青松郡の料理
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青松郡(チョンソングン、청송군)は慶尚北道に位置する地域。本ページでは青松郡の料理、特産品について解説する。
地域概要
青松郡は慶尚北道の中東部に位置する地域。郡の北部は慶尚北道の英陽郡、東部は慶尚北道の盈徳郡、南東部は慶尚北道の浦項市、南部は慶尚北道の永川市、南西部は慶尚北道の軍威郡、西部は慶尚北道の義城郡、北西部は慶尚北道の安東市と接する。人口は2万5821人(2018年7月)[1]。郡の北部から東部、南部にかけては太白山脈の一角をなし、周王山(チュワンサン、주왕산)、太行山(テヘンサン、태행산)といった山々に囲まれる。周王山一帯は1976年に周王山国立公園(チュワンサンクンニプコンウォン、주왕산국립공원)として指定されており、また2011年6月には韓国で9ヶ所目のスローシティにも指定されるなど[2]、自然の景観が美しい地域である。代表的な観光地に18世紀初頭に作られた貯水池の注山池(チュサンジ、주산지)や、新羅時代の672年に創建された大典寺(テジョンサ、대전사)、1880年に建てられた伝統家屋の松韶古宅(ソンソゴテク、송소고택)などがある。ソウル市から青松郡までは、東ソウル総合バスターミナルから青松バスターミナルまで高速バスで約4時間10分の距離、周王山市外バスターミナルまで約4時間30分の距離である。
食文化の背景
山岳地域だけあって料理や特産品には山のものが多く、山菜料理、キノコ料理、地鶏料理などが発達している。また、郡内には達基薬水湯(タルギヤクスタン、달기약수탕)、新村薬水湯(シンチョンヤクスタン、신촌약수탕)といった炭酸泉の湧出する地域があり、その炭酸泉で煮込んだ地鶏料理や鶏粥が名物となっている。農業も盛んに行われており、リンゴ、ナツメ、唐辛子、シイタケなどが特産品にあげられる。中でもリンゴは毎年秋にリンゴ祭りが開かれており、青松を代表する作物と言える。食品以外ではコットル(꽃돌)と呼ばれる花模様の天然石や、韓紙(한지)、白磁(백자)なども有名である。
代表的な料理
サンチェジョンシク(山菜定食/산채정식)
- 周王山国立公園の入口には山菜料理を専門とする飲食店が並んでおり、サンチェジョンシクが名物となっている。提供される山菜料理はキムチ、ナムル、ムチム(和え物、무침)、チャンアチ(漬け物、장아찌)などが代表的で、これらにテンジャンチゲ(味噌鍋/된장찌개)や、チョン(チヂミ/전)などを加えて提供する方式が一般的である。一例として、右の写真(2014年9月22日「周王山チョンソル食堂」にて撮影)にある料理の一部を抜粋すると、オスリナムルジョン(ハナウドのチヂミ、어수리나물전)、ススブチム(キビのチヂミ)、トドックイ(ツルニンジン焼き/더덕구이)、ペンイジョン(エノキダケのチヂミ、팽이전)、などがある。ナムルの盛り合わせは、シラヤマギク(취나물)、シイタケ(표고버섯)、ワラビ(고사리)、ハナウド(어수리나물)、サルナシ(다래)の若芽の5種、キムチとチャンアチ(漬け物)の盛り合わせは、ハナウドのキムチ、青梅(매실)のチャンアチ、トウキ(당귀)のキムチ、ケカラスザンショウ(제피)のチャンアチ、桑の葉(뽕잎)のチャンアチ、五加皮(ウコギの根の皮、오가피)のチャンアチの6種類が並んでいる。このほか、地元名産のリンゴを使ったキムチもあった。
タッペクスク(丸鶏の水炊き/닭백숙)
- 青松は天然の炭酸泉で煮込んだタッペクスク(丸鶏の水煮/닭백숙)が名物であり、達基薬水湯、新村薬水湯の2ヶ所に専門店が集まっている。炭酸泉は鉄分などのミネラルを含み、胃腸病や皮膚病に効果があるとされている。タッペクスクを提供する飲食店は「旅館食堂(여관식당)」の看板を掲げているところが多く、もともとは温泉の湯治客に対して振る舞ったのが始まりだとされる。炭酸泉で煮込んだ丸鶏は、食べやすい大きさに手で裂き、粗塩につけて味わう。また、鶏を煮込んだスープで粥を作り、一緒に提供するのも定番である。店によってはメニューが細分化され、地鶏を用いたトジョンタッペクスク(토종닭백숙)、ウルシの木を一緒に煮込んだオッタッペクスク(옻닭백숙)、アヒルを使ったオリペクスク(アヒルの水炊き/오리백숙)といったバリエーションがある。一方、鶏肉を叩いてコチュジャンなどで味付けをし、炭火で網焼きにしたタップルコギ(닭불고기)はほぼすべての飲食店に用意があり、タッペクスクと並んで地域の名物となっている。タッペクスクは煮込むのに時間がかかるため、タップルコギを食べながら待つというのが定番となっている。タッペクスクとタップルコギのセット(または、丸鶏でなく鶏肉の一部をタップルコギとして使用し、残りの部位をタッペクスクにしたもの)をタップルペクスク(닭불백숙)とも呼ぶ。
- 達基薬水湯(タルギヤクスタン)
- 達基薬水湯と新村薬水湯ではタッペクスクの提供方法に若干の違いがある。達基薬水湯では煮込んだ丸鶏を大皿に盛り付けて提供する店が多い。煮込んだスープにはもち米の粥を入れて提供するか、店によっては別の器に盛り付けることもある。地鶏やアヒルを使用したり、ウルシの木を一緒に煮込むなどタッペクスクのバリエーションが豊富である。
- 新村薬水湯(シンチョンヤクスタン)
