コリアうめーや!!第265号

コリアうめーや!!第265号

<ごあいさつ>
3月15日になりました。
いつの間にやら、という感じなのですが、
このメルマガは今号で11周年を迎えます。
創刊したのが2001年3月21日。
以降、1日、15日の配信になりましたので、
毎年3月15日を記念号としています。
昨年は富山で10周年のオフ会を開きましたが、
あれからもう1年かと思うと驚きますね。
そのうち気付けば、15年、20年になるのかも。
そんな日が来るまで読者皆様に感謝をしつつ、
頑張って書き続けていきたいと思います。
さて、それでは今号のテーマですが、
ちょっと古い話を引っ張り出してみました。
コリアうめーや!!第265号。
道半ばに立ちつつ、スタートです。

<タッカルビのルーツを訪ねて洪川へ!!>

先日、久しぶりにタッカルビを食べた。

タッカルビという料理は不思議なもので、
どうも無性に食べたくなる瞬間がある。
円形の鉄板で、鶏肉と野菜をピリ辛に炒め焼く料理。
シンプルながらその魅力は奥が深い。

僕が初めてタッカルビを食べたのは1997年2月。

当時の僕は大学生で、初めての韓国旅行だった。
そのときに知り合った韓国人の女の子に、
連れて行ってもらったのがタッカルビの店。

このへんの経緯はメルマガの第25号に詳しい。

第25号/あの日あの時あの人と……
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume25.htm

もう10年前の文章なので拙い限りだが、
僕にとっては、甘酸っぱい思い出のひとつ。
タッカルビを食べると、そんな青春時代を思い出す。

僕が突然タッカルビを食べたくなるのは、
そんな思い出に浸りたくなるからだろうか……。

などと、こっぱずかしいことを考えていたら、
タッカルビの記憶がたくさん湧いてきた。

時代は少し下って2003年1月。

僕はタッカルビのルーツを探るという目的で、
江原道の洪川(ホンチョン)に向かった。
実はこれまで、ある理由から封印していた話なのだが、
いい機会なので、それを振り返ってみたいと思う。

僕が初めて降り立った洪川の街は、
どこまでも薄暗い印象に満ちていた。

夕方過ぎに到着したから、という以前に、
電灯の明かりも少なく、町の規模も小さかった。
バスターミナルで目の前のタクシーに乗り、

「とりあえず最寄りの繁華街まで」

と伝えたところ、運転手は押し黙ったまま、
数メートル走って、最初の十字路で止まった。

「えーと、この道が一応繁華街でね」
「飲食店もあるし、ずっと行けば旅館もあります」
「とりあえずここでいいかな?」

僕はタクシーの運転手に謝って車を降りた。

そこは繁華街とは名ばかりの、閑散とした通り。
道の両脇にはそれなりに店舗が続いていたが、
そこに「繁」盛の気配や「華」やかさはなかった。

「むぅ……」

ただ、そんな名ばかりの繁華街ではあったが、
少し歩いただけでも数軒のタッカルビ店に出会えた。
この洪川という町が、

「タッカルビ発祥の地!」

という噂はやはり本当なのだろうか。

一般にタッカルビは春川(チュンチョン)が有名で、
なんとなくそこを本場、また発祥地とする説が語られる。
だが、一方でものの本を読むと、洪川が発祥とされており、
それが春川を経て全国に広まったと書かれている。

「どちらが正しいのだろう」

それを解決するのが洪川へ来た目的だった。
僕は薄暗い通りにいくばくかの不安を覚えつつも、
それでも期待を胸に、1軒の老舗へと足を踏み入れた。

ガタ、ガタガタ。

4枚のサッシを並べただけの簡素な入口は、
その店の古めかしさをよく象徴していた。
後に知ることだが、創業は1969年らしい。

「ひとりかい?」

店に入るとハルモニ(おばあちゃん)が声をかけてきた。
先客はわずか4名だが、店は予想した以上に狭く、
僕を含めると、店の半分が埋まってしまうほどだった。

席につくなり僕は、

「昔風のタッカルビは食べられますか?」

と尋ねた。

「僕は日本から来た旅行者なのですが」
「ここ洪川がタッカルビ発祥の地だと聞いて来ました」
「古いスタイルのタッカルビを食べたいんです」

このとき僕は「古いスタイル」を強調した。
そんな僕の顔を、ハルモニは不思議そうに眺める。

「ふうん、日本人なのによく知っているね」
「そうだよ、ウチの店がタッカルビの元祖さ」
「ウチが最初にタッカルビを始めたんだよ」

「でも昔はよかったけど、今はダメだね」
「道路が整備されたら、みんな洪川を素通りしてさ」
「最近は商売あがったりだよ……」

しかめっ面をしながら、脇のドラム缶を指差す。

「ほら、このドラム缶がそうだよ」
「これが昔、この店を始めた頃に使っていたやつさ」
「このドラム缶からタッカルビが始まったんだ」

古いスタイルのタッカルビを食べられるのか、
という問いへの答えではなかったが、店の歴史は伝わった。
洪川では確かにタッカルビの元祖を名乗っている。
まずはその事実だけでも収穫だったといえよう。

