金浦市の料理

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この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。
大明港の魚市場

金浦市(キムポシ、김포시)は京畿道の北西部に位置する地域。本ページでは金浦市の料理、特産品について解説する。

地域概要

金浦市は京畿道の北西部に位置する地域。市の北部は漢江(ハンガン、한강)を挟んで北朝鮮との軍事分界線に面し、東部は京畿道坡州市高陽市、南東部は特別市のソウル市、南部から西部にかけては広域市の仁川市と接する。西部は西海岸に面し、島嶼地域の仁川市江華郡とは橋で結ばれている。人口は48万4267人(2022年12月)[1]

代表的な観光地として、ユネスコの世界文化遺産に登録された朝鮮王陵のひとつ「章陵(チャンヌン、장릉)」や、17世紀に築城された「文殊山城(ムンスサンソン、문수산성)」、人工の水路沿いに造成されたストリートモールの「ラベニチェ・マーチ・アベニュー(Laveniche March Avenue、라베니체 마치 에비뉴)」などがある。

ソウル市からのアクセスは、隣接地域であることから数多くの市内バスが行き来している。また、2019年9月には軽電鉄の金浦ゴールドラインが開業し、金浦市の各地域とソウル市江西区の金浦空港駅を結んでいる。

  • 金浦国際空港
金浦国際空港(김포국제공항)は金浦市になく、ソウル市江西区に位置する。同空港は日本統治時代の1939年に開港した金浦飛行場を前身とし、当時は京畿道金浦郡陽西面傍花里(김포군 양서면 방화리)にあった[2]。1958年に金浦国際空港として指定されたのち、行政区域の改変によって陽西面は1963年1月にソウル市永登浦区へと編入され、1977年9月に周辺地域とともに江西区として分離された。

食文化の背景

市の北部から南東部にかけては漢江(ハンガン、한강)の下流域に当たり、西部は西海岸に面して塩河(ヨマ、염하)と呼ばれる海峡を挟んで仁川市江華郡と向かい合う。河川と海峡に囲まれた半島地域であり、市西部の大明港(テミョンハン、대명항)には新鮮な魚介類が多く水揚げされる。漢江の流域は肥沃な平野部になっており、金浦平野(キムポピョンヤ、김포평야)と呼ばれ、古くから米の名産地として名を馳せてきた。名産品の金浦金米(김포금쌀)は、かつて宮中にも献上されて水剌床(王の食膳、수라상)にも上がったと語られる。

代表的な料理

ヘムルカルグクス

大串面大明里(テゴンミョン テミョンニ、대곶면 대명리)に位置する大明港(テミョンハン、대명항)では、季節ごとの魚介が名産となっており、春はイイダコ(주꾸미)、春から初夏にかけてはツマリエツ(밴댕이반지)やマナガツオ(병어)、秋はコノシロ(전어)やコウライエビ(대하)、冬はボラ(숭어)やケムシカジカ(삼식이삼세기)などが旬を迎える。これらの魚介を利用したセンソンフェ(刺身/생선회)や、センソングイ(焼き魚/생선구이)ヘムルカルグクス(海鮮うどん/해물칼국수)メウンタン(魚入りの辛い鍋/매운탕)などが地域の代表的な料理として親しまれている。また、旧家の白川趙氏(배천 조씨)一族に伝わるヨンニプパプ(蓮の葉包みごはん/연잎밥)が伝統料理として知られるほか、近年はカフェで提供される本格的なミルクティー(밀크티)が地域の新名物として注目を集めている。

ヘムルカルグクス(海鮮うどん/해물칼국수)

ヘムルカルグクス(해물칼국수)は、海鮮うどん(「カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)」の項目も参照)。イイダコ(주꾸미)、エビ(새우)、ハマグリ(대합)、ムール貝(홍합)、ホタテ(가리비)などの魚介を具として入れる。

センソンフェ(刺身/생선회)

センソンフェ。器の左に位置する薄切りの刺身がケムシカジカ、右にあってやや赤みを帯びているのがボラ。
センソンフェ(생선회)は、刺身(「センソンフェ(刺身/생선회)」の項目も参照)。海岸部の刺身店では、季節ごとの魚をセンソンフェとして提供する。春から初夏にかけてはツマリエツ(밴댕이반지)やマナガツオ(병어)、秋はコノシロ(전어)や、冬はボラ(숭어)やケムシカジカ(삼식이삼세기)が旬を迎える。このほか通年で養殖のヒラメ(광어)、タイ(도미)、クロソイ(우럭)なども提供される。

トンオグイ(ボラの稚魚の焼き魚/동어구이)

トンオグイ(手前)。奥はペンデンイグイ(ツマリエツの焼き魚)
トンオグイ(동어구이)は、ボラの稚魚の焼き魚。トンオ(동어)はボラ(숭어)の稚魚(標準語では「모쟁이」)。グイ(=クイ、구이)は焼き物の総称。冬にとれるボラの稚魚を塩焼きにしたものを指す。市西部の大明港(テミョンハン、대명항)はボラの水揚げが多く、冬はスンオフェ(ボラの刺身、숭어회)も名物として知られる。

