「テンジャンチゲ(味噌鍋/된장찌개)」の版間の差分

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テンジャン([[된장]])は味噌。チゲ([[찌개]])は野菜や肉、魚などを煮た鍋料理の総称である。煮干し、牛肉、アサリなどでダシをとり、ジャガイモ、豆腐、長ネギ、エホバク(カボチャの未熟果、[[애호박]])、青唐辛子などの具を入れ、テンジャンで味付けをする。飲食店ではトゥッペギ([[뚝배기]])と呼ばれる素焼きの器で直接調理して提供する。一般的な家庭料理のひとつであり、食堂では定食メニューの代表格である。焼肉店では[[ネンミョン(冷麺/냉면)]]と並んで仕上げの食事メニューとして定番である。類似料理には[[チョングッチャン(韓国式の納豆汁/청국장)]]があり、またテンジャンチゲよりも汁気の多いものはテンジャンクッ([[된장국]])と呼ばれる。
 
テンジャン([[된장]])は味噌。チゲ([[찌개]])は野菜や肉、魚などを煮た鍋料理の総称である。煮干し、牛肉、アサリなどでダシをとり、ジャガイモ、豆腐、長ネギ、エホバク(カボチャの未熟果、[[애호박]])、青唐辛子などの具を入れ、テンジャンで味付けをする。飲食店ではトゥッペギ([[뚝배기]])と呼ばれる素焼きの器で直接調理して提供する。一般的な家庭料理のひとつであり、食堂では定食メニューの代表格である。焼肉店では[[ネンミョン(冷麺/냉면)]]と並んで仕上げの食事メニューとして定番である。類似料理には[[チョングッチャン(韓国式の納豆汁/청국장)]]があり、またテンジャンチゲよりも汁気の多いものはテンジャンクッ([[된장국]])と呼ばれる。
  
*カンテンジャン
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=== テンジャン ===
:カンテンジャン([[강된장]])は、味噌に牛肉、キノコ、魚介、豆腐などの具を入れてどろどろに濃く煮詰めたもの。汁気の少ないテンジャンチゲのような見た目で、ごはんや麦飯と混ぜて[[テンジャンピビムパプ(味噌ビビンバ/된장비빔밥)]]として食べたり、[[サムパプ(葉野菜の包みごはん/쌈밥)]]の包み味噌として用いる。
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:テンジャン([[된장]])は、韓国の伝統的な味噌。実際の発音は「トゥェンジャン」に近い。テン([[]])は、トゥェダ(固い、水気が少ない、[[되다]])の連体形。ジャン([[장]])は漢字で「醤」と書いて塩蔵発酵調味料の総称。カンジャン(醤油、[[간장]])などの液体調味料に対して固い、水気が少ないことを意味する。伝統的なテンジャン([[된장]])の製法では、まずメジュ(味噌玉麹、[[메주]])を作る。蒸煮(蒸す、または煮る)した大豆をつぶしてレンガ状の直方体に固め、藁で結んだものを軒先に吊るして乾燥、発酵させる。このメジュに塩と水を加えてハンアリ(甕、[[항아리]])で熟成させたのち、上澄みをカンジャン、沈殿部分をテンジャンとして用いる。
 
 
=== テンジャンの概要 ===
 
*テンジャン
 
:伝統的なテンジャン([[된장]])の製法では、まずメジュ(味噌玉麹、[[메주]])を作る。蒸煮(蒸す、または煮る)した大豆をつぶしてレンガ状の直方体に固め、藁で結んだものを軒先に吊るして乾燥、発酵させる。このメジュに塩と水を加えてハンアリ(甕、[[항아리]])で熟成させたのち、上澄みをカンジャン([[간장]])、沈殿部分をテンジャンとして用いる。
 
  
 
