コリアうめーや!!第222号

コリアうめーや!!第222号

<ごあいさつ>
6月になりました。
今月が終われば、もう今年の折り返し地点です。
時間の早さに目がくらむ思いですが、
それにしても先月はあっという間でした。
4月にずっと韓国へ行ってたおかげで、
仕事が溜まり溜まって、超のつくド修羅場。
おまけに個人的な引っ越しも重なり、
本当に息つく暇もないぐらいの忙しさでした。
しかも、そんなときに限ってパソコン大破。
やむなく新しいパソコンを買いに行き、
やっとのことで仕事環境を復旧させました。
まだ完全なる復旧ではないんですけどね。
あちこち不便なところばかりですが、
なんとか文章だけは書けるという状態です。
まあ、そんな愚痴話はさておき。
今号ではちょっと贅沢な料理を取り上げます。
韓国料理の中でも、文句なしに最高峰。
たまにはこういうテーマもいいですよね。
コリアうめーや!!第222号。
思わず財布をのぞく、スタートです。  

<正しい韓定食とはいかなるものか!!>

2000年6月。
ソウルの某留学生寄宿舎にて。

「新しい寄宿舎生が来たって?」
「ええ、モンゴルの学生みたいですよ」
「そうか、じゃあ歓迎会をしなきゃな」
「いいですねえ、サムギョプサル買いに行きますか?」
「おっ、贅沢だねえ」
「まあ、たまには肉食べて元気出さないと」

当時、行きつけだった駅前のスーパーでは、
サムギョプサルが1キロ1万ウォンという値段であった。
邦貨にして約1000円という割安値段ではあるが、
寄宿舎生にとっては充分に高額であった。

普段は1食400ウォンの袋ラーメンか、
近所の学生向け食堂で2500ウォンの定食を食べる毎日。
1キロのサムギョプサルは数人で食べられるものの、
そこに焼酎などを用意するとけっこうな額になる。

「会費はいくら集める?」
「ひとり1万ウォンぐらいですかね」
「高いな、焼酎の買い置きがあっただろう」
「じゃあ、5000ウォンにします?」
「うん、そのぐらいのほうが参加しやすいだろ」
「じゃ、みんなに声かけてきますね」

5分後。

「ん、どした?」
「なんか彼、夕食の予定あるそうで」
「ありゃ、そうなの?」
「親戚の方と『M』に行くそうです」
「『M』に!?」
「ええ、『M』に……」

近所にあった「M」はレストラン風の内観で、
伝統的な韓定食を出すというのが売りの店。

当時で1人前2、3万ウォンほどだっただろうか。
韓定食店としてはごく平均的な料金設定だが、
貧しい寄宿舎生にとっては雲の上の存在だった。

「んじゃ、宴会はまた今度だね」
「ですね……」

自分たちが行ったこともない高級店に、
昨日、今日やってきた新入りがひょいと出かける。
そのなんともいえない、やっかみ混じりのむなしさに、
僕らのテンションはだだ下がりであった。

余談だが「M」のそばには「S」という店があり、
そちらは普段からSPが待機するような高級店であった。
大人になった今であれば、たまの贅沢で行くことは可能だが、
当時は天上人の住む世界ぐらいに感じていた。

ただ、今になって少し思う。

韓定食とはそんなに素晴らしいものだろうか。
もちろん韓国料理としてはご馳走の部類に入るし、
高級食材を使い、また手の込んだ料理が多い。

だが、

「韓定食を食べて感動した!」

という経験が僕には少ない。
めったにない豪華な体験で喜ばしくはあるものの、
それが感動に直結しないのは何故か。

貧しかった留学時代の呪い……。

ではないことを信じたい。
確かにあの当時、「S」に出入りする富裕層をうらやみ、

「けっ、金持ちはみんな滅びてしまえ!」

と荒んだことを考えていたが、
あれは若気の至りだったと勘弁して欲しい。

むしろ、ほかに理由を探してみる。

そもそも韓定食とはいかなる料理か。
僕が定義をするのであれば、

「かつての宮中料理を現代風にアレンジし、
地方の郷土料理などと複合させた料理形式」

という感じであろうか。

もともと韓定食という形式が世に出たのは、
朝鮮時代末期から日本統治時代にかけての時期。
宮中で働いていた料理人たちが職を失い、
街中に出て料亭を作ったのが始まりである。

料理人たちは宮中の伝統と技術を生かしつつ、
当時の富裕層や外国人に合う料理を仕立て上げた。
それが地方へと伝わり、郷土料理と結び付く中で、
現在のような韓定食に変化していったとされる。

ソウルではそれがさらに外国料理と結び付き、
近年はフュージョンスタイルの韓定食も流行している。
その一方で、伝統回帰の動きも強まっており、
天然素材にこだわる店や、宮中色を強める店も多い。

