茂朱郡の料理

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茂朱郡(ムジュグン、무주군)は全羅北道の北東部に位置する地域。本ページでは茂朱郡の料理、特産品について解説する。

宝物第2129号に指定される茂朱寒風楼

地域概要

 
同じ建物内に崔北美術館と金煥泰文学館が入っている

茂朱郡は全羅北道の北東部に位置する地域。郡の北部は全羅北道長水郡、東部は忠清北道永同郡、東部は慶尚北道金泉市、南東部は慶尚南道居昌郡、南西部は全羅北道長水郡、西部は全羅北道鎮安郡、北西部は忠清南道錦山郡と接する。ひとつの地域で4つの道と隣接しているのは最多である。人口は2万2989人で、全羅北道では長水郡に続いて2番目に少ない(2025年3月)[1]

代表的な観光地としては、国立公園にも指定される徳裕山(トギュサン、덕유산)があり、三国時代に新羅と百済の国境をなした羅済通門(ラジェトンムン、라제통문)から、徳裕山の最高峰(1,614m)となる香積峰(ヒャンジョクポン、향적봉)まで33ヶ所の景勝地を「九千洞33景(クチョンドン サムシプサムギョン、구천동 33경)」と総称する。そのほかウィンタースポーツを楽しめる「茂朱徳裕山リゾート(ムジュ トギュサンリジョトゥ、무주덕유산리조트)」や、ホタル(반딧불)が多く生息することにちなんだテーマ公園の「パンディランド(直訳はホタルランド、반디랜드)」、地元出身の「崔北美術館(チェ・ブク ミスルグァン、최북미술관)」と「金煥泰文学館(キム・ファンテ ムナックァン、김환태 문학관)」などがある。

ソウル市からのアクセスは、ソウル南部ターミナルから茂朱公用バスターミナルまで市外バスで約2時間55分の距離である。

  • 徳裕山国立公園
徳裕山国立公園(トギュサン クンニプコンウォン、덕유산국립공원)は、小白山脈(ソベクサンメク、소백산맥)の一角を成す徳裕山を中心とした国立公園。面積は229.43平方キロメートル。主峰の香積峰(ヒャンジョクポン、향적봉)は標高1,614mで、韓国では4番目に高い(朝鮮半島北部を除く)。1975年に10番目の国立公園として登録された。茂朱郡を中心として、全羅北道長水郡慶尚南道居昌郡慶尚南道咸陽郡にもまたがる。

食文化の背景

 
茂朱郡の中心部を流れる南大川

茂朱郡の東部は小白山脈(ソベクサンメク、소백산맥)の一角を成し、徳裕山(トギュサン、덕유산)を中心とする山岳地形である。郡中心部の北部には錦江(クムガン、금강)の上流域に当たる南大川(ナムデチョン、남대천)が流れ、北部から北西部にかけては平野部となっている。南部を流れる九良川(クリャンチョン、구량천)や、東部を流れる裳谷川(サンゴクチョン、상곡천)など河川が豊富であり、地域全体としてオジュク(魚粥/어죽)ミンムルコギメウンタン(淡水魚の辛い鍋/민물고기매운탕)などの川魚料理を自慢とする。南部の安城面(アンソンミョン、안성면)を中心としてオニノヤガラ(천마)の栽培が盛んで、韓方材とするほか料理にも使用される。

代表的な料理

 
パガオジュク

オジュク(魚粥/어죽)

オジュク(어죽)は、魚粥(「オジュク(魚粥/어죽)」)の項目も参照。茂朱郡では川魚のコウライギギ(동자개빠가사리)を使って作ることが多く、飲食店ではパガオジュク(コウライギギの魚粥、빠가어죽)とメニューに表記しているところも少なくない。高級魚のコウライケツギョ(쏘가리)を用いて作る場合もある。下煮をした魚をすりつぶし、米とともに煮汁に加えて煮込み、コチュジャンなどで味付けをして作る。ニラやエゴマの葉といった香味野菜や、スジェビ(すいとん、수제비)も加える。茂朱郡にはオジュクをはじめとした川魚料理の専門店が多く、1人前ずつのオジュクに対し、大勢で囲む料理としてミンムルコギメウンタン(淡水魚の辛い鍋/민물고기매운탕)や、トリベンベンイ(川魚の薬味ダレ焼き/도리뱅뱅이)を提供する。

ミンムルコギメウンタン(淡水魚の辛い鍋/민물고기매운탕)

ミンムルコギメウンタン(민물고기매운탕)は、淡水魚の辛い鍋。上記のオジュクと同様にコウライギギを用いて作ることが多く、パガメウンタン(빠가매운탕)、パガタン(빠가탕)とも呼ぶ。店によってソガリメウンタン(コウライケツギョ鍋/쏘가리매운탕)や、メギタン(ナマズ鍋/메기탕)を提供することも多い。