*日本の味噌との違い
 
*日本の味噌との違い
:テンジャンが大豆でメジュ(味噌玉麹、[[메주]])を作るのに対し、日本の味噌は多くの場合、蒸煮した大豆に麹を加えて発酵させる。米麹を加えたものは米味噌、麦麹を加えたものは麦味噌と呼ぶ。東海地方を中心に造られている豆味噌の場合は、蒸煮した大豆に豆麹を加える製法と、豆麹を味噌玉にして造る製法に分かれ、後者はテンジャンの製法によく似る。ただし、味噌玉で作る豆味噌が枯草菌の繁殖を抑えて造るのに対し、テンジャンはメジュを藁で結んで発酵させることから枯草菌が重要な役割を果たす。枯草菌の一種として納豆菌があるように、特有の風味を帯びるのが特徴と言える。
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:テンジャンが大豆でメジュ(味噌玉麹、[[메주]])を作るのに対し、日本の味噌は多くの場合、蒸煮した大豆に麹を加えて発酵させる。米麹を加えたものは米味噌、麦麹を加えたものは麦味噌と呼ぶ。東海地方を中心に造られている豆味噌の場合は、蒸煮した大豆に豆麹を加える製法と、豆麹を味噌玉にして造る製法に分かれ、後者はテンジャンの製法によく似る。ただし、味噌玉で作る豆味噌が枯草菌(藁などに生息する菌の一種で類縁種に納豆菌がある)の繁殖を抑えて造るのに対し、テンジャンはメジュを藁で結んで発酵させることから枯草菌が重要な役割を果たす。
  
 
*煮立たせる調理法
 
*煮立たせる調理法
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=== 文献上の記録 ===
 
=== 文献上の記録 ===
 
;『三国史記』(683年)の記述
 
;『三国史記』(683年)の記述
:高麗時代の文官、金富軾(キム・ブシク、김부식)がまとめた歴史書『三国史記(삼국사기)』には、新羅の第31代王、神文王(シンムヌァン、신문왕)が神文王3年(683年)2月に王妃を迎える際の礼物として、絹、米、酒などとともに「醤([[장]])」と「豉([[시]])」を贈ったことが記録されている<ref>[https://db.history.go.kr/item/compareViewer.do?levelId=sg_008_0020_0140 三国史記 > 新羅本紀 第八 > 神文王 > 金欽運の娘を夫人として迎えるために結納を取り交わす(김흠운의 딸을 부인으로 맞이하기 위해 납채하다)] 、韓国史データベース、2025年8月25日閲覧</ref>。この時代の「醤」はカンジャン(醤油、[[간장]])とテンジャン(味噌、[[된장]])が分化する前の混ざった状態と見られ、「豉」は「醤」を作るためのメジュ(味噌玉麹、[[메주]])を指すと考えられている。
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:高麗時代の文官、金富軾(キム・ブシク、김부식)がまとめた歴史書『三国史記(삼국사기)』には、新羅の第31代王、神文王(シンムヌァン、신문왕)が神文王3年(683年)2月に王妃を迎える際の礼物が記録されている。「幣帛(婚姻前に送る礼物)が手押し車15台分、米、酒、油、醤、豉、干し肉、塩辛が135台分、租穀が150車分だった」<ref>[https://db.history.go.kr/item/compareViewer.do?levelId=sg_008_0020_0140 三国史記 > 新羅本紀 第八 > 神文王 > 金欽運の娘を夫人として迎えるために結納を取り交わす(김흠운의 딸을 부인으로 맞이하기 위해 납채하다)] 、韓国史データベース、2025年8月25日閲覧</ref>とあり、このうち「醤」はカンジャン(醤油、[[간장]])とテンジャン(味噌、[[된장]])が分化する前の混ざった状態と見られ、「豉」は「醤」を作るためのメジュ(味噌玉麹、[[메주]])を指すと考えられている。
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:【原文1】
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:「幣帛十五轝米酒油蜜醬豉脯醘一百三十五轝租一百五十車」
  
