コリアうめーや!!第155号

コリアうめーや!!第155号

<ごあいさつ>
8月15日になりました。
身体がカラカラになるほど暑い日々です。
クーラーのきいた室内にこもっていたいですが、
あいにくここ最近は仕事でずっと外回り。
充実した日々を過ごしているものの、
熱中症や脱水症状の心配と格闘しています。
うっかりすると本当に危険な真夏の暑さ。
みなさんも水分補給にはくれぐれもご注意ください。
さて、そんな暑さの中ではありますが、
外を飛び回るような話を用意してみました。
聞いただけでもめまいを起こしそうなテーマですが、
実際に飛び回るわけではないのでご安心を。
韓国が誇る、便利な食文化を紹介します。
コリアうめーや!!第155号。
アクセルをぶんとふかして、スタートです。

<愛すべき韓国料理のペダル文化!!>

「ペダル」と聞いて何を想像するだろう。

答えを書いてしまうのは簡単なので、
まずはちょっと頭の中で考えてみて欲しい。

ちなみに答えはひとつではなく複数あってよい。

「ペダル、ペダル、ペダル……」

考えた? 考えましたか?
などと書いていても、実際は読み飛ばす人がほとんどだろう。
ペダルで想像できる範囲内など限られている。

なので、一気に答え合わせ。

まず思いつくのは自転車など乗り物のペダル。
ピアノやエレクトーンなどの楽器にもペダルはあり、
足で操作するものの総称してペダルと呼ぶ。
踏むことで何らかの動作が起こるペダルがまずひとつ。

次に、ちょっと韓国に詳しい人なら「出前」を想像する。

韓国語では「配達」と書いて「ペダル」と読む。
韓国のペダル文化は優秀で、さまざまな飲食店で利用できる。
特に韓国式中華料理店からのペダルは定番だ。

最後に、チェ・ペダルを想像した人はいるだろうか。

漢字で書くと「崔倍達」。
日本でより知られている名前では「大山倍達」。
ゴッドハンドの異名で知られる空手家だ。

僕が想像できたのは以上の3つだが、
そのほかにまだ「ペダル」があったら教えて欲しい。
宛先はいちばん下のメールアドレスまで。

と、ここまで書いて話が迷走しているのに気付いた。

今回のテーマは別に大山倍達ではない。
韓国の出前文化について書こうと思っていたのだ。
妙な書き出しから、切り口の変わった「ペダル」を発見し、
これだ! といういつもの勘違いから見事に脱線した。

話の首根っこをつかんで、グイと戻す。

今回のテーマは韓国の出前文化だ。
韓国人が愛してやまない「ペダル」を紹介してみよう。

韓国はペダル文化がずいぶんと発達しており、
日本以上に細かな融通が利くという印象がある。

まず、ペダルの代名詞となるのが中華料理。

日本で出前の中華といえばラーメンだが、
韓国ではチャジャンミョン(炸醤麺)がその地位にある。
黒い甘味噌が麺にかかった韓国式ジャージャー麺のことで、
昼どきになると、出前のスクーターが街中を駆け巡る。

そのスピードたるや迅速を越えて超迅速。

韓国語で「鉄カバン」と呼ばれる岡持ち片手に、
店のお兄ちゃんが猛スピードでやってくる。

出前範囲も幅広く、大学の正門であるとか、
どこぞの公園や川べりを指定してもきちんと届く。
スピードだけではない骨太のサービスが自慢だ。

電話1本で、幸せの昼食が手に入る。

一方、小腹が空いた夜食となるとフライドチキンが定番。

韓国の街中にはフライドチキンの店がたくさんあり、
ちょっとしたオヤツから、ビールのつまみにと大活躍。
深夜遅くまで営業しているのがまた嬉しい。

夜中にそんな重たい料理を!? と思うかもしれないが、
韓国ではフライドチキンが夜食の代名詞だ。

しかも、通常のフライドチキンだけではなく、
甘辛い薬味ダレを塗ったフライドチキンがまたうまい。
これをヤンニョムチキンと呼び、専門店では両方から選べる。

ヤンニョムチキンを食べると手や口元がベトベトになるが、
ニンニクと唐辛子がきいて、実に韓国らしい味わいだ。

電話1本で、幸せの夜食が手に入る。

そのほか食堂によっては、定食のペダルも可能。

キムチチゲやテンジャンチゲといった定食類を、
ごはん、キムチなどとともにアルミのバットに乗せる。
場合によってはバットを重ねて何人分にもする。

それを「えいやっ!」とばかりに頭に乗せ、
近所の雑居ビルなどに、運んでゆくのだ。

傍から見ていると安定感などが実に不安だが、
出前慣れした韓国のおばちゃんたちは微動だにしない。
きっちり運んで、遠くの客にも食事を提供する。

韓国のペダル文化は見ていても美しい

ただ、僕自身は微妙にペダルとは相性が悪い。

ペダルを頼むという行為は大好きなのだが、
実際にその結果となると、あまりよい印象がない。

例えば、コリアうめーや!!第15号に書いたピザの話。

コリアうめーや!!第15号
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume15.htm

留学時代に韓国語でペダルを頼むという挑戦を行い、
挫折なども味わったうえ、最終的な部分でも涙を飲んだ。
コリアうめーや!!草創期に書いたものなので、
文章は拙いが、切ない話なのでぜひ読んでみて欲しい。

