コリアうめーや!!第74号

コリアうめーや!!第74号

<ごあいさつ>
4月になりました。
桜の花がちょうど見ごろになっています。
満開の桜が、あちらでもこちらでも。
普段、何気なく通る道も、各段に晴れやかです。
この桜を眺めながら、いっぱいやりたいなあ。
なんて、朝からひとり呟いたりして。
1年の中で、もっともウキウキする季節。
待ちに待った春がやってきました。
さて、コリアうめーや!!は第74号。
前の号でも、独り言で少し触れましたが、
ついに創刊から丸3年が過ぎました。
月に2回、ぼちぼちと書いているようでも、
振り返れば、それなりの長さになっています。
というわけで、これもよい機会と、
創刊当時のことをちょっと思い返してみました。
コリアうめーや!!第74号。
初心にかえる、スタートです。

<骨付きカルビって言うな!!>

JOAK、JOAK、
ジェー、オーゥ、エーィ、ケーィ、
こちらは東京放送局であります。

というのが、日本のラジオ放送における第一声だそうな。

放送されたのは、1925(大正14)年。
いまをさかのぼること、80年近くも前のことだ。

この第一声は東京芝浦の仮放送所から東京の空へと流れ、
当時、約3500軒の受信世帯の元へと届いたといわれる。
日本の放送史に燦然と輝く、記念すべき最初の1ページである。

と、いきなり何の話かと、面食らった人もいるだろうが、
別にラジオのオモシロ豆知識を披露したかったわけではない。
第一声つながりで、無理矢理ラジオの話題をマクラに持って来たが、
本当に語りたいのは、我が「コリアうめーや!!」の第一声なのだ。

さて、諸君。
コリアうめーや!!の第一声をご存知だろうか。
産声にも等しい、記念すべき創刊の第一声。

あえてその価値を相対化するならば、
エジソンによるメリーさんの羊、アルキメデスによるエウレーカ、
いかりや長介による「おいっす」にも匹敵することだろう。

それはそれは価値のある一言である。

そう、あれは2001年3月21日。
コリアうめーや!!の歴史は、こんな言葉から始まった。

――はっきり言う。チゲ鍋って言うな。絶対言うな。――

うーむ、素晴らしい。
のっけから、いきなりの断言口調。そして命令形。
インパクトがあるというよりも、むしろ乱暴な印象すら受ける。
タイトルも「チゲ鍋って言うな!!」と、同様に突っ張っている。

僕はいったい何を思って、このメルマガを書き始めたのだろう。

創刊の喜びなどカケラもみせず、異様なまでの興奮具合。
その鼻息で、かまいたちくらいは軽く起こせそうだ。

怒っていたのだな。

そう、メルマガ創刊当時の僕は、常に怒っていた。
めんたまひんむいて、脳天から湯気を出して日々を過ごしていた。

その怒りの理由こそが「チゲ鍋って言うな!!」である。
世間にはびこる「チゲ鍋」という言葉が、僕はどうしても許せなかった。

居酒屋では「チゲ鍋はじめました」の貼り紙にブチッと切れ、
スーパーでは「チゲ鍋用にどうぞ」という宣伝文句に悪態をつき、
友人がうっかり「おれチゲ鍋好きなんだよね」などと、のたまおうものなら、
夜を徹して説教する、というくらいの怒りっぷりであった。

いいかい。キミね。チゲというのは、鍋料理のことなのだよ。
キムチが入ればキムチチゲ。豆腐が入れば豆腐チゲだ。

にもかかわらず、今キミは「チゲ鍋」などという言い方をした。
これは、おかしいなあ。チゲそのものが鍋という意味なのに、
その後に、「鍋」をつける必要がどこにあるというんだ。くどくど。

チゲが「鍋」で、鍋も「鍋」。言うなれば「鍋鍋」だよ。「鍋鍋」。
そんなおかしな、言葉をキミは安易に使ったのだよ。くどくど。

チゲ鍋ってのは、石が落石し、骨が骨折し、馬から落馬している状態であり、
長いロングコートや、熱いホットコーヒー、まわる回転寿司と同じなんだ。
初デビューや、いちばんベスト、断トツトップのような間違いと一緒だぞ。くどくど。

僕の友人たちは、眉間にシワを寄せながら僕の話を聞いていた。

「あー、わかった。わかった。もう、わかったから」
「そうか。わかってくれたか!」

友人たちに正しい知識を教えるたびに、
僕はよいことをしているという充実感を覚えた。

「わかったから、もう静かにしていてくれ」
「そうか。わかってくれたか!」

間違った情報はきちんと正さねばならない。
韓国の食文化を、そして韓国料理の魅力を、
余すところなく、正しく伝えなければならない。

そうだ、それこそが僕の使命なのだ。
との思いから、僕はコリアうめーや!!を始めたのだった。

そして、あれから丸3年。

「チゲ鍋って言うな!!」から始まったメルマガは、
なんと、先月で3周年を迎えてしまった。

あっという間だった気もするが、
振り返ってみれば、それなりに年月を重ねてきたとも思える。

「そうか、もう3年か……」

と、思ったその時。僕の頭にひとつの疑問が浮かんだ。

そういえば、「チゲ鍋粉砕」はどうなったのだろう

これまでメルマガを書き続け、あれこれ色々な韓国料理の魅力を伝えてきたが、
当初の目的だった、「チゲ鍋粉砕」はきちんと達成されたのだろうか。
声高にぶちあげた「チゲ鍋って言うな!!」の精神は、広く浸透したのだろうか。

