コリアうめーや!!第66号

コリアうめーや!!第66号

<ごあいさつ>
12月になりました。
クリスマスだ忘年会だと、
浮かれ気分に包まれていく月です。
いよいよ2003年も最後の月。
年が明ければもうオリンピックイヤーです。
今年1年はどんな年だったかなあ……。
なんて振り返るのも12月の楽しみですが、
みなさんにとって2003年はどんな年だったのでしょうか。
実り多き1年であったなら幸いです。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
ソウルから車で約1時間のところに位置する、
韓国有数の米どころを訪ねました。
うまい米があれば何もいらない。
そんな気持ちは日本も韓国も同じです。
コリアうめーや!!第66号。
ドンブリ片手にスタートです。

<韓国随一のブランド米を食らう!!>

僕は途方に暮れていた。
バスにガイドブックを置き忘れたのだ。

目指す店の位置がわからない。
ガイドブックに書かれた住所を頼りに、
おそらくこのへんだろうとバスを下りたはいいが、
今いるところがどこなのかもよくわかっていなかった。

「あそこで、聞くしかないな……」

僕は道路の反対側に見える小さな商店に向かった。

「すいません……」

引き戸をガラガラとあけて入る。
中ではひとりのおばちゃんが新聞に見入っていた。

「あの、この近くにヒャントチプという店はありませんか?」
「え、なんだって?」

おばちゃんが無愛想な表情で聞き返す。

「えーと、このへんにヒャントチプというサルパプの店があると聞いたんですが……」
「サルパプの店? あんた、車で来たの?」
「あ、いえ、バスで来ました」
「バス? 車じゃないの?」

おばちゃんは意外そうな顔で僕を見た。
どうやら僕が目的とする店は、車でなければ行けない場所のようだった。
狙いを定めてバスを下りたつもりだったが、
それでもだいぶ距離があるということだろう。

「じゃあ、ちょっと待っていなさい。車で連れていってあげるから」
「え?」

事態は思わぬ方向へと転がった。

「いや、大丈夫ですよ。あの、そこまで行くバスはないですか?」
「系列店なんだから遠慮することはないよ。それに、ほら、配達のついでなんだから」

おばちゃんが目を向けたその場所には、
「利川米」と書かれた袋が、どんと積まれていた。
この米を配達するついで……。そして店は系列店……。ついで……。
ついでならば乗せていってもらっても悪くはないだろうか。

「本当にお世話になっていいんですか?」
「ああ、ちょっとここで待っていなさい」

というと、おばちゃんは電話をかけ始めた。
無愛想なおばちゃんだと思ったが、意外に親切な人のようだ。

しばらく待つと、白いバンが店の前に止まった。
配達担当の若いお兄ちゃんが素早く米を積み込むと、
おばちゃんはその車に乗るように言った。

「ありがとうございます。宜しくお願いします」

僕はおばちゃんに深く頭をさげ、配達のお兄ちゃんに挨拶をした。

車は僕の予想をはるかに越え、10分くらいの距離を走った。
車で10分ということは、やはり歩ける距離ではない。
あのバス停で下りたのは間違いだったのだ。

「ほら、着いた。ここだよ」
「ありがとうございま……す?」

僕は店の看板を見て驚いた。

この店、ぜんぜん違う店じゃん……。

京畿道に位置する利川(イチョン)市は、
韓国有数の米どころとして知られている。

その味のよさから、かつては王様にも献上され、
現在でもその名が全国に轟くブランド米なのだ。
利川市内には利川米を専門に食べさせる店が数多く並び、
そこではおいしいごはんが、たくさんのおかずとともに食べられる。

ちなみにサルパプというのは米の飯という意味で、
ここではその米の飯をメインとした定食のことをさす。

「おーい、外国人のお客さんを案内して来たよ。なんかサルパプ食べたいんだって」

僕を乗せて来てくれたお兄ちゃんが、
厨房のほうに声をかける。

看板の店名を見て呆然としていた僕は、
お兄ちゃんのその一言で我に返り、途端に慌て始める。

あああ、いかんいかん。
サルパプを食べたいのは、食べたいのだけれど、
僕は事前にガイドブックで有名店をチェックしていて、
そこに行きたいわけであって、ただサルパプが食べたいのではなくて、
だからその、あの、えと、あたふたあたふた。

僕の動きの悪い脳みそが、ガタピシと言い訳を考え始める。
だが、彼やおばちゃんの好意を無碍にするのも、はばかられることだ。
僕は口をモゴモゴさせたまま、いつの間にやら客席についていた。

仕方ない、ここで食べることにするか……。
観念した僕は、ともかく目当てだったサルパプ定食を注文した。

期待とあきらめが入り混じったような気分で待っていると、
まず小鉢に盛られたお粥が出てきた。アワビ粥である。

最初にお粥が出されるのは、胃を動かして食欲を増進させるためだ。
アワビはカケラが入っていたような、入っていなかったような、
入っていたかもしれないけれど、気付かなかったような、
という量しか入っていなかったが、食欲増進のためなのでこれはこれでよい。