サムシギメウンタン(ケムシカジカの鍋/삼식이매운탕)

サムシギメウンタン
サムシギメウンタン(삼식이매운탕)は、ケムシカジカの鍋。サムシギ(삼식이)はケムシカジカ(標準語では「삼세기」)。メウンタン(매운탕)は魚入りの辛い鍋(「メウンタン(魚入りの辛い鍋/매운탕)」の項目も参照)。冬に旬を迎えるケムシカジカをぶつ切りにして、辛口の鍋に仕立てた料理を指す。ケムシカジカは、サムシギフェ(ケムシカジカの刺身、삼식이회)としても味わう。

ヨンニプパプ(蓮の葉包みごはん/연잎밥)

ヨンニプパプ(연잎밥)は、蓮の葉包みごはん(「ヨンニプパプ(蓮の葉包みごはん/연잎밥)」の項目も参照)。市南東部の高村邑楓谷里(コチョヌプ プンゴンニ、고촌읍 풍곡리)に集住する旧家、白川趙氏(ペチョン チョシ、배천 조씨)の一族に伝わる料理である[3]。かつて宗家に嫁いだ女性が体調を崩し、連日、寺に通って熱心に回復を祈ったところ、食事もろくにできない姿を見た僧がヨンニプパプを作って食べさせ、元気を取り戻したとの逸話が残る。以来、白川趙氏の家門では、切実な願いを抱える者を応援する料理として受け継がれてきた。現在は高村邑楓谷里の宗家料理店「古家(고가)」にてヨンニプパプを提供する。同店は2011年10月に東京・新宿の「伊勢丹新宿店」レストラン街に支店をオープンしている。

代表的な特産品

金浦金米(김포금쌀)

金浦金米(キムポクムサル、김포금쌀)は、金浦市で生産される米のブランド。2011年7月には、「金浦米(김포쌀)」の名前で農林畜産食品部が地域の名産品を認証する地理的表示農産物の第79号として登録された[4]

代表的な酒類・飲料

ムンベスル(ムンベ酒/문배술)

ムンベスル(문배술)は、金浦市通津邑西巌里(トンジヌプ ソアムニ、통진읍 서암리)で造られるナシの香りがする蒸留酒。ムンベ(문배)はチュウゴクナシ(산돌배)の近似種である野生種のナシを指し、スル()は酒を意味する。ムンベジュ(문배주)とも呼ぶ。実際にナシを原料とする訳ではなく、うるちアワ(메조)、モチモロコシ(찰수수)、米などを用いて造る。1986年11月1日に、国家無形文化財第86-1号に指定され[5]、技能保有者のイ・ギチュン(이기춘)氏は大韓民国食品名人第7号でもある[6]。現在まで韓国で国家無形文化財に指定された酒は、ムンベ酒のほか、忠清南道唐津市の沔川杜鵑酒(면천두견주、第86-2号)、慶尚北道慶州市の校洞法酒(교동법주、第86-3号)の計3種のみである。

ミルクティー(밀크티)

霞城面楊沢里(ハソンミョン ヤンテンニ、하성면 양택리)に本店を構える「カフェ真正性(카페, 진정성)」は、2016年4月のオープン以来、ボトル入りのミルクティーを看板メニューとして人気を集める。同店を火付け役として市内にはミルクティーの提供店が増え、現在は「金浦ミルクティー(김포 밀크티)」として地域の名物となっている。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

  • チョンギワフェッチプ(청기와횟집)
住所:京畿道金浦市大串面大明港1路92番キル39(大明里516-8)
住所:경기도 김포시 대곶면 대명항1로92번길 39(대명리 516-8)
電話:031-987-0715
料理:センソンフェ(刺身)ヘムルカルグクス(海鮮うどん)

エピソード

韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2014年1月に初めて金浦市を訪れた。それまで金浦市は空港の町(実際は金浦市にない)との印象しかなかったが、市西部の大明港を訪れ、旬のスンオフェ(ボラの刺身、숭어회)や、サムシギメウンタン(ケムシカジカの鍋、삼식이매운탕)を味わったことで、西海岸ならではの魚介を味わえる穴場の名漁港を有する地域と評価が大きく変わった。

脚注

  1. 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2023年1月27日閲覧
  2. 공항소개 、金浦国際空港ウェブサイト、2023年12月22日閲覧
  3. 한국관광공사, 2009, 『대한민국 대표 음식이야기』, 도서출판 넥서스, P25
  4. 김포쌀 、韓国地理的表示特産品連合会ウェブサイト、2024年1月21日閲覧
  5. 국가무형문화재 문배주 (문배酒) 、文化財庁国家文化遺産ポータル、2024年1月18日閲覧
  6. 명인소개 、大韓民国食品名人協会ウェブサイト、2024年1月18日閲覧

外部リンク

関連サイト
制作者関連サイト

関連項目