コリアうめーや!!第273号

コリアうめーや!!第273号

<ごあいさつ>
7月15日になりました。
すっかり気温の高い日が続いており、
僕の住む東京でも来週は梅雨明けだそうです。
今年は豪雨の続く地域もあるだけに、
夏の日差しが余計に待ち遠しいですね。
カラッとした気分に浸りたいものです。
まあ、夏になったらなったで、
「暑い!」
とぼやいたりするんですが。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
季節にあわせて夏の料理をチョイスしました。
韓国料理の中では王道ともいえる一品を、
あれこれいじくってみたいと思います。
コリアうめーや!!第273号。
サムからサムへの、スタートです。

<分類学的サムゲタン研究!!>

冒頭のあいさつを爽やかに書いたところで、
早くもネジが切れて、バテ気味である。

「夏の日差しが余計に待ち遠しいですね!」
「カラッとした気分に浸りたいものです!」

なんて書いておきながら、本音は、

「暑い!」

のひと言がすべてである。
窓を全開に開け放しても、風はほとんど流れず、
むしろ、額から汗ばかりがだらだら流れる。

「ええい、暑いぞ、ちくしょう!」

と叫びかけたところで、冒頭のキャラ。
爽やか青年風の自分が、いそいそとまた出てくる。
暑さにあえぐ自分と、鬱陶しい1人2役会話。

「え、八田くん。暑さにバテ気味?」
「ああ」
「もう、それならそうと言ってくれればいいのに」
「あ?」

「暑さに効くいい韓国料理があるんだよ!」
「ふーん」
「その料理を食べれば夏バテなんて一瞬で解消!」
「……」

怪しげな薬でも売りつけそうな口調だが、
そこは話の勢いとでも思って欲しい。

「え、お高いんじゃないかって!?」
「いやいやいや、それで夏を快適に過ごせるんだよ」
「体調壊したら、仕事だって出来ないじゃない」
「それを考えたら、タダみたいな投資だよ、投資!」

いっそ、開き直って怪しさを出そうとすると、
それはそれで、なかなかうまくいかない。
どうやら、僕に詐欺師の才能はないらしい。

このキャラを早々に諦めて本題に進む。

えーと、夏バテを防ぐ韓国料理について。

日本では夏のスタミナ料理といえばウナギだが、
韓国ではサムゲタンがそのポジションにある。

サムゲタンとは、高麗人参とひな鶏のスープ。

漢字では「参鶏湯」、厳密には「蔘鶏湯」と表記し、
高麗人「参」と、ひな「鶏」の「湯(スープ)」という意味だ。
かつては「鶏参湯(ケサムタン)」とも呼ばれたが、
高麗人参の薬効に敬意を表し、順序が入れ替わったとされる。

夏バテ防止のスタミナ料理とされる背景には、

「以熱治熱(イヨルチヨル)」

と呼ばれる韓国人の健康思想がある。
文字通り、「熱を以って熱を治める」という意味だが、
端的にいえば、

「夏だからって冷たいものばかりじゃダメだよ!」
「身体を冷やしすぎると体調崩すよ!」
「むしろ熱いものを食べると涼しく感じるよ!」

ということだ。
韓国に限らず、日本でもよく聞く話ではある。

韓国では漢方の考え方から、外気温が高いときには、
バランスを取るために、体温はむしろ下がっていると考える。
体調を維持するためには、温かいもの、熱いものを食べ、
身体を温めることで、正常に戻すという考え方だ。

基本的には温かい料理を食べればよいのだが、
そこに鶏肉や高麗人参を加えて、さらなる滋養強壮を目指す。
サムゲタンを夏に食べる理由はこんなところだ。

また、日本における「土用の丑の日」と同じように、
韓国でもサムゲタンを食べる日があり、2012年は……。

・7月18日(水) → 初伏(チョボク)
・7月28日(土) → 中伏(チュンボク)
・8月07日(火) → 末伏(マルボク)

