コリアうめーや!!第140号

コリアうめーや!!第140号

<ごあいさつ>
明けましておめでとうございます。
そして、セヘポンマニパドゥセヨ。
2007年も美味しい韓国料理の話題を、
精一杯、伝えていきたいと思います。
今年も1年、宜しくお願い致します。
さて、そんな新年最初のメルマガですが、
昨年末に出かけた韓国旅行の報告から始まります。
12月25日から31日までの6泊7日。
久しぶりの韓国旅行となりましたが、
非常に濃密で、感じることの多い旅でした。
今回から4、5回くらいに分けて、
食べてきた料理の報告をしたいと思います。
まずは初日、釜山での食事から。
コリアうめーや!!第140号。
韓国旅行の醍醐味を語る、スタートです。

<釜山で味わう韓国旅行の醍醐味と鴨料理!!>

韓国に行くことが決まる。
日程中に会いたい人に連絡する。

すると韓国旅行はそこから始まるのだ。

韓国旅行の醍醐味は波乱万丈かつハプニング三昧。
韓国人の行き当たりばったりな言動と行動に翻弄され、
パニック寸前のめまぐるしい日常を味わえる。

そんな楽しさを出発前の段階から報告してみたい。

今回は仕事の関係で旅行日程の確定が遅れ、
出発の1週間ほど前から訪韓の連絡を始めた。
まず電話したのは旧「チャムナム家」のご夫婦。

「チャムナム家」の話は第123号でも書いたが、
東京・新大久保にある行き付け韓国家庭料理店である。
すでに店自体は他の人へと権利を譲っており、
ご夫婦も昨年8月に帰国し、現在は釜山に住んでいる。