「骨なしを1人前でいいね」

ハルモニはそういうと厨房に消えていった。

ビンビールを飲みながら待っていると、
目の前の鉄板に、骨なしのタッカルビが用意された。

かつては骨つきの鶏肉を使うのが一般的だったが、
現在では食べやすい骨なしのほうが主流である。
洪川でもそれは変わらないようだ。

具は皮付きの鶏モモ肉に、キャベツ、長ネギ、
ニンジン、サツマイモ、そして韓国餅が加わっている。
これは全国どこでもよく見られるスタイルであり、
僕の求めた「古いスタイル」ではなかった。

「むむぅ……」

だが、実際に出来上がりを食べてみると、
いわゆるタッカルビとは違ったレトロさがあった。

見た目は唐辛子色に染まった赤いタッカルビだが、
食べてみると辛さは少なく、むしろ醤油が効いている。
日本酒の気配もあって、鶏の照り焼きにも近い。
鶏本来の味を楽しむタッカルビという印象だ。

「どうだい?」
「美味しいです。春川のタッカルビとは違いますね」
「そうかい、それが洪川のタッカルビだよ」
「そうですか……」

そこで僕はハルモニに尋ねる。

「洪川のタッカルビは昔からこのスタイルですか?」
「昔はもっと汁気があって鍋料理のようだったと聞きました」
「今はもうそんなタッカルビはないのでしょうか?」

そのとき僕が読んでいた資料には、
洪川のタッカルビは鍋料理風だったとあった。
いまでいうタットリタン(鶏と野菜の鍋)に近い料理。
僕が食べたかった「古いスタイル」がそれだ。

「いまは全部この骨なしのタッカルビだよ」
「こっちのほうが食べやすいからね」

僕とハルモニの会話が耳に入ったのか、
隣の席に座っていた女性客がつぶやいた。

「そういえば、昔のタッカルビはもっと汁が多かったな……」

その鍋料理風のタッカルビを食べてみたい。
そう思って、ハルモニにいくつか質問を投げかけたが、
どうにも明確な答えは返ってくることがなかった。

どんな角度から話をしても、話があちこちに飛び、
最後は、

「この店が元祖だけど、今は商売あがったり」

というところに返ってきてしまう。
洪川タッカルビのルーツはわかるようでわからず、
結局、なんの確証も得られないまま、僕は洪川を後にした。

話は以上なのである。

これで終わっては消化不良もいいとこだが、
僕がそのとき洪川で得た情報はそれだけであった。
一応、このほかでも出会った人から話を聞き、

「昔は汁気の多いタッカルビを食べていた」

という話は聞くことができた。

元祖の店で確信を得ることはできなかったが、
地元の人の話を聞く限り、それは正しい話のようだ。
洪川のタッカルビはもともと鍋料理風であった。
それだけは間違いない情報として僕の中に刻まれた。

ただ、出会うことができなかった。
また、その後の経緯もはっきりしなかった。

鍋料理のタッカルビは時代の流れとともに消え去り、
元祖の店でも、鉄板で炒めるタッカルビに変わっている。
探せば、まだどこかにやっている店はあるかもしれないが、
少なくとも2003年の僕には見つけられなかった。

そこから春川へと伝播したという話も真偽は不明。

冒頭で「ある理由から封印」などと書いたが、
それは洪川まで行って、まるで結論が得られなかったからだ。
いずれ洪川も含め、再取材をしたいと思っているが、
いまのところ、その機会には恵まれていない。

むしろ、春川市などがその間に調査を進め、
洪川説とはまた違った、春川独自の由来を発表している。

その説によれば、1950年代後半から60年代にかけて、
豚肉の炭火焼きをアレンジして春川タッカルビができたという。
この炭火焼きスタイルは、現在でも専門店が各地にあり、
タッカルビの1ジャンルとして食べられている。

このため、現在タッカルビのルーツを語る際には、
春川発祥説と、洪川発祥説の両者に触れるのが確実である。

また、洪川では鍋料理風のタッカルビが消えているが、
これとは別に、太白(テベク)では同様のタッカルビが健在。
太白式タッカルビの名で、地元や近隣の名物となっており、
全国で唯一、煮汁のあるタッカルビとして知られている。

僕はまだ太白市に行って食べたことはないのだが、
いずれ機会があれば、洪川との関係も探ってみたい。

こうして見ると、韓国のタッカルビは実に多彩で、
また興味深い謎に包まれた料理だとわかる。

「いずれ各地のタッカルビを探ろう!」

と思いつつ、現状では甚だ中途半端な内容だが、
中間報告を兼ねつつ、今後への意気込みとして書いてみた。
タッカルビのルーツを解き明かすその日まで……。

ワシワシと目の前の鶏肉にかぶりつくのだ。

<店舗情報>
店名:オクスタッカルビ
住所:江原道洪川市洪川邑新場垈里15-1
電話:033-434-3546

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
このメルマガにタッカルビは3度登場。
テーマとしては最多だったりします。

コリアうめーや!!第265号
2012年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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