要するに韓定食とは料理の提供方法なので、
そこで出される料理というのは店によってさまざま。
自在に解釈できるという点では枠組みが広い。

1人前数千ウォンで食べられる韓定食もあるし、
逆に10万ウォン以上に設定する店もある。

韓定食といってもピンキリなのだ。

そして、ここからが熱く語りたい部分だが、
韓定食は値段だけでなく、感動もピンキリなのだ。

もちろん基本がずいぶんと贅沢な料理だけに、
高価な料理を食べたという満足感はある。

だが、韓定食があくまでも提供形式である以上、
そこには何らかのコンセプトや主張がなければつまらない。
ただ料理の羅列になってしまうと、

「美味しかったけど、何を食べたっけ?」

と記憶に残らない食事と化してしまう。
そして、そんな店がどれほど多いことか。

特に地方で食べる韓定食にその傾向が強い。

地方の店こそ郷土料理で個性を表現しやすいのに、
往々にして、そういう店は地元のハレ食となっている。
郷土料理は地元の人にとっての日常食なので、
結果として、どこでも似たようなご馳走料理が並ぶ。

・クジョルパン(牛肉や野菜のクレープ包み)
・シンソルロ(宮中式の鍋料理)
・タンピョンチェ(宮中式の和え物)
・カルビチム(牛カルビの煮込み)
・モドゥムフェ(刺身盛り合わせ)
・モドゥムジョン(衣焼き盛り合わせ)
・チャプチェ(春雨炒め)

とりあえずこのあたりが韓定食の常連。
手間のかかるご馳走料理であることは認めるが、
地方の韓定食店でこれらの料理を食べて、

「めっちゃ美味しい!」

と感動した記憶はない。
いずれもきちんとした店で食べれば美味しい料理だが、
皿数をたくさん作るせいか、味は総じて平凡だ。

従って、地方の韓定食店でこれらの料理を見ると、

「あー、またかぁ……」」

とテンションがだだ下がる。

本当に1度呪われたほうがいいぐらいに、
贅沢なことを言っているが、偽らざる本音でもある。
とかく地方の韓定食は当たりハズレが多い。

とはいえ、当たりハズレがあるということは、
当然のごとく、

「これは当たりだ!」

というケースもある。

料理のすべてが美味しい上に、
その店ならではのこだわりもビンビン伝わる。
そんな店に出会ったときは幸せだ。

先日、全羅北道の淳昌に出かけたのだが、
そこで出会った韓定食がなかなかよかった。
ある当たり例として紹介してみたい。

まず、淳昌といえば韓国内において、
コチュジャンの名産地として知られている。

もともと気候条件が発酵食品作りに適しており、
古くから味噌、醤油、コチュジャン作りが盛んな地域。
それを1997年にコチュジャン村として造成し、
地域の名人たちを1ヶ所に集めて観光地化した。

伝統製法のコチュジャン作りを体験できるほか、
博物館や研究機関も併設し、小売にも対応している。
今では多くの観光客が立ち寄るようになった。

僕もこれまで何度か足を運んではいたが、
しっかり食事を取ったのは初めてだった。

訪れたのは「宮殿ガーデン」というレストラン。

結婚式場に併設された形で営業しており、
日曜日など結婚式のある日は貸し切りとなる。
普段は昼食向けの一品料理なども提供しており、
レストランといえども気軽な雰囲気だ。

取材の合間に、流れで足を運んだ店なので、
正直、食べる前まではそこまで期待していなかった。

ずらり並んだ料理は4人で6万ウォンのセット。
店のメニューではいちばん高価だったが、
韓定食として考えるなら良心的な値段である。

むしろ、メインの鍋がプゴクク(干しダラのスープ)なので、
韓定食としてはチープな部類に入るかもしれない。
皿数だけはテーブルからあふれるほど多かったが、
見た瞬間にテンションが上がる組み立てではなかった。

ところがである。

食べてみるとそれぞれの料理が美味しい。
加えて、コチュジャンの本場らしく、
コチュジャンを使った料理が要所要所にある。

・コチュジャン味のユッケ
・コチュジャンを効かせた魚と大根の煮物
・コチュジャンを混ぜた塩辛
・コチュジャン漬けにした野菜

しかもそのコチュジャン自体が非常にうまい。
辛さと甘さのバランスがよく、モチ米の風味を残している。
味付けの要でありながら、素材の味も損なうことなく、
ほどよい辛さで食欲を引き立てる。

「ぬ、これは当たりの韓定食だ!」

と気付くまでに時間はかからなかった。

かつて全羅南道の霊光で食べた韓定食もよかったが、
それは地元名産のクルビ(イシモチの干物)尽くしであった。
明確な特徴のある韓定食は、後々まで印象に強く残り、
その土地を訪れた思い出とも密接につながる。

やはり地方の韓定食は郷土色こそ醍醐味だ。

ということで僕は声を大にしていう。

「すべての韓定食は明確な独自性を!」
「地方の店であれば何よりも郷土色を!」
「マンネリ化した高級料理は不要!」

僕にしては珍しいぐらい、ビシッとした提言だが、
そこには、

「同じ大金を払うなら、大きな感動を!」

という損得勘定が多分に含まれている。

貧しい留学生時代の呪いというか、ただの貧乏症。
高価な韓定食を気軽に味える人生であれば、
きっとここまでブチブチ言ったりはしないのだ。

「韓定食にもっと大きな感動を!」

たぶん一生言い続けるセリフだと思う。

店名:宮殿ガーデン
住所:全羅北道淳昌郡淳昌邑佳南里545-1
電話:063-653-8811

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
えてして高価な韓定食を食べに行くよりも、
安価な定食のほうが感動は大きかったりします。

コリアうめーや!!第222号
2010年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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