となっている。

初伏、中伏、末伏と3日間あることから、
これを総称して「三伏(サムボク)」と称する。
あるいは単体で「伏日(ポンナル)」と呼ぶことも多い。

というところまでが基礎情報。

サムゲタンは有名料理だけに蘊蓄が多く、
要点を抑えるだけでも、なかなか大変である。
とうてい脱線などしているヒマはないので、
基礎情報を抑えたら、メインのテーマへと移る。

タイトルにも書いてあるが、

「分類学的サムゲタン研究」

というのが今回のメインテーマ。
このメルマガの第216号では同じ切り口で、
サムギョプサルの分類研究を行っている。

今回はそれをサムゲタンでやろうということだ。

第216号/分類学的サムギョプサル研究!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=648820

なお、この分類学というのは正式な学問だが、
僕はその心得がある訳でなく、まったくの我流である。

有名になって、種類が増えてきた韓国料理を、
まるっきり自分勝手に分類していくだけの作業。
いうなれば「お遊び」に近いような研究なのだが、
試してみると、これが意外に面白かったりする。

「韓国料理もいろんな切り口があるな」

という発見につながるのだ。
論より証拠、早速、研究成果を見て頂こう。

1、鶏肉の要素

なによりも鶏肉がなければ始まらない料理。
どんな鶏肉を使うかは根本的な要素だ。
ただし、飲食店が込めるこだわりに比して、
料理名として顕在化することは少ない。

・サムゲタン
・トジョンタクサムゲタン(地鶏のサムゲタン)
・オゴルゲタン(烏骨鶏のサムゲタン)
・パンゲタン(ハーフサイズのサムゲタン)

むしろ、このカテゴリーは派生要素が多く、

・鶏肉の産地(国産、外国産)
・鶏肉の雌雄(ウンチュと呼ばれるオスが多い)
・ブランド鶏の使用
・鶏肉のサイズ(大きな丸鶏を使用)
・部位別(モモ肉だけのサムゲタンなど)

といったあたりが重要視される。

特に下のふたつは日本で多く見られる事象。
サムゲタン用のひな鶏は国内で入手が難しいため、
大きな丸鶏を使ったり、人気部位だけで作ることもある。
丸鶏の場合は、シェア用としての側面も強い。

2、高麗人参&漢方食材の要素

そしてもうひとつのメイン食材。
高麗人参にもバリエーションが存在する。

・インサムサムゲタン(高麗人参サムゲタン)
・ホンサムサムゲタン(紅参サムゲタン)
・ハンバンサムゲタン(漢方サムゲタン)
・オッサムゲタン(漆サムゲタン)
・ノッカクサムゲタン(鹿角サムゲタン)
・ファンギサムゲタン(黄耆サムゲタン)

韓国語では「インサム=高麗人参」なので、
厳密にいえば、いちばん上の名称は二重表現となる。
ただ、あえてインサムを強調する例は多々あり、

・いちばん高級な6年根を使用
・薬効の高い生の高麗人参を使用
・通常のサムゲタンよりも高麗人参を増量
・2番目の紅参と区別するために

といった場合にそう呼ぶことおが多い。
2番目の紅参は燻蒸した高麗人参のこと。
ひと手間かけるだけあって、こちらも薬効が高い。

あとは特定の高級な漢方食材を料理名にしたり、
全体として「漢方サムゲタン」を名乗る場合も多い。
漢方食材の組み合わせと、その薬効への期待から、

・健康サムゲタン
・美容サムゲタン

といったイメージで売る店もある。
漢方食材は無数にあるうえ、組み合わせは無限。
可能性をいえば、漢方サムゲタンも無限に存在する。

3、スープの要素

一般的にスープは鶏から出るダシを使うが、
専門店ではそこに鶏ガラや、老鶏を利用したりもする。
場合によって牛骨スープや、干しダラのスープなど、
別のスープと鶏ダシを合わせることもある。

