コリアうめーや!!第122号

コリアうめーや!!第122号

<ごあいさつ>
4月1日になりました。
僕の住む東京では桜がちょうど満開です。
昨日は会社近くの桜並木を昼に散歩しました。
桜の咲く季節って本当にいいですよね。
日本人でよかったなあ、って思う時期です。
暖かさと寒さが交互に入り混じりながら、
徐々に気温が上がっていくのも大事な春らしさ。
年度がわりで飲む機会が多かったりするのも、
春はいいなあ、と思う大きな要因です。
ああ、爽やかな春風の中でビールが飲みたい!
てなことを叫びつつ。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
留学時代に食べた思い出の料理が日本進出です。
いやあ、あの料理が日本で食べられるとは。
周辺にあるさまざまな記憶とともに、
新展開を迎える料理を紹介したいと思います。
コリアうめーや!!第122号。
ドーンとド迫力で、スタートです。

<タッカンマリの日本進出はいかに!!>

初めてタッカンマリを食べたのは汝矣島(ヨイド)だった。

留学生として韓国に渡り、半年ほどが経過した頃。
韓国人の友人が遊びに行こうと誘ってくれた。

「ハタくん! インラインスケートに行くぞ!」

このセリフを見てピンと来る人には愛読者認定をしたい。
僕が初めて書いた本『八田式「イキのいい韓国語あります。」』や、
メルマガの第83号などに登場するあの人物。

問答無用が服を着ているようなキョンス兄貴だ。

僕の留学時代に「波乱」という味付けを加え、
めまぐるしく退屈のない日々を提供してくれた。
帰国後まるでネタに困らないのは、主に彼のおかげである。

僕はインラインスケートなどやったこともないので、
それを恐る恐る申し出てみたのだが……。

「ハタくん! 来週の日曜日ね!」

という答えしか返って来なかった。
最初の発言が決定事項。それがキョンス兄貴である。

それで当日、指定された汝矣島公園に行ってみると、
いつもの仲間が集結しており、いずれも途方に暮れている。

インラインスケートが人数分ある訳ではないし、
そもそもやったことがある人だってほとんどいない。
結局、この日はみんなで自転車に乗ったり、
バスケットボールなどをして楽しく遊んで来た。

キョンス兄貴の辞書に「行動」はあっても「計画」はない。

キョンス兄貴だけがひとり嬉々として、
インラインスケートに興じていたのは言うまでもない。

その後、みんなで食事に行って食べたのがタッカンマリ。
汝矣島公園からぞろぞろと歩いて行ったので、
詳しい場所は覚えていないが、たぶん近場だったのだろう。

そのとき初めて食べたタッカンマリが印象的だった。

タッカンマリは丸鶏を水炊きにした鍋料理。
ぶつ切りにしたりせず、丸鶏のままというのがポイントで、
鍋に鶏が1羽鎮座している姿はド迫力の一言に尽きる。

タッカンマリという名も直訳すれば「鶏1羽」だ。

出てきた丸鶏はそのままだと食べにくいので、
キッチンバサミで豪快にバチンバチンと切り分ける。
この瞬間も大事なタッカンマリの醍醐味。

基本的には店の人がやってくれるが、自分でやったほうが楽しい。

骨と骨の継ぎ目を慎重に探りあてつつ、
上手に解体できたときの喜びは筆舌尽くしがたい。

水炊きなので、食べるときはタレが必要。

醤油、酢、カラシ、タデギ(唐辛子ペースト)を混ぜたタレに、
鶏肉をちょっと浸してガブリムシャムシャと食べる。
あっさりとした鶏肉にピリ辛のタレがよくあうのだ。

骨付きの鶏肉なので、手を添えたほうが食べやすいが、
煮え立てアツアツなので、それもなかなか難しい。
自然と顔全体がテーブルのほうに近づいて、

「はちゃ、はちゃ、はちゃ!」

などと大騒ぎしながら、夢中で食べることになる。
かぶりついたと同時に、肉汁がぴゅっと飛び出し、

「ひゃがほふわぁ!」

という声にもならない声を漏らしたりするのも楽しい。

具はジャガイモが少量入っているだけなので、
ひたすら集中して鶏肉を堪能することができる。

残ったスープには鶏肉のダシがたっぷり出ているので、
カルグクス(韓国のうどん)を入れてさらに味わう。
鶏肉をつけたタレにスープを足し、ほどよく薄めて麺を食べる。
こってりとした鶏の脂がまた違った味わいで美味しい。

僕は汝矣島でこの料理に出会っておおいに感動し、
その後、自分の寄宿舎で作ってみたりもした。

煮込む時間はかかるが、料理の手間はさほどでもない。
大鍋に丸鶏、長ネギ、ニンニクを入れてじっくりと煮込む。
ある程度煮込んだら、ぶつ切りにしたニラを足してもう1度煮る。

