コリアうめーや!!第84号

コリアうめーや!!第84号

<ごあいさつ>
9月になりました。
全国の小学生諸君は、
きちんと朝起きて学校に行けたでしょうか?
長かった夏休みもついにおしまい。
真っ黒に日焼けしたキミも。
家でゲームばかりしていたキミも。
宿題が終わらなくて泣きそうなキミも。
今日からまた元気に登校してください。
悲喜こもごもの9月1日。カレンダーを眺めていると、
かつての切ない記憶が蘇ってくるようです。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
そんな夏休みの終了とはまったく関係なしに、
7月の旅で仕入れた話をまだまだ続けます。
大邱(テグ)の街で出会った、ちょっと個性的な料理。
コリアうめーや!!第84号。
変身モードで、スタートです。

<大邱の街にニンニク怪人現る!!>

男は大きく息を吸い込んだ。
胃のあたりに熱いものが込み上げる。
エネルギー充填完了。

「くはぁぁぁぁ、きしゃぁぁぁぁぁ!!」

男の吐いた煉獄の炎が、大邱の街を焼き尽くす。
建物はメラメラと燃え、道行く人は苦しみながら倒れる。
その姿は、さながら地獄絵図のようだ。

男はさらに息を吸い込む。
体内に巡る、抑えきれない熱い衝動。
目は爛々と輝き、口元には笑みが浮かぶ。

野獣の咆哮。巨神兵の覚醒。

「ぐはははぁぁぁぁ、ぎゅふああぁぁぁぁぁぁ!!」

胸を張り、両の肩をいからせて歩く。
まさに、天下をとったような気分である。

「ふあっははははははは!」

高笑いする男の横を、女性が眉をひそめて通り過ぎた。

あきらかなる嫌悪の表情。
タチの悪い酔っ払いだと思われたらしい。
無理もない。男の行動は、まさに酔っ払いのそれ。
男はただ、妄想の中で暴れているに過ぎないのだ。

煉獄の炎も、焼き払った大邱の街も、
すべて想像の産物であり、現実のものではない。

「ぶぐはぁぁぁぁ、ぎしゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

男は、胃の底から熱い息を吐き出した。
当然のことながら、炎など微塵も出ない。
周囲にほんのりと、ニンニクの香りを撒き散らしただけだ。

男をここまでの妄想にかきたてたのはなんだろうか。
いつにも増して、酒を飲みすぎてしまったのか。

いや、実は違うのである。

男に煉獄の炎を吐かせたのは、とある大邱の名物料理。
夜の街にニンニク怪人を生みだす、脅威の料理があるのだ。

慶尚北道の道都、大邱広域市。
朝鮮半島の南東部に位置する韓国第3の都市で、
美味しいリンゴと、目を見張るような美人を産出する土地として知られる。

人呼んで、ミス・コリアの宝庫。
「美人」と「美食」を兼ね備える、なんとも魅惑的な街だ。

今回、僕が目指したのは「美食」のほう。
大邱には牛肉を使った名物料理がいくつかあり、
その中のひとつ、チムカルビを食べに行ってきた。

チムカルビとは、牛カルビを煮込んだ料理。
肋骨まわりの肉が、しっとりと柔らかく煮込まれ、
焼肉とはまた違った魅力を発揮する。

舞台となるのは、大邱市の東仁洞(トンインドン)。
ここに、チムカルビ通りと呼ばれる一角があり、
チムカルビの専門店が、なんと10数軒も並んでいるのだ。

チムカルビ通りに到着すると、そこは大勢の人で賑わっていた。
地元の人たちだろうか。ファミリーで来ている人が多い。

それに対して、僕は1人だった。

あわよくば大邱美人を伴って、と考えていたのだが、
努力が実を結ばず……いや、料理に集中するため、あえて1人を選んだのだ。
焼肉などの場合、1人客だと断られることもあるが、
チムカルビは1人でも、まったく問題がない。

僕は事前に目をつけておいた1軒に入り、
チムカルビ1人前とビールを注文する。

ナムルなどをつまみながら待っていると、
ほどなくして、やけに年季の入ったアルミ鍋が運ばれてきた。
あちこちデコボコとしている上、取っ手がついていないので、
鍋というよりもタライのように見える。

運ばれてきた瞬間。

「え、こんなんなの?」

という、軽い失望があったことを、正直に告白しておこう。
牛肉料理にもかかわらず、見た目の豪華さは微塵もなかった。

鍋の中がまた強烈だった。

料理が盛り付けられているというよりは、
どろっと赤いものが、鍋の底にべったり溜まっている感じ。
唐辛子とニンニクをベースにした真っ赤なタレが、
これでもかというくらいかけられていた。

