コリアうめーや!!第216号

コリアうめーや!!第216号

<ごあいさつ>
3月になりました。
寒さと暖かさが交錯する毎日の中で、
少しずつ悪魔の花粉が舞い散り始めています。
家から外に出て、ハクション!
ぽかぽかの太陽を感じながら、ハクション!
目をこすりながら、ハクション!
やれやれ、また憂鬱な日々の始まりです。
韓国では花粉症の被害は少ないものの、
この時期は黄砂に悩まされる日々が続きます。
街全体が砂でざらざらになるとともに、
喉もイガイガして大変なんですよね。
それを解決するために、脂の多い料理を食べ、
喉を滑らかにする、という対策が採られたりも。
本当にそれで解決するのかはやや疑問なのですが、
ともかくもそんな料理が今号のテーマです。
豊富な脂分で人気を集める定番韓国料理。
ちょっと学術的な気分で取り組んでみましたので、
喉への対策がてら、読んでみてください。
コリアうめーや!!第216号。
滑らかな語り口を目指して、スタートです。

<分類学的サムギョプサル研究!!>

人間には「飽きる」という機能がある。

どんなに好きなものでも、夢中になったものでも、
時間の経過とともに「飽きる」という現象が発生する。
もちろん一生の仕事や、生涯のパートナーなど、
飽きることを超越する事例がない訳ではない。

だが、あくまでも一般的な話として。

何事も過ぎれば飽きてしまう訳であって、
それは自分の意思や努力ではどうにもならない。
特に僕の場合は、いかんともしがたい。

なにしろ僕は、飽きることの天才だった。

子どもの頃から始めては飽き、飽きては始め、
すべてのことを中途半端に投げ出しながら生きてきた。
よく、剣道、柔道、空手を合わせて20段などと数えるが、
僕の場合は、剣道、算盤、書道を合わせて18級だ。

その当時、いろいろなお稽古事が流行っていたこともあり、
いろいろやらされたが、結局すべて1年程度で辞めてしまった。
いま振り返っても、しっかり身についた特技はひとつもない。

クラブ活動も小学生でサッカー、中学ではバスケ。
高校でクイズ研究会に入った後、すぐ辞めてバイト三昧。
大学に入ってワンダーフォーゲル部に所属したが、
これもやはり1年ちょっとで辞めている。

もう、つまみ食いにも等しい人生である。

ただ、いろいろなことに手を出したおかげで、
物事をこなす、という要領のよさは身についたように思う。
自分自身でもそれは長所かな、と思っていたのだが、
大学時代に親しい先輩から、

「なんでもできるけど、何者にもなれないタイプだな」

とズバリ指摘をされて大きなショックを受けた。

同時に「器用貧乏」という単語もそのとき初めて知り、
さりげなく誇りに思っていたことが、一瞬にして色あせて見えた。
そうするといかにも自分自身が薄っぺらに思え、

「何者かになるまでは社会に出ない!」

と妙な宣言して大学を休学するに至った。
就職活動を間近に控えた、大学3年生の冬である。

ハタチそこそこの若者らしい青臭い選択ではあったが、
結果として、そのおかげで韓国に出会い、自分の道が決まった。
いまひたすら韓国料理のことだけを書き連ねているのは、
そんな過去からくる反動のようなものかもしれない。

そういえば、昔から「書く」ことは好きだった。

子どもの頃から唯一継続できたことがあるとすれば、
文章を書き連ねることだけではないかと思う。

記憶にある最初の長文は、小学5年時の原稿用紙50枚。
国語の授業で課された、物語を書くという宿題だった。
その後、中学校にあがる直前にも、別のテーマで200枚を書き、
当時、新設されたばかりのある文学賞に投稿した。

よくそんな時期に200枚も書いていたとは思うが、
僕の目指した文学賞の募集最低枚数が200枚であった。
子どもが鉛筆で書き殴ったような原稿ではあったが、
その枚数を書き上げたことで、僕の中では、

