「サンナクチ(テナガダコの踊り食い/산낙지)」の版間の差分
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+ | サンナクチのサン([[산]])は、動詞「サルダ(生きる、살다)」の過去連体形で「生きている、生きた」を意味し、ナクチ([[낙지]])はテナガダコを表す。分かち書きはせず、ひと単語と考えて「[[산낙지]]」と表記される。日本ではサンナッチとの表記も見られるが、本辞典では「サンナクチ」を使用する。発音表記は〔산낙찌〕。 | ||
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+ | :サンナクチは、ナクチタンタンイ([[낙지탕탕이]])、あるいは単にタンタンイ([[탕탕이]])とも呼ぶ。タンタンイとは、包丁で「タンタンと叩いたもの」を意味する。サンナクチは「生きたテナガダコ」を総称するため、包丁でぶつ切りにせず、丸のまま食べたり、割り箸に巻き付けて食べることもある。そういった食べ方と区別をするために、ぶつ切りにしたものをナクチタンタンイ、タンタンイとして呼び分ける場合もある。刺身を意味するフェ([[회]])をつけて、サンナクチフェ([[산낙지회]])とも呼ぶ。 | ||
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+ | *日本語訳 | ||
+ | :日本の韓国料理店では、簡潔に「生ダコ」「活ダコ」とする例や、直訳として「生きているテナガダコ(タコ)」とも説明される。サンナクチは生きたままぶつ切りにし、皿上でうねうねと動くことから、本辞典では「テナガダコの踊り食い」とした。 | ||
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+ | *語源 | ||
+ | :ナクチはかつて漢字語で「絡蹄(ナクチェ、낙제)」とも表記し、これがナクチに変化したとの説がある。「絡」はひも状のものが絡まる様子、「蹄」はひづめを意味し、足が絡まった様子から名付けられたのではと推測される。なお、余談であるが、「絡蹄(낙제)」が「落第(낙제)」と同音異義語であることから、試験前にテナガダコを食べてはいけないとの俗説がある。同様に、[[ミヨックッ(ワカメスープ/미역국)]]もワカメがぬるぬると「滑る」ことから試験前に避けられる料理である。 | ||
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+ | [[ファイル:23022102.JPG|thumb|300px|テナガダコを割り箸に巻き付けているところ]] | ||
+ | 生きたテナガダコの足をぶつ切りにし、ゴマ油、ゴマ、粗塩をかけて食べる。ぶつ切りにした後も皿の上でうねうねと動くところに人気があり、精がつくと考えられている。また、生きたテナガダコをそのまま丸ごと食べたり、割り箸にぐるぐると巻き付け、チョゴチュジャン(唐辛子酢味噌、[[초고추장]])や、キルムジャン(塩ゴマ油、[[기름장]])につけてかぶりつく食べ方もある。その場合は、あまり大きすぎると食べにくいため、セバルナクチ([[세발낙지]])と呼ばれる小さなテナガダコを用いることが多い。主に刺身店や、海鮮料理店で味わう料理であり、主産地である[[全羅南道の料理|全羅南道]]の郷土料理としても知られる。 | ||
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+ | テナガダコを用いた料理としては、ほかに[[ナクチボックム(テナガダコ炒め/낙지볶음)]]、[[ヨンポタン(テナガダコのスープ/연포탕)]]、[[カルラクタン(牛カルビとテナガダコのスープ/갈낙탕)]]、[[プルラクジョンゴル(牛肉とテナガダコの鍋/불낙전골)]]、ナクチスッケ(茹でテナガダコ、[[낙지숙회]])、ナクチチム(テナガダコの蒸し煮、[[낙지찜]])、ナクチチョムチム(テナガダコの酢和え、[[낙지초무침]])、ナクチホロン(テナガダコの串巻き焼き、[[낙지호롱]])などがある。 | ||
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+ | === 食べ方 === | ||
+ | :生きたまま味わうことを醍醐味とするため、吸盤が箸や皿、口元に吸い付いくなど、慣れないうちは食べるのに苦労する。喉に貼りついて窒息する可能性もあるため、食べる際は充分に気を付けなければならない。特に丸ごとのまま食べる場合は、まず頭を噛みつぶして、テナガダコの動きを止めることが推奨される。また、無理に飲み込もうとすると危険なので、よく噛んで味わうのも重要である。 | ||
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+ | ;『茲山魚譜』(1814年)の記述 | ||
+ | :丁若銓の書いた魚類学書『茲山魚譜(자산어보)』には、テナガダコについての記述があり、名称を「石距(석거)」、俗称を「낙제어(絡蹄魚)」と紹介している。その項目内では、テナガダコについて「色は白く甘味があり、刺身やチゲ、干物によく、人に元気を与える」(原文1)とあり、また「疲れた牛にテナガダコを4~5匹食べさせるとすこぶる健康になる」(原文2)とも書かれている<ref>[https://library.korea.ac.kr/detail/?cid=CAT000000733434&ctype=o 玆山魚譜 / 筆寫本(P60-62)] 、高麗大学校図書館、2023年2月20日閲覧</ref>。 | ||