「うーむ、これがチムカルビか……」

上品さや、華麗さはまったくない。
気持ちの奥底から、不安の2文字が首をもたげてくる。

「ま、ともかく食べてみるか……」

タレを箸で払いのけ、牛カルビをつまみだす。
肋骨を中心にした、幅5センチほどのぶつ切り肉が顔を出した。
手にとってかぶりつき、骨から引き剥がすように食べる。

「むぐむぐむぐ。ん? んんん?」

何故だろう。あまり美味しくない。
柔らかく煮込まれてはいるが、旨味がほとんど感じられない。
どこか寝ぼけたような味ですらある。

こんなはずはない、と2口、3口続けて食べてみる。
大邱の街を代表する名物料理。そして客もたくさん入っている。
美味しくないはずがないではないか。

だが、やっぱり感想はかわらなかった。
全体的に中途半端で、物足りない味なのである。

「美人のみならず、美食でも失敗……」

そんなセリフが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
これは、やってしまったか……。

ところが、ここから意外な発見をする。

肉に魅力を感じられなかった僕は、
口直しの気分で赤いタレを少し舐めてみた。
なんの気なしに、というやつである。

「!?」

この瞬間、口の中に革命が起こった。

なんと、タレが素晴らしくうまい。
辛いだけでなく、奥行きのある旨味が口に広がった。
濃厚。そして強烈なパンチ力も備えている。

後でわかったことだが、チムカルビの専門店は、
まさにこのタレに命をかけるのだという。
唐辛子、ニンニクのほか、醤油、砂糖など、
さまざまな調味料を配合してタレを作る。

そして、驚くべきはニンニクの量である。
1人前の牛肉に対して、ニンニクを最低でも10粒!
粗みじんにして、投入するのだ。

大量の唐辛子と、大量のニンニク。
この力感あふれる味付けこそが、大邱料理の醍醐味なのだった。

ここに至って、やっと真実に気付いた。

僕はタレを、こそげ落として食べていたのだ。
なにしろ辛そうだし、味もやけに濃そうだったからだ。
だが、これが大きな間違いだったのである。

早速、赤いタレをカルビにべったりなすりつけて食べてみる。

「むぐむぐむぐ。む、こ、これは!」

これまでとは、比べものにならない味。
中途半端だったカルビの味に、ピンと1本芯が通った。
甘味、辛味、そしてニンニクの風味が、カルビを見事に引き立てる。
まさに一変。同じ料理とは到底思えない程だった。

「そうか、タレあってこそのチムカルビだったか」

言ってみれば、醤油なしで大トロを食べたようなものだろう。
いくら脂ののった大トロでも、醤油なしではおいしくない。
脇役があってこそ、主役の魅力が引き立つのである。

そこから先は、あっという間だった。

追加のビールをもう1本頼み、
グイグイガツガツ、バクバクモリモリ。
3口食べてもてあましていたチムカルビは、
いつしか、きれいさっぱり胃の中へと収まっていた。

カルビを全部食べた後は、ごはんを追加注文。
なんでも残ったタレに、ごはんを投入して食べるのが定番らしい。
店の人に教えられた通りに試してみると、これもまた絶品。
ごはん1杯をペロリと平らげてしまった。

「うーむ。満足!」

僕は満腹になった腹をさすりながら、
全身どっぷり満足して店を出た。

少しほろ酔い気分で、外の風に当たると、
胃のあたりが、妙に熱を帯びていることに気付いた。
酔っ払ったからという訳ではない。

言うまでもなく、ニンニクの力である。

1人前10粒もニンニクが入ったタレを、
牛肉になすりつけ、ごはんにも混ぜ込んで食べたのだ。
普段では考えられないほどのニンニク摂取量。
胃の中が、ただならぬことになっているようだった。

手を口の前にかざし、はあーっ、と息を吐いてみる。
もわわわわわあん、と漂う強烈なニンニク臭。

食べた自分がこれだけ感じるのだから、
他人が近寄ってきたら、凄まじいことになるだろう。

くくくくく。これは面白いことになったぞ。

酔いも手伝って気が大きくなった僕は、

「ぐはははぁぁぁぁ!!」

と、大きく息を吐き出してみた。
まるで、ゴジラにでもなったような爽快感。

これは気分がいい。

「くはぁぁぁぁ、きしゃぁぁぁぁぁ!!」

ニンニク臭い息を周囲に撒き散らしつつ、
僕は上機嫌で宿まで帰った。

大邱の街に現れたニンニク怪人。
そう、それはチムカルビを食べた僕のことである。

<おまけ>
大邱ではチムカルビと呼ばれていますが、一般的にはカルビチムという名前が使われています。ただ、いわゆるカルビチムと呼ばれる料理は、大邱のチムカルビとは異なり、甘く、上品に仕上げるのが普通です。ニンニク、唐辛子もそこまで多用しません。大邱地域は盆地地形で夏暑く、そのため香辛料を多用した料理が発達したといわれています。ある種、独特の発展をとげたカルビチム。それが、大邱のチムカルビなのだそうです。

<お知らせ>
チムカルビの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
第53号でニンニク釜飯に失望した話を書きました。
あのときの期待を、チムカルビがかなえてくれた感じです。

コリアうめーや!!第84号
2004年9月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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