大邱市の料理

提供: 韓食ペディア
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大邱市(テグシ、대구시)は韓国の中東部に位置する地域。本ページでは大邱市の料理、特産品について解説する。

地域概要

大邱市(テグシ、대구시)は韓国の中東部に位置する広域市(韓国に6ヶ所ある上級地方自治体)。北部、東部、西部は慶尚北道と接し、南部は慶尚南道と接する。人口は248万1489人(2017年7月)で、韓国の都市としてはソウル市釜山市仁川市に次いで4番目に多い[1]。1981年に直轄市(その後、1995年に広域市)として独立するまでは慶尚北道に属し、慶尚北道庁も2016年2月までは大邱市に置かれていた(現在は安東市に位置)。慶尚道の中間的な位置にあって交通の利便性に富むことから、1601年に慶尚監営(当時の道庁)が置かれたように、朝鮮半島南東部の要衝として発展した。20世紀初頭からは繊維産業を中心に栄え、1905年に京釜線が全線開通したことでソウル市釜山市と結ばれると、経済や物流の中心としても大きな役割を果たした。人口こそ1999年7月以降、仁川市へ抜かれて4番手ではあるものの、大邱市を指して「韓国第3の都市」と表現することは一般的である。主要な観光地には、韓方市場の大邱薬令市(대구약령시)、繊維製品の販売で大きく発展した西門市場(서문시장)、20世紀初頭の歴史を現代に残す大邱近代通り(대구근대골목)、代表的な繁華街の東城路(동성로)、北部にそびえる八公山(팔공산)などがある。ソウルから大邱市までのアクセスは、ソウル駅から高速鉄道のKTXで東大邱駅まで1時間40分前後。ソウル高速バスターミナル、東ソウル総合ターミナルから高速バスで東大邱まで3時間30分程度。また、大邱国際空港(대구국제공항)までは、東京(成田)、大阪、福岡、沖縄、札幌から直行便が出ている。大邱国際空港から中心部の東大邱駅までは4kmほどの距離と近く、また東大邱駅に隣接する東大邱複合乗換センターからは慶尚道地域まで向かう市外バスが集まるため、南部への玄関口といった役割も注目されている。

  • 大邱薬令市
大邱薬令市(대구약령시)は大邱市中区南城路一帯に位置する韓方市場。ヤクチョンコルモク(薬廛通り、약전골목)とも呼ぶ。市場の開設は朝鮮時代中期の1658年頃。全国から集められた韓方材を効率的に流通させるため、春と秋に1ヶ月ずつ大邱城の北門近くに市を立てた。その後、1908年に城壁が撤去されると現在の南城路一帯へと中心が移り、全長715mの道路に沿ってたくさんの韓方材店や韓医院が集まる[2]

食文化の背景

内陸部にあって山に囲まれた盆地地形であり、夏は気温が高く、冬は寒いのが特徴である。気候の影響もあってか、全体的に辛く、塩気の強い料理が多いと説明されることが多い。牛肉を煮込んだ辛口スープのユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)や、タロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)、唐辛子とニンニクを大量に使って味付けをするチムカルビ(辛口の牛カルビ煮、찜갈비)などはその典型といえよう。また、大邱は麺類の消費が盛んなことでも有名であり、チャンチグクス(宴会用の温麺/잔치국수)や、ヌルングクス(누른국수)と呼ばれるカルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)の人気が高い。

代表的な料理

大邱地域を代表する料理は「大邱10味(대구십미)」として選定されている。2006年に大邱市が専門家らの意見を総合して作成したもので、ユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)、マクチャングイ(ギアラ焼き、豚の直腸焼き、막창구이)、ムンティギ(牛刺身、뭉티기)、チムカルビ(辛口の牛カルビ煮、찜갈비)、ノンメギメウンタン(ナマズの辛口鍋、논메기매운탕)、ポゴプルコギ(フグの炒め焼き、복어불고기)、ヌルングクス(韓国式の手打ちうどん、누른국수)、ムチムフェ(刺身和え、무침회)、ヤキウドン(辛口焼きうどん、야끼우동)、ナプチャクマンドゥ(薄焼餃子、납작만두)の10種類である[3]

ユッケジャン(육개장)

ユッケジャンは牛肉を煮込んだ辛口のスープ。他地域のユッケジャンとは異なり、大きく切った牛肉と、とろとろになるまで煮込んだ長ネギの2種が具材の大半を占める。少量の芋茎や大根を入れることもあるが、牛肉のうま味と長ネギから出る甘味が味の要となる。ごはんを添えて提供するのが一般的だが、かわりに麺を入れて食べるユッククス(육국수)という派生メニューもある。
  • テグタンバン(大邱湯飯)
大邱式のユッケジャンは20世紀初めにテグタン(大邱湯、대구탕)、またはテグタンバン(大邱湯飯、대구탕반)という名前でも親しまれた。ソウルにもテグタンバンを出す店ができて流行料理となったが、現在はほぼ名称としては残っていない。日本の焼肉店で牛肉の辛いスープをテグタンと呼ぶのはテグタンバンがルーツである(詳細はユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)#1920年代(テグタンバンの流行)の項目を参照)。
  • タロクッパプ
大邱ではユッケジャンから派生した料理としてタロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)を位置づけている。牛肉のスープにごはんを入れた状態で提供していたものを、客の要望によってごはんを分けて出したのが始まりとされる。現在の大邱におけるタロクッパプは牛肉や牛骨スープでダシを取り、長ネギ、芋がらなどの野菜と一緒に煮込んだ辛いスープという点で共通するが、多くの店でソンジ(牛の血、선지)を具として加えており、その点でユッケジャンと異なる。