 
;『増補山林経済』(1766年)の記述
 
;『増補山林経済』(1766年)の記述
:朝鮮時代後期の医官、柳重臨(ユ・ジュンニム、유중림)が1766年に増補編纂した農書『増補山林経済([[증보산림경제]])』には、フユアオイ([[아욱]])の調理法として、「醤([[장]])」を加えた「羹([[갱]])」が紹介されており、これをテンジャンチゲのルーツと考える説がある。同書では「フユアオイは羹(チゲ)として作ることができる。葉がついたままの柔らかな茎を折って皮をむき、醤を入れてよく煮込む。干しエビの粉を加えるとより美味しい」【原文1】<ref>[https://dl.ndl.go.jp/pid/2557919/1/36 【(朝鮮) 洪萬選】【著】, (朝鮮) 柳重臨 増補, 1766, 『増補山林経済 巻6』] 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号5/72)、2025年8月25日閲覧</ref>と紹介されている。現在もフユアオイを入れたテンジャンチゲは、アウクテンジャンチゲ(フユアオイの味噌鍋、[[아욱된장찌개]])と呼ばれ、主に家庭料理として作られる。
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:朝鮮時代後期の医官、柳重臨(ユ・ジュンニム、유중림)が1766年に増補編纂した農書『増補山林経済([[증보산림경제]])』には、フユアオイ([[아욱]])の調理法として、「醤([[장]])」を加えた「羹([[갱]])」が紹介されており、これをテンジャンチゲのルーツと考える説がある。同書では「フユアオイは羹(チゲ)として作ることができる。葉がついたままの柔らかな茎を折って皮をむき、醤を入れてよく煮込む。干しエビの粉を加えるとより美味しい」【原文2】<ref>[https://dl.ndl.go.jp/pid/2557919/1/36 【(朝鮮) 洪萬選】【著】, (朝鮮) 柳重臨 増補, 1766, 『増補山林経済 巻6』] 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号5/72)、2025年8月25日閲覧</ref>と紹介されている。現在もフユアオイを入れたテンジャンチゲは、アウクテンジャンチゲ(フユアオイの味噌鍋、[[아욱된장찌개]])と呼ばれ、主に家庭料理として作られる。
  
:【原文1】
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:【原文2】
 
:「只可作羹 連葉折軟茎 去皮 下醤爛煮 加乾蝦屑 尤美」
 
:「只可作羹 連葉折軟茎 去皮 下醤爛煮 加乾蝦屑 尤美」
  
 
;『是議全書』(19世紀末)の記述
 
;『是議全書』(19世紀末)の記述
:19世紀末に書かれた料理書『是議全書([[시의전서]])』(原著者不詳)には、チョチ([[조치2|조치]])の名前でさまざまなチゲ([[찌개]])が掲載されている。センソンジョチ(魚の鍋、[[생선조치]])の項目では、チョチに多様な種類があると触れたうえで、「醤油を入れるものは名前をマルグンジョチ(澄んだチョチ)、コチュジャン、テンジャンで味付けをするときは米のとぎ汁を入れてチャンジョチ(醤チョチ)と呼ぶ」【原文2】(丸カッコ内は訳注)と紹介している<ref>이효지 외(엮음), 2004,『시의전서』, 신광출판사, P203</ref>。テンジャンチゲに関する具体的な記録としては、これが初出になると見られる。
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:19世紀末に書かれた料理書『是議全書([[시의전서]])』(原著者不詳)には、チョチ([[조치2|조치]])の名前でさまざまなチゲ([[찌개]])が掲載されている。センソンジョチ(魚の鍋、[[생선조치]])の項目では、チョチに多様な種類があると触れたうえで、「醤油を入れるものは名前をマルグンジョチ(澄んだチョチ)、コチュジャン、テンジャンで味付けをするときは米のとぎ汁を入れてチャンジョチ(醤チョチ)と呼ぶ」【原文3】(丸カッコ内は訳注)と紹介している<ref>이효지 외(엮음), 2004,『시의전서』, 신광출판사, P203</ref>。テンジャンチゲに関する具体的な記録としては、これが初出になると見られる。
  
