コリアうめーや!!第171号

コリアうめーや!!第171号

<ごあいさつ>
4月15日になりました。
ようやく花粉の猛威も和らいできた気がします。
3月中はクシャミ、鼻詰まり、涙ポロポロ。
コンタクトレンズをはめることすらままならず、
ひたすらにメガネ生活を送っておりました。
基本的に家でしか使わないメガネなので、
コンタクトより度数が低いんですよね。
外を歩くには少し不便でしたが、
やっぱりコンタクトに比べて目には楽。
たまにはメガネもいいかなと思い始めました。
ま、しばらくするとコンタクトに戻るでしょうけどね。
さて、そんな春の風物詩的被害がひと段落しつつ、
今号のメルマガでは春の料理をお届けします。
この時期に旬を迎えるあの食材。
コリアうめーや!!第171号。
食べたてホヤホヤの話題で、スタートです。

<春だチュクミだ!旬を味わえ大会!!>

僕は日々、韓国料理の話ばかりを書いている。

これまでずいぶん多くの料理について語ってきたが、
それでもまだ触れていない料理はたくさんある。
今回、語ろうとしているのもそんな初物のひとつ。

そういった話を書く場合、僕が最初にする作業は、
料理と出会った初めての瞬間を思い浮かべること。

最初に食べたときはこんな感想だったな。
と、シチュエーションも含めて振り返ると、
意外に話が膨らんでよいのだ。

ただし、僕の場合は、
たいていが留学時代にさかのぼるので、

「まーた八田氏、留学時代のこと書いてるよ」
「韓国に行けないから、ネタがないんじゃない?」
「相変わらず細かいネタを膨らましてるなあ」

というようなことにもなる。
耳の痛い批判だが、正しい指摘なので仕方がない。
でも、今日だけはビシッといっておこう。

「ふ、今年はしっかり韓国に行っているのだよ」

前号のメルマガにも書いたように、
1月に続いて3月下旬から韓国に行ってきた。
仕事絡みで5泊6日という日程だが、
ソウルだけでなく議政府、全州と地方も巡った。

あらかたは仕事の関係なので書けないが、
自分自身のネタもしっかり拾ってきた。
おそらくメルマガ3回分くらいにはなるだろう。

それだけでなく今年は5月にも行く予定。
うまく行けば6月にも行けるかもしれない。
同じ留学時代の話までさかのぼるにしても、

「あ、うん。確かに留学時代の話は多いよね」
「でもそれはネタがないからではなく必要だからなんですよ」
「だって、ネタはふんだんにあるし。あはははは!」

という乾いた笑いでふんぞり返ることができる。

誰に向かって張り合っているのか不明だが、
心の中での格闘、葛藤ということでご理解頂きたい。

という言い訳を経て、話は留学時代だ。

あれは僕らが語学学校の5級に属していた頃。
授業の中で先生が、いちばん美味しい韓国料理は何か、
というような質問を学生たちに投げかけた。

ちなみにこの5級というのは、入学から1年を経たクラスで、
基本的な会話には困らないレベルとなっている。

新聞を読んだり、韓国語でのディベートを行ったりと、
ずいぶん高度な授業を行っていたように記憶している。
韓国語を学ぶというよりも、その活かし方を学ぶ時期だ。

クラスはおおむね日本から来た学生ばかりだったが、
中国、ロシア、アメリカからの学生も多かった。

このとき先生の問いにまず答えたのも、
アメリカからやってきた学生だった。

「チュクミです! チュクミ以外にありえません!」

学生といっても、30半ばくらいの年齢で、
ヒゲ面マッチョのスポーツマンである。

残念ながら、いくら考えても彼の名前を思い出せないのだが、
授業で学んだ漢字に魅せられていたのをよく覚えている。
自分の名前を誇らしげに漢字で書いていた。
もちろん当て字なのだが、そんな姿は妙に微笑ましい。

なんだっけな。本当に彼の名前が出てこない。

そこでその漢字を紹介しなければ意味がない話だが、
結局、思い出せなかったので、別の人の事例で代用しよう。
あれは僕が中学生だった頃のネイティブ講師。
彼の名前は強烈な印象で、いまも忘れることができない。