これは1度確認しなければならない。

僕はこれまで刻んできた活動の成果を問うために、
グーグルを使って「チゲ鍋」という単語を検索してみた。

すると……。

――チゲ鍋の検索結果 約1万3200件――

げげげっ、い、いちまんさんぜんにひゃく!?
ま、まるで駄目じゃん、コリアうめーや!!……。

創刊当時に同じ検索をしていないので、
この数字が増えているのか、減っているのかはわからない。
活動が実を結んだからこそ、この数字なのかもしれないし、
あるいは、まったく何も貢献できていないのかもしれない。

だが、いまだ1万3200件ものページで、誤った言葉が使われているのは事実。
これは、なんとも嘆かわしいことであり、自分の無力が呪わしい。

「ああ、この3年間はなんだったのだろう……」

唯一の救いは、検索にひっかかってきたページの中に、
「チゲ鍋」の間違いを指摘するものも、少数ではあるが含まれていたこと。
一概にこの数字のすべてが、間違いとは言えないのだ。

だが、万を超えるというのは、かなりショックである。

いけない。いけない。このままでは、いけない。

日韓共催サッカーワールドカップの熱狂を経て。
また、ドラマ「冬のソナタ」の脅威的なヒットを経て。
やっと築いてきた日韓の文化理解が、こんなことではいけない。

こんな基礎的な間違いを放置しておいて、
何が日韓交流だ。何が日韓友好だ。何が日韓親善だ。

ああ、僕は初心にかえろう。
3年という節目の時期を迎えて、初心にかえることとしよう。
韓国の食文化に関する、間違った情報を徹底的に粉砕。
あれはいかん、これはいかん、とギリギリ吠えるクドクド男に戻ろう。

はっきり言う。チゲ鍋って言うな。絶対言うな。

いいや、チゲ鍋だけではない。
間違っている言葉など、うんざりするほどある。
この際、全部まとめて粉砕しようではないか。

まず、骨付きカルビ(グーグル検索:約1万600件)。

はっきり言う。骨付きカルビって言うな。絶対言うな。
「本場の骨付きカルビが食べたい!」なんて妄言は絶対に吐くな。

カルビとはそもそも、肋骨のことである。

「骨付き」どころか、「骨そのもの」がカルビ。
それを前提に、その周辺部の肉も含んでカルビと呼ぶのだ。
決して肉の部分をもってカルビと呼ぶのではない。

骨付きカルビという言葉は「骨付きの骨」と言っているのと同じこと。

「チゲ鍋」同様に、おかしな、おかしな言葉なのである。

ちなみに「骨なしカルビ」であれば、まだ問題はない。
最近は韓国でも、骨を外した焼肉を食べており、
これを「カルビサル」と呼んで区別している。

カルビサルの「サル」とは「肉」のこと。
骨を外したカルビを、あえて「カルビの肉」と特定する使い方からも、
骨付きカルビという言葉のおかしさがよくわかるだろう。

骨付きカルビなどとは、口が十字に裂けても絶対に言うな。

次に、コムタンスープ(グーグル検索:約743件)。

これも言うな。コムタンスープとは絶対に言うな。

コムタンのコムは、じっくり煮込むという意味で、タンはスープの意。
じっくり煮込んだスープで、コムタンなのだから、その後のスープは余計だ。

コムタンスープでは、「じっくり煮込んだスープスープ」になる。

わかりきったことを、2度繰り返す愚かしさは恥の極み。
同様にテグタンスープ、カルビタンスープも「スープ」は不要である。

そして、ビビンバチャーハン(グーグル検索:約358件)。

ビビンバとは、韓国語で混ぜごはんのこと。
チャーハンは炒めごはんなので、これもごはんが重なっている。
無理に凝った名前をつけずに、石焼きビビンバで充分だ。

さらに、ユッケ刺(グーグル検索:約257件)。

ユッケは漢字で書くと肉膾。膾とは刺身のことである。
わざわざ肉の刺身とうたっているのだから、その後に「刺」の字を入れる必要はない。
また、生ユッケというのも論外。生で食べるからこそ刺身なのだ。

最後に、チヂミ焼き(グーグル検索:約195件)。

チヂミとは、「焼く」という単語の名詞形。
日本語にするならば、「焼いたもの」または「お焼き」程度だろう。
そのあとに「焼き」をつけたら、「お焼き焼き」。
ヤキモチじゃないんだから、そこまで無理して焼く必要はない。

以上、これらの言葉はすべて間違いである。
以後は絶対に使うな。海より深く反省し、2度と使わないように!!
どうだ、わかったか!!

はあ、はあ、はあ、はあ……。

長い間ためこんできたことを、すべて吐き出してみた。
もっとあったような気もするが、とりあえず思いつく限りはこれで全部である。

巷に広がる韓国ブームにうかれてはいけない。
間違った知識。間違った認識。そしてそれが間違った常識になっていく。
文化摩擦とて、最初はほんの小さな誤解から生まれるもの。
今ここで、細かな間違いを無視してはいけない。

僕は今後、これらの間違いをすべて粉砕していく。

「チゲ鍋って言うな」から「骨付きカルビって言うな」へ。
創刊から3年という、一応の節目を越えて、
コリアうめーや!!は、まだまだ続いてゆくのだ。

<おまけ>
なーんて、久し振りに悪態つきましたが、本当のところはやっぱりぜんぜん怒っていません。創刊号にも書きましたが、これだけの間違いが生まれるというのも、それだけ韓国の食文化に対する接点が多いということ。チゲ鍋結構。骨付きカルビOK。その上で、もう1歩進んだ興味を持ってもらえれば幸いです。僕もそのための努力は惜しみません。これからも、コリアうめーや!!を宜しくお願いします。

<お知らせ>
第74号の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
チゲ鍋と同様の間違いを大募集。
八田氏が責任をもって粉砕します。

コリアうめーや!!第74号
2004年4月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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