- 新村薬水湯のタッペクスクは丸鶏ではなく、鶏のモモ肉だけを緑豆粥と一緒に提供する方式が一般的である。他の部位はタップルコギ(胸肉を使用)や、オッケボン(手羽元焼き、어깨봉)、タンナルゲ(手羽先焼き、닭날개)といった料理に使用し、これらは新村薬水湯の名物となっている。
- 薬水飴(ヤクスヨッ)
- 達基薬水湯、新村薬水湯では源泉の水を飲むことができる。そこではセンガンヨッ(ショウガ飴/생강엿)や、ホバクヨッ(カボチャ飴/호박엿)を販売しており、飴を舐めることで源泉の味がよくわかるとされる。源泉の味は微炭酸で鉄分を多く含んでおり、タッペクスクの専門店では水がわりにも提供される。
代表的な特産品
青松郡ではリンゴの栽培が特に盛んであり、ほかにナツメ、唐辛子、シイタケなども名産とされる周王山地域では秋のシーズンになるとマツタケもとれる。
リンゴ
- 青松郡ではリンゴの栽培が盛んであり、約3000戸のリンゴ農家があって至るところに畑を見かける。品種は日本の富士が主流だが、低農薬で皮ごと食べられるのを売りにしたハイクリーン(하이크린)、アップルソング(애플송)という銘柄でブランド化している。毎年11月にはリンゴ祭りも開催される。
マツタケ
- 周王山地域では9~10月になるとマツタケがとれる。専門店ではソンイジョンゴル(マツタケ鍋/송이전골)、ソンイバプ(マツタケごはん、송이밥)といった料理が提供される。
味噌
- 青松郡巴川面中坪里のパランネ食品が造る味噌は「脈テンジャン(メクテンジャン、맥된장)」という名前でブランド化されている。家に代々続く伝統製法で造られており「脈々と続いてきた」との意味がある。
代表的な酒類・飲料
青松郡のマッコリ
- 主要な銘柄には青松醸造場の「注山池(주산지)」と、周王山濁酒の「周王山(주왕산)」がある。
- 亀岩ナツメマッコリ
- 亀岩ナツメマッコリ(구암대추막걸리)は青松産のナツメを加えて造るマッコリ。府南面花場里の亀岩農産で生産されている。
- リンゴ入りマッコリ
- 周王山国立公園の入口から大典寺にかけては飲食店や露店が軒を連ねており、店頭ではリンゴやツルニンジン、菊の花などを入れたマッコリを販売している。
青松不老酒
- 青松不老酒(청송불로주)は咸安趙氏の家系に伝わる伝統焼酎。もち米、うるち米を原料に岩盤から汲み上げた炭酸泉を用いて造る。真宝面新村里で生産される。
飲食店情報
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
- 不老村食堂(불로촌식당)
- 住所:慶尚北道青松郡真宝面キョンドン路5173-5(新村里40-23)
- 住所:경상북도 청송군 진보면 경동로 5173-5(신촌리 40-23)
- 電話:054-872-6335
- 料理:タッペクスク(鶏の水炊き)
- ソンイガーデン(송이가든)
- 住所:慶尚北道青松郡府東面周王山路504(下宜里751)
- 住所:경상북도 청송군 부동면 주왕산로 504(하의리 751)
- 電話:054-874-0066
- 料理:ソンイジョンゴル(マツタケ鍋)
- ヨンチョン食堂(영천식당)
- 住所:慶尚北道青松郡青松邑薬水キル54(釜谷里286-11)
- 住所:경상북도 청송군 청송읍 약수길 54(부곡리 286-11)
- 電話:054-873-2387
- 料理:タッペクスク(鶏の水炊き)
- 周王山チョンソル食堂(주왕산 청솔식당)
- 住所:慶尚北道青松郡府東面公園キル164(上宜里319)
- 住所:경상북도 청송군 부동면 공원길 164(상의리 319)
- 電話:054-874-5358
- 料理:サンチェジョンシク(山菜定食)
エピソード
- 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2014年9月に初めて青松郡を訪れた。その際、東京、三河島の韓国料理店「ママチキン」と、湯島の「周王山」を経営する姉弟が青松郡の出身であることから、知人の郡庁関係者を紹介してもらうなど多大なる協力を得た。関係諸氏には特別に謝意を表すとともに、三河島の「ママチキン」では青松郡から直送された山菜料理やマツタケ料理が季節の特別メニューとして稀に提供されることを付記しておく。また、「ママチキン」に併設された「周王山醸造場」では自家製のマッコリを造っているが、その製法は青松郡にある「周王山濁酒」と同様である。
- BYC
- 慶尚北道の奉化郡(Bonghwa-gun)、英陽郡(Yeongyang-gun)、青松郡(Cheongsong-gun)の頭文字を取って「BYC」と総称することがある。隣接する3地域を韓国の有名な下着メーカーにちなんでまとめた語呂合わせだが、韓国を代表する「奥地」のまとめとして揶揄を含むことが多い。韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、その「奥地」度を認めたうえで、それでも「わざわざ目掛けて行くべき美味しい3地域」と勝手な再定義を提唱している[3]。
脚注
- ↑ 주민등록 인구통계 、行政安全部ウェブサイト、2018年8月16日閲覧
- ↑ スローシティ青松の魅力に迫る! 、青松郡ウェブサイト、2014年11月23日閲覧
- ↑ 八田靖史, 2022, 『ラジオ まいにちハングル講座 2022年9月号(韓国おいしい町めぐり)』, NHK出版, P96
外部リンク
- 関連サイト
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)