マクチャングイ(막창구이)

マクチャングイはギアラ(牛の第4胃)焼き、または豚の直腸焼き。マクチャン(막창)とはマジマクチャン(最後の腸、마지막창)という意味で、牛の場合はギアラ、豚の場合は直腸を表す。いずれも練炭や炭火で網焼きにして味わう。
  • アンジランコプチャン通り
地下鉄1号線のアンジラン(안지랑)駅近くに、アンジランコプチャン通り(안지랑 곱창골목)と呼ばれる一角があり、長さ500mほどの通りに、2017年6月時点で52軒ものホルモン焼き専門店が並んでいる(八田靖史の取材記録より、2017年6月23日)。通りの名称としてはコプチャン(小腸、곱창)となっているが、ほとんどの店で豚のマクチャンも提供している。また、串に刺した鶏のヨムトン(ハツ、염통)も通りの名物とされる。

ムンティギ(뭉티기)

ムンティギは牛肉の刺身。ユッケ(牛刺身/육회)のように味付けはせず、鮮度のよい赤身肉をひと口大に切り、コチュジャン(고추장)や、タデギ(唐辛子ペースト、다대기)などの辛味ダレにつけて味わう。地方によってはセンゴギ(생고기)、ユクサシミ(육사시미)とも呼ばれるが、ムンティギははざくざくと切ることを表す擬音語のムントンムントン(뭉텅뭉텅)から来ている[4]。もともとはチョジゲサル(처지개살)と呼ばれるモモ肉の内側にある希少部位を用いたが、現在はモモの赤身部位全般を扱う。
  • その他の希少部位
ムンティギの専門店では、ほかに希少部位の網焼きをメニューに載せることが多い。ヤンジモリ(肩バラ肉、양지머리)、オドゥレギ(血管、心臓のつけ根にある大動脈、오드레기)、ヒョッパダク(タン、혓바닥)、テチャン(大腸、대창)などが代表的であり、これらを複合させたヤンジオドゥレギ(肩バラ肉と血管の炭火焼き、양지오드레기)といったメニューもある。

チムカルビ(찜갈비)

チムカルビは辛い牛カルビの蒸し煮。ぶつ切りにした牛カルビを甘辛く煮込んだもので、調理法としてはカルビチム(牛カルビの煮物/갈비찜)ともほぼ共通するが、みじん切りのニンニクや粉唐辛子のたくさん入る刺激的な味付けが特徴的である。1972年創業の元祖店「鳳山チムカルビ(봉산찜갈비)」によれば、1970年代の初めに地下鉄工事が行われた際、近隣で働いていた労働者のリクエストに応える形で、辛く濃厚な味付けに仕上がっていったという(八田靖史の取材記録より、2011年12月11日)。アルマイトのチゲ用鍋(양은냄비)で調理、提供され、残ったタレにはごはんを入れて混ぜて食べるのも定番である。
  • 東仁洞チムカルビ通り
大邱市中区東仁洞の東仁洞チムカルビ通り(동인동 찜갈비골목)には2017年6月現在、12軒のチムカルビ専門店が営業する。

ヤキウドン(야끼우동)

ヤキウドンは辛口の海鮮焼きうどん。韓国式のチャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)を汁なしに仕立てたアレンジ料理で、大邱を発祥とする中華料理として位置付けられる。名称こそ日本料理の「焼きうどん」と共通するが、もともと韓国の中華料理店には日本語が多く浸透しており、例えば焼き餃子のことはヤキマンドゥとも表現する(マンドゥ(餃子/만두)の項目も参照)。また、野菜や魚介を具とした温かいスープの麺料理を、日本式の麺料理とは別途、ウドン(우동)と称するため、この両者を総合してヤキウドンという名称に至った。大邱市中区南一洞に位置する「中和飯店(중화반점)」にて、1970年代に新メニューとして開発されたとされる。

代表的な特産品

大邱市は日本統治時代以降に製麺業で栄え、現在も麺料理の人気が高い。リンゴの産地としても有名である。

麺(국수)

