コムタン(牛スープ/곰탕)

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コムタン

コムタン곰탕)は、牛スープ。

概要

コム()は長い時間かけて煮出すということ。タン()はスープの意。コムクッ(곰국)とも呼ばれる。牛の胸部の肉、スネ肉、肺、胃、腸などの各部位を長時間煮込み、そのスープに茹でた牛肉を薄切りにしたものを具として乗せ、ネギなどの薬味を加えて食べる。ごはんを入れて食べてもよい。専門店もあるが、一般の食堂でも食べられる料理である。類似料理にはソルロンタン(牛スープ/설렁탕)があり、またほかにコムタンの名がつく料理としては、鶏肉を煮込んだタッコムタン(鶏スープ/닭곰탕)、牛のテールを煮込んだコリコムタン(牛テールスープ/꼬리곰탕)、牛の頭肉を煮込んだソモリコムタン(牛頭肉のスープ/소머리곰탕)などがある。牛の各部位を煮込んだスープ料理としては、ほかにカルビタン(牛カルビのスープ/갈비탕)トガニタン(牛膝肉のスープ/도가니탕)ウジョクタン(牛の足のスープ/우족탕)などがある。

種類

ナジュコムタン

ナジュコムタン(羅州式の牛スープ/나주곰탕)

ナジュコムタン(나주곰탕)は、羅州式のコムタン。ナジュ(나주)は全羅南道羅州市の地名を表す。発音はナジュゴムタンがより近い。全羅南道羅州市の郷土料理であり、市のウェブサイトでは一般的なコムタンに比べて「牛骨の使用が少なく、牛外バラ肉(양지살)や牛スネ肉(사태)などの肉部位を煮込んでスープを作る」[1]と説明している。そのためスープの色合いは白濁せず、澄んだ色合いか、または粉唐辛子を振ることで赤茶けて見えることもある。羅州錦城館(ナジュクムソングァン、나주금성관)の付近に専門店が多く、一帯は「ナジュコムタン通り(나주곰탕거리)」と呼ばれる。1910年創業で韓国の飲食店として2番目に古い歴史を持つ「ハヤンチプ(하양집)」をはじめ、「ノアンチプ(노안집)」「ナムピョンハルメチプ(남평할매집)」といった有名店がある。
  • 由来
羅州市には広大な羅州平野があり、稲作が盛んであるとともに労働力として牛が多く使役されていた。また、物流の要衝として近隣の栄山浦牛市場(영산포 우시장)が売買の拠点となっていたこともあり、そもそも米と牛が身近であったことがナジュコムタンの発達した背景にあると語られる。
本格的にコムタンが普及したのは、1930年代後半以降とされ、この時期に日本から進出した缶詰工場の存在が大きくかかわっている。京都に本社を置く「竹中罐詰製造所(現、竹中罐詰株式会社)」は、1920年代に済州島を皮切りとして、1934年には羅州郡羅州邑月見町(現、羅州市竹林洞)にも工場を開いた[2]。当初はグリンピースや黄桃などの缶詰を生産しつつ、1937年頃から牛肉の缶詰を作り始めると、頭部や骨、内臓などの不要な部位が大量に周囲へと流れていった[3]。これらを利用して煮込んだコムタンが近隣の名物となり、現在の名声につながったと説明される。
一帯でもっとも歴史の古い「ハヤンチプ(하양집)」は1910年の創業であるが、初代のウォン・パルレ(원판례)氏が前身となる「リュムン食堂(류문식당)」を開いた頃はヘジャンクッ(酔い覚ましのスープ/해장국)クッパプ(クッパ/국밥)を主に提供し、2代目(嫁)のイム・イスン(임이순)氏の時代にユッケピビムパプ(牛刺身載せビビンバ/육회비빔밥)ポクタン(フグのスープ/복탕)といったメニューを増やしたものの、コムタンの専門店となるのは3代目(孫)のキル・ハンス(길한수)氏が跡を継いだ1960年からである[4]。1969年に現在の「ハヤンチプ」に店名を変更し、現在はウォン・パルレ氏のひ孫にあたるキル・ヒョンソン(길형선)氏が4代目を継承している。
同じく老舗店の「ノアンチプ(노안집)」は1960年創業を掲げる。

コリコムタン(牛テールスープ/꼬리곰탕)

コリコムタン(꼬리곰탕)は、牛テールスープ(「コリコムタン(牛テールスープ/꼬리곰탕)」の項目も参照)。コリ(꼬리)は尻尾、コムタン(곰탕)は長い時間かけて煮出したスープの意。牛テールを大根、長ネギ、ニンニクなどとともにスープが白濁するまでじっくり煮込んで作る。味付けは塩、胡椒などであっさりと仕上げ、食べる際に好みでさらに塩を加える。牛テールの骨まわりについた肉は酢醤油につけて味わう。コムタンや、ソルロンタン(牛スープ/설렁탕)などのスープ料理を専門とする店で主に提供される。

