コリアうめーや!!第50号

コリアうめーや!!第50号

<ごあいさつ>
4月1日になりました。
新学期、年度始め、エイプリルフール。
春の陽気と、舞い散る桜に、
どこか気もそぞろな今日この頃です。
ワクワクなのか、ドキドキなのか。
まったく根拠はないのですが、
スゴイ何かが起こりそうな予感がします。
ああ、一体何が起こるのだろう……。
何が、何が、何が、何が……。
うふふふふふ。
はい、はい、はいはいはい。
そうです。そうなんです。
ついに来ました記念の号。
コリアうめーや!!第50号であります。
パチパチパチパチパチパチパチパチ。
ありがとうございます。ありがとうございます。
ということで、めでたい50号記念。
第25号でやった企画をもう1度引っ張り出してきました。
時計の針をほんの少し戻し、
ちょっとしんみり語ります。
あの日あの時あの人と……。
パート2のスタートです。

<あの日あの時あの人と……2>

美味しいものを食べた思い出がある。
あの日あの時あの人と、一緒に食べた味わい深い思い出がある。

僕が留学生としてソウルにいた頃の話。
留学生活も1年を越え、語学学校でもすでに最上級のクラスで学んでいた。
卒業試験にパスし、卒業論文を提出すれば卒業。
後は日本に戻るだけという頃であった。

その最上級で僕らを教えてくれたのがジン先生だ。
それまで担任を受け持っていた先生がケガをしてしまったため、
急遽代打としてジン先生がやってきた。

突然やってきたジン先生は、僕らのクラスに嵐を巻き起こした。

ジン先生は朝1番から満面の笑顔でどーんとぶつかってくる。
とにかくエネルギッシュで、パワフルで、ダイナミック。
僕らにとってジン先生の授業は衝撃的だった。

留学生の最上級生なんてのは慣れに包まれている。
言葉はある程度できるし、語学学校の生活にも順応している。
悪くいえば、すでにたるんでいる。

宿題はしない。授業をサボる。遅刻をする。途中で帰る。
予習をしない。復習もしない。2日酔いのまま学校へ来る。
1日4時間の授業よりもアルバイトが大事。
あるいは友達と遊ぶほうが大事なのだ。

留学生は言う。

「だってもう国に帰るんだから、勉強よりも遊ぶほうが大切じゃん。」

語学学校の最上級生なんて多かれ少なかれそんなもの。
そんなたるみきった僕らに喝を入れたのがジン先生だった。

ジン先生ってこんな人だ。

信じられないような早口で機関銃のようにしゃべる。
まるで漫画のようにコミカルでダイナミックな動きをする。
1秒とじっとしておらず、教室中を駆け巡りながら授業をする。
ニコニコしていたかと思うと、ケラケラと爆笑している。

でもって美人なんだよね……。

当時、先生は語学学校で講師をしながら、大学院で博士過程に学んでいた。
僕らの授業のほかに、夜間の授業も受け持ち、自らの研究もしなければならない。
ダブルヘッダーの授業を毎日こなし、さらにアメリカ留学の準備も進めていた。

おそらく殺人的な忙しさだったのではと思う。
にも関わらず、朝イチからスカーンと音がするような笑顔でぶつかってきた。

たるみきった僕らに、もうちょっとがんばろうかと思わせる先生であった。

先日、そのジン先生と2年ぶりの再会を果した。
韓国をぐるぐる回るうまいもの探しの旅に出る直前。
ソウルに到着してすぐの話である。

メールのやり取りはしていたが、久しく会っていない。
先生は1年間のアメリカ留学を終えて、今は大学の講師をされているとのことだった。
忙しい隙間を縫って、僕と会う時間を作ってくれた。