このニラを入れるというのは僕のオリジナル。

汝矣島で食べたタッカンマリに薬味としてついてきたが、
丸鶏と一緒に煮込んでしまったほうが食べやすいし美味しい。
鶏肉のうまみを吸い込んだニラがまた絶品なのだ。

留学から戻って来てからもタッカンマリを何度か作った。
調べてみると、ソウルの東大門周辺が発祥ということもわかり、
元祖格とされる店を訪ねて食べてみたりもした。

ものの本で調べたところ、タッカンマリの発祥は1970年代。

当時は東大門の近くに高速バスターミナルがあり、
ソウルと地方を往来する人でにぎわう場所だった。

まだ交通事情のよくない時代なので、どこに行くにも長旅になる。

ソウルから地方に行く人。地方から帰って来る人。
そういった客を対象として作られたのが、
手早く空腹を満たせるタッカンマリだった。

もともとがファストフード的な料理であるため、
料理には複雑な味付けをせず、簡易的なタレを作って食べる。
鍋も洗面器のような金ダライで出していた。

気楽でいい加減なスタイルの料理なのだが、
妙なことに今はこれがタッカンマリのトレードマーク。

「金ダライでなければ正しいタッカンマリとは言えぬ!」

という雰囲気になっているのだから面白い。
シンプルな料理だけに、このレトロさも味のうちなのだろう。

ちなみに70年代に生まれた料理ではあるが、
韓国での知名度はほとんどなく、知る人ぞ知る料理である。
東大門周辺という限られたエリアで流行した料理なので、
ソウル以外では誰も知らないし、ソウルの人でも知らない人が多い。

「タッカンマリっていう料理が美味しいんだ!」

と日本人の僕が偉そうに教えているくらいだ。

ところが、そんな地味な存在のタッカンマリも、
日本での知名度は不思議なほどに高い。

韓国でも知られていない隠れた味覚ということで、
リピーターたちがこぞって紹介したのが一因。
僕もこのメルマガでは第8号という初期に紹介している。

元祖格の店は旅行サイトやガイドブックで大きく紹介され、
リピーターなら誰もが1度は行く店となった。

韓国人は知らなくとも、韓国好きな日本人ならみな知っている。

不思議なねじれ現象が起こった稀有な料理だ。

日本での知名度が高く、韓国での知名度が低いため、
当然のようにこんな声があがってくる。

「タッカンマリをソウル以外の地域で食べられないか?」
「タッカンマリを日本で出している店はないのか?」

気持ちはわかるが、どちらも難しい話である。

他地域であっても日本であっても、
韓国人が知らないのだからどうしようもない。
結果としてタッカンマリは現地でしか食べられない、
珍しく貴重な料理という扱いになってしまった。

東京では2002年頃から、メニューに載せる店も出てきたが、
イメージするタッカンマリとは異なるケースが多かった。
金ダライ、丸鶏といったマニア泣きポイントは絶対に外せない。
タッカンマリファンの渇望は解決されないままだった。

だが、昨年の12月。
驚きの情報が飛び込んできた。

福岡県の博多にタッカンマリ専門店がオープン!

タッカンマリも出すという兼業的な店ではなく、
タッカンマリを専門にする店が誕生したのである。

店名もズバリ「鶏一羽(タクハンマリ)」。

マニア切望の料理が、ついに日本に進出してきた。

「こ、これは食べに行かねばならない!」

東京在住の僕にとって福岡はえらく遠いが、
専門店となれば、じっといるわけにはいかない。

急いで福岡に行く用事を作り、タッカンマリを食べてきた。

ずいぶんと前置きが長くなって話も終盤なのだが、
ここからがいよいよ今日の本題なのである。

場所は博多の中心、西鉄天神ビルの地下1階。

行ってみると予想していた以上に本格的で、
重要なマニア泣きポイントがしっかり抑えてあった。

洗面器に似た金ダライで出てくるのは本場と同じ。
鶏がカットされた状態で出てきた時は目の前が暗くなったが、
追加注文のときに頼んだら、丸鶏でも出してくれた。

聞いてみたところ丸鶏での注文は意外と多いらしく、
どうやら韓国で食べたことのある人もたくさん来ているようだ。

タレも韓国の醤油を使っているとのことでほぼ同じ。
最後をカルグクスでしめるところまで、忠実に再現されていた。

明らかにタッカンマリ。文句なしのタッカンマリである。

残念なのは鶏が輸入物(ブラジル産)でうまみに欠けること。
脂のジューシーさがなく、全体的に身がパサパサしている。
味付けをせず鶏そのものを味わうタッカンマリでこれは厳しい。

コストの問題もあるのだろうが、このあたりはぜひ改善して欲しい。

博多には水炊きという美味しい郷土料理があるので、
これを見本すれば、素材や味の部分をさらに磨けるはずだ。
せっかくのタッカンマリ。もっともっと育てて欲しい。

そして、願わくば2号店、3号店を作ってもらいたい。

専門店ができたのは嬉しいが博多はあまりにも遠い。
勝手なことを言えば、ぜひとも僕の住む東京に店を出して欲しい。
新宿、渋谷あたりに出来ればこれほど嬉しいことはない。

まずは博多でみっちりと修行を積んでからでいい。

博多の水炊きにも匹敵する絶品タッカンマリを、
東京でヨダレを流しながら待ちたいと思う。

タッカンマリの日本進出に幸あれ。

<おまけ>
メルマガに登場したお店データ

店名:チンハルメウォンジョタッ
住所:ソウル市鍾路区鍾路5街265-22
電話:02-2275-9666
HP:http://www.wonjodark.co.kr/

店名:鶏一羽(タクハンマリ)
住所:福岡県福岡市中央区天神2-11-2西鉄福岡駅ビル地下1階
電話:092-716-6662
営業:11:00~23:00
定休:不定休(施設に準ずる)
HP:http://www.create-restaurants.co.jp/

<お知らせ>
タッカンマリの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
今年から新たにブログを始めました。
日々食べている韓国料理の記録を残しています。
http://koriume.blog43.fc2.com/

<八田氏の独り言>
鶏1羽でタッカンマリ。
実は豚1匹、牛1匹という料理もあります。

コリアうめーや!!第122号
2006年4月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

 

 
 
previous next