コリアうめーや!!第168号

コリアうめーや!!第168号

<ごあいさつ>
3月になりました。
三寒四温を経つつ、寒さも徐々に和らいでいます。
北風に震え、身を縮める日もそろそろ終わり。
太陽を身近に感じる、ポカポカ陽気もすぐそこです。
まあ、実際にはまだまだ寒い日も多いですけどね。
それでも名前ばかりの「立春」などとは違い、
「3月」の声は、春の近さを感じさせます。
春の味覚もそろそろ旬を迎えるころですね。
菜の花、ウド、タラの芽、フキノトウ。
白魚、サワラ、サヨリ、マダイなどなど。
あったかい鍋料理と熱燗もまだまだ恋しいですが、
うららかな日差しに似合う料理も楽しみです。
さて、そんな春を待ちつつ今号のメルマガですが、
春と秋に、2度の旬を持つ魚が主役です。
コリアうめーや!!第168号。
じっくり待つ姿勢で、スタートです。

<念願叶ってやっと語れるサバの話題!!>

僕は待っていた。長年待っていた。

少なくとも5年は待っていたと思う。
気分的にはピンチのときのトイレ待ちぐらい。
とにかくめちゃくちゃ待っていた。

例えば電車に乗る前から腸がもぞもぞしており、
目的駅までの半分くらいでピンチ到来。

途中の駅で降りるのも何なので必死に耐え、
目の前が真っ暗になるほど我慢して駅に到着。
超内股になりつつも駆け足でトイレに直行。

ようやくこの苦しみから解放されるかと思いきや、
運の悪いことに個室がすべて塞がっている。
絶望感に包まれつつも、他のトイレを探す余裕はない。

「頼むから早く出てくれ!」

と祈るような気持ちでひたすらに待つ。
そのくらい僕は時が来るのを待っていた。

いきなり冒頭から尾籠な話で恐縮だが、
トイレ話を書きつつ、もうひとつ思い出してしまった。
本題に入る前にもう少しだけ脱線させてほしい。

かつて僕が明洞駅のトイレで小用を足したときのこと。

僕より先にひとりの会社員が個室を待っていた。
見るからにピンチで、30秒置きにノックをしている。

大用の個室はふたつ。その両方を叩いていた。
僕はそれを背後に感じつつ、自分の用を足す。
するとそこへふたりの若者がやってきた。

「俺ちょっと大きいほうしていくわ」
「おお、行ってきな」

ひとりが入口近くの個室前に立った。
先客の会社員は奥の個室前でノックを続けている。

こういう場合日本であれば、順番待ちの列ができるが、
韓国では我先にと並んでしまうことが多い。
ひとりでふたつの個室前には立てないので、
自然と奥が会社員、手前が若者の守備範囲となった。

こういうとき運命とは非情なものである。

若者が前に立った瞬間、水の流れる音が聞こえてドアが開き、
まるで待つことなく個室に入る権利が得られたのだ。

僕はこのときの若者のセリフが忘れられない。

「イロッケ ウニ チョウルスガ!」
(なんて運がいいんだ!)

後から来て待たずに入れることを幸運と呼ぶ。

それもまた韓国らしいと思いつつ、
会社員の絶望を思うと、僕は涙が出る思いだった。
いま思い出しても、鼻水が止まらない。

すっかり本題を忘れて熱く語ってしまった。

僕自身がガラスの胃腸を抱えている関係で、
トイレ関係の話題はつい夢中になってしまう。
美味しいものの話をする前に、申し訳ない限りだ。

僕が一日千秋の思いで待っていたのはサバの話題。

実はこれまでも何度か書こうとしたのだが、
そのたびにある理由から断念していた。

韓国でもサバは庶民的な魚として人気が高く、
焼いてよし、煮てよしと好まれている。
そんなサバの魅力を是非一度まとめたかったが、
どうしてもひとつ不足する情報があった。

それは、僕がサバの刺身を食べていないこと。

韓国にはいくつかの代表的なサバ料理があるが、
その中でもサバの刺身は特別扱いされている。
その味を知らずして、サバの何が語れようか。
そう思って自らサバの話題は封印してきた。

唯一の例外は安東の郷土料理、カンコドゥンオ。
サバをいったん熟成させてから干物にしたものだが、
これだけは個性的な歴史とともに語った。

コリアうめーや!!第57号
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume57.htm

だが、僕が焦点を当てたかったのはもっと全体的な魅力。
路地裏でモクモクと煙をあげながら焼く塩サバだったり、
副菜としてさりげなく出てくるサバの煮物だったり。

韓国で食べられる魚は数多くあれど、
サバほど地に足のついた活躍をしている魚はない。
その偉業を、全力で褒めたたえたいのだ。

「偉いぞサバ! すごいぞサバ! ビバサバ!」

そんな積年の課題をようやく達成できる日が来た。

前号でも書いたように、先日取材で済州島へ行ってきた。
韓国でサバといえば、何よりも済州島が有名。
実際は、タチウオ料理を目指して取材に行ったのだが、
そこで一緒にサバの刺身を食べるチャンスに恵まれたのだ。