先生と待ち合わせたのは新村という町のスターバックスコーヒー。
約束の時間に店へ行くと、奥の方に座っていたジン先生と目があった。

そこまで行こうとすると、先生はそれを制するかのような勢いで、
パタパタパタパタパタパタパタパタと駆け寄ってきた。

僕の目の前50センチのところまで来て、
急ブレーキをかけたかのようにキュッっと止まると。

「ひさしぶりなんだから、ハグくらいはしなきゃでしょ。」

と言ってキラリと笑い、次の瞬間ぎゅっと抱きしめられた。
先生に抱かれるのは卒業式の日以来2度目だった。
ああ、ジン先生だなあ……と、僕は思った。

先生は髪型から何から2年前そのままだった。
アメリカに留学していた頃は髪を腰まで伸ばしていたそうだが、
こちらに戻ってきて、また教壇に立つため短くしたそうだ。

眼鏡の奥で光る目が、少し知的になったような気がしたが、
それは留学帰りという僕の先入観のためだった気もする。

「さ、今日は何を食べるの? おごるよ!」

スターバックスを出て先生が言った。
僕にはどうしても行きたい店がひとつだけあった。

「できたら、以前、先生が話していた女性がいないと入れないという店に……。」
「あー、はいはいはいはい。あそこね。」

そういうと、先生はくるりと踵を返し、

「よし、行こう!」

と言って歩き始めた。

卒業時に僕らのクラスは、新村うまいものマップというのを作成した。
それは卒業文集の最後のページを飾ることになっていた。
クラスのひとりひとりが、推薦の店について一言ずつ書いた。
それは留学生にとって、思い出の店ばかりであった。

ほぼ出来あがって先生に見せたところ、

「これだけじゃ、駄目でしょ。ちょっと貸しなさい。」

唇の端をきゅっと結んで、にこっと笑うと、
先生は行きつけの店をすごい勢いで書き足し始めた。

「ここの屋台がおいしいのよね……。あ、ここの道を行くとおいしい中華料理屋があるの
よ。それと、ここのカフェも外せないし……。あ、そうそう。ここには女性がいないと入
れないナクチチムのお店があったわね。」
「女性がいないと入れない?」
「そう。ここの社長はすごく頭のいい人なんだよね。男性客だけのグループを排除して、
おしゃれな雰囲気を作って成功したのよ。いいお店よ。」
「へえー。」

僕が行きたかったのがこのナクチチムの店だ。

韓国語でナクチとはテナガダコとのこと。
韓国ではこのタコをよく食べる。

刺身屋では生きたままのテナガダコを包丁でぶつ切りにし、
ウネウネと動いているやつを塩とゴマ油で食べる。
また炒め物にもするし、鍋料理にもなる。

このテナガダコを豆モヤシなどの野菜と一緒に、
辛いタレで炒めるように煮たのがナクチチムという料理。
ぷりぷりと柔らかい足の部分が辛いタレと絡んでおいしい。

店に入るとムール貝のスープがまず出てきた。

「この店はナクチチムだけでなく、これもおいしいのよね。」

と言って、先生は僕の器に大盛りにしてくれた。
続いて底の浅い中華鍋のような鉄板に入ったナクチチムが出てくる。

「さあ、どんどん食べなさい。」

と言って、またも先生は僕の器に大盛りにしてくれた。

テナガダコと豆モヤシが絡まったあたりをごそっと口に運ぶと、
豆モヤシのシャキシャキ感と、タコ足のぷりぷり感が絶妙だった。
他の店で食べるタコよりも柔らかく食べやすい。

「どう?」
「うまいっす。」
「よーし!」

食事中、先生は留学生活について色々と話してくれた。
授業の話。遊びに行った話。童顔なので最初はハタチくらいに見られていたという話。

「語学学校で講師をやっていたっていったらみんな目を丸くしてたわよ。最初はみんなあ
たしのことを学部生かなにかだと思ったみたいなのよね。討論の授業とかあっても、子供
が何を言っているんだみたいな顔でみんな無視するの。授業が始まってだいぶした頃に、
あたしが講師時代の話をしたら、あのー、失礼ですが年齢はおいくつですか? だって。
失礼よねえ。あっはっはあ。」

先生のパワフルで機関銃のような語り口は健在だった。

先生の元気を身体いっぱいに吸収し、
僕はこれから始まる韓国うまいもの巡りの旅を、
頑張っていこうと気合を入れ直したのだった。

<お知らせ>
ナクチチムの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
あの日あの時あの人と……。
次は第75号で書く予定です。

コリアうめーや!!第50号
2003年4月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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