「ユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)」の版間の差分

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[[ファイル:17071001.JPG|thumb|400px|大邱式のユッケジャン]]
 
'''ユッケジャン'''([[육개장]])は、牛肉の辛いスープ。牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込む。牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。ほぼ通年で食べられているが、夏バテを防ぐ滋養の料理としても親しまれ、また葬礼の際に食べる厄払いの料理という側面もある。類似の料理には、牛肉の代わりに鶏肉を使った[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]がある。
 
'''ユッケジャン'''([[육개장]])は、牛肉の辛いスープ。牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込む。牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。ほぼ通年で食べられているが、夏バテを防ぐ滋養の料理としても親しまれ、また葬礼の際に食べる厄払いの料理という側面もある。類似の料理には、牛肉の代わりに鶏肉を使った[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]がある。
 
[[ファイル:17020501.JPG|thumb|400px|平壌冷麺]]
 
  
 
== 名称 ==
 
== 名称 ==
[[ファイル:17020502.JPG|thumb|300px|平壌の冷麺店「玉流館」]]
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[[ファイル:17071002.JPG|thumb|300px|ユッケジャン]]
ユッケジャンは牛肉の辛いスープ。ユッ([[육]])は肉(牛肉)、ケジャン([[개장]])は犬肉のスープ(「ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)」の項目も参照)。ケジャンを牛肉で代用したことから名付けられた。発音表記は[육깨장]。
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ユッケジャンは牛肉の辛いスープ。ユッ([[육]])は肉(牛肉)、ケジャン([[개장]])は犬肉のスープ(「[[ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)]]」の項目も参照)。ケジャンを牛肉で代用したことから名付けられた。日本では「ユッケジャンスープ」という表記も見られるが、厳密にはケジャンの部分にスープの意が含まれている。本辞典においては「ユッケジャン」を使用する。発音表記は[육깨장]。
  
 
== 概要 ==
 
== 概要 ==
[[ファイル:17020503.JPG|thumb|300px|麺作りの様子]]
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ユッケジャンは牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込んで作る料理。スープを取った牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。たっぷりの具とスープを大き目の器に盛り付け、ごはん、副菜とともに定食の形式で提供されることが多い。家庭料理として作られるほか、定食店でもよく見るポピュラーなメニューであり、また専門店も存在する。
ユッケジャンは牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込んで作る料理。スープを取った牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。たっぷりの具とスープを大き目の器に盛り付け、ごはん、副菜とともに定食の形式で提供されることが多い。家庭料理として作られるほか、定食店でもよく見るポピュラーなメニューであり、また専門店も一部存在する。
 
 
 
=== タッケジャン ===
 
タッケジャン([[닭개장]])は牛肉の代わりに鶏肉を使ったユッケジャン。タッユッケジャン([[닭육개장]])とも呼ぶ。茹でた鶏肉を裂いて具とする(「タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)」の項目も参照)。
 
 
 
=== ユッケジャンカルグクス ===
 
[[ファイル:17020504.jpg|thumb|300px|ピビムネンミョン]]
 
ユッケジャンカルグクス([[육개장칼국수]])は、ユッケジャンのスープに[[カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)]]の麺を入れた料理。略称としてユッカル([[육칼]])とも呼ばれる。食べ方としては以前からあったものの、2000年代後半から2010年頃にかけて話題となって広範な知名度を獲得した。2016年2月には大手食品会社のプルムウォンがインスタントの袋麺「ユッケジャンカルグクス」を販売した。大邱(テグ)にはユッケジャンのスープに素麺を入れたユッククス([[육국수]])が郷土料理として存在する。
 
  
 
== 歴史 ==
 
== 歴史 ==
 
=== 文献上の記録 ===
 
=== 文献上の記録 ===
ネンミョンに関する文献上の記録は17世紀から見られ、19世紀以降にその数がぐっと増える。
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ユッケジャンに関する文献上の記録は19世紀末から見られる。20世紀に入ると詳細な調理法が紹介されるようになり、現在のユッケジャンがほぼ牛のモモ肉やスネ肉を使用するのに対し、当時は内臓肉など多様な部位を使用していたことがわかる。ユッケジャンの原型となったケジャンについてはもっと古い史料もあるが、ここでは割愛する。
 
 
*『谿谷集』(1635年)の記述
 
:張維によって書かれた『谿谷集』27巻には「紫漿冷麺」と題された五言律詩がある<ref>[http://db.mkstudy.com/mksdb/e/korean-literary-collection/book/reader/8529/?sideTab=toc&articleId=1046227 계곡집] 、한국문집총간、2017年2月4日閲覧</ref>。冷麺に関する文献上の記録としてはもっとも古く、朝鮮時代中期にはネンミョンが一般的な料理であったと推測される。
 
 
 
*『増補山林経済』(1766年)の記述
 
:17世紀末から18世紀初めにかけて洪萬選(1643~1715年)が編纂した『山林経済』には、「木麦麺法」として木製の押し出し機で作るそば麺の製法が次のように紹介されている。「粉にしたそばに水をかけて殻を取り、布の上に広げて天日で干し、そば粉1斗を準備する。皮をむいた緑豆2升を普通のやり方で粉にする。細い製麺機で押し出して白い麺を作ると味がよい。または細かくひいたそば粉に水をよく混ぜて生地を作り、包丁で切ってもよい」(原文1)。この時代にはすでに押し出し式で作る麺が普及していることがわかる。
 
  
::【原文1】「木麥取米作末,水飛鋪布上晒乾一斗,去皮菉豆二升作末如常法,細板壓作白麵味勝,或作末搜水刀切作麫亦佳」<ref>[http://www.koreantk.com/ktkp2014/kfood/kfood-view.view?foodCd=103749 메밀국수] 、한국전통지식포탈、2017年2月4日閲覧</ref>
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;『閨壼要覧』(1896年)の記述
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:延世大学が所蔵する『閨壼要覧(규곤요람)』にユッケジャンの調理法が書かれている。後述の『是議全書』の発刊年代は1800年代末と推定されているが明確ではなく、年代のはっきりした文献としてはこれがユッケジャンの初出である。本書ではその調理法について、「肉を薄く切り醤油とともに水を多く注いで煮込み、薄切りの肉が煮えてとろとろになったら野菜を入れて火を通しコショウを入れる。これはお客様への料理にもよく、また昼食にごはんを炊いてスープと混ぜても食べる」(原文1)と紹介している。
  
*『東国歳時記』(1849年)の記述
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::【原文1(現代語訳)】「고기를 얇게 썰어 간장과 함께 물을 많이 붓고 끓이되 썰어 놓은 고기가 푹 익어 고기 점이 풀어지도록 끓인 후 야채를 넣어 익히고 후춧가루를 넣는다. 이것을 하면 손님 밥상에도 떠 놓고 또 점심에도 밥을 잘 지어 국에 말아 먹는다.」<ref>[http://www.koreantk.net/ktkp2014/kfood/kfood-view.view?foodCd=104901 육개장, 규곤요람(1896)] 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧</ref>
:洪錫謨によって1849年に書かれた『東国歳時記』には、当時の歳時風俗が月ごとにまとめられており、11月の項目にはネンミョンに関する記述がある。文献上におけるネンミョンの記録はこれが初出とされる。「そば麺を大根キムチや白菜キムチを加え、豚肉と和えたものを冷麺と呼ぶ。また、いろいろな野菜や梨、栗、牛肉、豚肉と、油と醤油をそば麺に入れたものを骨董麺と呼ぶ。冷麺は関西地方のものがもっともよい」(原文2)と書かれており、冷麺が冬の季節料理であったことに加え、現在のピビムネンミョンに相当する骨董麺([[골동면]])の存在も見てとれる。もっともよいと書かれた関西地方は、現在の平壌あたりを指すもので、この時代から平壌冷麺の評判が高かったことを示す。
 
