コリアうめーや!!第102号

コリアうめーや!!第102号

<ごあいさつ>
6月になりました。
気温が上がって汗ばむ日も増えています。
梅雨入りの季節も着々と近づいており、
そろそろ湿気との戦いも視野に入れねばなりません。
韓国にもやっぱり梅雨という時期があり、
韓国語ではチャンマと呼ばれます。
雨の降る日はチヂミを食べながらマッコルリを飲む、
なんて風流な習慣もありますが、やっぱり憂鬱ですよね。
傘の心配をしながら過ごす日々が、もうすぐやってきます。
早くカラッと晴れた夏にならないかなあ。
そんなことを梅雨入り前から思う、
夏生まれ、夏男の八田氏です。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
美味しい朝ごはんをテーマにしました。
釜山の市場で見つけた韓国料理の原点。
決して御馳走ではありませんが、魅力はたっぷりです。
コリアうめーや!!第102号。
珍しく早起きをしての、スタートです。

<突撃、市場のおいしい朝ごはん!!>

東京新大久保の午前4時。

前日夕方に集合した韓国好きたちが、
赤かったり、青かったりする顔を並べている。
1次会、2次会とたっぷり飲み、カラオケにも行って午前4時。
さすがにどの顔にも疲労の色がにじんでいる。

山手線の始発電車が出るまであと少し。
深夜まで営業する韓国料理店でだらだら過ごす。

「始発まであとどのくらい?」
「んー。あと1時間弱ってところかな……」
「そっか。んじゃもう少し頑張ろう」

ぐったりとした身体にムチを入れるものの、
どんよりとした会話はメリハリなく続いていく。
これはこれで楽しいが、全体的に精気がない。

仮にこのまま全員が転校生になったとしたら、
あだ名は絶対「ぐったり」か「どんより」になるだろう。

いずれアレンジされて「ぐっさん」や「どんちゃん」になるかもしれない。

かつて「サザエさんの波平さんの兄弟は?」という質問に、
自信たっぷりの声で「のりへい!」と答えてしまった娘がいた。
かわいそうに。翌日からあだ名が「のりへい」である(正解は海平)。

ただその後、あだ名はのりへいから「のりちゃん」へと変化し、
女の子のあだ名としては、まあまあ聞けるものになった。

のりへいと呼ばれたあの娘は、今も元気にしているかなあ。

話が思いっきりそれた。

目下の問題は、どんよりした新大久保の午前4時である。

たいていはどんよりしたまま始発電車を迎えるのだが、
最近になってその傾向が少し変わってきた。

午前4時にいきなり黒船級の爆弾が投下されるのだ。

それはメンバーが発する唐突な一言。

「じゃあ、これからちょっと築地に行こうか」

どーん。どどーん。どどどどーん。
ががーん。ずがぼーん。どんがらがっしゃーん。

みなの眠気が一瞬で覚め、ぐったりが一転して上機嫌になる。
新大久保で朝まで遊んだ後、築地に行って市場の朝ごはん。
これほど贅沢な喜びがほかにあるだろうか。

「太平の眠りが覚めて上機嫌 たった一言で夜は終わらず(駄作)」

かくして始発でぞろぞろと築地に向かうことになる。

朝の築地市場はものすごい活気である。

眠気は即座に吹っ飛び、かわりに食い気が襲ってくる。
なにしろ市場だけあって新鮮な海産物がたっぷり。

市場内に併設された食堂街では、午前6時から、
ウニイクラネギトロ丼や、大エビフライ定食がモリモリ食べられる。
はたまた朝からいきなり寿司という選択も可能だ。

飲んだ最後のシメには贅沢すぎるが、
その贅沢さこそが築地の大いなる魅力。

ウニイクラネギトロ丼を食べては……。

「う、う、うまいぃぃぃぃ……(以下むせび泣き)」

朝から寿司を食べると……。

「つ、次はアナゴお願いします(以下注文が延々続く)」

幸せすぎて倒れるくらいの大喜び。
全員歓喜の死屍累々である。

さて、これは東京での話。

かねてより同じような喜びが韓国にもないかと探していたが、
先日、釜山で喜びの早朝市場ごはんをついに発見してしまった。

築地が日本を代表する水産市場なら、
釜山には韓国最大の水産市場、チャガルチ市場がある。

築地とはまた系統の違う市場ごはんだったが、
2日連続で通ってしまうほどの喜びがあった。

韓国らしさあふれる、市場ごはんを紹介してみたい。

場所はチャガルチ市場の中心。
「魚貝類処理場」と呼ばれる3階建ての建物である。

通常、チャガルチ市場と呼ばれるエリアはかなり広いが、
正式にはこの建物だけをチャガルチ市場と称すことになっている。
1階には新鮮な魚介類を扱う店がところせましと並び、
2階が乾物と市場併設の食堂、3階は市場を統括する事務所だ。