カタカナで書くなら、ミスタードローレット。
彼が自己紹介をするとき、嬉しそうに板書していたのは、

「道路列島」

という漢字表記であった。
まだ若かった僕らが、それに大爆笑し、
クラス中で盛り上がったのはいうまでもない。

たぶん同じことをチュクミの彼もしたはずなんだよね。
なぜに覚えていないのか、実に悔やまれてならない。
誰か記憶力のよい当時のクラスメートは、
僕にぜひメールで教えてください。

さて、本題は彼の名前でなくチュクミ。
アメリカ人の彼はおおいに興奮していたのだが、
僕がそれをよく覚えているのは、

「なにその料理?」

とその瞬間、まったくピンと来なかったからである。
クラスメートが目をキラキラさせながら語っている料理を、
少なからず韓国の食文化に興味を持っている僕が知らない。
これはまずいぞ! とおおいに慌てたのである。

また、発音してみるとわかるのだが、
チュクミという単語は音が微妙にかわいい。

口の先っぽで発音するような音なので、
どこか小動物的なかわいさを連想してしまう。
そんな単語を、ヒゲ面マッチョの友人が連発していたので、
より強い印象として残っているのかもしれない。

実際のチュクミも実は小さな生き物なのである。

料理名というよりも食材名であり、
日本語に訳した場合はイイダコとなる。

ここで彼がいうのはイイダコの辛い炒め物。
チュクミボックムと呼ばれる料理だった。
彼はそれを毎日のように食べていると語った。

その当時は料理を知らなかったので、ただ驚いたが、
いま考えてみると、彼の好みもなかなかに変わっている。
そこまでマイナーな料理ということでもないが、
毎日食べるほど好きな人は韓国人にも少ないだろう。

むしろ韓国ではタコというとテナガダコが有名。

イイダコほどの頭だが、足が長いので食べでがある。
同じく辛い炒め物にした料理をナクチボックムと呼ぶが、
むしろこちらのほうが専門店は多いのではと思う。

そのほかテナガダコは生のままで踊り食いにしたり、
スープにしたり、ビビンバの具にもする。
用途が広いことから、メジャーに感じるのだろう。

ちなみに日本でタコといわれてまず連想される、
マダコやミズダコはほとんど食卓に登場してこない。
せいぜい干物にして祭祀膳に上げられるくらいだ。

となると、チュクミことイイダコも韓国のタコ界においては、
テナガダコに次ぐ2番手のポジションくらいだろうか。
かわいい名前だが実力はきちんとあるのだ。

そのチュクミを今回ソウルで食べてきた。

ちょうどこの季節はチュクミが旬を迎えるのだ。
到着した初日、今回泊めて頂いた家の方から、

「ちょうどチュクミの話題をテレビでもやってたよ」

とも聞いてさっそく繰り出すことになった。

この時期が旬とされるのはメスの産卵期にあたり、
頭にも見える胴の部分に卵がいっぱい詰まっているから。
この卵が飯粒のように見えるからイイダコ。
その卵を一緒に味わうことに楽しみがある。

足を運んだのは留学時代に生活していた新村。

ネットなどで入念な下調べを行い、
評判のいいチュクミ専門店を探しておいた。
当時のクラスメートが通っていた店かはわからないが、
入り組んだ路地の奥にある人気店である。

ただ、到着してみると意外に店は新しく、
学生街とあって、若いカップルたちでいっぱいだった。
メニューを見るとチュクミボックムのほかに、
豚バラ肉をチュクミと炒めたものがおすすめとなっている。

「では、それでいきましょう」

満場一致で豚バラ肉入りチュクミボックムを注文。
ちなみに豚バラ肉のことは韓国語でサムギョプサルといい、
メニュー名では両方の頭文字をとっていた。

その名も「チュサム」。

しかも2度つなげて「チュサムチュサム」。
チュクミだけでもかわいい語感だというのに、
ますますかわいくしてどうする、というネーミングだ。

運ばれてきたのは真っ赤なタレのかかった鉄板。
どろっと濃厚なタレの下にはチュクミの姿が見える。
豚バラ肉、野菜もたっぷり入って具だくさん。
これを火にかけ、じっくりと炒めていくのだ。

適度に焼けたところで店員さんがやってきて、
丸ごとのチュクミをハサミで食べやすくカットしていく。
と、この時点で……。

「あれ!?」

というかすかな違和感が生じた。
期待で満ちた心象風景に、わずかな不安が生まれたとき。
それが確信になったのは、口に運んでからである。

いまがまさに旬のチュクミ!