  
::【原文2】「用蕎麥麵 沈菁菹菹 和猪肉 名曰冷麵 又和雜菜梨栗牛猪切肉 油醬於麵 名曰骨董麵 關西之麵最良」<ref>최대림(약), 1989, 『동국세시기』, 홍신문화사, P121</ref>
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;『是議全書』(1800年代末)の記述
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:1800年代末に書かれたと推測される『是議全書(시의전서)』(原著者不詳)の湯部という項目にはユッケジャンの調理法が紹介されている。「牛肉、頬肉、熱湯でゆがいた肺、腸、ミノ(第1胃)、アワビ、ナマコを入れ、水を多めに注いで柔らかく煮て取り出す。肉は裂き、ほかはすべて短冊に切り、長ネギとセリはさっとゆがいて切っておく。薬味ダレを入れ、油と醤油で味付けをして煮込む。肉団子も入れ、卵も薄焼きにしてひし型に切って上に載せる。コンユッケジャンにカラシを添えても酒の肴によい」(原文2)と記述されている。なお、最後のコンユッケジャン(건육개장)がどのようなものか不明であるが、コンが「乾」であるならば、汁なしで具だけのユッケジャンではないかと推測できる。
  
*『是議全書』(1800年代後半)の記述
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::【原文2(現代語訳)】「쇠고기, 흘떼기, 뜨거운 물에 데친 부아, 창자, 양, 전복, 해삼을 넣고 물을 많이 부어 무르게 삶아 건진다. 고기는 찢고 다른 것은 모두 골패처럼 썰고 파와 미나리는 살짝 데쳐 잘라 넣는다. 갖은 양념을 넣고 기름장으로 간을 맞추어 끓인다. 완자도 넣고 달걀도 얇게 부쳐 비스듬한 네모 모양으로 썰어 위에 얹는다. 건육개장에 겨자를 곁들이면 술안주로 좋다.」<ref>[http://www.koreantk.net/ktkp2014/kfood/kfood-view.view?foodCd=107237 육개장, 시의전서(1800년대말)] 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧</ref>
:1800年代後半に書かれた『是議全書』(原著者不詳)の麺部という項目にはネンミョン(原文では令麺)、ピビムネンミョン(原文では汨董麺、부븸국슈)、チャンクッネンミョン(原文では장국냉면、肉スープの冷麺を意味する)の調理法が紹介されている。それぞれの記述は以下の通りである。
 
#ネンミョン「澄んでさっぱりとしたナバッキムチ(ダイコンを薄く切り多目の塩水でつけたキムチ、[[나박김치]])や、よくできた[[トンチミ(大根の水キムチ/동치미)]]の汁に蜂蜜を足し、麺を入れて味わう。上には牛肩バラ肉、梨、丸ごと漬けた白菜キムチの3種をすべて千切りにして載せ、粉唐辛子と松の実を振る」(原文3)
 
#ピビムネンミョン「牛肉は細かく刻んだ後、薬味ダレに漬けて炒め、緑豆モヤシとセリは下茹でする。ムク(緑豆などのでんぷんを固めたもの、[[묵]])を和え、薬味ダレを整えておき、麺を混ぜて器に盛り付ける。上には肉を炒めたものと、粉唐辛子と、すりごまを振りかけるが、食卓に供する際には澄まし汁を一緒に置く」(原文4)
 
#チャンクッネンミョン「肉の澄まし汁を冷やして麺を加える。上には塩でさっと漬けてキュウリを洗って絞り、さっと炒めてすりゴマ、粉唐辛子、油、醤油で和えて、細切りにした牛肩バラ肉と一緒に混ぜて載せる。また、その上には糸唐辛子、イワタケ、錦糸卵を載せる。エホバク(カボチャの未熟果実、[[애호박]])もキュウリと同じく炒める」(原文5)
 
  
::【原文3】「청신한 나박김치나 좋은 동침이 국에 꿀을 넣어 말아 먹는다. 위에는 양지머리·배·좋은 통김치 세 가지를  모두 채쳐서 얹고 고춧가루와 잣을 뿌린다.」
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;『朝鮮料理製法』(1921年)の記述
::【原文4】「쇠고기는 다진 후 양념에 재워서 볶고, 숙주와 미나리는 삶는다. 묵을 무치고 양념을 갖추어 넣고, 국수를 비벼 그릇에 담는다. 위에는 고기 볶은 것과 고춧가루와 깨소금을 뿌리는데 상에 낼 때에는 장국을 함께 놓는다.」
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:方信栄(방신영)によって1917年に初めて書かれ、その後も増補を重ねた『朝鮮料理製法(조선요리제법)』にはユッケジャンの項目があり、食材や調理法が詳細に書かれている。1921年の版では「ユッケジャンはコムクッ(牛スープ)と同じである。まず長ネギをゆがいて水で新い、よく絞ってから1寸の長さに切り、器に盛って、牛肉とミノ(第1胃)、直腸、小腸、肺、この5種類を釜に入れて真水でじっくり煮て、火が通った後にすべて取り出し、肉は手で細くちぎる。長ネギと一緒に盛った後、醤油と油、すりゴマ、コショウで味を整え、よく揉み込んだうえで肉を茹でた水にもう1度入れてひとしきり煮て食べる」(原文3)と紹介されている。
::【原文5】「고기장국을 끓여 싸늘하게 식혀서 국수를 만다. 위에는 외를 채쳐 소금에 잠깐 절였다가 헹구어 짠 다음에 살짝 볶아 깨소금·고춧가루·유장에 무치고 양지머리 채 친 것을 같이 섞어 얹는다. 또 그 위에는 실고추·석이·달걀 부친 것을 채쳐서 얹는다. 호박도 외와 같이 볶는다.」<ref>이효지 외(엮음), 2004,『시의전서』, 신광출판사, P187</ref>
 
  
*『婦人必知』(1915年)の記述
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::【原文3(現代語訳)】「육개장은 곰국과 같다. 먼저 파를 물에 데쳐서 물에 빨아 꼭 짜가지고 한 치 길이씩 썰어 그릇에 담아 놓고 쇠고기와 양과 곤자손이, 창자, 허파 이 다섯 가지를 솥에 넣고 맹물에 한참 삶아서 다 익은 후에 다 건져 놓고 고기는 손으로 잘게 뜯는다. 파와 함께 담은 후, 간장과 기름, 깨소금, 후춧가루를 간 맞추어 치고 한참 주물어 섞어서 고기 삶은 물에 다시 넣고 한참을 끓여서 먹는다.」<ref>[http://www.koreantk.net/ktkp2014/kfood/kfood-view.view?foodCd=106403 육개장, 조선요리제법(1921)] 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧</ref>
:憑虚閣李氏によって1915年に書かれた『婦人必知』では、1903年(1909年説もある)に創業した飲食店「明月館(명월관)」のネンミョンを紹介している。「トンチミの汁に麺を入れる。大根、梨、柚子を薄切りにして入れ、薄切りの茹で豚と、錦糸卵を載せる。コショウ、梨、松の実を入れると、明月館冷麺と呼ぶ」(原文6)と記述されており、飲食店のレシピを紹介したものとしてはこれが初めてである。
 
  
::【原文6】「동치밋국에 국수를 만다. 무, 배, 유자를 얇게 저며 넣고, 제육을 썰고 달걀을 부쳐 채 썰어 넣는다. 후추, 배, 잣을 넣으면 명월관냉면이라 한다.」<ref>이효지 외(엮음), 2010,『부인필지』, 교문사, P192~193</ref>
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;『朝鮮無双新式料理製法』(1930年)の記述
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:李用基(이용기)によって1924年に書かれた『朝鮮無双新式料理製法(조선무쌍신식요리제법)』にはユッケジャンの項目がある。「まず長ネギをゆがいて水で洗い、しっかり絞って1寸ずつの長さに切っておく。頬肉、センマイについた肉、膝軟骨と周辺の肉、モモ肉、バラ肉、大腸、小腸、ミノ(第1胃)、直腸、膵臓、脾臓、肺など、いろいろな肉をきれいに洗い、真水で茹でた後、串で刺してみて柔らかくなっていたらすべて引き上げる。内臓以外の肉は手でちいさくちぎっておき、残りは切って長ネギと一緒に混ぜる。醤油、油、すりゴマ、コショウを入れて揉み込んだ後、肉を茹でた水にもう1度入れてひとしきり煮て食べる。辛いコチュジャンを一緒に混ぜてスープの釜に入れてひと煮たちさせてもよい」(原文4)とあり、肉の部位が内臓を含めてより多様になったこと、そして味付けにコチュジャンを使ってもよいとの表現が加わったことが特徴的である<ref>李用基, 1930, 『朝鮮無双新式料理製法』, 永昌書館, P61</ref>
  