タッコムタン(鶏スープ/닭곰탕)

タッコムタン(닭곰탕)は、鶏スープ。タッ()は鶏。コムタン(곰탕)は長い時間かけて煮出したスープの意。鶏肉を長ネギ、ショウガ、ニンニクなどと長時間煮込み、塩、胡椒であっさりと味付ける。家庭料理として作られるほか、専門店や鶏料理店などで食べられる。

ソモリコムタン(牛頭肉のスープ/소머리곰탕)

ソモリコムタン(소머리곰탕)は、牛頭肉のスープ(「ソモリクッパプ(牛頭部のスープごはん/소머리국밥)の項目も参照」)。ソ()は牛、モリ(머리)は頭、コムタン(곰탕)は長い時間かけて煮出したスープの意。韓国語では牛のことを「セ()」とも呼ぶため、セモリコムタン(쇠머리곰탕)と表記する場合もある。また、ソモリクッパプ(소머리국밥)、セモリクッパプ(쇠머리국밥)とも呼ぶ。牛の頭部を長時間煮込んでスープを作り、ごはんを盛った器に注いで具を載せる。具には食べやすい大きさに切った頭部の肉(皮付近のゼラチン質の部分など)を用い、薬味として刻みネギなどを加える。素麺や春雨が入る場合もある。味付けはごく薄い塩味にとどめ、食べる人が好みによって卓上の塩、アミの塩辛、タデギ(唐辛子ペースト、다대기)などを加える。主に専門店や市場内の食堂で食べられる料理である。京畿道広州市の昆池岩(コンジアム、곤지암)地区にはソモリクッパプの店が集まっており、郷土料理のひとつとして人気が高い。昆池岩は朝鮮時代に漢陽(現在のソウル)を目指すソンビ(儒学者)たちが最後の宿場として利用した町で、ソモリクッパプはそのソンビたちが好んで食べた料理であったと伝えられる。江原道江陵市の江陵中央市場(カンヌンチュンアンシジャン、강릉중앙시장)には、ソモリクッパプの専門店が集まる一画がある。

ミナリコムタン(セリ入りの牛スープ/미나리곰탕)

ミナリコムタン(미나리곰탕)は、セリ入りの牛スープ。ミナリ(미나리)はセリ。コムタン(곰탕)は長い時間かけて煮出したスープの意。コムタンに細かく刻んだセリをたくさん加えて作る。

老舗

河東館のコムタンにカックッを注いでいるところ

河東館(하동관)

河東館(ハドングァン、하동관)は、1939年にソウル市の中区水下堂(チュング スハドン、중구 수하동)創業したコムタンの専門店。再開発のため2007年に現在の明洞へと移転した。初代のキム・ヨンテク(김용택)、リュ・チャンヒ(류창희)夫妻が開いた店を、1964年に親交の深かったチャン・ナカン(장낙항)、ホン・チャンノク(홍창록)夫妻が2代目として引き継ぎ、1968年からは2代目夫妻の息子チャン・ソキ(장석희)と、キム・ヒヨン(김희영)夫妻が3代目として運営している[5]
  • 注文用語
同店には独特の用語が多数あることでも知られ、メニューにはない特別な注文も受けている[6]。具の肉はチャドル(牛バラ肉、차돌)、コギ(赤身肉、고기)、ネポ(内臓、내포)の3種が用意されている。
  • ポトン(普通、보통):小盛(肉1種類、基本は赤身肉)、英語ではsmall
  • トゥク(特、):並盛(肉2種類、基本は赤身肉と内臓)、英語ではoriginal
  • マッペギ(味見、맛배기):ごはん少なめで肉を多め
  • 数字+コン():値段分だけ肉を増量、25コン(스물다섯공이오공)は2万5000ウォン、30コン(서른공삼공)は3万ウォン。値上がりすると数字も変動する
  • カックッ(カクトゥギの汁、깍국):カクトゥギ(大根の角切りキムチ/깍두기)の汁。スープに入れて味に変化をつける
  • トンダク(丸鶏、통닭):生卵、スープに落として食べる
  • ネンス(冷水、냉수):グラス焼酎。1合(半ビン)前後の量

脚注

  1. 나주곰탕거리 、羅州文化観光、2024年5月15日閲覧
  2. 羅州の蔬菜鑵詰, 竹中社長を迎へて懇談し將來の擴張を期す(京城日報社1935年5月30日付記事) 、韓国国立中央図書館、2024年11月14日閲覧
  3. 4대를 잇는 나주곰탕의 원조 명가, 나주 하얀집 、地域N文化、2024年11月14日閲覧
  4. HAYANJIB HISTORY 、ハヤンチプ公式ウェブサイト、2024年11月14日閲覧
  5. 하동관 역사 、河東館ウェブサイト、2025年10月4日閲覧
  6. 하동관 곰탕 、河東館ウェブサイト、2025年10月4日閲覧

外部リンク

制作者関連サイト

関連項目