コリアうめーや!!第294号

コリアうめーや!!第294号

<ごあいさつ>
6月になりました。
そろそろ梅雨の時期がやってきます。
毎日雨が降って、常に傘の存在を意識して、
湿気と戦いながら、真夏の太陽を恋焦がれる。
そんな6月の入り口を迎えた訳ですが、
当面の敵は雨よりも、仕事だったりしますね。
4月、5月は比較的のんびりでしたが、
6月はソウル出張もあって見事にドタバタ。
久しぶりに修羅場の月初めを過ごしています。
そんな中、今号のテーマは締切ではなく、
むしろ内容のほうが修羅場を迎えております。
いつかは書かねばと思っておりましたが、
どうやらそろそろ、その時が来た模様です。
コリアうめーや!!第294号。
地面に突っ伏しての、スタートです。

<未来に宿題を残す反省の弁!!>

第289号の最後で宣言した通り、
このメルマガは第300回で終了とする。
すると今号を含めて、あと7号分しかない。

最後あたりは振り返り企画を考えているので、
通常のテーマで書けるのはますます少ない。
心残りがないよう、全力を尽くそう。

などとガラにもなく、殊勝なことを考えた次の瞬間。

「あ、やべっ。そういえばアレがあった!」

と苦い記憶が頭の中によみがえった。
あまり触れたくない記憶、思い出したくない過去。
脳みその奥底に、こっそり隠していたアレが、
最後ということでむっくり首をもたげた。

「アレはなんとかしなきゃ、だよなぁ」

できれば黙って隠し通しておきたいが、
それをしてしまうと、バレたとき傷口が大きくなる。
そう、あれは僕がまだ幼稚園生だった頃。

(なぜか突然回想シーンに突入)

「ボール遊び楽しいなっ、楽しいなっ!」
「あ、やべっ。ペンキ缶の中にドボンしちゃった!」
「どうしよう、これは先生に怒られちゃうよな……」
「いいや、そのままボール置き場に隠そう!」

そして、20分後。

「誰ですか、ボールにペンキをつけたのは!」

案の定、すぐに見つかったベトベトのボール。
こっそり後ろのほうに隠れて、完全犯罪を装ったが、
直後、みんなの視線が集まって一瞬でバレた。

浅はかではあるが、小ずるい幼稚園生だったと思う。
もちろん先生からはこっぴどく怒られた。

その苦い経験は、36歳になったいまこそ活かすべきで、
僕は正直者としてメルマガの闇を語らねばならない。
これを隠して、晴れやかな最終回は迎えられないのだ。

さて、読者皆様においては、まずバックナンバーの、
コリアうめーや!!第204号を一読して欲しい。

第204号/仁川にて韓国式ママカリ丼を発見!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=630498

テーマとなったのは仁川の名物料理で、
ペンデンイムチムと呼ばれる韓国式の刺身丼。
これを僕は「ママカリ丼」と表現した。

大事な部分なので、その説明部分を丸ごと引用する。

=========================
ペンデンイフェムチムは、サッパという魚の刺身和え。
カタカナで書くとややこしくて仕方ないが、
ペンデンイというのが、和名でサッパという魚を表す。
後に続くフェが刺身、ムチムは和え物という意味だ。

ただ、こうやって分解して説明しても、
大多数の人にはピンときにくい料理ではないかと思う。
そもそもサッパという魚の名前に馴染みがない。
たぶん、ママカリという俗称のほうが一般的だろう。

サッパ=ママカリ(飯借り)。

サッパがあまりに美味しく、ごはんが進んでしまい、
ごはんがなくなって隣の家に借りに行く、というのが由来。
刺身、酢漬け、寿司などの調理法が一般的で、
岡山県の郷土料理としても知られている。
=========================

大方の人にとってあまり馴染みがないであろう、
サッパという魚を、ママカリという俗称で説明している。
岡山の郷土料理という点まで含めてこれは問題ない。

問題は、仁川名物であるペンデンイとの関係性。

幼稚園時代に学んだペンキボールの教訓を胸に、
大きく息を吸って、正直に告白するが……。

「……」
「……」
「……」

「えー……」
「うん、ゴメン……」
「あの魚、実はサッパじゃないらしい!」

「……」
「……」
「……」

(覚悟の表情でそーっと、目を開ける)

というところまで芝居がかった書き方をしたが、
正直、メルマガ史上に残る致命的な大間違い。

サッパでなければ、もちろんママカリでもないし、
要はタイトルから中身まですべて間違ったということ。
これまでもたくさんの間違いでお詫びを書いたが、
ここまで極端な大失敗はこれだけだ(と思う)。

ああもう穴に入りたいどころか、墓に埋まりたい。

「えーと、八田くん。ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょうか。読者様」
「要するに第204号は大間違いなんだよね」
「はい、その通りでございます」

「じゃあ、なんで今まで黙ってたの?」
「ギクッ!」
「自分から告白した風だけど、今までは隠してたんだよね」
「ギクギクッ!」

「別に昨日、一昨日気付いた訳じゃないんでしょ」
「は、はい。そうです」
「それで、正直者を名乗れるの?」
「へへー(全力で土下座)」

うん、そうなんだ。黙っていたんだ。
でも、間違いを隠したいから黙っていたんじゃない。
それだけは信じて欲しいので、言い訳をする。

しかも言い訳だけど、実はここからが本題なので、
キリッと真面目な表情をして真剣に語る。

「ペンデンイ≠サッパ」問題は奥が深い。

まず、手元にある辞書を引いてみる。
するとそこには、

「ペンデンイ=サッパ」

と書いてある。
じゃあ、辞書が間違っているかというとそうではない。
辞書は間違っていないし、学名でも両者は共通する。
韓国名ペンデンイは、日本名サッパで間違いない。