=== 開化期から日本統治時代 ===
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::【原文4(現代語訳)】「먼저 파를 데쳐 물에 빨아 꼭 짜서 1치 길이씩 썰어 놓는다. 흘떼기, 광대머리, 무릎도가니, 사태, 쐬약 갈비(소 약갈비), 대창, 곱창, 양, 곤자소니, 이자, 만하, 부아 등 갖은 고기를 깨끗하게 씻고 맹물에 삶은 다음 꼬챙이로 찔러 보아 물렀으면 모두 건져낸다. 살코기는 손으로 잘게 뜯어 놓고 나머지는 썰어서 파와 함께 섞는다. 장, 기름, 깨소금, 후춧가루를 넣고 함께 주물러 섞은 다음 고기 삶은 물에 다시 넣고 한참을 끓여 먹는다. 매운 고추장을 함께 버무려 국물 솥에 넣고 한소끔 끓여 쓰는 것도 좋다.」<ref>[http://www.koreantk.net/ktkp2014/kfood/kfood-view.view?foodCd=105018 육개장, 조선무쌍신식요리제법(1936)] 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧</ref>
朝鮮半島では19世紀末から民間の飲食店が普及し始め、20世紀に入ると冷麺店も誕生した。1910年代にはすでに冷麺店が存在したとされ、1920年代に入って増えていった。
 
  
*明月館の開店
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=== 1920年代(テグタンバンの流行) ===
:1903年(1909年説もある)に創業した飲食店「明月館(명월관)」でネンミョンを提供していた。
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[[ファイル:17071003.JPG|thumb|300px|日本の焼肉店で提供されるテグタン]]
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20世紀初頭には大邱式のユッケジャンがソウルなどで流行した。これをテグタンバン(大邱湯飯、[[대구탕반]])、またはテグタン(大邱湯、[[대구탕]])と称し、それぞれ大邱式の湯飯(スープごはん)、大邱式のスープを意味する。一般的なユッケジャンとはやや異なり、牛肉を裂くのではなくごろんと大きく切り、具もワラビや大豆モヤシ、溶き卵などは用いず、大量の長ネギと、ごく少量の芋茎だけを用いる。唐辛子油([[고추기름]])を使用することなく、牛肉から出る脂だけで仕上げるのも特徴的である。大邱でユッケジャンが発達した理由としては、大邱が盆地地域で夏場は特に暑く、暑さに打ち克つ料理として頻繁に食べられたからと説明されることが多い。現在の韓国では、大邱も含めてテグタンバン、テグタンという名称はほぼ使われておらず、後述するソウルの「朝鮮屋」に残っているぐらいだが、日本の焼肉店、韓国料理店ではテグタンの名で広く定着している。
  
*トンチュン麺屋の開店
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;『東亜日報』(1926年)の記述
:釜山で1953年に創業し、[[ミルミョン(小麦粉麺の冷麺/밀면)]]の元祖店として知られる「内湖冷麺」は、もともと1919年に咸鏡南道興南市で開いた「トンチュン麺屋(동춘면옥)」を前身とする。
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:1926年5月14日発行の紙面に「大邱湯飯主人 旧罪が発覚し木浦に連れられる」という見出しの記事が掲載されている。テグタンバンの名称が見られる記録としてはこれが最古である。
  
*韓福眞の報告
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;『別乾坤』(1927、29年)の記述
:韓福眞は著書『私たちの生活100年・飲食(우리 생활 100년-음식)』にて、1920年代末にソウルの敦義洞で創業したという「東洋楼」という店を紹介している。また、1939年に同じくソウルの楽園洞で創業した冷麺店では、[[カルビグイ(牛カルビ焼き/갈비구이)]]を一緒に販売し、その値段は冷麺の普通が1杯10銭、特製が30銭、カルビグイ1本が20銭であったとしている<ref>한복진, 2001, 『우리 생활 100년-음식』, 현암사, P311-312</ref>。
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:1927年7月1日発行の第7号には「雑同散異 臨時大清潔」という飲食店の衛生状況について述べたコラムにテグタンバンの店が出てくるほか<ref>[http://db.history.go.kr/item/level.do?setId=3&itemId=ma&synonym=off&chinessChar=on&position=0&levelId=ma_015_0070_0140 별건곤 제7호 雜同散異 臨時大淸潔] 、韓国史データベース、2017年7月5日閲覧</ref>、1929年9月27日発行の第23号には「2日間ソウルをひとしきり観光する法、田舎の友人を案内する路順……」という記事があり、当時ソウルの鍾路にあった「典洞食堂」を紹介しつつ、テグタンバンが20銭であることも記されている<ref>[http://db.history.go.kr/item/level.do?setId=3&itemId=ma&synonym=off&chinessChar=on&position=1&levelId=ma_015_0210_0210 별건곤 제23호 2일 동안에 서울 구경 골고로 하는 法, 시골親舊 案內할 路順......] 、韓国史データベース、2017年7月5日閲覧</ref>。
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:1929年12月1日発行の第24号には「珍品・名品・天下名食八道名食礼賛」という企画があり、全国の名物料理から9種類がそれぞれ独自のコラムとして紹介されている。そのひとつが大邱のテグタンバンであり、執筆者の達城人(大邱の地名である達城郡から取ったと推測される)が「大邱の自慢 大邱の大邱湯飯」というタイトルで、約800字に渡ってテグタンバンの魅力を紹介している。このコラムでは「テグタンバンの本名はユッケジャンである」との記述があって、両者が同じ料理であることや、ユッケジャンのルーツが犬肉料理のケジャンにあるということ、その料理が大邱で発達しソウルまで進出してきたことなど、ユッケジャンにまつわる当時の逸話が詳細に記録されている<ref>[http://db.history.go.kr/item/level.do?setId=3&itemId=ma&synonym=off&chinessChar=on&position=2&levelId=ma_015_0220_0360 별건곤 제24호 大邱의 자랑 大邱의 大邱湯飯, 珍品·名品·天下名食 八道名食物禮讚] 、韓国史データベース、2017年7月5日閲覧</ref>。
  
*文一平の日記
+
;「朝鮮屋」の事例
:独立運動家であり歴史学者でもある文一平は、朝鮮日報の編集顧問として在籍していた1934年当時の日記を残している。1年分の日記には飲食にかかわる記述が多く、中でもネンミョンに触れた日は合計で17日分ある。日記内ではネンミョンを食べた店として「又春屋」、「真平屋」の名前があがっている。月別に見ると12月が5回ともっとも多く、次いで4月が3回、6、8、9月には登場せず残りの月は1~2回である<ref>문일평 지음, 이한수 옮김, 2008, 『문일평 1934년』, 산림출판사, P21-166</ref>。
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[[ファイル:17071004.JPG|thumb|300px|「朝鮮屋」のテグタン]]
 +
:ソウル市中区乙支路に位置する「朝鮮屋(조선옥)」は1956年創業の老舗焼肉店であり、現在もテグタンの名称で牛肉を煮込んだスープを提供している。現在の韓国においてテグタンバン、テグタンという料理名はまず見ることがなく、料理名としてメニューに残しているのはほぼ唯一といってよい事例である。
  
 
=== 1940年代 ===
 
=== 1940年代 ===
[[ファイル:17020507.JPG|thumb|300px|又来屋のネンミョン]]
+
;イェッチプ食堂の開店
*又来屋の開店
+
:大邱市中区市場北路に位置する「イェッチプ食堂(옛집식당)」は1948年創業で、現存するユッケジャンの専門店としてはもっとも古い。
:ソウル市中区舟橋洞に位置する「又来屋(우래옥)」は1946年創業で、現存する韓国の冷麺店としてはもっとも古い。
 
*江西麺屋の開店
 
:ソウル市中区西小門洞に位置する「江西麺屋(강서면옥)」は1948年に平安南道江西郡で開店した。朝鮮戦争によって避難し、1953年に京畿道平沢市に店を構えた後、1968年に現在の場所へ移転している。
 
  
=== 1950年代 ===
+
== 種類 ==
朝鮮戦争(1950~1953)によって北部から避難してきた人や、その子孫らが韓国で冷麺店を多く営んでいる。
+
ユッケジャンには次のような種類がある。
  
