コリアうめーや!!第23号

コリアうめーや!!第23号

<ごあいさつ>
あけましておめでとうございます!!
そして「セヘ ポン マニ パドゥセヨ!!」
第20号でも書きましたが、これが韓国でのお正月の挨拶です。
直訳すると「新年、福を沢山お受け下さい」という意味になります。
「え、お正月?」なんてハトマメ顔をしている人はいませんか?
そう、韓国では旧暦で正月を祝う為、2002年は2月12日がお正月でした。
お正月連休は、みんな田舎に帰って家族と一緒に雑煮をすすり、
新年の挨拶をして、お年玉などもらい、花札やすごろくに興じるという、
それだけ聞くと日本とたいして変わらないお正月を過ごします。
もちろん日本と違うところもたくさんありますが、
めでたいという点においては変わりません。
さて、コリアうめーや!!第23号も、めでたさに便乗して正月特集。
韓国の雑煮について語ってみたいと思います。
日本の感覚では2度目の正月。
めでたさ2倍でスタートです。

<トッククの思い出>

2年前の旧正月のこと。
留学生として韓国で暮らしていた八田氏は呆然とした連休を過ごしていた。

旧正月をはさんで前後4日間は学校が休み。
韓国人の友達もほとんどが田舎に帰ったようで、遊んでくれる人はいない。
最初はそれでも久々の連休に喜んで、のんびり本を読んだり、
ビデオを見たり、ガラにもなく学校の予習なんぞをして過ごしたが、
3日目くらいになると退屈で退屈で寄宿舎の床をのた打ち回るようになった。

ぐぐぐ。いかん、これではあまりの退屈さに干からびてしまう。

八田氏は約3秒間の熟考の末、
「そうだトッククを作ろう」と思い立った。

トッククとは韓国語で「雑煮」のこと。
韓国でも日本と同様に、正月は雑煮を食べるのだ。

ただし同じ雑煮でも様相はだいぶ異なる。

日本では主に魚のダシを利用して作るが、韓国では牛肉、または鶏肉などでダシを取る。
醤油、塩などで味付け、刻んだネギ、ニンニクなどを加え、具にはとき卵を入れたり、刻
みノリをふったり、また牛肉などを用いる。

また、モチも日本とは異なり、うるち米で作られる。

日本ではもち米で作ったモチを、うにゅーんとのばしつつ食べるのが醍醐味であるが、韓
国のモチはまったくのびず、ツルツルとした舌触り、モチモチした歯触り、そしてノドご
しを楽しむモチである。従って、「おじいちゃんノドにつまらないように気をつけてね」
などという会話も必要がない。

さらに、形状も異なり、薄い小判型をしている。

日本では東日本と西日本でモチの形状が異なり、丸モチを使うか、角モチを使うか、微妙
なこだわりがある。また事前にモチを焼くか、焼かないかなども雑煮を作る上で、重要な
要素となるが、韓国ではすべからく薄い小判型で、焼くこともないため、正月早々雑煮の
モチで夫婦大ゲンカが勃発することもない。

雑煮に入るモチの数についても言及しておこう。

日本では正月の朝になると、
「みんな、お雑煮におもちいくつ入れるー?」
「ぼく2個ー!!」
「あたし1個ー!!」
「お父さんは3個食べちゃうぞー。」
などといった会話がなされるのが普通であるが、
韓国のモチは薄く、小さいものをたくさん入れるので、
そういった会話は行われないと推測される。

このように、同じ雑煮を食べる風習でも、その中身はだいぶ違うのがよくわかる。
その韓国の雑煮を作ってみるというのは、正月にふさわしい一大イベントに思えた。
かくして八田氏は料理本を引っ張り出し、トックク作りにチャレンジしたのであった。

ところが、いざ始めてみると、難問が次々に襲いかかってきた。
当時、留学してまだ3ヶ月だった八田氏は、韓国語が拙く、料理本を見ても辞書と首っぴ
き状態。そもそも料理用語には難解で専門的な単語が多く、「布巾で濾す」「ナナメ切り
にする」「交互に串に刺す」というような辞書にも載っていない言葉が連発される。ダシ
を取るべき「ヤンジモリ」という牛肉の部分が果してどこなのか。雑煮になぜ竹串が必要
なのか。レシピはわからないことだらけであった。八田氏はともかく微妙な想像力を総動
員して必死に解読し、日本語に訳していった。

そのとき、寄宿舎には7人の学生が共同生活をしていた。
寄宿舎といっても一般の民家を改造した小規模なところで、定員もわずか10名。
せっかくトッククを作るのであるから、みんなで食べられたほうがいい。
八田氏はどでかい鍋をひっぱり出し、10人分目安のトッククを作り始めた。

怪しげな日本語訳レシピを横目でにらみつつ約2時間。
ヤンジモリと称する牛肉を煮込んだり、ニンニクをみじん切りにしたり、くっついたモチ
をほぐしたり、味見をしたり、上に載せる具を作ったり、わからないところをはしょった
り、とにかくいろいろな苦労を重ねた結果、ついにトッククらしきものが完成した。

むう。これで果してよいのだろうか。
疑問は残るが、ともかく食べてみようと、器を手に取ったその瞬間。
寄宿舎の電話が、タルルンタルルン。(注、電話の音を表す韓国語)

「おーい、みんなで飲んでるからおいでよー。」

今まさに食べんとすというところで、一瞬悩みはしたが、
飲み会の魅力には勝てず、結局そのまま出かけることにした。

めでたい正月に飲む酒はやはり格別で、民俗酒場でマッコルリなどをぐいぐい飲んだ。
呼んでくれたのはソウル生まれで、田舎に帰る必要がない韓国人。
地元といえども正月3日目ともなるとヒマをもてあましてくるようだ。

「うーん。今日はめでたい。2次会に行かねばならん。」
「当然だあ。行こう行こう。」
「でも、どこに行こうか。」
「そうだトッククを作ったから寄宿舎においでよ。」
「何?八田がトッククを作った。それはすごい。食べに行こう。」
「よし、じゃあ、コンビニでビールを買って行こう。俺がおごるぞ。」
「おおー。」

我々はコンビニでビールや簡単なおつまみなどを買い、寄宿舎に向かった。
道中、八田氏はトッククを作るまでの苦労話を、3倍くらいにふくらませてみんなに熱く
語るのを忘れなかった。外国人である八田氏がトッククを作ったということで、一同やけ
に感動し、大盛りあがり状態になっていた。

ところがである。
寄宿舎に着いてみると、鍋は見事にすっからかん。
ドロドロに溶けたモチの残骸が鍋底にへばりついているだけではないか。

理由はすぐにわかった。
寄宿舎の仲間達に「食べてもいいっすよ」の張り紙をしておいたのが大間違い。
なんせ総勢7人の小さい寄宿舎。まさか、なくなるようなことはないだろうと思っていた
が、八田氏の読みは甘く、どうも予想外の大好評だったようだ。

苦心の労作は味見を除いて一口も食べないまま、他人の胃袋に直滑降。
期待していた友人の落胆も手伝って、なんともやるせない2次会になってしまった。

トッククを食べると、あの時のことを思い出す。
めでたい正月料理ではあるが、
八田氏には食べるたびに少しほろ苦い。

<おまけ>
ヤンジモリとは牛の胸肉のことでした。
トッククには最適だと肉屋のオヤジから聞いたことがあります。
でも日本では牛の胸肉ってあまり聞かないよなあ。

<お知らせ>
トッククや韓国のモチの写真をホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
バレンタイン? 知らん知らん。
正月なの。正月。正月特集。わかった?

コリアうめーや!!第23号
2002年2月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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