もともとサバという魚は痛みが早いので有名な魚
刺身で食べられるのは産地ならではの魅力なのである。

「ようやくこの日が来たか……」

目の前に現れたサバの刺身はむっちりとしており、
ツヤツヤとした鮮紅色に輝いてみえた。
はやる心を抑えつつ、刺身の1切れを醤油に浸す。
口を大きく開けて、待望のひと口目を運ぶ。

「…………ムグムグ、ごくん」

うっは、脂ノリノリ。美味絶頂。
ある程度、脂の乗りは予想していたが、
それ以上にのってりと広がる感じがたまらない。

身がしっかりしているので食感もいい。
刺身の表現として適当かどうかはわからないが、
背筋をピンと伸ばしたような肉感であった。

プリプリというよりもブリブリという感じ。

いやはや噂にたがわぬ見事な済州島名物。
やはりこれを食べずに、サバは語れないだろう。
長い間、チャンスを待ったのは正解だった。

さあ、後はこころゆくまでサバを絶賛するだけ。

まずはもっともシンプルなコドゥンオグイだ。
コドゥンオがサバを意味し、グイは焼き物を表す。

すなわち、サバの焼き魚。

先ほど少し語った、路地裏の煙モクモクが、
コドゥンオグイの黄金スタイルである。
バサバサと粗塩を振って、焦がさないように焼くだけ。
にもかかわらず、底力のあるうまさが楽しめる。

釜山をはじめとした南部地域においては、
この焼きサバを「コカルビ」とも呼んでいる。

名前の由来は諸説もろもろあるものの、
一説にはコドゥンオとカルビの合成語。
焼きサバをカルビに例えて褒め称えている。

同じくサバを辛く煮つけたコドゥンオジョリムも美味。

脂のゆき渡った腹の部分を口に運ぶと、
濃厚な味わいがとろりとろけてたまらない。
唐辛子の辛さが全体をピリッと引き締めているので、
多少、脂が乗りすぎていても野卑にならない。

この料理は大根と一緒に煮込まれることも多いが、
サバのうまみを吸った大根はそれこそ絶品。

日本ではブリ大根が有名だが、韓国では圧倒的にサバ大根。
サバをこよなく愛する韓国ならではの料理だ。

また、これらのサバ料理はごはんとの相性がいい。

コドゥンオグイにしろ、コドゥンオジョリムにしろ、
食べるときはごはんを用意し、またサンチュも添えたい。

つまりはサバのサムパプ(ごはんの葉野菜包み)。

サンチュにごはんを乗せ、サバの身もひと口乗せ。
包んで巻いてガブリとやれば、それはもう幸せの極み。
サバがその身に豊富な脂を蓄えているのは、
この食べ方があるからだ、とさえ思えてくる。

これだけ喜びを満喫できる魚であるにもかかわらず、
サバの素晴らしい点は、値段が安価であること。
韓国では一般に、白身魚に比べて青魚の評価が低いが、
それがために、値段の面でも安く見られている印象がある。

そこが少し寂しいが、安さもまた大きな魅力のひとつ。
サバが持つ偉大さのひとつと好意的に受け止めたい。

だが、その魅力はもっと褒められてよいはず。

「偉いぞサバ! すごいぞサバ! ビバサバ!」

僕はそう声を大にしていいたい!

なかなか食べられない刺身のせいでちょっと遅れたが、
僕はずっとサバの魅力について、熱く語れる日を待っていた。
待ったぶんだけ、思いがこもるかはわからないが、
個人的には、この声をあげられただけでまずは満足している。

韓国料理におけるサバの存在感と魅力。
今後も大いに語っていきたい。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
1月にソウル、釜山、済州島と巡りました。
その取材の成果が3月に発表されます。

媒体は「るるぶ韓国08~09年版」。

浮かれた顔で、あちこちの飲食店を巡りつつ、
美味しい料理の数々を紹介しております。
発売日は3月中旬予定とのこと。
書店で見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。

また、『月刊Suッkara4月号 vol.28』でも、
東京の韓国料理店を10軒取材して紹介しました。
いずれもおすすめのいい店を厳選しています。
毎月開催しているトークイベントも記事にして頂き、
ずいぶんと多くのページで露出しております。

こちらは2月21日から絶賛発売中。
全国の書店で、すでに並んでいるはずです。
ネットであれば以下でも購入できます。

アマゾン
http://www.amazon.co.jp/dp/B0013HEL0O/
楽天
http://item.rakuten.co.jp/book/5401295/
セブンアンドワイ
http://www.7andy.jp/magazine/detail?accd=T0204135

<八田氏の独り言>
さばさばした鯖、というダジャレを書こうと思ったら、
すでに第57号で同じことを書いていました。

コリアうめーや!!第168号
2008年3月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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