そのほか、出前で中華料理を取ったら、
酢豚の野菜に火が通っておらず、ガリガリだったとか、
麺が伸び伸びでどうしようもなかったこともある。

出前というのはその場で調理するものではないので、
時折ハズレもあるが、それでもハズレてしまう非常に悲しい。
事前に出前を待つというワクワク感があるぶん、
余計にハズレが悲しく思えるのかもしれない。

また、ハズレ云々とはまたちょっと話が違うのだが、
ひとつ印象的だったのが慶州(キョンジュ)での出来事。
僕は地元の大学院に通う友人宅へと遊びに行った。

そこで友人がふと思いついて言ったのが、

「八田君はコーヒーのペダルは経験ある?」

とのセリフであった。
コーヒーのペダルというのは記憶になかったので、
素直にないと答えると、その友人はニヤッと笑った。

「コーヒーのペダルを知らないとはダメだなあ」
「せっかくだからコーヒーを頼んでみようか」
「コーヒーのペダルは韓国文化のひとつだ」

友人はそう言いながら携帯電話を手に取った。

その当時、韓国のコーヒーは薄くてまずいのが基本。
よほど美味しいコーヒーでもペダルされてくるのだろうか。
僕はワクワクしながら、ペダルコーヒーの到着を待った。

すると、ほどなくしてやってきたのは妙齢のお姉さん。

お姉さんは片手にお盆を持ってきており、
そこにインスタントコーヒーと砂糖などを揃えていた。
反対の手にはポットを持ち、カップも用意している。

お姉さんは部屋の中に上がりこんで我々の隣に座ると、
慣れた手つきで、コーヒーを淹れ始めた。

出来上がったのは甘ったるいタバンコーヒー。
タバンというのは「茶房」と書いて喫茶店のこと。
コーヒー2、砂糖2、クリープ2の割合が基本だ。

我々はお姉さんの淹れてくれたコーヒーを飲み、
飲み終えると、お姉さんは一式を持って立ち去った。

なるほど。これが韓国のペダルコーヒーか。
そう納得しかけた僕であったが、
目の前の友人はガックリと首を落とし、

「すまん。今日は失敗だ……」

と、小さな声でうめいていた。

「違うんだ。本当はもっと若い子が来るんだ」
「楽しくおしゃべりしながらコーヒーを飲むんだよ」
「普通は女子大生くらいが来るんだけどなあ……」

僕にはさほどの年とも思えないお姉さんだったが、
その友人のイメージでは、もっと若い子だったのだろう。
落ち込む友人の姿が、妙に印象的だった。

ちなみに友人の言う若い子が来るというのは、
前述したタバン(茶房)文化の延長線上にあるもの。
最近は地方に行かないとほとんど見られないが、
かつてはコーヒーを飲む場所といえばタバンであった。

タバンに行くと客席に店の女の子が座り、
コーヒーを飲む間、話し相手になってくれる。
店によって、それ以上のサービスに発展させるところもあるが、
基本的には健全なプラスアルファのサービスである。

それをペダルの形式にしたのがペダルコーヒーだ。

最後にもうひとつ。

僕自身がペダル側に回った体験も紹介しよう。
注文するほうではなく、配達する側での経験である。
ちょうど留学を終えて帰国したての頃。
東京、新大久保の韓国料理店でアルバイトをしていた。

ペダルの注文が多かったのは隣町の歌舞伎町。
配達先は酔客の集まる韓国クラブである。

歌舞伎町はビルが多いので住所がわかりにくく、
クラブ自体も似たような店が多いので間違えやすい。
迷った挙句、店のお姉さんや、黒服さんによく怒られた。
ペダルする側に回っても、やはりいい記憶がない。

なので、最近はとあることを考えている。

どうにかペダルへの嫌な思いを払拭できないか。
払拭するためには、ペダルへの楽しい記憶が必要である。
ならば、ペダル関連で何か面白いことをしよう。

といったところから思いついたのが、
新大久保での大々的なペダルイベント。

なにしろ新大久保は韓国の常識が通用する町。
僕が歌舞伎町方面へ、あたふたとペダルしていたように、
たいていの店では、料理をペダルしてくれる。

すると、こういうワガママが可能になる。

あの店からあの自慢料理を頼み、
また別の店から、別の自慢料理を注文。
それを繰り返せば、各店の自慢料理ばかりが揃う。

ハシゴもせずに、新大久保中の美食が味わえるのだ。

実は長年この企画は頭の中にあったのだが、
唯一、それを実現する場所がなくて困っていた。
それがこのほど、ちょうどよい場所の提供先が現れ、
野望実現が、かなり具体的になってきた。

長い前フリになったが、今回の話はその予告。

近い将来、大々的なペダルオフ会を行いたいと思う。
忙しさのあまり、まだ現実的な内容は決まっていないが、
仕事がひと段落したら、ぜひとも実現にこぎつけたい。

史上最大規模のコリアンタウン一斉食べ尽くし企画。
その可能性は韓国のペダル文化が握っている。

<お知らせ>
ペダル関連の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
新大久保ペダルオフ会は本気で企画中。
近いうちに必ず実現させます。

コリアうめーや!!第155号
2007年8月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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