができます」

「木浦より手前の光州や全州に行くことも考えたのですが……」
「ちょっと半端で真夜中の到着になってしまうんですね」
「夜中にソウルを出て、朝イチに到着するには木浦がベストです」

M氏の説明は理路整然としていた。

僕にとっても木浦は1度行きたいと思っていた土地。
海産物の美味しい地域なので、何も異論はない。

「では、ソウルからまず木浦を目指すことにしましょう」

と、すべて決定したところで、
ふと木浦がナクチ(テナガダコ)の産地であることに気付いた。
実はこのM氏、メルマガ第113号にも登場していたりする。

僕に超激辛のナクチ炒めを食べさせてくれた人物。
無類のナクチ好きで、ナクチには人一倍こだわりがある。

「なるほど。さりげなさを装ったナクチ狙いだな」

僕はM氏の心の中を読んで、ひとりにやっと笑った。

さて、こうして僕とM氏の全羅道旅行がスタートした。

金曜日の深夜に出発し、日曜日の深夜に帰る1泊3日旅。
いかにも慌しい日程だが、時間的制限をものともせず、
精力的にあちこち巡って、地方の味覚を堪能してきた。

その華々しい先陣を切るのがナクチ料理である。
全羅道ならではの海産物から、まず味わいに行くことにした。

目指した店は木浦市内の犢川食堂(トクチョンシクタン)。
数ヶ月前に木浦を旅行した友人が絶賛していた店だ。

犢川食堂はナクチ料理の専門店だけあって、
メニューを見ると、ずらりナクチ、ナクチのオンパレード。

・ヨンポタン(ナクチのスープ)
・カルラクタン(ナクチとカルビのスープ)
・ナクチビビンバ(ナクチのビビンバ)
・ナクチボックム(ナクチ炒め)
・ナクチグイ(ナクチ焼き)
・サンナクチ(活ナクチの刺身)
・セバルナクチ(小さいナクチの踊り食い)

ソウルでは見られないような珍しい料理もある。
ナクチは韓国全土で広く親しまれている食材だが、
これほどたくさんの種類の料理で出すのはやはり本場だから。
韓国人でも知らないような料理が並ぶ。

M氏と2人、おおいに悩んで注文を決める。

あれも食べたい。これも食べたい。
めったに来られない場所なので心残りがあってはならない。
真剣な議論を重ねて、出た結論は以下の通り。

まず、友人が絶品と褒めていたヨンポタンを1人前。
次に、味を比較する上でカルラクタンを1人前。

さらにM氏とソウルで食べたナクチボックムも外せない。
ソウルで食べた激辛味と本場の味はどれほど違うのか。

加えて、木浦に来たら絶対に食べねばならない1品。
セバルナクチもお互い1人前(1匹)ずつ食べたいところだ。

そう店のおばちゃんに伝えたら、渋い顔をされた。

「アンタたち、そんなにたくさんは無理よ」

ヨンポタンとカルラクタンを1人前ずつで充分。
ナクチボックムは3~4人前はあるので2人では食べきれない。
無理せず食べられるぶんだけ注文するべしとのことだった。

だが、こちらとしてもめったにないチャンス。
しつこく食い下がると、おばちゃんは諦め顔で言った。

「じゃあ、特別に少なく作ったげるわよ」

と、ナクチボックムの半人前を認めてくれた。
韓国に通らない無理はない。とは非公式の名言である。

まず出てきたのはナクチボックムだった。

半人前とはいえ、それなりのボリュームがある。
また、ナクチそのもののサイズがかなり大きい。

特に足の太さが秀逸で、競輪選手並にむっちりとしている。

僕はかつてナクチをタコ界のミスコリアと例えたことがある。
(コリアうめーや!!第11号参照)

他のタコに比べて頭が小さく足がすらっと長い。
タコ界における8頭身美人であると褒め称えたのだが、
本場のナクチはもっと肉感的なグラマラス美人だった。

敬意を払って、いちばんむっちりした付け根部分にかぶりつく。

一口で食べるには、ちょっと大きいかというサイズ。
大きく口を開いてガブリと噛み付いてみた。

すると!!!

プリッという心地よい歯触りを感じたかと思うと、
次の瞬間には、身がバラバラに弾け飛んでいた。

信じられないほどの柔らかさ。

軽快な歯触りの余韻だけを残し、あっという間に口の中から消え去る。
後には、爽やかでほんのりとした海の味を残すばかりである。

「こ、これはうまい!」

見た目は赤いが唐辛子の辛さはほとんどない。
ソウルで食べた激辛のナクチボックムとはまるで方向性の違う味。
素材の味が前面に出て、味付けはそれを支えるだけだ。
緑豆モヤシ、ニンジン、タマネギといった野菜の味も実にいい。