「なにか書くなら原稿用紙200枚!」

という妙な自分ルールが出来た。
ちなみにその文学賞はかすりもしない落選だった。

高校時代に1度、大学時代に2度、卒業後に1度。
僕はそれぞれ違うテーマで原稿用紙200枚を書き、
最後のそれが、運よく編集者の目に留まった。

「これ、面白いじゃない」

ただ、結果的にその原稿自体はボツとなり、
新たに方向性を変えて、もう200枚を書き下ろした。
それが2003年8月に学研から発売された、
『八田式「イキのいい韓国語あります。』である。

いろいろなことを飽きて、辞めて、飽きて、辞めて、
最後に残ったものが、いま仕事になっている。

それはとても幸せなことだと思う。

だからして。

僕は「飽きる」ということにある種の恐怖感がある。
趣味に飽きるのは、いつものことなので何も怖くないが、
仕事に飽きてしまうことがあればそれは一大事だ。

また、何者でもない人に戻って悩むのか。
あるいは興味を失ったまま、惰性で続けていくのか。
考えるだけでも、ぶるぶる震える思いである。

いや、実はすでに少し震え始めているのかもしれない。

冒頭からこんな自分語りを始めてしまったのも、
仕事のある一部分に飽きの兆候が見えているからである。

「あれ、なんかマンネリ化してる?」
「もしかして、少し飽きてきちゃってる?」
「え、飽きるの? 飽きるの?」
「や、や、や、やばーい!」

というあたりでようやく本題に入れるのだが、
その、やばーい! というのがサムギョプサルである。

このメルマガを購読してくれている人にとっては、
あえて語るほどもないぐらいに有名な韓国料理のひとつ。
豚バラ肉を、焼いて、食べる、というシンプルな料理だが、
その味わいは、韓国人の心をつかんでやまない。

韓国を代表する焼肉メニューのひとつであり、
消費量だけを考えるなら、牛焼肉よりもはるかに上である。
韓国人がこよなく愛す、ザ・焼肉といってもいい。

そんな存在だけに、韓国料理の話ばかりを書いていると、
少しずつ形を変えながら、何度も登場してくることになる。
事実、このメルマガにおいても、第14号の初出以降、
さまざまな形でサムギョプサルの話題に触れてきた。

コリアうめーや!!第14号(サムギョプサル)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume14.htm
コリアうめーや!!第29号(オギョプサル)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume29.htm
コリアうめーや!!第68号(ウサムギョプ)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume68.htm
コリアうめーや!!第103号(ワインサムギョプサルほか、※1)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume103.htm
コリアうめーや!!第106号(チーズサムギョプサル)
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume106.htm

※1
ハーブサムギョプサル、緑茶サムギョプサル、3秒炭窯焼きサムギョプサル
サプサムギョプサル、キムチサムギョプサル、テペサムギョプサル

並べてみると、見事にサムギョプサルだらけ。
スタイルは違えど、豚肉を焼いて食べる話題に変わりはない。

すると、やはり書いている内容がどこか似てくる。

ジューシーな脂が口の中でジュワッ! とか。
サンチュ、エゴマの葉で包むと意外にさっぱり! とか。
その直後に焼酎を飲むとたまらん! とか。

媒体ごとに工夫を加えつつ、違う切り口を探しても、
同じ料理だけあって核となる部分はどうしても共通する。
そこを避けて通る訳にもいかず、

「んー、なんかまた同じことを書いている」

という気分になる。
そこを同じに見せない技術はあって然るべきなのだが、
なかなかそうもいかないのがもどかしい。

かくして、

「あー、またサムギョプサルかぁ」

というような気分になってしまう。
飽きの兆候であり、危険な状況なのである。

ただ、幸いなことにサムギョプサルという料理は、
弛まぬ進化を遂げており、新しい工夫が次々に飛び出している。
似た内容の文章を書きながらも、意識の鮮度を保っているのは、
サムギョプサルの日進月歩な側面が大きいようにも思う。

