コリアうめーや!!第30号

コリアうめーや!!第30号

<ごあいさつ>
日韓共催サッカーワールドカップ開幕おめでとー!!
そしてコリアうめーや!!も第30号おめでとー!!
スイスのチューリッヒにおいて、史上初のワールドカップ2カ国開催、
日韓共催が決定したのは1996年5月のことでした。
1996年!! なんとあれから6年が経過しているのです。
互いに手を取り合ってひとつの目標に向かって進んでいく。
その過程で両国はどれだけ近づけたのでしょうか。
6年という歳月がもたらしたものは何か。
目的を達成した両国の未来はどうなるのか。
決して一時的なパートナーシップでは終わらないことを信じつつ、
ともかくは目の前の大イベントを心から楽しもうと思います。
日本ガンバレ!! 韓国ファイティン!!
日韓両チームの奮起を期待しつつ、コリアうめーや!!第30号。
心ここにあらずのスタートです。

<トトロさんとファンテ!!>

韓国には黄金の名を冠する魚がいる。

寒風吹きすさぶ厳寒期の東海岸。野外一面に組み渡された丸太の柵。
その丸太にスキマのないようぎっしりとぶら下げられた黄色い物体。
まるで収穫を終えた稲を、脱穀前に干しているような風景だ。

干されているのは稲ではない。スケトウダラである。
獲れたばかりの瑞々しさにあふれたスケトウダラが一面に干されている。
12月から3月までの期間、野外でじっくりと乾燥させるのだ。

夜になると零下10度という厳しい寒さに凍てつき、
昼間はあたたかな太陽と海風によって静かに溶けていく。
冷凍と解凍。これを3ヶ月間繰り返し、旨みを凝縮させたのがファンテだ。
ファンテ。韓国語では黄金のスケトウダラ(黄太)という意味になる。

ファンテの旬は3月から4月にかけてのごくごく短い期間。
これを過ぎるとファンテは市場から姿を消す。
長い時間をかけて旨みを引き出しても、味わえるのは一瞬。
スケトウダラの旨さを知り尽くした韓国人が、年月をかけて作り上げた伝統の技。
韓国料理の奥深さを感じられる逸品である。

そのファンテを食べるチャンスが初めてめぐってきた。
先の旅行中。舞台はソウルのビジネス中心地、汝矣島(ヨイド)だ。
汝矣島はソウルを流れる大河、漢江(ハンガン)に浮かぶ中州のような小さい島。
ここに放送局や証券取引所、国会議事堂などがひしめいている。

「八田君。何を食べようか?」
「えーと、このあたりは何がうまいんですか?」
「うん。候補は2つある。この近所で行列のできる店といえば、
 ファンテグイとピビンネンミョンだ。」

ファンテグイとはファンテを焼いた料理。つまりファンテの焼魚。
ピビンネンミョンは唐辛子ベースのタレをかけ、混ぜて食べるスープのない冷麺。
どちらもうまそうだが……。

「ど、ど、ど、どっちも!!」
「じゃあ、2軒行って、ひとつずつ食うか……ってアホかお前。」
「うーん……。ピビンネンミョンも捨てがたいけど、やっぱりファンテ!!」
「よし、じゃあファンテだ。」

と、行列のファンテ専門店に連れていってくれた人はトトロさんという。
トトロさんとはもちろん本名ではなく、ネット上でのハンドルネーム。
八田氏の友人で、汝矣島にある某一流企業に勤めるエリートビジネスマンだ。
しばしば出張で日本に来ては「何か珍しいものを食わせろ」と八田氏を困らせる。
出会ったころはヤクルトの古田を3割増しにしたようないい男だったが、
最近は運動不足がたたり、にこやかなドラえもんと化した。

「あの看板、なんて書いてあるかわかるかい?」

15分並んで席についたところで、トトロさんが店の看板を指差した。
崩して書いた字なので読みにくい。

「チャ、チャ、チャランコベ?」
「チャリンコビ。有名なけちん坊の名前だ。昔、チャリンコビというやつがいてな、ご飯
を食べるときおかずにかける金がもったい無いからファンテを天井からぶら下げておいた
んだ。そのファンテを眺めながら一家全員が飯を食う。」
「へー。面白いですねえ。落語みたい。」
「その家の子供がファンテを2回見ると、親父にひっぱたかれる。」
「え、なんで?」
「贅沢をするなということだ。」
「ほー。」