アワビ粥を舐めまわすように食べていると、
ほどなくワゴンに乗ってたくさんの皿が運ばれてきた。

メインのサルパプも1人用の釜に入って出てきた。
釜のフタを取ると、湯気がもわーんとあたりを真っ白にする。
米のほかに、黒豆、銀杏、グリンピースが少量入っていた。

オカズのほうは圧巻である。
そのずらり感を実感してもらうためにも、
全部の皿をいっぺんに紹介しよう。

タラの芽、ワカメ、白菜キムチ、シラヤマギクのナムル、ミツバのナムル、ジャガイモのサラダ、ポッサム(茹で豚の葉野菜包み)、サンマの塩焼き、エリンギ焼き、テンジャンチゲ(味噌で味付けたチゲ)、ツルニンジン焼き、ケランチム(韓国の茶碗蒸し)、ウゴジチヂミ(菜っ葉の汁物)、イシモチと大根の煮物、レンコンとカボチャのジョン、ケジャン(ワタリガニを漬けたもの)、レンコンの煮物、ヨルムキムチ(大根の葉っぱのキムチ)、牛肉の醤油煮、明太子、生ガキ、大学芋の22皿。そこに食後の飲物としてスジョングァ(シナモンなどを入れた冷たい飲物)がついた。

大半の人が途中から読み飛ばしたことだろう。
そのくらい壮観な眺めであった。

「うひょー、どれから食べようかなあ」

あまりの皿数にどこから手をつけてよいのか悩む。
迷い箸どころか、困惑箸、当惑箸といった趣である。
悩みに悩んだまま、ひとつずつ手を伸ばしていく。

「おおっ、このツルニンジン焼き、うまいっ!!」

ツルニンジンは根茎を食用とするキキョウ科の植物。
ゴボウを柔らかくして繊維を増やし、高麗人参の風味とクセを足したような味がする。
独特の歯触りが魅力で、ほろ苦さと甘辛いタレの味が調和してとてもおいしい。

「ぬぬっ、このテンジャンチゲ、材料が只者ではないな!!」

たっぷりのアサリにタマネギと長ネギ、それにヒメニラが入っていた。
ヒメニラは冬から春にかけて登場する山菜で、味噌との相性が抜群である。

そして何よりうまいのが、ごはんだ。

少し固めに炊かれたごはんは、すべてのおかずの味を引きたてる。
どのおかずと食べてもごはんが進んで仕方がない。

明太子を箸の先に乗せて、ごはん。
牛肉の醤油煮をちょっとつまんで、ごはん。
テンジャンチゲをスプーンでひとすすりして、ごはん。

ほろ苦いミツバのナムルを一口食べて舌を新しくし、
野趣あふれるツルニンジン焼きを食べて、またごはん。

さて、次はどうしようか。
白菜キムチをシャキッと味わってごはんといこうか。
あるいはエリンギ焼きなどをつまんでみようか。

イシモチと煮込んで、風味が染み込んだ大根もまた捨てがたい。
それともサンマの塩焼きに少し箸を伸ばしてみるか……。
などとやっているうちに、あっという間にごはんがなくなってしまった。

サルパプはごはんに対して、おかずの量が多すぎるのだ。
頭ではもっと食べたいと思っているにもかかわらず、
どうすることもできない満腹感に襲われてしまう。

「ああ、このごはんを毎日食べられたらなあ……」

腹をさすりながら、しみじみと呟く。
韓国を代表するブランド米は確かにうまかった。

目的の店にはたどり着けなかったが、
僕は充分に満足であった。

店はとんでもなく辺鄙なところにあり、バス停すら近くになかったため、
なんと店の人が親切にも車で宿の近くまで送り届けてくれた。

利川にはうまい米があり、
そして温かい人の情もあった。
旅のハプニング歓迎。
それを再認識させてくれた町である。

<おまけ>
利川にはケゴル大根(ケゴルム)という特別な大根があるそうです。普通の大根とは異なり、カブのような形をしているということ。最近は生産が極端に少なくなっており、特定の農家が細々と栽培しているだけといいます。このケゴル大根でつくったカクトゥギ(大根の角切りキムチ)が絶品と聞いて、利川を探し回ったのですが発見できませんでした。いつかは食べてみたい一品です。

<お知らせ>
サルパプの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『八田式「イキのいい韓国語あります。」韓国語を勉強しないで勉強した気になる本』は好評発売中です。ホームページでは裏話、ブックレビューなどを紹介しています。
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm

<八田氏の独り言>
2003年のマイ10大ニュース作成中。

コリアうめーや!!第66号
2003年12月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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