むしろ、昨今は、

「いったいサムギョプサルっていくつあるんだ!」

という状況にすらなっている。
上に書き並べた、メルマガでの過去記事を見ても、
合計すると11種類が登場している。
それでも数ある中のほんの一例に過ぎない。

印象的には20や30ぐらいは平気である気がする。

すると、仮に30種類あったとしても、
メルマガで取り上げているのは半分にも満たない。
魅力の全容を伝えているとは到底いえず、

「まだまだ熱く語らねば!」

と気持ちが引き締まるような気がする。

飽きへの恐怖心から、そんな思考経過を経て、
実際にサムギョプサルの種類を数えてみることにした。

まずは思いつく限りの「なんたらサムギョプサル」を箇条書きにし、
それが増えてきたところで、途中からカテゴリーに分類。
枝葉のように、そこから伸びる亜種を書き連ねていくと……。

なんと、30種類どころではない数が集まったうえ、
意外にもきちんと整理されて、便利な分類表が出来たのである。

あくまでも個人研究の範囲内に過ぎないが、

「すべてのサムギョプサルは現状8要素に分類できる!」

という事実を全世界に向けて発表したい。
さまざまな工夫で混沌としたサムギョプサル業界を、
強引な線引きですっきりとまとめてしまおう。

以下、その分類報告である。

1、素材の要素

サムギョプサルの基本的な分類として、
素材である豚肉のこだわりを看板とする店がある。
豚肉本来の味わいでストレートに勝負するため、
この系統の店では本格を掲げる場合も多い。

・センサムギョプサル(生肉使用)
・フッテジサムギョプサル(黒豚使用)
・○○豚サムギョプサル(銘柄豚使用)
・ファントサムギョプサル(豚の飼料に黄土を配合)

なお、このカテゴリーの亜流として、

・ソゴギサムギョプサル(牛バラ肉の焼肉)

が存在する。
ただし、豚焼肉と牛焼肉を同種に含めるかは異論を認める。

2、肉の切り方の要素

素材である肉をどう切るかで個性を表現する系統。
単純な薄切り、厚切りといった分類から進化したもので、
ブロック状のものや包丁目を入れたバージョンもある。

・○○mmサムギョプサル(厚さを売りに)
・オギョプサル(皮付き、またはカルビ部分を含む)
・トンサムギョプサル(ブロック状で焼く)
・ポルチプサムギョプサル(表面に包丁目を入れて焼く)
・テペサムギョプサル(カンナで削ったような極薄)

3、焼き板の要素

鉄板、石板、網などが焼肉に多く使われるが、
それを特別な素材に替えて、個性を打ち出すタイプ。
肉をより美味しく焼く、という薀蓄が多く見られる。

・トルパンサムギョプサル(石板で焼く)
・ソクセサムギョプサル(網で焼く)
・スジョンパンサムギョプサル(水晶板で焼く)
・ソットゥッコンサムギョプサル(釜のフタで焼く)
・サプサムギョプサル(スコップで焼く)
・ピョルサムギョプサル(大型のすずりで焼く)

4、熱源の要素

ガスよりも炭火で焼いたほうが熱の通りがいい。
また下からの熱だけでなく、釜なら全体から火が通る。
そういった熱源の要素からアピールする系統。

・スップルサムギョプサル(炭火焼き)
・チャムスッサムギョプサル(クヌギ炭の炭火焼き)
・ファントガマサムギョプサル(黄土釜で焼く)
・3秒サムギョプサル(高温の釜に肉を入れ3秒で焼く)

5、下味の要素

肉になんらかの味付けを施して変化をもたせるタイプ。
サムギョプサルの工夫としてはこの系統がもっとも多い。
ひとつの店舗で複数種類を用意する店も少なくない。

・ワインサムギョプサル(ワインに漬けて熟成させる)
・テナムトンサムギョプサル(竹筒に入れて熟成させる)
・ホブサムギョプサル(さまざまなハーブで香りをつける)
・ソルリプサムギョプサル(松葉で香りをつける)
・マヌルサムギョプサル(ニンニクで香りをつける)
・ポップンジャサムギョプサル(山イチゴで下味をつける)
・ノクチャサムギョプサル(緑茶粉末を振り掛ける)
・カレーサムギョプサル(カレー粉を振り掛ける)
・コチュジャンサムギョプサル(コチュジャンダレで味付ける)
・テンジャンサムギョプサル(韓国味噌のソースで味付ける)
・ケイジュンサムギョプサル(ケイジャンソースで味付ける)
・インサムサムギョプサル(高麗人参のソースで味付ける)
・フンジェサムギョプサル(木材のチップで燻煙し香りをつける)
・ピョッチプサムギョプサル(藁で表面を焼いて香りをつける)