大邱市は韓国でも小麦粉や麺類の消費が多い地域として知られる。1933年に中区大新洞で創業した「豊国麺(풍국면)」をはじめ[5]、日本統治時代から多くの製麺工場が作られた。そのひとつに1938年に中区仁橋洞で創業した「三星商会(삼성상회)」があり、これが後のサムソングループへと成長していった。三星商会では当時、社名にちなんだピョルピョグクス(星印麺、별표국수)を製造販売していた[6]
  • ヌルングクス
大邱10味のひとつに数えられるヌルングクス(누른국수)とは、いわゆるカルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)を指す。ヌルンは、「ヌルダ(押さえる、누르다)」を語源とし、小麦粉の生地を押さえつけながら伸ばしたことに由来するという説と、生地にきな粉(콩가루)を混ぜる慶尚道式の製法から、「ノラン(黄色い、노란)」が転化したとの説がある。グクス(=ククス、국수)は麺の意。煮干しでダシを取ったスープで、小麦粉と黄な粉を混ぜた生地の麺を茹でて作る。
  • ウドンプルコギ
大邱駅から達城公園に至る北城路(북성로)一帯には、夜になると駐車場などの空いたスペースにテント屋台が出る。どの店でもウドン(うどん/우동)と、テジプルコギ(豚肉の味付け焼肉/돼지불고기)を提供することから、両者を合わせてウドンプルコギ(우동불고기)と呼ぶ。屋台の発祥は1970年代からで、近隣にうどんの製麺工場があったことから名物となった。当初はウドンとともにテジカルビ(豚カルビ焼き/돼지갈비)を提供していたが、徐々に薄切りの豚肉を網焼きにするスタイルとなったという。現在は10軒ほどが営業しているが、近隣に高層アパートができることから煙や騒音が問題となり、2017年9月頃をメドに建物内への移転が進められている(八田靖史の取材記録より、2017年6月24日)。北城路は日本統治時代に日本人が多く住んでいた地域でもあり、当時の地図を見ると数軒のうどん店が存在するのを確認できる[7]

代表的な酒類・飲料

大邱市のマッコリ

老舗

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。


各地域の料理

南区(남구)

  • ヌルングクス(韓国式の手打ちウドン/누른국수)大明洞
  • マクチャングイ(豚の直腸焼き/막창구이)大明洞、寿城区池山洞など

達西区(달서구)

達城郡(달성군)

  • ノンメギメウンタン(ナマズの辛口鍋/논메기매운탕)多斯邑釜谷里

東区(동구)

  • タットンチプ(砂肝揚げ/닭똥집)新岩1洞平和市場内
  • トゥブヨリ(豆腐料理/두부요리)道鶴洞
  • トッポッキ(激辛餅炒め/떡볶이)新川洞

北区(북구)

  • コギグイ(焼肉/고기구이)検丹洞
  • チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)七星洞七星市場内

西区(서구)

  • ムチムフェ(刺身和え/무침회)内唐洞
  • アナゴグイ(アナゴ焼き/아나고구이)飛山洞仁同村市場内

寿城区(수성구)

  • ポップルコギ(フグの炒め焼き/복불고기)上洞

中区(중구)

  • ナプチャクマンドゥ(薄焼餃子/납작만두)南山洞
  • テジプルコギ(豚肉の網焼き/돼지불고기)北城路
  • タロクッパプ(別盛りのスープごはん/따로국밥)
  • ムンティギ(牛刺身/뭉티기)香村洞
  • サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)南城路
  • ヤキウドン(辛口焼きうどん/야끼우동)南一洞
  • ユッケジャン(牛肉の辛口スープ/육개장)
  • チムガルビ(辛口の牛カルビ煮/찜갈비)東仁洞

全域

  • ヤンニョムオデン(辛口オデン/양념오뎅)
  • フッテチム(メロの蒸し煮/흑태찜)

エピソード

  • 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2004年7月に初めて大邱を訪れ、大邱のテグタンは本当にあるのか検証を行った。実際にテグタンと書かれたメニューは発見できなかったものの、ユッケジャン専門店の社長からユッケジャンとテグタンの関連性について説明を聞くことができた。一連の話はメールマガジン「コリアうめーや!!第89号」に掲載されている[8]

脚注

  1. 주민등록 인구통계 、行政自治部ウェブサイト、2017年8月8日閲覧
  2. 약령시소개 、大邱薬令市韓方文化祭りウェブサイト、2017年8月8日閲覧
  3. 대구가 자랑하는 10가지 별미 、大邱観光案内ウェブサイト、2017年8月8日閲覧
  4. 뭉티기 、大邱観光案内ウェブサイト、2017年8月8日閲覧
  5. 풍국면의 역사 、豊国麺ウェブサイト、2017年8月10日閲覧
  6. 삼성의 싹. 삼성상회 인근 지방에서 더 인기 좋았던 별표국수 、湖岩財団ウェブサイト、2017年8月10日閲覧
  7. 「昭和十年代大邱府本町小学校区之図」より。
  8. コリアうめーや!!第89号 大邱のテグタンは本当にあるのだ!! 、韓食生活、2017年7月5日閲覧

外部リンク

関連項目