コリアうめーや!!第246号

コリアうめーや!!第246号

<ごあいさつ>
6月になりました。
5月下旬に僕の住む関東地方は梅雨入りし、
いきなり雨がちな6月のスタートです。
例年、6月になると梅雨を意識するものですが、
こんなに早いとちょっと違和感がありますね。
また来週からソウル出張の予定ですが、
向こうが雨かも気になるところです。
とはいえ、それよりも先に報告が必要なのは、
前号の配信日に出かけた韓国出張の話。
大邱、大田、光州、麗水、蔚山と地方を巡り、
郷土料理を存分に食べ歩いてきました。
おかげさまでメルマガのネタも潤沢。
久しぶりに何から書こうと悩める立場で、
嬉しい悲鳴を周囲に轟かせています。
考えに考えた末、選んだのは大田の郷土料理。
コリアうめーや!!第246号。
地元の不可思議を問う、スタートです。

<大田にも名物料理があるのだ!!>

「大田には名物料理がない!」

というのは地元民も認めることである。
知り合いに大田出身の韓国人がいるのだが、

「いや、ほんっとにないんですよ!」

と力強く語っていた。

それはもう生半可な名物を誇るよりも、
きっぱりとした答えですがすがしくもあった。

実際、僕自身も2008年に1度大田を訪れ、
そのときに名物料理を探したことがあるのだが……。
なかった。うん、本当になにもなかった。

唯一、大田の名物飲食店として得られた情報が、
1955年創業という老舗ソルロンタン(牛スープ)店。
大田駅近くにある「ハンバッ食堂」という店で、
そこは他地域にも名の通った有名店であった。

だが、ソルロンタン自体はソウルの郷土料理。

ほかに選択肢がないのでそれを食べに行ったが、
地元名物かといわれるとしっくりこない気持ちが残った。
ソルロンタンを大田名物とはやはり語りにくい。

だからこそ、今回の大田行きは期するものがあった。

なにもないといわれている大田ではあるが、
真剣に探せば、もう少し何かあるのではないか。
目立ちはしないものの隠れた料理がないか。

そう思って出張前により入念な調査をしたところ、
いきなり出鼻をくじくような情報に出会った。

まず抑えておくべきは「大田6味」という単語。

これは大田市が2000年に選定したもので、
現在も公式的な大田名物ということになっている。
僕もこの情報に出会って、

「なるほど、大田にも名物があったか!」

と思ったのだが、
6つの料理を確認して興奮の度合いが急落した。
なにしろ、その大田6味というのが……。

・トトリムク(ドングリ寒天)
・ミンムルコギメウンタン(淡水魚の辛鍋)
・トルソッパプ(釜飯)
・サムゲタン(ひな鶏のスープ)
・ソルロンタン(牛スープ)
・ネンミョン(冷麺)