*五壮洞冷麺通りの形成
+
*タッケジャン
:ソウルの五壮洞(오장동)には咸興冷麺の専門店が集まっている。もっとも古い「五壮洞興南家(오장동 흥남집)」は1953年の創業で、店名は創業者が咸鏡南道興南市の出身だったことにちなむ。1954年には「五壮洞咸興冷麺(오장동함흥냉면)」が創業している。
+
[[ファイル:17071005.JPG|thumb|300px|鶏モモ肉を丸ごと入れたタッケジャン]]
 +
:タッケジャン([[닭개장]])は牛肉の代わりに鶏肉を使ったユッケジャン。タッユッケジャン([[닭육개장]])とも呼ぶ。茹でた鶏肉を裂いて具とする(「[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]」の項目も参照)。
  
*釜山におけるミルミョンの誕生
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*ユッケジャンカルグクス
:朝鮮戦争によって多くの人が釜山へと避難した。休戦後もそのまま釜山に留まった人たちは多く、釜山では北部地域の出身者が当時、米軍からの救援物資などで入手のしやすかった小麦粉を用いてネンミョンを作った。これを[[ミルミョン(小麦粉麺の冷麺/밀면)]]と呼び、現在は釜山では郷土料理として親しまれている。その発祥は諸説あるが、1953年に釜山の牛巌洞でオープンした「内湖冷麺(내호냉면)」が元祖格として知られる。
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[[ファイル:17071006.JPG|thumb|300px|ユッケジャンカルグクス]]
 +
:ユッケジャンカルグクス([[육개장칼국수]])は、ユッケジャンのスープに[[カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)]]の麺を入れた料理。略称としてユッカル([[육칼]])とも呼ばれる。食べ方としては以前からあったものの、2000年代後半から2010年頃にかけて話題となって広範な知名度を獲得した。2016年2月には大手食品会社のプルムウォンがインスタントの袋麺「ユッケジャンカルグクス」を販売した。大邱(テグ)にはユッケジャンのスープに素麺を入れたユッククス([[육국수]])が郷土料理として存在する。
  
== 種類 ==
+
*タロクッパプ
ネンミョンには次のような種類がある。
+
:タロクッパプ([[따로국밥]])はごはんと汁を別盛りにしたスープごはんの総称(「[[タロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)]]」の項目も参照)。大邱ではユッケジャン(=テグタンバン)から派生した料理としてタロクッパプを位置づけており、かつてスープにごはんを入れた状態で提供していたものを、客の要望によってごはんを分けて出したのが始まりとしている。現在の大邱におけるタロクッパプは牛肉や牛骨スープでダシを取り、長ネギ、芋がらなどの野菜と一緒に煮込んだ辛いスープという点で共通するが、多くの店でソンジ(牛の血、[[선지]])を具として加えており、その点でユッケジャンと異なる。
  
=== 基本形 ===
+
*コサリユッケジャン
*ムルネンミョン([[물냉면]]
+
:コサリユッケジャン([[고사리육개장]])は豚肉とワラビのスープ。済州島の郷土料理として知られており、チェジュユッケジャン([[제주육개장]])とも呼ばれる。牛肉ではなく豚肉を煮込んで細く裂き、特産品のワラビとともに煮込んで作る。味付けは塩と醤油で整え、仕上げにはそば粉を振りかけてとろみをつけるのも特徴のひとつである。
:冷たいスープに麺を入れたネンミョン
 
*ピビムネンミョン([[비빔냉면]]
 
:辛い薬味ダレを麺と和えて食べるネンミョン
 
  
=== 麺の種類 ===
+
== 日本における定着 ==
*チンネンミョン([[칡냉면]])
+
[[ファイル:17071009.JPG|thumb|300px|叙々苑が販売する家庭用のユッケジャン]]
:葛粉を麺に加えたネンミョン
+
日本では戦前に朝鮮半島から渡ってきた人たちがユッケジャンを伝えた。焼肉店にテグタンという名称が受け継がれているのは、在日コリアンに慶尚道出身者が多いことも影響していると考えられる。飲食店ではユッケジャンとテグタンを別に扱っているところもあり、ユッケジャンとテグタンの定義は作り手によってさまざまある。現在はユッケジャンに麺を入れたユッケジャンうどんや、ユッケジャンラーメンといったアレンジメニューを提供する店もあり、また家庭用としてレトルトや、カップスープスタイルのユッケジャンも販売されている。
*トトリネンミョン([[도토리냉면]]
 
:どんぐりのでんぷんを麺に加えたネンミョン
 
*ノクチャネンミョン([[녹차냉면]])
 
:緑茶を麺に練り込んだネンミョン
 
*ミルネンミョン([[밀냉면]])
 
:小麦粉を原料としたネンミョン。ミルミョン([[밀면]])とも呼ぶ。
 
  
=== 具の種類 ===
+
*モスバーガーの事例
*フェネンミョン([[회냉면]])
+
[[ファイル:17071010.jpg|thumb|300px|「モスバーガー」のユッケジャン]]
:エイやカレイ、スケトウダラなどの刺身を具としたネンミョン
+
:ファストフード店の「モスバーガー」では2007年3月30日から、季節限定メニューとして緑の看板を配したファストカジュアル業態の「緑モス」にて、「スープごはん ユッケジャン」を発売した。
*コダリネンミョン([[코다리냉면]]
 
:スケトウダラの生干しを薬味ダレと和えて具としたネンミョン。スケトウダラの刺身冷麺という意味で、ミョンテフェネンミョン([[명태회냉면]])とも呼ぶ。
 
  
== 日本における定着 ==
+
== エピソード ==
[[ファイル:17020508.JPG|thumb|300px|元祖平壌冷麺屋の冷麺]]
+
*ユッケジャンと伏日
日本では戦前に朝鮮半島から渡ってきた人たちがネンミョンを伝えた。焼肉店を中心にネンミョンを食べられる店は多く、盛岡冷麺のように郷土料理となった事例もある。
+
:ユッケジャンがもともと犬肉料理のケジャンの代用として生まれたことから、ケジャンの現代的な呼び名である[[ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)]]や、[[サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)]]と同じく、暑さに打ち克つスタミナ料理として伏日([[복날]])に食べる習慣がある。伏日は三伏([[삼복]])とも呼び、夏至から数えて3度目の庚の日である「初伏([[초복]])」と、4度目の庚の日である「中伏([[중복]])」、立秋後初めての庚の日である「末伏([[말복]])」の総称であり、1年の中で最も暑い時期とされる。伏日の詳細については[[ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)|ポシンタン]]か、[[サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)|サムゲタン]]の項目を参照。
  
*元祖平壌冷麺屋の開店
+
*ユッケジャンと葬礼
:神戸の新長田に本店がある「元祖平壌冷麺屋」は1939年に平壌出身の張模蘭、全永淑夫婦が創業した。当初は家庭料理として作り、同郷の人たちにふるまう程度であったが、評判がよかったため店を開くに至った。現存する冷麺店としては朝鮮半島を含めてもっとも古い。
+
:韓国ではユッケジャンを葬礼の際に食べる習慣がある。ユッケジャンに入る唐辛子は、陰陽五行思想において人間に災いをもたらす鬼神を遠ざける力を持つとされ、体内に陽の気を取り込むことによって鬼神を避ける意味合いがある。ホ・ヨンマン著の漫画『食客』第8巻では、認知症を患う高齢の女性が自分の葬礼時にユッケジャンを出すため、義理の娘に作り方を教えるというエピソードが収録されている<ref>ホ・ヨンマン, 2004, 『食客 第8巻』, 金栄社, P174</ref>。
  
*盛岡冷麺の誕生
+
*カップラーメン
:岩手県盛岡市では冷麺が郷土料理として親しまれている。咸鏡南道咸興市出身の青木輝人(楊龍哲)が1954年に「食道園」を開き、故郷の料理であるネンミョンを提供したのが始まりである。当初はコシの強い麺が不評だったが、やがてその魅力が浸透し、盛岡冷麺として定着した。その詳細な経緯については、小西正人著『盛岡冷麺物語』(リエゾンパブリッシング)に詳しい<ref>小西正人 2007, 『盛岡冷麺物語』, リエゾンパブリッシング</ref>。
+
:1982年に大手食品会社の農心から大容量のカップラーメン商品として「ユッケジャンサバルミョン(육개장 사발면)」が発売された。現在まで販売されるロングセラー商品である<ref>[http://brand.nongshim.com/bowlnoodle/main/index?prodCode=23 육개장 사발면] 、農心ウェブサイト、2017年7月5日閲覧</ref>。
  