なお、この系統はさらに細分化もできる。
例えば、ハーブで香りをつけたサムギョプサルの場合、
メインとなるハーブを料理名とする場合もある。

・ロジュマリサムギョプサル(ローズマリー)
・オレガノサムギョプサル(オレガノ)
・パジリコサムギョプサル(バジル)

また、例にあげた以外にも味付けの方向性は多々あり、
新味は薄いものの、可能性は無限ともいえる。

6、味付けの要素

下味とは別に、焼いてから味付けをする場合もある。
ゴマ油に塩を加えたタレか、葉野菜とサムジャンが定番だが、
そこにアレンジを加えて個性を出すという店が稀にある。
味の根幹を成すものの、意外とこの系統は少ない。

・コンカルサムギョプサル(きな粉で味わう)
・チジュサムギョプサル(溶かしたチーズにつけて味わう)
・済州島式サムギョプサル(塩辛、塩辛の汁につけて味わう)

7、パートナー素材の要素

サムギョプサル以外に野菜や海産物を加え、
一緒に焼くことで、料理のグレードをアップさせるタイプ。
素材によっては豚肉が脇役化する可能性もあるうえ、
焼肉というより炒め物に近くもなる場合も見られる。

・キムチサムギョプサル(熟成した白菜キムチと一緒に焼く)
・コンナムルサムギョプサル(和えた豆モヤシと一緒に焼く
・トドクサムギョプサル(味付けしたツルニンジンと一緒に焼く)
・チュクミサムギョプサル(味付けしたイイダコと一緒に焼く)
・ナクチサムギョプサル(味付けしたテナガダコと一緒に焼く)

8、包み素材の要素

通常は葉野菜で包んで食べるのが一般的だが、
そこにアレンジを加え、別の包み方で個性を出すタイプ。
ただし、葉野菜の延長が多くバリエーションは少ない。

・サムバプ(大量の葉野菜とごはんを一緒に包む)
・○○サムサムギョプサル(特定の葉野菜をメインとして包む)
・トクサムギョプサル(薄切りの餅で包む)

このほか、名前としては定着していないようだが、
チャンアチ(葉野菜の醤油漬け)で包むタイプがある。
近年の流行として、ギョウジャニンニクの葉で包む、
というのを売りに掲げている店が登場している。

ということで、ここに掲げた名前だけでも、
事前予想をはるかに超える48種を並べることができた。
韓国には最低でも48種以上のサムギョプサルがある。
頑張って数えれば100種を超えるかもしれない。

すると僕がこれまでメルマガで紹介をした、
11種などというのは、まだほんの一部に過ぎないのだ。
こんな段階で、飽きることを心配してはいけない。

「ようしまだまだ書くぞ!」

という前向きな姿勢をアピールしつつ。

個人的にはせっかく分類をしたので、
このカテゴリーからはみ出るものを今後期待したい。
既存の枠組みを超える斬新なサムギョプサル。

それは僕はサムギョプサルの「新種!」と認定する。

もちろん僕が個人的に作った枠組みなので、
この段階でも、

「ねえ、このサムギョプサルはどこに入るの?」
「あっ!」

という可能性はおおいにある。
その場合は、僕のほうまでお知らせ頂きたい。
いつかまた別のところで、

「すべてのサムギョプサルは現状9要素に分類できる!」

と素知らぬ顔で発表させて頂く。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
韓食分類学的には、料理界、韓国料理門、焼肉鋼、サムギョプサル目、
下味科、ホブサムギョプサル属、バジリコサムギョプサルとなります。

コリアうめーや!!第216号
2010年3月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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