というラインナップ。

トトリムクやミンムルコギメウンタンは、
大田に限らず、内陸地域ならどこでも見る料理。
そして残りの4つは全国どこでも見る料理。

一応、トトリムクは儒城区九即洞に、
専門店の集まる名物エリアが存在する。
九即トトリムクという名でも呼ばれており、
地元の名前を冠しているのは印象がいい。

だが、基本的に先のソルロンタンを含め、

「これを大田料理といってよいものか」

と頭を抱えるような面々である。

加えて、大田市は2009年に市民アンケートを取り、
大田6味からピックアップして2つの料理を選抜。
大田の代表料理としてアピールすると発表した。

選ばれたのはサムゲタンとトルソッパプ。
これを、

・大田両班サムゲタン
・大田両班トルソッパプ

と名付けて、絶賛アピール中らしいのだが、
調べれば調べるほど盛り上がっている気配はない。

しかも、そのサムゲタンも地元食材ではなく、
隣接する論山市の鶏と、錦山郡の高麗人参を使用。
何が地元の代表料理かよくわからないことになっている。

トルソッパプには近隣の野菜を使用するというが、
これまた地元の代表料理としてはどうにも弱い。

「大田市は何を考えているんだろう……」

と行く前から気持ちがさらに萎えた。

それでも市が選定したのなら食べに行くべきか。
あがらないテンションで心を決めかけたが、
さらなる情報を得て、それを踏み止まった。

どうやら2009年にこの代表料理を募った際、
地元でも疑問を呈する声が上がったようだ。

「我が市の名物は本当にこれでよいのか!」

そんな声に地元メディアなどが敏感に反応し、
市とは別に、独自のアンケート調査を実施。
真の地元料理は何かを市民に問いかけたのである。

ネットで検索をすると、いろいろ情報が出てくるが、
そのひとつが地元新聞社「DTnews24」のアンケート。
大田6味のみならず、地元で愛される料理を追加し、
そのうえで真の大田名物を問おうというものであった。

そして、そのとき追加された料理というのが、

・トゥブトゥルチギ(豆腐の煮付け)
・カルグクス(手打ちうどん)

というふたつ。
これらを足してアンケートを取るという時点で、

「こっちが本当の名物なんじゃないの!?」

という声が聞こえてくるかのようである。
そして、結果は予想通り……。

1位:トゥブトゥルチギ
2位:トトリムク
3位:カルグクス
4位:トルソッパプ
5位:サムゲタン、ソルロンタン、冷麺
http://www.dtnews24.com/news/articleView.html?idxno=65715

という順になった。
ちなみに5位は3つの料理が同点である。

なお、このアンケートには463人が参加し、
1位のトゥブトゥルチギは4割近い172名が投票。
同じく大田6味に入っていないカルグクスも、
60名から支持を受けて13%の得票率だ。

トゥブトゥルチギとカルグクスのふたつだけで、
全体の50%を占めるという驚きの結果。
これなら2料理を追加した気持ちがよくわかる。

というより、なぜ旧来の大田6味から、
この2料理が漏れているのか不思議なぐらいだ。

「大田市は何を考えているんだろう……」

その思いを強めつつも、僕の気持ちはこれで確定。

「大田で食べるのはトゥブトゥルチギとカルグクス!」

そう狙いを定めて店のピックアップをし、
短い滞在期間中に、両方の料理を食べてきた。
前置きが長くなったが、以下、両料理のレポートである。

まず、1位になったトゥブトゥルチギ。

これはトゥブが豆腐で、トゥルチギが煮物を意味する。
地方によってトゥルチギは炒め物だったり、鍋だったりするが、
大田においては豆腐を辛いタレで煮た料理を指す。

店は元祖とされる「チルロチプ」を選定。

シンプルなトゥブトゥルチギが1万ウォンで、
イカを足すと1万2000ウォンという価格だった。
せっかくなので人気というイカ入りを注文し、
一緒に地元産の「ウォン」というマッコリも頼む。

そして、出てくるイカ入りのトゥブトゥルチギ。

注文からほとんど時間を置かずに出てきたので、
事前にしっかり煮込んだものを提供しているようだ。
小サイズとはいえ、けっこうな大皿料理で、
やや煮崩れた豆腐がどっさりと盛られている。

第一印象は、

「居酒屋の肉豆腐っぽいな」

という感じ。

肉がイカにかわって、唐辛子で真っ赤に染めて、
ボリュームを3倍増しにした肉豆腐が連想された。
量だけで見ても、豆腐2丁分はありそうだ。

「これだけでマッコリ2本は飲めるな」

と思いつつ、豆腐を口に運ぶと、
乾いた粉唐辛子の味がジンと舌に刺さった。

「辛っ!」

マッコリが2本飲めるどころか、
これだけで泥酔できそうなほどの辛さ。
だが、その中にもしっかりとした旨味があって、
特に豆腐の煮崩れたあたりは味が染みて美味しい。

辛さを吸い込んだ豆腐の合間にイカで舌をなだめつつ、
もりもり食べているとマッコリがぐいぐい進む。
豆腐もイカも手近な食材だけに派手さこそないが、
地元で愛されている理由はわかる気がした。