== エピソード ==
+
*その他のエピソード
*マッククスとの違い
+
:韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2004年7月に初めて大邱を訪れ、大邱のテグタンは本当にあるのか検証を行った。実際にテグタンと書かれたメニューは発見できなかったものの、ユッケジャン専門店の社長からユッケジャンとテグタンの関連性について説明を聞くことができた。一連の話はメールマガジン「コリアうめーや!!第89号」に掲載されている<ref>[http://www.kansyoku-life.com/2000/02/1987.html コリアうめーや!!第89号 大邱のテグタンは本当にあるのだ!!] 、韓食生活、2017年7月5日閲覧</ref>。
:ネンミョンとよく似た料理に、江原道の郷土料理で[[マッククス(冷やしそば/막국수)]]がある。そば麺で作った冷たい麺料理という点で平壌冷麺と共通するが、もともとマッククスとは即席で手軽に作った麺という意味で、茹でたそば麺にキムチの汁や、適当な薬味ダレをかけて混ぜて食べた家庭料理であった。これがやがて飲食店で出されるようになって、牛ダシのスープを作るなど、高級化が進んだことで平壌冷麺との差異が見出しにくくなっている。唯一の明確な違いは、ネンミョンがでんぷんだけでも麺を作るのに対し、マッククスは必ずそば粉を用いて麺を作ることである。また、本格的な専門店で食べた場合は、そば粉の比率が高くなるため日本そばに近い食感になる。店によってはでんぷんを一切用いず、そば粉だけで麺を作るところもある。
 
*チョルミョンの誕生
 
:1970年代初め、仁川市中区の製麺工場「クァンシン製麺」でネンミョン用の麺を製造していたところ、麺を押し出す穴のサイズを間違えて、普段よりも太い麺ができてしまった。捨てるのはもったいないので近隣の粉食店に持ち込み、使ってもらうことにしたところ、その麺で作った料理が意外な評判を得た。冷麺よりもシコシコと食感がよいことから、チョルミョン(しこしことした麺の意、쫄면)と名付けられ、これが周囲にも広まって現在は仁川の郷土料理となった。
 
*本場の冷麺を食べに
 
:韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2015年4月に初めて北朝鮮を訪れ、本場の平壌冷麺と咸興冷麺をそれぞれ現地で食べた。その感動はひとしおであり、これまでに食べたどのネンミョンよりも美味しかったと確信している。
 
  
 
== 地域 ==
 
== 地域 ==
*ソウル市
+
*大邱市
:ソウルには平壌冷麺の老舗店が各地に点在している。1946年創業の「又来屋(우래옥)」を筆頭に、1948年創業の「江西麺屋(강서면옥)」、1950年創業の「平来屋(평래옥)」などがある。
+
[[ファイル:22122818.JPG|thumb|300px|タロクッパプ]]
*ソウル市中区五壮洞
+
:大邱市が選定する「大邱10味」の筆頭に大邱ユッケジャンがあげられている。この大邱ユッケジャンには派生したタロクッパプも含まれている。
:咸興冷麺の専門店が3軒集まっている。1953年創業の「五壮洞興南家(오장동흥남집)」がもっとも古く、1954年創業の「五壮洞咸興冷麺(오장동함흥냉면)」、1980年創業の「五壮洞新昌麺屋(오장동 신창면옥)」と続く。
+
 
*仁川市中区花平洞
+
*済州道
:大きなステンレスの器に大盛りの冷麺を盛り付けたセスッテヤネンミョン(洗面器冷麺、[[세숫대야냉면]])の専門店が立ち並んでいる。
+
[[ファイル:17071008.JPG|thumb|300px|コサリユッケジャン]]
*京畿道楊平郡玉泉面
+
:郷土料理のひとつにコサリユッケジャン(豚肉とワラビのスープ、[[고사리육개장]])がある。
[[ファイル:17020509.JPG|thumb|300px|玉泉冷麺]]
 
:豚肉を煮込んだスープの冷麺が有名。地域名にちなんで玉泉冷麺(オクチョンネンミョン、[[옥천냉면]])と呼ばれる。もともとは黄海道海州市の出身者が広めた。冷麺とともにコギワンジャ(肉団子、[[고기완자]])を注文するのが定番。玉泉面玉泉里にある1952年創業の「玉泉冷麺(옥천냉면)」が元祖として知られる。
 
*大田市儒城区新城洞
 
:新城洞の旧称はスッコル(炭谷の意)であり、この地域で作られる平壌式のネンミョンはスッコルネンミョン(숯골냉면)と呼ばれる。朝鮮戦争時に平壌から避難してきた人たちが、この地域に住み着いて作り始めた。そば粉の比率が高い麺と、鶏ダシに[[トンチミ(大根の水キムチ/동치미)]]の汁を加えたスープが特徴。大田の6種類ある名物料理「大田6味」のひとつに数えられる。
 
*慶尚南道晋州市
 
[[ファイル:17020510.JPG|thumb|300px|晋州冷麺]]
 
:晋州は平壌、咸興と並ぶネンミョンの本場とされ、この地域で作られるネンミョンを晋州冷麺(チンジュネンミョン、[[진주냉면]])と呼ぶ。タコやムール貝、干しダラなどでとった魚介スープに、そば粉とサツマイモのでんぷんで作った麺を入れ、具には細切りにしたユッチョン(牛肉のチヂミ、[[육전]])を載せるのが特徴。二峴洞に位置する「ハヨノク(하연옥)」が有名。
 
*平壌市
 
:平壌冷麺の本場であり、1960年創業の「玉流館(옥류관)」を筆頭に、「清流館(청류관)」、「ヘダンファ館(해당화관)」、「平壌麺屋(평양면옥)」といった有名専門店がある。また外国人も多く宿泊する「高麗ホテル(고려호텔)」1階レストランも有名。
 
*咸鏡南道咸興市
 
:咸興冷麺の本場であり、専門店としては「新興館(신흥관)」が有名。平壌にも支店がある。
 
  
 
== 飲食店情報 ==
 
== 飲食店情報 ==
 
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
 
以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。
  
<ソウル・平壌冷麺>
+
<ソウル>
*南浦麺屋(남포면옥)
+
*朝鮮屋(조선옥)
:住所:ソウル市中区乙支路3キル24(茶洞121-4)
+
:住所:ソウル市中区乙支路15キル8(乙支路3街229-1)
:住所:서울시 중구 을지로3길 24(다동 121-4)
+
:住所:서울시 중구 을지로15길 8(을지로3가 229-1)
:電話:02-777-3131
+
:電話:02-2266-0333
:備考:1965年創業の平壌冷麺店。自家製のトンチミが自慢
+
:備考:現在もテグタンの名前で牛肉スープを提供
  
*又来屋(우래옥)
+
<大邱>
:住所:ソウル市中区昌慶宮路62-29(舟橋洞118-1)
+
*クギルタロクッパプ(국일따로국밥)
:住所:서울시 중구 창경궁로 62-29(주교동 118-1)
+
:住所:大邱市中区国債報償路571(前洞7-1)
:電話:02-2265-0151
+
:住所:대구시 중구 국채보상로 571(전동 7-1)
:備考:1945年創業の平壌冷麺店。韓国ではもっとも古い
+
:電話:053-253-7623
 +
:備考:1946年創業のタロクッパプ専門店
  
*乙密台(을밀대)
+
*イェッチプ食堂(옛집식당)
:住所:ソウル市麻浦区崇文キル24(塩里洞147-6)
+
:住所:大邱市中区達城公園路6キル48-5(市場北路120-2)
:住所:서울시 마포구 숭문길 24(염리동 147-6)
+
:住所:대구시 중구 달성공원로6길 48-5(시장북로 120-2)
:電話:02-717-1922
+
:電話:053-554-4498
:備考:1966年創業の平壌冷麺店。他店に比べて太麺が特徴
+
:備考:1948年創業のユッケジャン専門店
  
*乙支麺屋(을지면옥)
+
*チンコルモク食堂(진골목식당)
:住所:ソウル市中区忠武路14キル2-1(笠井洞161)
+
:住所:大邱市中区チンコルモクキル9-1(鍾路2街66-5)
:住所:서울시 중구 충무로14길 2-1(입정동 161)
+
:住所:대구시 중구 진골목길 9-1(종로2가 66-5)
:電話:02-2274-6863
+
:電話:053-253-3757
:備考:1985年創業の平壌冷麺店。議政府平壌冷麺の系列
+
:備考:ユッケジャンとともにユッククスも提供
  
