コリアうめーや!!第263号

コリアうめーや!!第263号

<ごあいさつ>
2月15日になりました。
すでにブログなどではお伝えしましたが、
2月2日に娘が生まれました。
僕ら夫婦にとっては初めての子どもです。
先週になって親子ともども無事退院し、
家の中はぐっと賑やかになりました。
このメルマガを書きながらも、
合間合間にてんてこ舞い。
泣き声が聞こえて飛んで行っては、
おしめだミルクだと大忙しです。
まあ、何よりそれが楽しいですけどね。
そんな中、今号では初めての育児にひっかけて、
もっと些細な自分の初体験を語ります。
どうでもいいぐらいの小さな話なのですが、
あきれずお付き合い頂ければ幸いです。
コリアうめーや!!第263号。
記憶をたぐり寄せつつ、スタートです。

<釜山の豚焼肉はつゆだく上等!!>

初めて店で牛丼を食べたのは高校時代だった。

同じ学校の友人が牛丼店でアルバイトをしており、
働きぶりを冷やかしに、わざわざ足を運んだのだった。
友人は突然の訪問を、ひとしきり驚いたあと、
少し鼻高げにパパッと牛丼を作ってくれた。

僕にとってそれまで牛丼という料理は、
自宅で父親が作る日曜日の昼ごはんであった。

それは今思うに、すき焼き丼に近いようなもので、
牛肉だけでなく豆腐、白滝、ゴボウ、ネギも入っていた。
家庭料理としては栄養的にもよいのだろうが、
牛丼店のそれは、もっと実質本位の迫力に満ちていた。

「ごはんの上に牛肉ばかりが載っている!」

それは食べ盛りの高校生にとって、
身悶えせんばかりに魅力的な姿であった。
友人が作ってくれた特盛りの牛丼を、
むさぼるように食べたのを覚えている。

そして、話は少し先に進む。

別のとき、その友人と牛丼を食べに行った。
カウンターに並んで、ふたりとも並を注文したのだが、
そのタイミングで友人が妙なことをいった。

当時はその単語を理解できなかったのだが、
いま振り返ってみると、彼のセリフは、

「並、つゆ抜き」

だったように思う。

牛丼店ではいくつかの符牒が使われており、
彼のいった、つゆ抜きもそのひとつ。
要は「牛丼のつゆを少なめで」という注文であり、
この逆バージョンは「つゆだく」と呼ばれる。

いまではこうしたカスタマイズも一般的だが、
当時の僕にそんな常識はなく、

「な、なにか、カッコいい……」

と彼の業界人的な姿に感銘を受けたのだった。

いつか僕も、符牒を使って頼んでみよう。
その瞬間、そう心に決めたのを覚えているが、
なぜかそれは、いまだに果たされていない。

たぶん、こういうことなのだと思う。
自意識過剰な10代後半、20代入口までは、

「通ぶった注文と思われたら嫌だな」

という思いが少しあった。
あるいは自慢気に特別な注文をして、

「並を、つゆ抜きで!」
「は?」

という事態になったら恥ずかしいとも思っていた。
すかした注文で失敗したら赤面もいいところ。
そのまま店を飛び出すしか道は残されていない。

あるいはその後になってネット上で、

「お前、つゆだくって言いたいだけちゃうんかと」

というコピペが流行ったのも大きい。
そういわれてみると、僕は普段の牛丼に満足しており、
別段、つゆを抜いたり増やす必要は感じていない。

まさに、それをいいたいだけの欲求であり、
それは妙な恥ずかしさとして自分の中に残った。
傍から見れば、

「考えすぎじゃないの?」

というような話だが、当時の僕といえば、
ガラスの胃腸と、チキンハートのダブルパンチ。
牛丼を食べに行くたびに片隅で意識しつつも、

「まあ、またの機会にしよう」

と全面的に逃げ腰であった。

すると年齢を経るうちに、いつしか気持ちも薄れ、
だんだん牛丼の食べ方など、どうでもよくなってくる。
むしろ、つゆ抜き、つゆだく以前に、

「ごはん少なめで」

という注文をすることすら最近はあったりする。
それは店の中での符牒として、

「軽いの1丁!」

と変換されるのだが……。

いや、ちょっと待て待て。
牛丼の符牒話から、韓国料理に話をつなげるつもりが、
この勢いだと牛丼だけで終わる気がしてきた。
急ブレーキをかけて、話を本筋に戻そう。

問題はつゆ抜き、つゆだくにおける「だく」のほう。

先日、僕は韓国で焼肉のつゆだくに出会った。
収集がつかなくなった牛丼話はいったん放置して、
舞台は急転直下、釜山へと飛んでゆく。

この話を書きながら、唐突に思ったのだが、
釜山というのは、つゆだくの聖地ではないだろうか。
なにしろ、釜山を代表する郷土料理として、
テジクッパプ(豚スープごはん)が君臨している。