そいつはメルマガ用のネタになる。トトロさんありがとう。

やがて鉄板の上でジュージュー焼けたファンテが出てきた。
ステーキが乗るような楕円形の鉄板に開いたファンテが収まっている。
真っ赤なヤンニョム(唐辛子ベースの合わせ調味料)がべたっと塗られており、
その上から刻みネギとゴマがアクセントを添える。
ジリジリとヤンニョムの焦げる匂いが鼻に香ばしい。

腹の一番肉厚なところをめがけ、おもむろに金属のハシを突きたてる。
身をほぐすというよりはむしるような感触がある。
むしっむしっとハシでつかんだファンテを口に運ぶ。

黒砂糖を思わせる濃厚な甘味と、唐辛子の辛さ。
その奥から独特の香ばしさが追いかけてきて、噛みしめるほどに旨みがにじむ。
噛みしめて噛みしめて噛みしめて飲みこむ。
熟成された潮風の香りがする。東海岸の太陽の味がする。

「トトロさん、こ、これうまいっす。」
「そうかそうか。このスープも飲んでみな。これも言ってみればファンテだ。」

スープはプゴククだった。
プゴ(北魚)はスケトウダラを干したもの。ククはスープ。
ファンテは特殊な干し方をしているため名前が違うが、プゴも同じスケトウダラの干物。
これをスープにして出すとはまた気がきいている。

「ファンテはそのうちメルマガに出るのかな?」

トトロさんも、僕のメルマガを読んでくれている。

「もちろんですよ。この感動を書かずにいられますか。」
「そうか。期待してるよ。」
「まかせて下さい。」

日本に帰ってきてから、チャリンコビについて調べてみた。
メルマガを書くために、せっかくもらった情報は生かさねばならない。

ところがである。調べても調べてもファンテの話は出てこない。
出てくるのはおかずとして、「クルビ(イシモチの干物)」を吊るした話ばかりだ。
クルビも高級魚だが、ファンテとはまったく別物。

これはどうしたことだ???
急いでトトロさんにメールを打つ。
返ってきたメールには……。

「あれ? ごめーん。本当にクルビのほうだった。俺の勘違いみたいだねえ。
 でもファンテ専門店の名前がなんでチャリンコビなのかなあ。うーん……。」

あちゃーである。せっかくのウンチクが見事に台無し。
エリートビジネスマンとして披露した知識は、半可通を証明する結果となった。
あの瞬間キラーンと光ったトトロさんのメガネが、今は滑稽に思えて仕方ない。

だがメルマガとしては、もっと面白いほうに転がった。

トトロさーん。ファンテはきちんとメルマガになったよお。
しかもファンテだけじゃなく、トトロさんまで登場だよお。
とってもいいネタになったよお。ありがとー!!

<おまけ>
スケトウダラは通常ミョンテ(明太)と呼ばれます。冷凍と解凍を繰り返し、時間をかけ
て干したものがファンテ(黄太)。普通に干したスケトウダラはコンテ(乾太)、あるい
はプゴ(北魚)と呼ばれます。獲れたばかりの生のときは特にセンテ(生太)と呼ばれ、
保存の為に冷凍するとトンテ(凍太)、もしくはトンミョンテ(凍明太)となります。半
生状態のものをコダリ、スケトウダラの幼魚をノガリといい、形態ごとにそれぞれ名前が
異なることがわかります。また、明太子はミョンテの子供という意味で、ルーツは韓国料
理にあります。韓国語ではミョンナン(明卵)、もしくはミョンナンジョッ(ジョッは塩
辛の意)と呼ばれ、戦前釜山に住んでいた日本人が愛好し博多に伝えたとされています。

<お知らせ>
ファンテの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
日本が1次リーグ突破できなかった場合、
次回のコリアうめーや!!はテンション低いです。

コリアうめーや!!第30号
2002年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

 

 
 
previous next