*平来屋(평래옥)
+
*ハニル食堂(한일식당)
:住所:ソウル市中区マルンネ路21-1(苧洞2街18-1)
+
:住所:大邱市中区慶尚監営キル112-1(布政洞54-5)
:住所:서울시 중구 마른내로 21-1(저동2가 18-1)
+
:住所:대구시 중구 경상감영길 112-1(포정동 54-5)
:電話:02-2267-5892
+
:電話:053-254-0028
:備考:1950年創業の平壌冷麺店。牛肉にキジ肉を加えたスープが特徴
+
:備考:タロクッパプ専門店
 
 
*平壌麺屋(평양면옥)
 
:住所:ソウル市中区奨忠壇路207(奨忠洞1街26-14)
 
:住所:서울시 중구 장충단로 207(장충동1가 26-14)
 
:電話:02-2267-7784
 
:備考:1985年創業の平壌冷麺店。店内で製粉も行う
 
 
 
*筆洞麺屋(필동면옥)
 
:住所:ソウル市中区西崖路26(筆洞3街1-5)
 
:住所:서울시 중구 서애로 26(필동3가 1-5)
 
:電話:02-2266-2611
 
:備考:1985年創業の平壌冷麺店。議政府平壌冷麺の系列
 
 
<ソウル・咸興冷麺>
 
*五壮洞興南チプ(오장동 흥남집)
 
:住所:ソウル市中区マルンネ路114(五壮洞101-7)
 
:住所:서울시 중구 마른내로 114(오장동 101-7)
 
:電話:02-2266-0735
 
:備考:1953年創業の咸興冷麺店。咸興冷麺店としてはもっとも古い
 
 
 
*五壮洞新昌麺屋(오장동 신창면옥)
 
:住所:ソウル市中区マルンネ路106(五壮洞90-8)
 
:住所:서울시 중구 마른내로 106(오장동 90-8)
 
:電話:02-2273-4889
 
:備考:1978年創業の咸興冷麺店。五壮洞咸興冷麺の料理長が独立して開店
 
 
 
*五壮洞咸興冷麺(오장동함흥냉면)
 
:住所:ソウル市中区マルンネ路108(五壮洞90-10)
 
:住所:서울시 중구 마른내로 108(오장동 90-10)
 
:電話:02-2267-9500
 
:備考:1954年創業の咸興冷麺店。咸興冷麺としても麺のコシが強い
 
  
 
<地方>
 
<地方>
*西部冷麺(서부냉면)
+
*テファユッケジャン(태화육개장)
:住所:慶尚北道栄州市豊基邑人参路3番キル26(西部里132-2)
+
:住所:釜山市釜山鎮区西面文化路18(釜田洞397-21)
:住所:경상북도 영주시 풍기읍 인삼로3번길 26(서부리 132-2)
+
:住所:부산시 부산진구 서면문화로 18(부전동 397-21)
:電話:054-636-2457
+
:電話:051-802-5995
:備考:1973年創業の平壌冷麺店
+
:備考:釜山では古い歴史を誇るユッケジャン専門店
 
 
*玉泉冷麺本店(옥천냉면 본점)
 
:住所:京畿道楊平郡玉泉面古邑路136(玉泉里760)
 
:住所:경기도 양평군 옥천면 고읍로 136(옥천리 760)
 
:電話:031-772-9693
 
:備考:1952年創業の玉泉冷麺店。黄海道式の冷麺を定着させた
 
 
 
*元山麺屋(원산면옥)
 
:住所:釜山市中区光復路56-8(昌善洞1街37-1)
 
:住所:부산시 중구 광복로 56-8(창선동1가 37-1)
 
:電話:051-245-2310
 
:備考:1953年創業の平壌冷麺店。南浦洞の繁華街に位置
 
  
*ハヨノク(하연옥)
+
*ウジンヘジャンクッ(우진해장국)
:住所:慶尚南道晋州市晋州大路1317-20(二峴洞1191)
+
:住所:済州道済州市西沙路11(三徒2洞831)
:住所:경상남도 진주시 진주대로 1317-20(이현동 1191)
+
:住所:제주도 제주시 서사로 11(삼도2동 831)
:電話:055-741-0525
+
:電話:064-757-3393
:備考:1945年創業の晋州冷麺店。晋州冷麺の元祖店として知られる
+
:備考:済州島式のコサリユッケジャンを提供
  
 
== 脚注 ==
 
== 脚注 ==
240行目: 152行目:
  
 
== 外部リンク ==
 
== 外部リンク ==
*[http://kansyoku-life.com/ 韓食生活]
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;制作者関連サイト
 +
*[http://kansyoku-life.com/ 韓食生活](韓食ペディアの執筆者である八田靖史の公式サイト)
 +
*[http://www.kansyoku-life.com/profile 八田靖史プロフィール](八田靖史のプロフィール)
  
 
== 関連項目 ==
 
== 関連項目 ==
 
{{DEFAULTSORT:ゆつけしやん}}
 
{{DEFAULTSORT:ゆつけしやん}}
 
*[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]
 
*[[タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)]]
 +
*[[タロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)]]
 
*[[ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)]]
 
*[[ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)]]
 +
*[[サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)]]
 +
*[[カルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)]]
 
[[Category:韓食ペディア]]
 
[[Category:韓食ペディア]]
[[Category:肉・卵料理]]
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[[Category:鍋・スープ料理の一覧]]
[[Category:鍋・スープ料理]]
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[[Category:慶尚北道・大邱市の料理]]

2024年5月2日 (木) 04:18時点における最新版

この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。
大邱式のユッケジャン

ユッケジャン육개장)は、牛肉の辛いスープ。牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込む。牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。ほぼ通年で食べられているが、夏バテを防ぐ滋養の料理としても親しまれ、また葬礼の際に食べる厄払いの料理という側面もある。類似の料理には、牛肉の代わりに鶏肉を使ったタッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)がある。

名称

ユッケジャン

ユッケジャンは牛肉の辛いスープ。ユッ()は肉(牛肉)、ケジャン(개장)は犬肉のスープ(「ポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)」の項目も参照)。ケジャンを牛肉で代用したことから名付けられた。日本では「ユッケジャンスープ」という表記も見られるが、厳密にはケジャンの部分にスープの意が含まれている。本辞典においては「ユッケジャン」を使用する。発音表記は[육깨장]。

概要

ユッケジャンは牛のブロック肉を茹でてスープを取り、大豆モヤシ、ワラビ、芋茎、長ネギなどの野菜とともに煮込んで作る料理。スープを取った牛肉は細く裂いて具としても使用する。味付けには醤油、塩、唐辛子油、みじん切りニンニク、コショウなどを用いる。たっぷりの具とスープを大き目の器に盛り付け、ごはん、副菜とともに定食の形式で提供されることが多い。家庭料理として作られるほか、定食店でもよく見るポピュラーなメニューであり、また専門店も存在する。

歴史

文献上の記録

ユッケジャンに関する文献上の記録は19世紀末から見られる。20世紀に入ると詳細な調理法が紹介されるようになり、現在のユッケジャンがほぼ牛のモモ肉やスネ肉を使用するのに対し、当時は内臓肉など多様な部位を使用していたことがわかる。ユッケジャンの原型となったケジャンについてはもっと古い史料もあるが、ここでは割愛する。