ぐつぐつ煮込んだとんこつスープをごはんにかけ、
ざらざら、ずばずばと豪快にすすりこむ料理。
これをどんぶり料理の延長線上として考えるなら、
つゆだくだくだくだくだくだく、ぐらいはあるだろう。

まあ、この論理は自分でも無理があると思うので、
次の根拠に、メルマガの第99号を紹介しよう。

第99号/釜山のタコ炒めはつゆだく上等!!
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume99.htm

詳細は読んで頂くとして、概要だけ説明すると、
釜山にはちょっと変わったテナガダコの炒め物がある。

全国的には炒め物として通っている料理なのだが、
釜山においては汁気が多く、炒め物と鍋料理の中間ぐらい。
僕はそれを「タコ炒めのつゆだく」と表現した。

タイトルの「つゆだく上等!」にあまり意味はないが、
今号でも一応「つゆだく上等!」を踏襲してみた。

先にも語った通り、釜山で見つけた焼肉のつゆだく。

「こんな焼肉があったのか!?」

とえらく驚いたのでその報告をしたい。

発見したのは、釜山駅からもほど近い、
草梁洞(チョリャンドン)というエリア。
地下鉄1号線草梁駅と釜山駅のちょうど真ん中に
草梁洞テジカルビ(豚カルビ)通りがある。

草梁洞がテジカルビで有名になったのは、
1960年代頃からと伝えられている。
地元の人によれば、

・草梁洞は釜山港のすぐ近くである
・当時は港で働く、肉体労働者がたくさん住んでいた
・彼らが好む料理といえば、何より肉である
・安くて美味しい焼肉店が増えたのは至極当然
・それより兄ちゃん、食べて行くの?

という経緯らしい。

近年は店も減少傾向にあるとのことだが、
それでも道の両脇、路地の中にも焼肉店がずらり並ぶ。
レトロな雰囲気も手伝ってなかなかオツなところだ。

その中から、古株店の「銀河カルビ」に入り、
名物のヤンニョムカルビ(味付けカルビ)を注文した。
この店ではテジカルビのことをそう呼んでいる。

すると出てきたのが、そう、つゆだく。

鉄板の上にアルミホイルを敷いて焼くのだが、
その四辺が持ち上がって、囲むようになっている。
どこか紙鍋に近いような見た目のところへ、
豚肉と一緒にたっぷりの漬けダレが流し込まれる。

周囲には「だばだば」という擬音が飛び交い、
やがて「ひたひた」、そして「ちゃぷちゃぷ」になった。

プルコギのように、煮汁に絡めながら焼くのではなく、
たっぷりの液体に浸った状態で焼くスタイル。
長いこと韓国でテジカルビを食べてきたが、
こんなにもタレをたくさん投入する店は初めて見た。

ぐつぐつ煮立った汁の中で、豚肉に火が通り、
やがては煮詰まったような感じで汁気もとんでいく。
その頃合いが食べごろということなのだが、
豚肉が醤油色になって、にわかには手が出しにくい。

「これ、すごく塩辛いんじゃ……」

そう思いつつ、恐る恐る食べてみると、
意外なことに味付けはぴったりであった。

甘味を強めに感じるレトロ風ではあるが、
決してしつこくはなく、後味はむしろさっぱり。
肉も柔らかく、脂が乗っているので、

「つゆだくウマイ!」

と最終的には結論が出た。
なんとも不思議なつゆだく体験である。

そして、再び話は牛丼に戻る。

釜山のつゆだく焼肉が美味しかったのなら、
牛丼のつゆだくにも、感動はあるのではないか。
そんなことを帰国後に思い、

「いまこそ僕はつゆだくを食べる時だ!」

と近所の牛丼店に足を運んだ。
カウンターに腰かけて、

「大盛り、つゆだく」

と大人の余裕で注文をする。

「大盛り、つゆだく1丁!」

と元気な声でオーダーが通り、
ほどなく、つゆだくの牛丼がやってきた。

出てきた瞬間の見た目は意外に普通だったが、
ごはんをひと口食べると、すぐ下に汁がにじんでいた。
汁の気配は、食べ進むごとに濃くなっていき、
最後はお茶漬けのように、ごはんをさらさらかきこんだ。

「これはまさしくつゆだく!」

と納得できる「だく」具合であった。

その瞬間、高校時代からの心残りが解消され、
小さなことだが、なにかを達成した気分になった。
釜山のつゆだく焼肉は刺激的な体験だったなら、
牛丼のつゆだくは解放的な体験であろう。

だが、食べ終えたからこそ、いま思う。

「やっぱり牛丼は普通がいちばん」

おそらく僕は今後も普通の牛丼を食べる。
僕のつゆだくは草梁洞のテジカルビだけでよいのだ。

<店舗情報>
店名:銀河カルビ
住所:釜山市東区草梁2洞264-1
電話:051-467-4303

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
いまさら牛丼のつゆだくを食べた。
たったそれだけの話なのかもしれません。

コリアうめーや!!第263号
2012年2月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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