コリアうめーや!!第136号

コリアうめーや!!第136号

<ごあいさつ>
11月になりました。
いよいよ今年も残すところあと2ヶ月です。
秋本番どころか、そろそろ冬支度の季節。
風の冷たい日も、少しずつ増えてきております。
ただ熱燗が美味しくなるのは大歓迎ですし、
鍋料理などもぐっと存在感を増してきます。
魚なんかも脂が乗って美味しい時期ですよね。
食欲の秋もいいですが、食材豊富な冬も魅力的です。
そしてもちろん、韓国料理も美味しい季節。
唐辛子たっぷりの激辛鍋などいかがでしょう。
鼻水をたらしながら、身体の芯まで温まれます。
冬に美味しい韓国料理、たくさんありますよ!
さてそんな中、今号のメルマガですが、
ちょっと妙な角度から、ある食材を取り上げます。
途中で右往左往しながら悩んだりも致しますが、
それもどうせいつものこととご理解ください。
コリアうめーや!!第136号。
1日前を振り返りながら、スタートです。

<ハロウィン記念韓国のカボチャを考える!!>

このメルマガが配信される1日前。
10月31日はキリスト教の祭りハロウィンだ。

僕はキリスト教徒ではないので詳細は知らないが、
カボチャをくりぬいて顔を作るくらいは知っている。
なんでもあれはジャック・オー・ランタンという名前で、
悪霊を怖がらせて遠ざけるといった意味があるらしい。

興味が沸いたのでネットでいろいろ調べてみたのだが、
中でもウィキペディアの写真が爆弾岩そっくりで印象的だった。

などと唐突なことを書くと、わからない人もいることだろう。

ウィキペディアはネット上のフリー百科事典。
爆弾岩はドラゴンクエストシリーズのモンスターである。
簡単に言うとテレビゲームの敵キャラクターだ。

ちょっと憎めない、愛嬌のある顔をしている割に、
強烈な呪文を唱える恐ろしい奴……ってなんの話だっけ。
韓国料理のメルマガでゲームの話もないもんだ。

冒頭からいきなり脱線気味で先が思いやられるが、
そんな季節の情報をつらつらと見ているうちに、
次のメルマガはカボチャでいこうと思いついた。

ハロウィンを記念して、韓国カボチャ事情を考える。
うん、これはなかなかよいのではないだろうか。

韓国ではカボチャをどのように食べているのか。
韓国におけるカボチャの存在価値はいかなるものか。
韓国ならではのカボチャ料理はあるのか。

よおし、次のネタは決まった!
と盛り上がりかけた瞬間。

「でも韓国のカボチャ料理ってほとんどないな」

という冷静な事実に気付き、盛り上がりが一気にしぼんだ。
そういえば韓国で意識してカボチャを食べたことはほとんどない。

カボチャを利用した韓国料理……。

これまで食べてきた記憶を一生懸命に振り返ってみたが、
思いついた料理はわずか2品しかなかった。

ひとつは慶州の市場で食べたホバクチュク(カボチャ粥)。
後は済州島で食べたカルチグク(タチウオとカボチャのスープ)。

ちなみにホバクというのがカボチャを意味し、
ホバクチュクのチュクが粥を意味している。
カルチグクは「タチウオのスープ」という意味なので、
カボチャは入っているが主役とは言えない。

だが、その他の料理としてはまるで記憶になく、
極めてカボチャとは縁遠い食事をしていたことになる。
市場ではけっこうカボチャを見かけるのに何故だろう。

僕の韓国におけるカボチャ体験はわずか2品だ。

だがこの2品に限ってはずいぶんと印象が強い。
ホバクチュクもカルチグクも非常に美味しい料理だ。

慶州の市場では露店で売るホバクチュクを食べた。
慶州に限らず韓国の市場では必ずどこかにお粥があり、
大きな釜の中で甘い香りをたてながらふつふつと煮えている。

カボチャも米もすりつぶされたようにドロドロなので、
粥というよりも、粘性のカボチャスープといった雰囲気だ。
甘さは控えめにしてあり、優しく柔らかな味。

確か1000ウォン(約120円)程度の値段だったが、
けっこうなボリュームがあり、ずいぶんと食べ応えがあった。
市場歩きのつまみ食いにしては若干ヘビーだが、
寒い季節だったので、胃がポカポカと温まったのはよかった。