『閨壼要覧』(1896年)の記述
延世大学が所蔵する『閨壼要覧(규곤요람)』にユッケジャンの調理法が書かれている。後述の『是議全書』の発刊年代は1800年代末と推定されているが明確ではなく、年代のはっきりした文献としてはこれがユッケジャンの初出である。本書ではその調理法について、「肉を薄く切り醤油とともに水を多く注いで煮込み、薄切りの肉が煮えてとろとろになったら野菜を入れて火を通しコショウを入れる。これはお客様への料理にもよく、また昼食にごはんを炊いてスープと混ぜても食べる」(原文1)と紹介している。
【原文1(現代語訳)】「고기를 얇게 썰어 간장과 함께 물을 많이 붓고 끓이되 썰어 놓은 고기가 푹 익어 고기 점이 풀어지도록 끓인 후 야채를 넣어 익히고 후춧가루를 넣는다. 이것을 하면 손님 밥상에도 떠 놓고 또 점심에도 밥을 잘 지어 국에 말아 먹는다.」[1]
『是議全書』(1800年代末)の記述
1800年代末に書かれたと推測される『是議全書(시의전서)』(原著者不詳)の湯部という項目にはユッケジャンの調理法が紹介されている。「牛肉、頬肉、熱湯でゆがいた肺、腸、ミノ(第1胃)、アワビ、ナマコを入れ、水を多めに注いで柔らかく煮て取り出す。肉は裂き、ほかはすべて短冊に切り、長ネギとセリはさっとゆがいて切っておく。薬味ダレを入れ、油と醤油で味付けをして煮込む。肉団子も入れ、卵も薄焼きにしてひし型に切って上に載せる。コンユッケジャンにカラシを添えても酒の肴によい」(原文2)と記述されている。なお、最後のコンユッケジャン(건육개장)がどのようなものか不明であるが、コンが「乾」であるならば、汁なしで具だけのユッケジャンではないかと推測できる。
【原文2(現代語訳)】「쇠고기, 흘떼기, 뜨거운 물에 데친 부아, 창자, 양, 전복, 해삼을 넣고 물을 많이 부어 무르게 삶아 건진다. 고기는 찢고 다른 것은 모두 골패처럼 썰고 파와 미나리는 살짝 데쳐 잘라 넣는다. 갖은 양념을 넣고 기름장으로 간을 맞추어 끓인다. 완자도 넣고 달걀도 얇게 부쳐 비스듬한 네모 모양으로 썰어 위에 얹는다. 건육개장에 겨자를 곁들이면 술안주로 좋다.」[2]
『朝鮮料理製法』(1921年)の記述
方信栄(방신영)によって1917年に初めて書かれ、その後も増補を重ねた『朝鮮料理製法(조선요리제법)』にはユッケジャンの項目があり、食材や調理法が詳細に書かれている。1921年の版では「ユッケジャンはコムクッ(牛スープ)と同じである。まず長ネギをゆがいて水で新い、よく絞ってから1寸の長さに切り、器に盛って、牛肉とミノ(第1胃)、直腸、小腸、肺、この5種類を釜に入れて真水でじっくり煮て、火が通った後にすべて取り出し、肉は手で細くちぎる。長ネギと一緒に盛った後、醤油と油、すりゴマ、コショウで味を整え、よく揉み込んだうえで肉を茹でた水にもう1度入れてひとしきり煮て食べる」(原文3)と紹介されている。
【原文3(現代語訳)】「육개장은 곰국과 같다. 먼저 파를 물에 데쳐서 물에 빨아 꼭 짜가지고 한 치 길이씩 썰어 그릇에 담아 놓고 쇠고기와 양과 곤자손이, 창자, 허파 이 다섯 가지를 솥에 넣고 맹물에 한참 삶아서 다 익은 후에 다 건져 놓고 고기는 손으로 잘게 뜯는다. 파와 함께 담은 후, 간장과 기름, 깨소금, 후춧가루를 간 맞추어 치고 한참 주물어 섞어서 고기 삶은 물에 다시 넣고 한참을 끓여서 먹는다.」[3]
『朝鮮無双新式料理製法』(1930年)の記述
李用基(이용기)によって1924年に書かれた『朝鮮無双新式料理製法(조선무쌍신식요리제법)』にはユッケジャンの項目がある。「まず長ネギをゆがいて水で洗い、しっかり絞って1寸ずつの長さに切っておく。頬肉、センマイについた肉、膝軟骨と周辺の肉、モモ肉、バラ肉、大腸、小腸、ミノ(第1胃)、直腸、膵臓、脾臓、肺など、いろいろな肉をきれいに洗い、真水で茹でた後、串で刺してみて柔らかくなっていたらすべて引き上げる。内臓以外の肉は手でちいさくちぎっておき、残りは切って長ネギと一緒に混ぜる。醤油、油、すりゴマ、コショウを入れて揉み込んだ後、肉を茹でた水にもう1度入れてひとしきり煮て食べる。辛いコチュジャンを一緒に混ぜてスープの釜に入れてひと煮たちさせてもよい」(原文4)とあり、肉の部位が内臓を含めてより多様になったこと、そして味付けにコチュジャンを使ってもよいとの表現が加わったことが特徴的である[4]
【原文4(現代語訳)】「먼저 파를 데쳐 물에 빨아 꼭 짜서 1치 길이씩 썰어 놓는다. 흘떼기, 광대머리, 무릎도가니, 사태, 쐬약 갈비(소 약갈비), 대창, 곱창, 양, 곤자소니, 이자, 만하, 부아 등 갖은 고기를 깨끗하게 씻고 맹물에 삶은 다음 꼬챙이로 찔러 보아 물렀으면 모두 건져낸다. 살코기는 손으로 잘게 뜯어 놓고 나머지는 썰어서 파와 함께 섞는다. 장, 기름, 깨소금, 후춧가루를 넣고 함께 주물러 섞은 다음 고기 삶은 물에 다시 넣고 한참을 끓여 먹는다. 매운 고추장을 함께 버무려 국물 솥에 넣고 한소끔 끓여 쓰는 것도 좋다.」[5]

1920年代(テグタンバンの流行)

日本の焼肉店で提供されるテグタン

20世紀初頭には大邱式のユッケジャンがソウルなどで流行した。これをテグタンバン(大邱湯飯、대구탕반)、またはテグタン(大邱湯、대구탕)と称し、それぞれ大邱式の湯飯(スープごはん)、大邱式のスープを意味する。一般的なユッケジャンとはやや異なり、牛肉を裂くのではなくごろんと大きく切り、具もワラビや大豆モヤシ、溶き卵などは用いず、大量の長ネギと、ごく少量の芋茎だけを用いる。唐辛子油(고추기름)を使用することなく、牛肉から出る脂だけで仕上げるのも特徴的である。大邱でユッケジャンが発達した理由としては、大邱が盆地地域で夏場は特に暑く、暑さに打ち克つ料理として頻繁に食べられたからと説明されることが多い。現在の韓国では、大邱も含めてテグタンバン、テグタンという名称はほぼ使われておらず、後述するソウルの「朝鮮屋」に残っているぐらいだが、日本の焼肉店、韓国料理店ではテグタンの名で広く定着している。

『東亜日報』(1926年)の記述
1926年5月14日発行の紙面に「大邱湯飯主人 旧罪が発覚し木浦に連れられる」という見出しの記事が掲載されている。テグタンバンの名称が見られる記録としてはこれが最古である。
『別乾坤』(1927、29年)の記述
1927年7月1日発行の第7号には「雑同散異 臨時大清潔」という飲食店の衛生状況について述べたコラムにテグタンバンの店が出てくるほか[6]、1929年9月27日発行の第23号には「2日間ソウルをひとしきり観光する法、田舎の友人を案内する路順……」という記事があり、当時ソウルの鍾路にあった「典洞食堂」を紹介しつつ、テグタンバンが20銭であることも記されている[7]
1929年12月1日発行の第24号には「珍品・名品・天下名食八道名食礼賛」という企画があり、全国の名物料理から9種類がそれぞれ独自のコラムとして紹介されている。そのひとつが大邱のテグタンバンであり、執筆者の達城人(大邱の地名である達城郡から取ったと推測される)が「大邱の自慢 大邱の大邱湯飯」というタイトルで、約800字に渡ってテグタンバンの魅力を紹介している。このコラムでは「テグタンバンの本名はユッケジャンである」との記述があって、両者が同じ料理であることや、ユッケジャンのルーツが犬肉料理のケジャンにあるということ、その料理が大邱で発達しソウルまで進出してきたことなど、ユッケジャンにまつわる当時の逸話が詳細に記録されている[8]
「朝鮮屋」の事例
「朝鮮屋」のテグタン
ソウル市中区乙支路に位置する「朝鮮屋(조선옥)」は1956年創業の老舗焼肉店であり、現在もテグタンの名称で牛肉を煮込んだスープを提供している。現在の韓国においてテグタンバン、テグタンという料理名はまず見ることがなく、料理名としてメニューに残しているのはほぼ唯一といってよい事例である。