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+ | :【原文1】色白甘美宣鱠及羹腊人元気 | ||
+ | :【原文2】牛之疲憊者飼石距四五首則頗健也 | ||
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+ | 足をぶつ切りにして食べる場合と、丸ごとのまま食べる場合がある。 | ||
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+ | ;セバルナクチ([[세발낙지]]) | ||
+ | :丸ごとで食べる場合は、サイズの小さなセバルナクチを用いることが多い。セバルは「細い足」を意味する。 | ||
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+ | ;ユッケタンタンイ([[육회탕탕이]]) | ||
+ | :足をぶつ切りにしたテナガダコと[[ユッケ(牛刺身/육회)]]を合わせたもの。[[ユッケ(牛刺身/육회)|ユッケ]]とナクチ(テナガダコ、[[낙지]])を略して「ユンナク([[육낙]])」とも呼ぶ。 | ||
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+ | == 日本における定着 == | ||
+ | [[ファイル:23022103.JPG|thumb|300px|サンナクチをより活発に動かすためのレモンエキス]] | ||
+ | 韓国式刺身店や、海鮮料理を専門とする店においては、サンナクチを提供しているところがある。近年は動画映えするとの理由から、YouTuberらが取り上げる事例もある。 | ||
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+ | == エピソード == | ||
+ | 韓食動画の執筆者である八田靖史は、2005年11月に初めてテナガダコの主産地である[[全羅南道の料理|全羅南道]][[木浦市の料理|木浦市]]を訪れ、本場のサンナクチを味わった。店の人からは「下手したら死ぬわよ。無理しないで止めといたら?」と心配されながらも注文を強行し、割り箸に巻き付けたものを口の中へと押し込んでもらった。メールマガジン「コリアうめーや!!第116号」では、一連の経緯と感想を「まさに生死を賭けた真剣勝負」「根底の味を、純粋に味わうのが丸ごとのガブリ食い」「このうまさがナクチ料理の真髄だと気付いた」と綴っている<ref>[https://www.kansyoku-life.com/2000/02/2042.html コリアうめーや!!第116号(本場木浦で取れたてナクチ三昧!!)] 、韓食生活、2023年2月21日閲覧</ref>。 | ||
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+ | == 地域 == | ||
+ | *全羅南道 | ||
+ | :テナガダコの主産地は[[全羅南道の料理|全羅南道]]であり、2021年の生産量は全体の68.4%を占める<ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1EW0004 어업별 품종별 통계] 、統計庁ウェブサイト、2023年2月18日閲覧</ref>。[[木浦市の料理|木浦市]]、[[務安郡の料理|務安郡]]、[[霊岩郡の料理|霊岩郡]]、[[長興郡の料理|長興郡]]などが有名であり、テナガダコ料理の専門店や海鮮料理店では各種のテナガダコ料理とともにサンナクチも提供される。 | ||
== 脚注 == | == 脚注 == | ||
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*[http://kansyoku-life.com/ 韓食生活](韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト) | *[http://kansyoku-life.com/ 韓食生活](韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト) | ||
*[http://www.kansyoku-life.com/profile 八田靖史プロフィール](八田靖史のプロフィール) | *[http://www.kansyoku-life.com/profile 八田靖史プロフィール](八田靖史のプロフィール) | ||
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== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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2024年7月8日 (月) 07:43時点における最新版
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サンナクチ(산낙지)は、テナガダコの踊り食い。
名称
サンナクチのサン(산)は、動詞「サルダ(生きる、살다)」の過去連体形で「生きている、生きた」を意味し、ナクチ(낙지)はテナガダコを表す。分かち書きはせず、ひと単語と考えて「산낙지」と表記される。日本ではサンナッチとの表記も見られるが、本辞典では「サンナクチ」を使用する。発音表記は〔산낙찌〕。
- 別称