 
:【原文2】
 
:【原文2】
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;『朝鮮無双新式料理製法』(1924年)の記述
 
;『朝鮮無双新式料理製法』(1924年)の記述
:李用基(イ・ヨンギ、이용기)によって1924年に書かれた料理書『朝鮮無双新式料理製法([[조선무쌍신식요리제법]])』には、テンジャンチゲの名前で調理法が掲載されている。具材として、マツタケ、シイタケ、豚肉、牛の第1胃(ミノ)などがあげられているほか、「最近は日本の味噌と混ぜて入れるのがいちばんよい」【原文3】とも書かれている<ref>李用基, 1924, 『朝鮮無双新式料理製法』, 永昌書館, P157-158</ref><ref>지은이:이용기, 자문:황혜성, 옮긴이:옛음식연구회, 2001, 『다시 보고 배우는 조선무쌍 신식요리제법』, 도서출판 궁중음식연구원, P198-199</ref>(1930年の再版本で確認)。
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:李用基(イ・ヨンギ、이용기)によって1924年に書かれた料理書『朝鮮無双新式料理製法([[조선무쌍신식요리제법]])』には、テンジャンチゲの名前で調理法が掲載されている。具材として、マツタケ、シイタケ、豚肉、牛の第1胃(ミノ)などがあげられているほか、「最近は日本の味噌と混ぜて入れるのがいちばんよい」【原文4】とも書かれている<ref>李用基, 1924, 『朝鮮無双新式料理製法』, 永昌書館, P157-158</ref><ref>지은이:이용기, 자문:황혜성, 옮긴이:옛음식연구회, 2001, 『다시 보고 배우는 조선무쌍 신식요리제법』, 도서출판 궁중음식연구원, P198-199</ref>(1930年の再版本で確認)。
  
:【原文3】
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:【原文4】
 
:「요사이는 일본된쟝을석거 넛는것이 뎨일조흐니라」
 
:「요사이는 일본된쟝을석거 넛는것이 뎨일조흐니라」
  
 
== 種類 ==
 
== 種類 ==
 
[[ファイル:23051605.JPG|300px|thumb|[[忠清南道の料理|忠清南道]][[唐津市の料理|唐津市]]のケンムクテンジャンチゲ]]
 
[[ファイル:23051605.JPG|300px|thumb|[[忠清南道の料理|忠清南道]][[唐津市の料理|唐津市]]のケンムクテンジャンチゲ]]
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=== カンテンジャン(煮込み味噌/강된장) ===
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:カンテンジャン([[강된장]])は、牛肉、キノコ、魚介、豆腐などの具を入れてどろどろに濃く煮詰めた味噌。カンテンジャンチゲ(煮込み味噌鍋、[[강된장찌개]])とも呼ぶ。汁気の少ないテンジャンチゲのような見た目で、ごはんや麦飯と混ぜて[[テンジャンピビムパプ(味噌ビビンバ/된장비빔밥)]]にしたり、[[サムパプ(葉野菜の包みごはん/쌈밥)]]の包み味噌として用いる。
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=== 素材の種類 ===
 
=== 素材の種類 ===
*カンテンジャンチゲ(濃く煮詰めた味噌鍋、[[강된장찌개]])
 
 
*ケンムクテンジャンチゲ(エゴマ入り味噌鍋、[[깻묵된장찌개]])
 
*ケンムクテンジャンチゲ(エゴマ入り味噌鍋、[[깻묵된장찌개]])
 
*ネンイテンジャンチゲ(ナズナ入り味噌鍋、[[냉이된장찌개]])
 
*ネンイテンジャンチゲ(ナズナ入り味噌鍋、[[냉이된장찌개]])
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