1940年代

イェッチプ食堂の開店
大邱市中区市場北路に位置する「イェッチプ食堂(옛집식당)」は1948年創業で、現存するユッケジャンの専門店としてはもっとも古い。

種類

ユッケジャンには次のような種類がある。

  • タッケジャン
鶏モモ肉を丸ごと入れたタッケジャン
タッケジャン(닭개장)は牛肉の代わりに鶏肉を使ったユッケジャン。タッユッケジャン(닭육개장)とも呼ぶ。茹でた鶏肉を裂いて具とする(「タッケジャン(鶏の辛いスープ/닭개장)」の項目も参照)。
  • ユッケジャンカルグクス
ユッケジャンカルグクス
ユッケジャンカルグクス(육개장칼국수)は、ユッケジャンのスープにカルグクス(韓国式の手打ちうどん/칼국수)の麺を入れた料理。略称としてユッカル(육칼)とも呼ばれる。食べ方としては以前からあったものの、2000年代後半から2010年頃にかけて話題となって広範な知名度を獲得した。2016年2月には大手食品会社のプルムウォンがインスタントの袋麺「ユッケジャンカルグクス」を販売した。大邱(テグ)にはユッケジャンのスープに素麺を入れたユッククス(육국수)が郷土料理として存在する。
  • タロクッパプ
タロクッパプ(따로국밥)はごはんと汁を別盛りにしたスープごはんの総称(「タロクッパプ(別盛のスープごはん/따로국밥)」の項目も参照)。大邱ではユッケジャン(=テグタンバン)から派生した料理としてタロクッパプを位置づけており、かつてスープにごはんを入れた状態で提供していたものを、客の要望によってごはんを分けて出したのが始まりとしている。現在の大邱におけるタロクッパプは牛肉や牛骨スープでダシを取り、長ネギ、芋がらなどの野菜と一緒に煮込んだ辛いスープという点で共通するが、多くの店でソンジ(牛の血、선지)を具として加えており、その点でユッケジャンと異なる。
  • コサリユッケジャン
コサリユッケジャン(고사리육개장)は豚肉とワラビのスープ。済州島の郷土料理として知られており、チェジュユッケジャン(제주육개장)とも呼ばれる。牛肉ではなく豚肉を煮込んで細く裂き、特産品のワラビとともに煮込んで作る。味付けは塩と醤油で整え、仕上げにはそば粉を振りかけてとろみをつけるのも特徴のひとつである。

日本における定着

叙々苑が販売する家庭用のユッケジャン

日本では戦前に朝鮮半島から渡ってきた人たちがユッケジャンを伝えた。焼肉店にテグタンという名称が受け継がれているのは、在日コリアンに慶尚道出身者が多いことも影響していると考えられる。飲食店ではユッケジャンとテグタンを別に扱っているところもあり、ユッケジャンとテグタンの定義は作り手によってさまざまある。現在はユッケジャンに麺を入れたユッケジャンうどんや、ユッケジャンラーメンといったアレンジメニューを提供する店もあり、また家庭用としてレトルトや、カップスープスタイルのユッケジャンも販売されている。

  • モスバーガーの事例
「モスバーガー」のユッケジャン
ファストフード店の「モスバーガー」では2007年3月30日から、季節限定メニューとして緑の看板を配したファストカジュアル業態の「緑モス」にて、「スープごはん ユッケジャン」を発売した。

エピソード

  • ユッケジャンと伏日
ユッケジャンがもともと犬肉料理のケジャンの代用として生まれたことから、ケジャンの現代的な呼び名であるポシンタン(犬肉の鍋/보신탕)や、サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)と同じく、暑さに打ち克つスタミナ料理として伏日(복날)に食べる習慣がある。伏日は三伏(삼복)とも呼び、夏至から数えて3度目の庚の日である「初伏(초복)」と、4度目の庚の日である「中伏(중복)」、立秋後初めての庚の日である「末伏(말복)」の総称であり、1年の中で最も暑い時期とされる。伏日の詳細についてはポシンタンか、サムゲタンの項目を参照。
  • ユッケジャンと葬礼
韓国ではユッケジャンを葬礼の際に食べる習慣がある。ユッケジャンに入る唐辛子は、陰陽五行思想において人間に災いをもたらす鬼神を遠ざける力を持つとされ、体内に陽の気を取り込むことによって鬼神を避ける意味合いがある。ホ・ヨンマン著の漫画『食客』第8巻では、認知症を患う高齢の女性が自分の葬礼時にユッケジャンを出すため、義理の娘に作り方を教えるというエピソードが収録されている[9]
  • カップラーメン
1982年に大手食品会社の農心から大容量のカップラーメン商品として「ユッケジャンサバルミョン(육개장 사발면)」が発売された。現在まで販売されるロングセラー商品である[10]
  • その他のエピソード
韓食ペディアの執筆者である八田靖史は2004年7月に初めて大邱を訪れ、大邱のテグタンは本当にあるのか検証を行った。実際にテグタンと書かれたメニューは発見できなかったものの、ユッケジャン専門店の社長からユッケジャンとテグタンの関連性について説明を聞くことができた。一連の話はメールマガジン「コリアうめーや!!第89号」に掲載されている[11]

地域

  • 大邱市
タロクッパプ
大邱市が選定する「大邱10味」の筆頭に大邱ユッケジャンがあげられている。この大邱ユッケジャンには派生したタロクッパプも含まれている。
  • 済州道
コサリユッケジャン
郷土料理のひとつにコサリユッケジャン(豚肉とワラビのスープ、고사리육개장)がある。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

<ソウル>

  • 朝鮮屋(조선옥)
住所:ソウル市中区乙支路15キル8(乙支路3街229-1)
住所:서울시 중구 을지로15길 8(을지로3가 229-1)
電話:02-2266-0333
備考:現在もテグタンの名前で牛肉スープを提供

<大邱>

  • クギルタロクッパプ(국일따로국밥)
住所:大邱市中区国債報償路571(前洞7-1)
住所:대구시 중구 국채보상로 571(전동 7-1)
電話:053-253-7623
備考:1946年創業のタロクッパプ専門店
  • イェッチプ食堂(옛집식당)
住所:大邱市中区達城公園路6キル48-5(市場北路120-2)
住所:대구시 중구 달성공원로6길 48-5(시장북로 120-2)
電話:053-554-4498
備考:1948年創業のユッケジャン専門店
  • チンコルモク食堂(진골목식당)
住所:大邱市中区チンコルモクキル9-1(鍾路2街66-5)
住所:대구시 중구 진골목길 9-1(종로2가 66-5)
電話:053-253-3757
備考:ユッケジャンとともにユッククスも提供
  • ハニル食堂(한일식당)
住所:大邱市中区慶尚監営キル112-1(布政洞54-5)
住所:대구시 중구 경상감영길 112-1(포정동 54-5)
電話:053-254-0028
備考:タロクッパプ専門店

<地方>

  • テファユッケジャン(태화육개장)
住所:釜山市釜山鎮区西面文化路18(釜田洞397-21)
住所:부산시 부산진구 서면문화로 18(부전동 397-21)
電話:051-802-5995
備考:釜山では古い歴史を誇るユッケジャン専門店
  • ウジンヘジャンクッ(우진해장국)
住所:済州道済州市西沙路11(三徒2洞831)
住所:제주도 제주시 서사로 11(삼도2동 831)
電話:064-757-3393
備考:済州島式のコサリユッケジャンを提供

脚注

  1. 육개장, 규곤요람(1896) 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧
  2. 육개장, 시의전서(1800년대말) 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧
  3. 육개장, 조선요리제법(1921) 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧
  4. 李用基, 1930, 『朝鮮無双新式料理製法』, 永昌書館, P61
  5. 육개장, 조선무쌍신식요리제법(1936) 、韓国伝統知識ポータル、2017年7月5日閲覧
  6. 별건곤 제7호 雜同散異 臨時大淸潔 、韓国史データベース、2017年7月5日閲覧
  7. 별건곤 제23호 2일 동안에 서울 구경 골고로 하는 法, 시골親舊 案內할 路順...... 、韓国史データベース、2017年7月5日閲覧
  8. 별건곤 제24호 大邱의 자랑 大邱의 大邱湯飯, 珍品·名品·天下名食 八道名食物禮讚 、韓国史データベース、2017年7月5日閲覧
  9. ホ・ヨンマン, 2004, 『食客 第8巻』, 金栄社, P174
  10. 육개장 사발면 、農心ウェブサイト、2017年7月5日閲覧
  11. コリアうめーや!!第89号 大邱のテグタンは本当にあるのだ!! 、韓食生活、2017年7月5日閲覧

外部リンク

制作者関連サイト

関連項目