- サンナクチは、ナクチタンタンイ(낙지탕탕이)、あるいは単にタンタンイ(탕탕이)とも呼ぶ。タンタンイとは、包丁で「タンタンと叩いたもの」を意味する。サンナクチは「生きたテナガダコ」を総称するため、包丁でぶつ切りにせず、丸のまま食べたり、割り箸に巻き付けて食べることもある。そういった食べ方と区別をするために、ぶつ切りにしたものをナクチタンタンイ、タンタンイとして呼び分ける場合もある。刺身を意味するフェ(회)をつけて、サンナクチフェ(산낙지회)とも呼ぶ。
- 日本語訳
- 日本の韓国料理店では、簡潔に「生ダコ」「活ダコ」とする例や、直訳として「生きているテナガダコ(タコ)」とも説明される。サンナクチは生きたままぶつ切りにし、皿上でうねうねと動くことから、本辞典では「テナガダコの踊り食い」とした。
- 語源
- ナクチはかつて漢字語で「絡蹄(ナクチェ、낙제)」とも表記し、これがナクチに変化したとの説がある。「絡」はひも状のものが絡まる様子、「蹄」はひづめを意味し、足が絡まった様子から名付けられたのではと推測される。なお、余談であるが、「絡蹄(낙제)」が「落第(낙제)」と同音異義語であることから、試験前にテナガダコを食べてはいけないとの俗説がある。同様に、ミヨックッ(ワカメスープ/미역국)もワカメがぬるぬると「滑る」ことから試験前に避けられる料理である。
概要
生きたテナガダコの足をぶつ切りにし、ゴマ油、ゴマ、粗塩をかけて食べる。ぶつ切りにした後も皿の上でうねうねと動くところに人気があり、精がつくと考えられている。また、生きたテナガダコをそのまま丸ごと食べたり、割り箸にぐるぐると巻き付け、チョゴチュジャン(唐辛子酢味噌、초고추장)や、キルムジャン(塩ゴマ油、기름장)につけてかぶりつく食べ方もある。その場合は、あまり大きすぎると食べにくいため、セバルナクチ(세발낙지)と呼ばれる小さなテナガダコを用いることが多い。主に刺身店や、海鮮料理店で味わう料理であり、主産地である全羅南道の郷土料理としても知られる。
テナガダコを用いた料理としては、ほかにナクチボックム(テナガダコ炒め/낙지볶음)、ヨンポタン(テナガダコのスープ/연포탕)、カルラクタン(牛カルビとテナガダコのスープ/갈낙탕)、プルラクジョンゴル(牛肉とテナガダコの鍋/불낙전골)、ナクチスッケ(茹でテナガダコ、낙지숙회)、ナクチチム(テナガダコの蒸し煮、낙지찜)、ナクチチョムチム(テナガダコの酢和え、낙지초무침)、ナクチホロン(テナガダコの串巻き焼き、낙지호롱)などがある。
食べ方
- 生きたまま味わうことを醍醐味とするため、吸盤が箸や皿、口元に吸い付いくなど、慣れないうちは食べるのに苦労する。喉に貼りついて窒息する可能性もあるため、食べる際は充分に気を付けなければならない。特に丸ごとのまま食べる場合は、まず頭を噛みつぶして、テナガダコの動きを止めることが推奨される。また、無理に飲み込もうとすると危険なので、よく噛んで味わうのも重要である。
歴史
文献上の記録
- 『茲山魚譜』(1814年)の記述
- 丁若銓の書いた魚類学書『茲山魚譜(자산어보)』には、テナガダコについての記述があり、名称を「石距(석거)」、俗称を「낙제어(絡蹄魚)」と紹介している。その項目内では、テナガダコについて「色は白く甘味があり、刺身やチゲ、干物によく、人に元気を与える」(原文1)とあり、また「疲れた牛にテナガダコを4~5匹食べさせるとすこぶる健康になる」(原文2)とも書かれている[1]。
- 【原文1】色白甘美宣鱠及羹腊人元気
- 【原文2】牛之疲憊者飼石距四五首則頗健也
種類
足をぶつ切りにして食べる場合と、丸ごとのまま食べる場合がある。
- セバルナクチ(세발낙지)
- 丸ごとで食べる場合は、サイズの小さなセバルナクチを用いることが多い。セバルは「細い足」を意味する。
- ユッケタンタンイ(육회탕탕이)
- 足をぶつ切りにしたテナガダコとユッケ(牛刺身/육회)を合わせたもの。ユッケとナクチ(テナガダコ、낙지)を略して「ユンナク(육낙)」とも呼ぶ。
日本における定着
韓国式刺身店や、海鮮料理を専門とする店においては、サンナクチを提供しているところがある。近年は動画映えするとの理由から、YouTuberらが取り上げる事例もある。
エピソード
韓食動画の執筆者である八田靖史は、2005年11月に初めてテナガダコの主産地である全羅南道木浦市を訪れ、本場のサンナクチを味わった。店の人からは「下手したら死ぬわよ。無理しないで止めといたら?」と心配されながらも注文を強行し、割り箸に巻き付けたものを口の中へと押し込んでもらった。メールマガジン「コリアうめーや!!第116号」では、一連の経緯と感想を「まさに生死を賭けた真剣勝負」「根底の味を、純粋に味わうのが丸ごとのガブリ食い」「このうまさがナクチ料理の真髄だと気付いた」と綴っている[2]。
地域
- 全羅南道
- テナガダコの主産地は全羅南道であり、2021年の生産量は全体の68.4%を占める[3]。木浦市、務安郡、霊岩郡、長興郡などが有名であり、テナガダコ料理の専門店や海鮮料理店では各種のテナガダコ料理とともにサンナクチも提供される。
脚注
- ↑ 玆山魚譜 / 筆寫本(P60-62) 、高麗大学校図書館、2023年2月20日閲覧
- ↑ コリアうめーや!!第116号(本場木浦で取れたてナクチ三昧!!) 、韓食生活、2023年2月21日閲覧
- ↑ 어업별 품종별 통계 、統計庁ウェブサイト、2023年2月18日閲覧
外部リンク
- 制作者関連サイト
- 韓食生活(韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
- 八田靖史プロフィール(八田靖史のプロフィール)