ちなみにホバクチュクとともに定番なのがパッチュク。
おしることも訳されるが、アズキ粥としたほうが正解だろう。
アズキの味を残した、ほの甘いお粥である。

これは冬至に食べると病気を遠ざけられると言われ、
冬至(トンジ)パッチュクの名前でも親しまれている。

黄色いホバクチュクと、赤いパッチュク。
色とりどりの食材が並ぶ市場の中でも鮮やかな両者だ。

一方、カルチグクは済州島の郷土料理。

新鮮な魚介類が豊富に獲れる済州島であるが、
中でもピカピカに輝くタチウオは特産品のひとつ。
ソウルあたりのスーパーで鮮魚売場に行くと、

「済州島産のタチウオが1匹1万ウォンだよー!」

と声を張りあげているお兄さんがいる。
韓国でタチウオといえば済州島産が定番だ。

そんなタチウオの新鮮さを活かした料理がカルチグク。
もちろん主役は名前の通りタチウオなのだが、
この料理には絶対的にカボチャが入ることとなっている。

従って、主役ではないが脇役ほど地味でもない。
相手役、ヒロインくらいの存在と言えばよいだろうか。

タチウオの淡いうまみを、優しい甘味でそっと支え、
色合いにおいても、光を弾く銀肌に対し、穏やかな黄色で応える。
粉唐辛子の入らない澄んだスープなので見た目にも美しい。

ほかに入る具は若い白菜と刻み青唐辛子が少々。

塩をベースとしたあっさり味のスープなので、
タチウオの上品な味わいを見事に活かしている。
青唐辛子で多少ピリッとするのも気がきいている。

といったあたりでカボチャ料理2品。

これはこれとして実によい思い出なのだが、
悲しいことに、これで知識のストックが尽きてしまった。

いつものメルマガに比べると半分ほどの分量だが、
書きたくても、書くことがないのでは仕方がない。
ハロウィン特別ということで、これで終わってしまおうか。

「僕が悪いんじゃないんです。カボチャが悪いんです!」

などと無理な責任転嫁で逃げるのもひとつの手である。

だが、さすがにそんなことをしたら顰蹙もの。

即座に配信解除の手続きが殺到するだろうし、
読者皆様から大目玉を食うこと間違いなしである。
叱責され、あるいは罵られ、こてんぱんにされた上、
あだ名が「どてカボチャ」になったりするかもしれない。

かつて小学校の頃に、学芸会の劇で「菜っ葉売り」の役をやり、
悲しくもあだ名が「菜っ葉」になったことがあった。

今振り返ってみても、あれはつらく切ない日々だった。
もう野菜関連のあだ名はごめんなので、もう少し頑張るとしよう。

ではこれ以上ストックのないところでどうするか。
しばし天井などを眺めつつ考え込んでみたところ、

「そうだ、あのカボチャがあったではないか!」

と、めでたくも電球ピコーン状態となった。

ハロウィンのイメージでいたから忘れていたが、
韓国でカボチャといえばもうひとつあるのだ。

シワの刻まれたゴツゴツ楕円形のカボチャではなく、
シュッと瓜実顔に伸びたスマートな形状のカボチャ。
見た目は白ウリかズッキーニといった美しい姿である。

通常のカボチャがホバクという名前なのに対し、
このスマートなカボチャはエホバクと呼ばれている。
「エ」というのが韓国語で「赤ちゃん」の意味だ。

このエホバクはよくズッキーニと勘違いして説明されるが、
実際は名前の通り、大きく育つ前の未熟なカボチャ。
ズッキーニもよく似た性質の野菜だが、厳密には品種が違う。

僕も以前はズッキーニだと思っていたが、
百科事典などで調べたら違うものだとわかった。

韓国ではこの未熟なカボチャをよく食べるのだ。

このエホバクは、食堂などで副菜として登場することが多い。
ナムルにもなるし、干しエビと炒めたりしても美味しい。
千切りにして軽く塩を振ったものを、ビビンバに乗せることもある。