そのほか、いろいろな食材を加えることで、
スープ料理としての個性を追求する例も少なくない。

・トゥルケサムゲタン(エゴマサムゲタン)
・ノクチャサムゲタン(緑茶サムゲタン)
・カレーサムゲタン(カレーサムゲタン)
・メウンサムゲタン(辛口サムゲタン)

4、具の要素

サムゲタンの具には、高麗人参が入るほか、
定番の具として、もち米、ナツメ、栗、ニンニクなど。
店によって、銀杏や松の実を加えることもある。
そこから進化をさせたのが、具に個性のあるサムゲタンだ。

・チョンボクサムゲタン(アワビサムゲタン)
・ヘムルサムゲタン(海鮮サムゲタン)
・ナクチサムゲタン(テナガダコサムゲタン)
・ヤチェサムゲタン(野菜サムゲタン)
・ポソッサムゲタン(キノコサムゲタン)
・ソンイサムゲタン(松茸サムゲタン)
・ヌルンジサムゲタン(おこげサムゲタン)

主材料が鶏肉なので、海鮮を足すことが多いが、
野菜やキノコなど、ヘルシー路線のサムゲタンもある。
あるいは日本だと美容という点から進化をさせて、
コラーゲンボールをトッピングする例もある。

5、その他の要素

そのほか、サムゲタン自体を変化させたアレンジ。
サムゲタンの範疇に含めるべきか悩むものもあるが、
サムゲタンと紹介したほうがわかりやすいことが多い。

・サムゲジュク(鶏肉と高麗人参の粥)
・ハンバンペクスク(漢方入り丸鶏の水炊き)
・ハンバンオリペクスク(漢方入りアヒルの水炊き)
・ハンバントンダックイ(焼きサムゲタン)

といったところで、今回分類をした要素は以上。

サムギョプサルの分類が8要素だったことを考えると、
サムゲタンの5要素は、やや少なめな印象もある。
ピックアップした料理名も27個に留まった。

だが、ここにあげたのは比較的メジャーなもので、
かつ、できるだけ韓国で食べられているものを選んだ。
サムゲタンは日本でもアレンジが進んでいるので、
それを含めると、さらに可能性は広がってゆく。

背景には、サムゲタンが獲得した知名度と、
韓国料理でも群を抜く、健康と美容のイメージがある。

このあたりから、アンテナを伸ばしていくと、
今後も面白いサムゲタンがいろいろ登場しそうだ。

というようなことを思いつつ検索をかけたら……。

・サムゲタン風炊き込みごはん
・サムゲタン風ラーメン
・サムゲタン風うどん

みたいな料理がずらずら出てきた。
発想力を鍛えて、いろいろ試せるスタミナ料理。
そんなポジションが確立しつつある。

ならば個人的にも何か考案したいところだが……。

・サムゲ焼きとり(鶏肉と高麗人参のねぎ間風串焼き)
・サムゲサラダ(鶏肉と高麗人参のサラダ)
・サムゲ南蛮(高麗人参入りの鶏南蛮そば)
・サムゲ天丼(鶏肉と高麗人参の天丼)
・サムゲ茶漬け(鶏肉を具にした人参茶のお茶漬け)

といったところまで考えて、
居酒屋のメニューみたいになってしまった。

まだまだ修行が足りないらしい。

夏に向けて、サムゲタンを大量摂取しつつ、
さらなる未来を想像したいと思う。

<お知らせ>
6月5日(火)に学研教育出版より新刊が出ました。
「ハングル練習帳」「ハングルドリル」「ペラペラドリル」に続く、
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タイトルは、

『世界一やさしい韓国語 初級脱出!』

音声CDのほか、練習問題の解説は僕が登場する動画でもフォロー。
一連のテキストを使って頂いた方には、いいステップアップになるはずです!

韓食日記
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<八田氏の独り言>
なにが衝撃って、最後のオチ用に考えた、
サムゲタンまん(中華まん)が実在したことですね。

コリアうめーや!!第273号
2012年7月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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