「なるほど、これは大田を代表する酒の肴である!」

そう結論づけて店を出た。

そして次はカルグクスである。

これまた調べたところ大田にはカルグクス店が多く、
老舗と呼ばれる店もいくつかあるようだ。
ただ、それとともに大興洞という町に行くと、
カルグクスの専門店が集まる通りもあるらしい。

しかも、そのカルグクスがかなり独特だという。

老舗に行くか、名物通りかで少し悩んだが、
話題性でいえば名物通りの大興洞がやや上と判断。
古株店のひとつ「ポクス粉食」に足を運ぶことにした。

そして出てくる大興洞式のカルグクス。

ある程度の予習はしていったのだが、
それでも目の前に出てきて驚いた。

「赤っ!」

そう、これまた唐辛子で真っ赤なのである。
大興洞式のカルグクスは「オルクニカルグクス」といい、
オルクニというのは韓国語で激辛を意味する。

トゥブトゥルチギといい、オルクニカルグクスといい、
大田の人はずいぶんと激辛料理がお好きなようだ。

そして、このオルクニカルグクスもただ辛いだけではない。

食べ方が実に独特なのだが、カルグクスよりも先に、
カゴに山盛りいっぱい生の春菊が運ばれてくる。
オルクニカルグクスはこの春菊こそがまさにポイントで、
激辛のスープに、バサバサと浸して食べるのだ。

いうなれば激辛スープで味わう春菊のしゃぶしゃぶ。

さっと浸してシャキシャキ感を味わってもよいし、
じっくり沈めて、くたくたになってから味わうのもよい。
どちらを食べるかは好みだが、生の春菊にもかかわらず、
まったくエグ味がなく爽やかな味わいに驚いた。

カゴいっぱいの春菊は明らかに多いと思われたが、
食べているうちに、ふと気付くとすべてなくなっていた。
隣のテーブルでは春菊のおかわりをしている。
山盛り食べて、なお食べるのが大田の流儀であるようだ。

そして、スープのほうにも驚きがあった。

全体的にどろっとしており、粉唐辛子だけではなく、
コチュジャンや、テンジャン(味噌)を入れて煮込んだ感じ。
この辛いどろどろスープは忠清道の内陸部でよく見かけるもので、
ある意味、忠清道を象徴する味付けのひとつといえる。

「なるほど、都市部とはいえ大田も忠清道!」

キワモノ料理に見えて、実は郷土の伝統的な味付けという、
これもまた大田料理にふさわしいものであった。

ただ、惜しむべきは唯一。

その大興洞一帯が再開発の波に飲まれており、
通りにあった半分ほどの店がここ1年で失われていること。
僕が訪れた「ポクス粉食」は場所を移して営業を再開したが、
もっとも古い店は、立ち退きをもって店を閉じたという。

ようやく貴重な大田料理に出会えたと思ったら、
店が半分も残っていないという悲しい現実。

「大田市は何を考えているんだろう……」

というセリフがつい口をついて出た。

地元の名物を行政中心で考えることは悪くないが、
これではあまりに足元が見えていないといわざるをえない。
行政のやりたいことと、市民生活の乖離が大きすぎる。
なんともやるせない気持ちでカルグクス通りを後にした。

今回食べたトゥブトゥルチギとオルクニカルグクス。

このふたつの料理は大田市民に愛されつつも、
行政上はなぜか冷遇されている地元料理である。

「大田には名物料理がない!」

というセリフは今後力強く否定したい。
大田には愛すべき名物料理がきちんとある。
ただ不遇にも埋もれているだけなのだ。

<店舗情報>
店名:ハンバッ食堂
住所:大田広域市東区中洞60-1
電話:042-256-1565

店名:チルロチプ
住所:大田市中区大興洞314-1
電話:042-226-0914

店名:ポクス粉食
住所:大田市中区大興洞386-4
電話:042-253-6518

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
トゥブトゥルチギ、オルクニカルグクスは大田の味。
大田市民にはもっと魅力を語って欲しいです。

コリアうめーや!!第246号
2011年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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