手軽にあれこれ使える名脇役といったところか。
クセのない野菜なので、幅広い使われ方をしている。

個人的にはテンジャンチゲの定番野菜として推薦したい。

テンジャンチゲとは味噌で味を付けたチゲのこと。
日本の味噌汁とは少し異なり……。

味噌の香りが強く、ぐらぐらと煮立てて作る。
青唐辛子を刻んで入れるためピリリと辛い。
具だくさんに作るので汁物ながら主菜扱い。

といったあたりが特徴になるだろうか。

中でも具だくさんというあたりが魅力の料理。
豆腐、長ネギ、タマネギ、ジャガイモ、シイタケをはじめ、
肉類、海産物、山菜類などさまざまな具が入る。

地域ごと、家庭ごとにいろいろな具を用いる料理だが、
エホバクは比較的いつでも入るレギュラーメンバーのひとつ。
地味ではあるが、テンジャンチゲを象徴する食材だ。

僕などは半月切りのエホバクが汁の間からのぞいていると、

「うむ、テンジャンチゲらしいテンジャンチゲだな」

と思ってしまう。

中がほんのりクリーム色でふちのあたりは緑。
色彩に乏しいテンジャンチゲに、少しの華やかさも加えている。

もうひとつ、定番の料理としてジョンがある。
エホバクを使った料理としてはこれが代表格だろう。

ジョンというのは野菜や魚介などの食材に、
小麦粉と溶き卵の衣をつけて油で焼いた料理のこと。
あるいは粉を水で溶いてお好み焼き状に作ったりもする。

韓国では祭祀など、人が大勢集まるときによく作り、
たくさんの種類を大皿に盛り付けて賑やかに食べる。

使われる食材としては白身魚、牡蠣、豆腐、シイタケなど。
ひき肉をまとめたものや、ひき肉を青唐辛子に詰めたりもする。
あるいはランチョンミート(スパム)などを使うこともある。
作るのはなかなかの手間だが、数が集まると実に華やかだ。

エホバクジョンはジョンの盛り合わせにおける定番のひとつで、
テンジャンチゲとは違い、こちらは輪切りでなければならない。
スパッと潔い真円は、盛り合わせの中でいかにも美しい。

そしてこのジョンの盛り合わせが嬉しいのは、
マッコルリ(韓国のどぶろく)によく合うこと。

韓国にはマッコルリを中心とした民俗酒店というのがあり、
甕いっぱいのマッコルリと、焼き立てのジョンを大皿で出してくれる。
ずらりと並んだジョンを目にする瞬間は幸せそのもの。
目移りするし、行儀悪く迷い箸をしてしまったりもする。

人気の高い白身魚やひき肉のジョンは急いで食べたいが、
シンプルな豆腐、エホバクのジョンも捨てがたい。
交錯する他人の箸先を横目でチラチラと眺めながら、
食べたい食材の残存数を確認するのも楽しさのひとつだ。

こうしてジョンをつつきながら飲むマッコルリの味は、
韓国での喧騒の夜を、弛緩という幸せで包んでくれる。

こういう幸せな酔いに身を任せ始めると、
韓国のカボチャ事情も、ハロウィンも正直どうでもよくなる。
メルマガのテーマだとか、難しいことなど考えず、
ただただジョンとマッコルリのうまさに溺れるだけだ。

とろんとした目つきで、皿上のエホバクジョンをつまみ、
酔った勢いでカッコつけながら、

「ふっ、俺にはこの満月さえあれば充分なのさ」

などと寝言をつぶやいてみるのもまたよし。

ふとカレンダー見れば、今年の中秋の名月は10月6日。
むしろハロウィンよりも、こちらに合わせるべきだったか。

うぬぬ、しまった……。

この話、前回書けばよかった。

<おまけ>
韓国で栽培されているカボチャは東洋種、西洋種、ペポ種の3種で、このうちエホバクは東洋種、ズッキーニはペポ種に該当します。韓国にはズッキーニもあり、こちらはテジホバク(豚カボチャ)、あるいはズッキーニホバクとも呼ばれています。通常のカボチャはホバクと呼ぶほか、タンホバク(甘いカボチャ)、ヌルグンホバク(年をとったカボチャ)などの呼び名もあります。

<お知らせ>
カボチャ料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
ウィキペディアの写真は本当に爆弾岩似です。
ハロウィンという項目を検索してみてください。

コリアうめーや!!第136号
2006年11月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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