「次また韓国に行くときは絶対に遊びに行きます!」

と約束していたのが、延びに延びて年末になった。
しかも日程の関係で釜山滞在はわずか1日。
それでも、絶対に会いたかったので無理に釜山から入った。

12月25日の夜に釜山の金海空港に到着し、
翌日の26日午後には電車でソウルへと移動。
帰国は31日に仁川空港からという慌しい行程だ。

その旨をご夫婦に電話で伝えると……。

「何も心配せずにとにかく来なさい!」

という実に韓国人らしく頼もしい言葉。
ごはんもご馳走してくれるし、家にも泊めてくれる。
ありがたくもすべて面倒を見てくれるとのことだ。

日本的な感覚では申し訳ない限りだが、
韓国的な感覚ではよくあることだったりする。
もちろんすべてタダでは申し訳ないので、
こちらも大量のお土産を抱えていく。

そしてまた、頼まれた買い物も請け負う。

意外にこの買い物というのが難関で、
ときにはとんでもないものを頼まれたりする。

番傘を6本買って来いという人がいれば、
広辞苑と逆引き広辞苑を買って来いという人もいる。
ローソンの冷やし中華というのもあった。

韓国と日本を行ったり来たりしている人であれば、
この手の頼まれごとの話で、小一時間は盛り上がれる。

そして今回の頼まれごとは……。

「ルイ・ヴィトンのベルトと黒コショウ2袋」

であった。

そんな高価な買い物を任せるのもすごいが、
もうひとつが黒コショウというギャップもすごい。

さらにルイ・ヴィトンのベルトというのも適当で、
モノグラムのデザインでバックルは大きいものがよい。
娘婿への贈り物で、サイズは34インチ。

後は適当に僕のセンスで選べとのことだった。

センスで選べと言われても高価な買い物である。
カタログを見て選んでもらったほうがよいのでは、
と電話で伝えたところ……。

「ケンチャナ(大丈夫)!」

という力強いセリフが返ってきた。

韓国人の言う「大丈夫」は、
かなり大丈夫でない状況でも乱発されるのが常。
理屈はないが、説得力だけは大いにある。

そこまで言われては仕方がない。

若干ハラハラしながらも、条件に合うものを探し、
後は自分のセンスで適当に選んで買っていった。

それでどうなったかは、オチにまわすとしよう。

逆に黒コショウのほうは要求がえらく細かかった。

新宿の職安通りにある「肉のハナマサ」に行き、
業務用の黒コショウ(500グラム)を2袋買うこと。

コショウなど韓国にもあると思うのだが、
当時、店で使っていたものがベストなのだとか。
やむなく言われた通り、職安通りまで行って買った。

これらの荷物を抱えて、僕は釜山を目指した。

到着した金海空港ではご夫婦が迎えに来てくれていた。

「おおー、八田! よく来たな!」

税関を抜けた出口のところでお父さんと目が合う。
いちばん目立つ、通路の真ん中で仁王立ちしていた。
その後ろで、お母さんも笑顔で手を振っている。

がっしりと抱き合って4ヶ月ぶりの再会を喜び、
元気だったか? 元気でしたか? の挨拶を交わす。

と、同時にいちばん重いスーツケースをひったくられた。

「ああっ、お父さん。それは重いので僕が……」
「ケンチャナケンチャナ!」

ここでも大丈夫の嵐で荷物を持たせてもらえない。
韓国式とはいえ、何から何までで申し訳ない限りだ。

そして車に乗ると、今度は食事の相談である。

「食事はしてないよな!」
「はい」
「よし、じゃあ広安里に行って刺身を食うぞ!」
「はい」

広安里というのは釜山でも有名な海水浴場。
刺身の専門店がたくさんあることでも知られる。
港町、釜山らしい名物料理ではあるのだが……。

決定した10秒後に、お父さんの気が変わる。

「やっぱり鴨料理にするか?」
「はあ……」
「よし、じゃあ行き付けの鴨料理店に行くぞ!」
「はい」

と言った10秒後にまたお父さんの気は変わり、
刺身、鴨、刺身、鴨、むしろ刺身の後に鴨、やっぱり鴨、
という流れで、鴨料理店に行くことが決まった。

冒頭に書いた、

「行き当たりばったりな言動と行動に翻弄され、
パニック寸前のめまぐるしい日常を味わえる」

の片鱗がすでにここから見え隠れしている。

これを楽しいと思える人は韓国にズブズブはまっていくし、
何故!? と戸惑う人はイライラするかオロオロすることだろう。
僕はそんなコロコロ変わる状況を眺めつつ、
韓国に来たなあ、という感動を久しぶりに味わっていた。

ご夫婦行き付けの鴨料理店は空港近くにあった。

ちょうど閉店時間きっかりの到着だったが、
予約の電話を入れていたこともあり、快く入れてくれた。
このあたりの融通がきくのも韓国ならではである。

なお、お父さんが事前に頼んでいた料理は2種類。

オリヤンニョムグイと、オリハンバンヤクタン。
オリヤンニョムグイは甘辛く下味をつけた鴨焼肉のことで、
オリハンバンヤクタンは漢方薬と煮込んだ鴨鍋である。

ちなみに「オリ」というのが韓国語で鴨の意。

この一単語でマガモ(野鴨)とアヒル(家鴨)の両方を指すため、
飲食店などで「オリ」と書かれるとどちらかわからないことが多い。

この店では親切にも「チョンドゥンオリ」と表示されていた。
両者を区別して呼ぶときはマガモを「チョンドゥンオリ」と呼び、
アヒルのほうを「チボリ(チプ-オリ)」と呼ぶのだ。

すなわち、この店はマガモ(野鴨)料理の専門店なのである。

それだけでも料理への期待度が高まったが、
実際に料理が出てくると、その迫力に驚かされる。

まず登場したのはオリヤンニョムグイ。

テーブルの上に中央の盛り上がった丸い鉄板が用意され、
タレに漬け込まれた鴨1匹分の肉がどさっとあけられる。
タマネギを中央に加えて、後はジリジリ焼くだけだ。

タレの焦げる香ばしい匂いが漂ってくるとともに、
鴨肉の黄色い脂が、ジワジワと染み出してくる。

その脂でさらに身を焼き、中までしっかりと火を通す。
タマネギがクタクタになり、鴨肉の身がカリッと焼け、
食欲への刺激が最大限になったら出来上がり。

サンチュで包んで食べるのが韓国式ではあるが、
まずは我慢しきれずに、そのまま箸でつまんでみた。

口に放り込むと、まず感じるのは肉の柔らかさ。
外側はカリッと焼けているが、中は驚くほど柔らかく、
しっとりしたうまみが、にじみ出てくる。

焼いている途中にとろとろ流れ出てきた脂も充分残っており、
特に外側についた脂身の部分がジューシーで美味しい。
甘さと辛さの交じり合ったタレもよく絡んでいる。

「うん、うまいっす!」

と笑顔で言うと、お父さんはそれ以上の笑顔で、

「そうかそうか。まあ1杯飲め!」

と釜山の地域焼酎である「C1」をすすめてくれた。
よく冷えた焼酎のストレートで鴨肉の脂を洗い流すと、
また次の一口が新鮮な味わいとして感じられる。

ひとしきりオリヤンニョムグイを食べたところで、
今度はオリハンバンヤクタンが運ばれてきた。

大きな鍋に鴨が1匹丸ごと煮込まれている。

漢方薬がたくさん入っているので、
独特の甘く、渋いような香りが漂っている。

甘草、鹿角、当帰、黄耆、枸杞子といった漢方薬と、
腹にモチ米を詰めた鴨をじっくりと煮込んだ料理。
朝鮮人参、ナツメ、松の実なども入っている。

鴨で作ったサムゲタンに、さらに漢方薬を足したような感じ。
いかにも健康によさそうで、効きそうなイメージの料理だ。

手元の器に取り分けると、骨がぽろっと抜けた。
茶色い煮汁の中で、鴨肉がとろとろに崩れかけている。
柔らかくなったモチ米と一緒に鴨肉を食べると、
こってりと濃くありつつも、優しい味のお粥を食べたようだった。