と張り切って頬張ったにもかかわらず、
もっとも重要であるはずのアレがなかった。
頭のように見える胴の部分にぎっしりつまった飯粒。
卵がまるで入っていないではないか。

「え、いまが旬のチュクミじゃないの?」
「もしかして、いま僕が食べたのだけハズレだったの?」
「でも次のチュクミも、そのまた次のチュクミも……」

どのチュクミを食べても卵など入っていない。

「この時期のチュクミは卵を抱えているからね」

などと楽しみにやって来たにもかかわらず、
その卵が入っていないという悲劇に愕然とした。

ひとつ誤解がないように書いておくと、
チュクミボックム自体はなかなかに美味しかった。
僕らが勝手な期待をして裏切られたということ。
旬だから卵入り、と自分たちで決めつけていた。

後で調べたところ、僕らが行った有名店は、
ソウルでそれなりに展開しているチェーン店でもあった。
となると限られた旬に特別なものを出すよりも、
均一な味で1年中提供することを考えるだろう。

いうなれば下調べの不足が招いた当然の事態である。

「旬のチュクミは美味しいですね」
「うん、美味しいね。でもずいぶんと激辛だね」
「最近の韓国は辛い味付けが増えましたよね」

焼酎をぐいぐい飲みながらも妙に冷静。
美味しかったものの、期待を外した感は否めなかった。

まあ、これで勢いがついて2次会にも出撃。
派手に飲み始めたおかげで、3次会、4次会まで、
楽しく飲めたのでよい滑り出しだったのだろう。

よって、今回のこれはこれでよいのだ。

残念ながら卵ぎっしりのチュクミに出会えなかったが、
そのぶんより大きな期待として次の感動が大きく残る。
これをまた宿題として残し、いずれ春の楽しみとしよう。

あるいは産地に出かけてチュクミを探すのもいい。

調べてみたら、春には忠清南道の武昌浦というところで、
大々的なチュクミ祭りが開催されているようだ。

このメルマガを配信しているいまも開催中で、
4月22日まで続く予定であるとのこと。
いずれまた春に武昌浦を訪れてみるとしよう。

そう考えてみると、今回のチュクミ体験はこれでOK。
充分に満足のゆく春チュクミであった……。

ってことはないよなぁ。

ちきしょう! いつかまた食べるぞ春チュクミ!
卵のプチプチしたチュクミを食べてやるぞ!
待ってろ2009年春! あるいは2010年春!

首を洗って待っておけ!

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
昨年秋から定期的にトークイベントを行っています。
吉本興業所属のお笑い芸人「チング」の2人とともに、
東京の新大久保で、月1回の開催で続けています。

タイトルは「八田りチングのチンチャトーク」。

韓国のお笑い事情、芸能事情、食文化などなど。
僕らの体験をもとに面白おかしく語るイベントです。

第6回となる次回は4月29日開催の予定。
詳細については下記アドレスをご参照ください。

韓食日記 第6回チンチャトークほかお知らせ。
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-712.html

そして5月には初めての韓国公演も実施します。
その名も、

「八田りチングのチンチャトークinソウル」

って、そのままですけどね。
在住者の方や、その頃、ソウルにいらっしゃる方は、
無料ですのでぜひ見にきて頂ければと思います。

日程:2008年5月13日
時間:17時開場、18時開演(19時30分まで)
会場:国際交流基金ソウル日本文化センター
料金:無料
定員:130名まで

<会場>
国際交流基金ソウル日本文化センター
ソウル市鍾路区新門路1街226興国生命ビル3階
光化門駅6番出口より徒歩5分
http://www.jpf.or.kr/(韓国語)
http://www.jpf.or.kr/japanese/index.html(日本語)

<申込>
料金も無料なので事前申込はありません。
当日、定員を超える場合のみ入場制限を行います。

ちなみに話題は韓国のことについてですが、
基本的に日本語でトークを行います。
スペシャルゲストなども考えております。
ぜひお誘い合わせのうえおいでください。

<八田氏の独り言>
本文以上に念を込めたお知らせです。
ソウルにいるみなさま、ぜひご来場ください。

コリアうめーや!!第171号
2008年4月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

 

 
 
previous next