1階でも新鮮な刺身を購入して食べられるが、
チャガルチ市場の朝は遅く、9時、10時からの営業開始。
早朝から食事をするためには、2階の食堂に足を運ぶ必要がある。

2階は市場で働く人たちが通う食堂なので、
パッと出てきて、ザッと食べる気取らなさが魅力。
どこかの牛丼店の宣伝文句ではないが、

「うまい、やすい、はやい」の3拍子が揃っている。

店は何軒かあるが、どこも1食2500~3500ウォン程度。
日本円にして250~350円という安さだ。

ここに「店員さんが美人」という要素でも加われば鬼にテポドンだが、
残念ながら、ここで働く人はすべておばちゃんである。

ゆえに煩悩を刺激されることなく、食欲に集中することができる。

店によって少しずつシステムが違うので、
僕が通った2日間を、1日目と2日目にわけて語っていくとしよう。

まず1日目。座ると同時にこんな料理が出てきた。

白いごはん、ワカメスープ、テンジャンチゲ(味噌チゲ)、
白菜キムチ、細ネギキムチ、大根の葉の水キムチ、
エゴマの葉漬け、青唐辛子の味噌和え、オデンの煮物。

これらに少し遅れて、焼いたタチウオも運ばれてきた。

ごくごくありふれたお惣菜ばかりだが、
朝から2汁7菜はかなり贅沢である。

「むむ、朝からこんなに幸せでよいのだろうか」

と思いつつも、バクバクと食べる。

ワカメスープは干ダラでダシがとってあり香ばしい。
テンジャンチゲはちょっと濃い目の味付けがごはんによく合う。
脂の乗ったタチウオをつつきながら、合間にキムチで箸休め。

その一口ごとに、ごはんが進んで仕方ない。

日によってワカメスープがキムチチゲだったり、
タチウオがサバだったりするが、基本の皿数はかわらない。
朝からボリュームも満点である。

2日目に食べた店は、少しシステムが違う。

座ると同時に料理がバラバラと出てくるのではなく、
こちらは座る前から、すでに料理がテーブルに並んでいる。

座って出てくるのは、大盛りのごはんと汁物が2品のみ。
汁物はテンジャンチゲと、干ダラのスープだった。

特徴的なのはごはんの器である。

冷麺を盛るような大きな器でどーんと出てくる。
この大きさが重要で、ここに目の前のおかずを好きなだけ乗せて食べるのだ。

豆モヤシのナムル、セリのナムル、茹でたコンブ、
カラシナのキムチ、大根キムチ、細ネギのキムチ。

もちろん並ぶおかずは日によって少しずつ違うが、
好きなおかずをごはんに乗せて食べる方式は同じ。

そのままわしわしと食べてもいいし、
ビビンバのようにぐるぐるかき混ぜて食べてもいい。

たっぷりのごはんがあっという間になくなっていく。

このチャガルチ市場の食堂には共通する点は2つ。

まず注文という概念が最初からないこと。

メニューを見て客が食べたいものを選ぶのではなく、
店側が用意したおかずを、出されるままに食べる。

出されたものを食べるというのは、家で食べるごはんにも似ている。

短時間でパッと食べる慌しい食事だが、
どこかあたたかみを感じられるのはそのせいだろうか。
少なくとも間に合わせの食事という印象はない。

そしてもうひとつは、ごはんが美味しく食べられること。

どちらの店でもメインらしい料理がなく、
それぞれのおかずは脇役として食卓に参加している。

1日目の店では、タチウオが辛うじてメインを張れそうだが、
それでもタチウオ定食を名乗れるほどのボリュームでは出てこない。
一連のおかずの中では目立っても、主役となるほどの存在感ではないのだ。

結果として、食事の中心に来るのはごはんである。

すべてのおかずがごはんに依存している。
いや、すべてのおかずがごはんのために存在している。

汁物もキムチも、ごはんがあってこその副菜。
ゆえにごはんが進んで進んで仕方がない。

こうした状況は観光客にとっては稀である。

一般家庭にお邪魔して、家族と同じものを食べるなら別だが、
たいていは外食になるため、メインのある食事が当たり前となる。

ナントカ定食や、カントカ定食。

それぞれにメインとなる料理があるため、
どうしても食事はそのメイン料理中心に進んでいく。
ごはんは準主役として埋もれてしまい、
印象に残るのは、常にメインの料理である。

だが、チャガルチ市場の食堂は違う。

うまいおかずでごはんをモリモリ食べる喜びがある。
山盛りのホカホカごはんと、真っ向から対決する幸せがある。

その根源的な感動は、われわれ米食民族の原点。

ごはんがおいしい。

これはやはり最大級の喜びだと思う。

築地市場の早朝は新鮮な魚介類の喜びだった。
チャガルチ市場の早朝は、たっぷりごはんの喜びである。

僕としてはどちらの市場ごはんも大いに評価したい。
どちらも美味しいし、どちらも市場ならでは味だと思う。

今回は2日とも早起きしてチャガルチの市場ごはんを食べに行ったが、
次は目一杯飲んだ明け方などに足を運んでみたい。

ワカメスープや、干ダラのスープで疲れた胃を癒し、
キムチやナムルをつまみながらごはんを食べる。

その味は築地のウニイクラネギトロ丼にも負けないだろう。

市場ごはんは早朝の味。

昼や夜では味わえない、
朝だけのすがすがしい美味しさが楽しめる。

<おまけ>
最近はやや少なくなってきましたが、一部の食堂には「定食(チョンシク)」「白飯(ペッパン)」と呼ばれるメニューがあります。ごはんと汁物、キムチ、ナムルなどの副菜に、簡単な焼き魚などがついたもので、これも特別なメインのないシンプルな韓国料理と言えるでしょう。何を食べたという印象には残りにくい料理ですが、韓国料理の原点を味わうことができると思います。街中で「定食」「白飯」のメニューを見かけたらぜひ試してみてください。また、テーマが早朝に食べる市場ごはんということで、本文中では触れませんでしたが、チャガルチ市場には新鮮な魚介類を食べられるお店もたくさんあります。営業は昼から夜、深夜にかけてなので、その時間帯には刺身などを目指すのがよいかと思います。チャガルチの市場ごはんは早朝の喜びとしておすすめ致します。

<お知らせ>
市場ごはんの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
新大久保から築地に向かう宴会はオススメです。
ただ帰宅が昼頃になるので、その日は使い物になりません。

コリアうめーや!!第102号
2005年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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