食べれば食べるほどうまみがあふれ出てくる。
本場のナクチボックムは豪華至福の味であった。

ヨンポタン、カルラクタンが次に出てくる。
ヨンポタンはナクチを丸ごと入れたスープ料理。
これをハサミでチョキチョキと食べやすい大きさにする。

カルラクタンはナクチだけでなく、牛カルビを具に入れた料理。
いわゆるカルビタンと、ヨンポタンの複合形である。

まずヨンポタンのほうからすすってみると、
なんともいえない爽やかであっさりしたうまみが口に広がった。
魚介系ダシの穏やかな味のスープは後をひく。

味の秘密はダシをとるティポリという小魚の煮干。
日本語ではサッパ。岡山のママカリを作る魚だ。
このティポリでないと、ナクチのうまみは引き出せないらしい。

カルラクタンは牛カルビでダシを取っているので力強い味がする。
肉系のスープに、たっぷりのゴマがふられていて香ばしい。
これまた非常に味わい深いスープだ。

どちらもうまいが、どちらかと言えばヨンポタンに軍配か。

カルラクタンは味こそうまいが、逆にちょっとうますぎる。
カルビの味が強いので、ナクチの淡い旨みが消えてもったいない。
旅行者の立場としては、やはり名物のナクチを存分に味わいたい。

ナクチのプリプリ感と、にじみ出るうまさ。
それを最大限に感じるにはヨンポタンのほうがいい。

最後にセバルナクチを1人1匹ずつ注文した。

セバルナクチとは大きくなる前の小さなナクチのこと。
ガブリといけるサイズなので、丸ごと生きたまま食べる。
ウネウネ動くのを噛み潰しながら食べるのだ。

数あるナクチ料理の中でも象徴的な存在で、
見た目の面白さから、テレビなどでもよく取り上げられる。
木浦に来て、これを食べない訳にはいかない。

「すいません。セバルナクチを2匹ください」
「……え!?」

「セバルナクチを2匹……」
「……アンタたち、食べたことあるの?」

先ほどのおばちゃんがまた不安そうな顔で見る。

「いえ、食べたことはないですが、ぜひ食べてみたいと……」
「下手したら死ぬわよ。無理しないで止めといたら?」
「し、死ぬんですか!?」

確かにありえない話ではない。
生きたまま食べるのだから、ナクチも食べられまいと抵抗する。
足が気管にへばりついたりすれば、呼吸困難で窒息死だ。

「そ、それでも食べてみたいんですが……」

さらに食い下がると、おばちゃんはまたも渋々承諾してくれた。
きっと厄介な日本人がやって来たと思ったことだろう。

セバルナクチの食べ方としては割り箸を利用するのが一般的。

割り箸の先端にナクチの頭を刺し、足をぐるぐると巻きつける。
口の中に入るサイズにした状態で、コチュジャンにつけて食べるのだ。

口に入れたら、後はナクチとの真剣勝負。
即座に頭を噛み潰し、ナクチを絶命させなければならない。

「本当にいいのね?」

と、おばちゃんが真剣な表情で聞く。
おばちゃんの手には手際よく準備されたナクチがある。
口を大きく開けた状態で、僕はコクンとひとつ頷く。

「そいじゃ行くよ」

おばちゃんが割り箸の先端をしごいてナクチを口に押し入れる。
直後、口の中にぬめっとした物体が流れ込んできた。

「さ、噛んで! 噛まないと危ないよ!」

おばちゃんの声を聞きながら懸命に口を動かす。
ウネウネ、ヌメヌメ動くナクチを、ガブリガブリとやっつける。
食べられるナクチも必死。食べる僕も必死。

まさに生死を賭けた真剣勝負である。

夢中になって噛み続けていると、次第にナクチの動きが弱まってきた。
同時にナクチの体内から、素晴らしい味が溢れ出てくる。

噛むことに集中していたが、このあたりから味わう余裕が出てきた。

「あ、美味しい……」

と、思った瞬間、これまで食べてきた料理の味がくっきりと蘇った。

ナクチボックム、ヨンポタン、カルラクタン。
そのすべてに共通するのは、ナクチそのもののうまさである。
うまいナクチがあってこその名物料理。

その根底の味を、純粋に味わうのが丸ごとのガブリ食い。

口の中に溢れる、潮の香りのジュースは、
ナクチの体液であり、体内に取り込んだ海の味である。
このうまさがナクチ料理の真髄だと気付いた。

僕は深い感動とともに、ナクチをごくりと飲み込んだ。

本場のナクチは素晴らしい味であった。

木浦に行くことがあったら、ぜひナクチを食べて欲しい。
あるいはナクチ好きの人であれば、めがけて木浦を訪ねてみて欲しい。

そして命をかけてでもセバルナクチを食べるべし。
必ずやナクチの真実に出会えるはずである。

<おまけ>
メルマガに登場したお店データ

店名:犢川食堂(トクチョンシクタン)
住所:全羅南道木浦市湖南洞10-36
電話:061-242-6528
HP:http://www.nakjinara.com/

<お知らせ>
ナクチ料理がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『ハングルドリル』は発売2ヶ月で増刷が確定。『ハングル練習帳』も同時に3度目(4刷)の増刷を行うことが決まりました。お買い上げ頂いたみなさん、本当にありがとうございます。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4054029280/

<八田氏の独り言>
初詣に行っておみくじを引いたら大吉でした。
でも、今年は女難の相が出ているらしいです。

コリアうめーや!!第116号
2006年1月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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