「甘草の量がちょっと多いな」

とお父さんは顔をしかめていたが、
確かに甘味は強いものの、僕には充分美味しかった。
鴨肉料理2品を、存分に楽しませてもらった。

この後、店を出てご夫婦の自宅に泊まる。
高台にある夜景のきれいな高級マンションだったとか、
家でもう1度盛り上がって飲み直しただとか。
語ることは多いが、スペースの関係でそれは省略。

また、翌朝食べたテジクッパプも美味だったが、
それも詳細はまた別の機会に預けることとしたい。

ちなみにテジクッパプは豚スープにごはんを入れた料理で、
今回は具が別盛りになった、タロクッパプというスタイルだった。
他の店に比べて、ずいぶんと具が豪華なのが魅力である。

茹で豚の薄切りにスンデ(腸詰め)と白菜キムチ。
これらを組み合わせて食べるテジクッパプは新たな美味。
じっくりと語れないのが残念な限りである。

書かねばならないのは、冒頭に振ったネタのオチ。

僕が苦労して買いにいったルイ・ヴィトンのベルトは、
その日のうちに、娘婿へと無事にプレゼントされた。
幸いにも喜んでくれたようだが、問題がひとつ。

釜山からソウルに移動する電車の中にお父さんから電話が来た。

「もしもし、八田か? 大変だ。ベルトのサイズが合わない!
 34インチだと思ったら、実は36インチだったみたいだな!
 これを日本に持って帰って、ちょっと交換してきてくれ!」

交換してきてくれと言われても、すでに釜山を出発している。
ど、ど、ど、どうすれば、と慌てていると……。

「ソウルに住む甥っ子に送るから受け取ってくれ」

とのこと。

そのソウルに住む甥っ子は、日本に留学しており、
店でも働いていたので、僕もよく知っている。
なるほど。それならなんとかソウルで受け取れないこともない。

まずは日本に連絡し、交換が可能か確認するとのことだったが、
サイズだけの交換ならおそらくなんとかなることだろう。
双方慌てた中での会話だったが、とりあえず了解の旨を伝えた。

冒頭に書いた

「行き当たりばったりな言動と行動に翻弄され、
パニック寸前のめまぐるしい日常を味わえる」

が、ここにきていよいよ本格化である。

「また電話をする!」

というお父さんのセリフで電話は切れた。

で、その後。

僕はソウルでの旅行日程を消化していくのだが、
結論から言うと、いくら待ってもその電話は来なかった。

ソウルに住む甥っ子君にも電話をする機会があったが
ベルトの話など、一切聞いていないとのこと。

帰る直前になってお父さんに電話をしてみると……。

「あー、ベルトな。仕方ないから自分で使うことにしたよ。
 また次に来るとき36インチのベルトを買ってきてくれ。
 バックルのでーっかいヤツを買って来いよ!」

という、あっけらかんとしたセリフが帰ってきた。
また、お母さんのほうから、

「今度は天ぷら粉を買ってきて」

という頼まれごとも追加された。

次の訪韓予定は、友人の結婚式がある今月末の予定だが、
どうやらその寸前も、ドタバタのパニック状態になりそうだ。

こういう予想外の事態があるから韓国旅行は楽しい。

もちろんパニックだけでないのは言うまでもない。
家に泊めて頂き、食事もご馳走になって観光もさせてもらった。
韓国人と深く付き合うと、そのぶん深い情で接してくれる。

僕は食の魅力を中心に韓国と接しているが、
やはりそれに勝るのは人の魅力である。

そして人の魅力があるからこそ食の魅力も大きい。

2月以来、10ヶ月ぶりに出かけた韓国で、
そんな当たり前のことを再確認してきた。

<おまけ>
メルマガに登場したお店データ

店名:チョウォネチプ
住所:釜山市江西区大渚2洞3957-3
電話:051-973-1089
http://myhome.naver.com/chowon93/

<お知らせ>
鴨料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『魅力探求!韓国料理』が好評発売中です。
新聞や雑誌などにも、徐々に掲載されております。
ソウル旅行中には、韓国の中央日報から取材を受けました。
1月8日頃の紙面に写真付きで載る予定です。

本の表紙写真や、詳細についてはこちらをご参考ください。

韓食日記 11月30日『魅力探求!韓国料理』発売!
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-310.html

アマゾンなどでも好評予約受付中です。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4093103984/

<八田氏の独り言>
早起きして雑煮を食べてメルマガを書く。
僕の新年は毎年こんな感じです。

コリアうめーや!!第140号
2007年1月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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