代表的な特産品

 
オニノヤガラを生地に練り込んだクァベギ

オニノヤガラ

茂朱郡はオニノヤガラ(천마)の生産が盛んで、山林庁が地域の名産品を認証する地理的表示林産物の第45号として登録されている[2]。茂朱郡におけるオニノヤガラの生産量は、2023年の場合370.1トン(全国の74.6%)で、全国の市郡で1位である[3]。韓方材の「天麻(チョンマ、천마)」として利用されるほか、茂朱郡では食用としての活用も多く見られる。ヘムルカルビチャンポン(海鮮牛カルビちゃんぽん、해물갈비짬뽕)を自慢とする安城面竹川里(アンソンミョン チュクチョルリ、안성면 죽천리)の中国料理店「チョンマル(천마루)」では、オニノヤガラを粉末にして麺に練り込んでいる。茂朱邑邑内里(ムジュウプ ウムネリ、무주읍 읍내리)の茂朱パンディップル市場(무주반딧불시장)内には、オニノヤガラの粉末をもち粉と混ぜて生地を作ったクァベギ(ねじり揚げパン/꽈배기)の専門店「天麻チャプサルクァベギ(천마찹쌀꽈배기)」がある。

代表的な酒類・飲料

モルワイン(ヤマブドウワイン/머루와인)

モルワイン(머루와인)は、ヤマブドウワイン。茂朱郡では名産品のヤマブドウ(머루)を用いた果実酒造りが盛んに行われている。赤裳面北倉里(チョクサンミョン プクチャンニ、적상면 북창리)には、モルワインの貯蔵施設であり、試飲や販売を行う「茂朱モルワイン洞窟(무주머루와인동굴)」があって観光客で賑わう。この洞窟は茂朱揚水発電所(무주양수발전소)の建設時に掘削作業用のトンネルとして用いたもので、これをリノベーションして2007年にオープンした[4]。同施設は茂朱郡庁が直接運営している。
  • トギュワイナリー(덕유와이너리)
市南西部の安城面貢進里(アンソンミョン コンジルリ、안성면 공진리)に位置する「トギュワイナリー(덕유와이너리)」では、名産品のヤマブドウ(머루)を用いたモルワイン(ヤマブドウワイン、머루와인)を生産する。2023年には、農林畜産食品部が推進する「訪ね行く醸造場(찾아가는 양조장)」に選定された[5]

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

  • 錦江食堂(금강식당)
茂朱郡庁近くに位置する老舗のオジュク(魚粥/어죽)専門店。看板メニューのパガオジュク(コウライギギの魚粥、빠가어죽)に加え、パガタン(コウライギギ鍋、빠가탕)、メギタン(ナマズ鍋/메기탕)ソガリメウンタン(コウライケツギョ鍋/쏘가리매운탕)などの鍋料理を提供する。
住所:全羅北道茂朱郡茂朱邑丹川路102(邑内里246-7)
住所:전라북도 무주군 무주읍 단천로 102(읍내리 246-7)
電話:063-322-0979
最終訪問日:2025年4月2日
  • アリア(아리아)
雰囲気のよい地元で評判のカフェ。フィナンシェやクッキーなどの焼き菓子やクロワッサンなどのパンが人気で、コーヒー、紅茶、エード、スムージーなどドリンクも種類豊富。
住所:全羅北道茂朱郡茂朱邑丹川路55-1(邑内里1118)
住所:전라북도 무주군 무주읍 단천로 55-1(읍내리 1118)
電話:010-4155-1993
最終訪問日:2025年4月2日
  • 天麻チャプサルクァベギ(천마찹쌀꽈배기)
地元の特産品であるオニノヤガラ(천마)を粉末にし、もち粉と混ぜて生地を作ったクァベギ(ねじり揚げパン/꽈배기)の専門店(テイクアウトのみ)。茂朱パンディップル市場(무주반딧불시장)内に位置する。クァベギは表面がザクザクとした感じのクリスピーな仕上がり。チャプサルドノッ(もち粉ドーナツ、찹쌀도넛)やソグムパン(塩パン、소금빵)なども販売する。
住所:全羅北道茂朱郡茂朱邑チャント路2(邑内里1152)
住所:전라북도 무주군 무주읍 장터로 2(읍내리 1152)
電話:なし
最終訪問日:2025年4月2日

エピソード

韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2025年4月に初めて茂朱郡を訪れた。郷土料理のオジュク(魚粥/어죽)を食べるのが目的で、昼どきに繰り出したところ、地元客が続々とやってきて人気の度合いを実感した。魚の旨味が濃厚でさすがの味であったが、コチュジャンの辛さがしっかりしていて、食べ進むにつれて辛さが積み重なるようであった。地元客も同じと見えて、周囲からも大きく息を吐いたり、鼻をすすったりするのが伝わって妙な一体感を覚えた。

脚注

  1. 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2025年4月11日閲覧
  2. 지리적표시 등록 현황/홍천잣 、韓国地理的表示特産品連合会ウェブサイト、2025年6月6日閲覧
  3. 2023 임산물생산조사 、山林庁山林統計システム、2025年6月6日閲覧
  4. 무주머루와인동굴 소개/기능및 서비스/문의처 、茂朱モルワイン洞窟ウェブサイト、2025年4月30日閲覧
  5. 농업회사법인(유)덕유 、訪ね行く醸造場ウェブサイト、2025年4月30日閲覧

外部リンク

関連サイト
制作者関連サイト

関連項目