では、なぜ僕のメルマガは大間違いなのか。

それは韓国におけるペンデンイの用法に関わる。
日本でもそうなのだが、魚の名前には異称、俗称が多く、
さらに方言も入り交じってしばしば混乱をきたす。

韓国のペンデンイはまさにその典型例であり、
韓国では主として「ティポリ」の名前で呼ばれる。
煮干しにしたものをダシ用として利用することが多く、
カルグクス(韓国式ウドン)などのベースとなる。

そんな煮干し界の実力者こそがペンデンイの正体だが、
ややこしいことに、その事実を知る韓国人は少ない。
ティポリはティポリという魚だと思われていたりもする。

むしろ、韓国人がペンデンイと聞いて連想するのは、
まさに僕がメルマガに書いた刺身用としての姿。
仁川名物のアレが、一般的なペンデンイの姿である。

「じゃあ、合ってるんじゃん」

うん、それを踏まえて違うのだ。

仁川におけるペンデンイは方言としての呼び名で、
煮干しのティポリとは異なり、日本のサッパでもない。
正式名称をパンジといって、見た目こそよく似ているが、
たまたま方言名が一緒なだけで、まったくの別種。

日本語ではこの魚を、ツマリエツと呼ぶ。

「ツマリエツ?」
「うん、ツマリエツ」
「それは、ツマリエッと……」

などと冗談で混ぜっ返したくもなるほど、
日本語においても、聞いたことすらないような魚。
だが、それが仁川におけるペンデンイなのだ。

わかりやすいようまとめるとこうなる。

・ペンデンイ(俗称ティポリ)→日本ではサッパ
・パンジ(仁川方言ペンデンイ)→日本ではツマリエツ

ええい、わかりやすいようまとめたのに、
どう並べ替えても面倒なぐらいにややこしい。

ということで、僕が仁川で食べたアレは、
サッパ(ママカリ)ではなく、ツマリエツのほう。

「仁川にて韓国式ツマリエツ丼を発見!!」

というタイトルが正しい。

ただ、これはあくまでも机上の学習であり、
僕があれこれ調べた結果、わかったことに過ぎない。
これらの話を知りつつ黙っていた理由は、

「検証が出来ていない!」

という1点に尽きる。

ものの本を見ると仁川名物のペンデンイは、
あくまでも方言であり、正しくはパンジと出ている。
だが、僕はそれを現地で確認した訳ではなく、
刺身にする前の顔も、見たことがない。

実際に現地で食べられているその魚がどちらかは、
市場などで聞き込みをしながら判断しなければだろう。

なので、僕が今号で否定した第204号の話も、
もしかしたら、ここからさらにひっくり返る可能性もある。
それをしたくないがために仁川へ行くタイミングを待ち、
ずるずる今まで引き伸ばしたというのが言い訳の全容。

いつか、全部検証を終えてから書きたかったが、
終了間近になったので、中間報告としてこれを書いた。
中間的な土下座ということで、ご理解頂きたい。

開き直ったような感じだが、以上である。

「……」
「……」
「あのさ、八田くん」
「はい、なんでしょう。読者様」

「カンだけど、たぶんまだ何か隠しているよね」
「ギクッ!」
「あ、やっぱり隠しているんだ」
「ギクッギクッ!」

うん、ゴメン。実はまだいっぱいある。

例えば、こないだの済州島ツアーでも食べた、
ケクチュリジョリム(カワハギの煮付け)もそのひとつ。
モノの資料にはカワハギと書いてあったのだが、
飲食店のいけすを見たら、どうもカワハギっぽくない。

むしろ近似種のウスバハギにしか見えない。

辞書を見ると、ケクチュリはウスバハギだが、
済州島方言ではカワハギを指すと、僕は聞いていた。
だが、実際は済州島でもウスバハギなのかもしれない。

その店だけだったのか、ほかの店でもそうなのか。
これも検証中なので、どうか待って欲しい……。

「ふーん、ほかには!」
「現状、大きな懸案事項はそれだけですが……」
「それだけですが?」
「2つあるなら、まだあるだろうと……」

「それは今後見つかったらどうするの!?」
「いや、その……」

(弱気な表情から一転背筋を伸ばし)

うん、メルマガは第300号で終わるにしても、
韓国料理の話を、今後もう語らないという訳ではない。
また、メルマガに代わる発信の場も設けるつもりなので、
きちんと確証が得られたら、そこで報告をする。

間違いはできるだけないように気をつけるが、
それでもややこしいのが韓国料理の奥深さ。

慎重にアンテナを立てつつ、自身の勉強も深めつつ、
今回の大間違いを、糧にしていきたいと思う。

<新刊情報>
韓国料理には、ご用心!
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<リンク>
ブログ「韓食日記」
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<八田氏の独り言>
メルマガに限らず大間違いはまだあるはず。
土下座をしながら、前に進みたいと思います。

コリアうめーや!!第294号
2013年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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