「パジョン(ネギのチヂミ/파전)」の版間の差分

 
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'''パジョン'''([[파전]])は、ネギのチヂミ。パ([[파]])はネギ、ジョン([[전]])は漢字では「煎」と書いて、野菜、魚介、肉などに、小麦粉や溶き卵の衣をつけて鉄板で焼いたものを表す(「[[チョン(チヂミ/전)]]」の項目も参照)。ネギは葉ネギを使用し、小麦粉を溶いた生地とともにフライパンなどで焼いて作る。具には葉ネギとともに、アサリ、牡蠣、エビ、イカなどの魚介類や、豚肉なども用いる。家庭料理として作られるほか、居酒屋、民俗酒場では定番のメニューであり、特に[[マッコリ(韓国式の濁酒/막걸리)]]との相性がよいとされる。具に魚介を多く用いたパジョンは、ヘムルパジョン(海鮮ネギチヂミ、[[해물파전]])と呼ばれる。また、[[釜山市の料理|釜山市]]の東莱(トンネ、동래)地区は古くから葉ネギの産地であり、地域名を冠した東莱パジョン([[동래파전]])が郷土料理として知られる。
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'''パジョン'''([[파전]])は、ネギのチヂミ。
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== 概要 ==
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パ([[파]])はネギ、ジョン([[전]])は漢字では「煎」と書いて、野菜、魚介、肉などに、小麦粉や溶き卵の衣をつけて鉄板で焼いたものを表す(「[[チョン(チヂミ/전)]]」の項目も参照)。ネギは葉ネギを使用し、小麦粉を溶いた生地とともにフライパンなどで焼いて作る。具には葉ネギとともに、アサリ、牡蠣、エビ、イカなどの魚介類や、豚肉なども用いる。家庭料理として作られるほか、居酒屋、民俗酒場では定番のメニューであり、特に[[マッコリ(韓国式の濁酒/막걸리)]]との相性がよいとされる。具に魚介を多く用いたパジョンは、ヘムルパジョン(海鮮ネギチヂミ、[[해물파전]])と呼ばれる。また、[[釜山市の料理|釜山市]]の東莱(トンネ、동래)地区は古くから葉ネギの産地であり、地域名を冠した東莱パジョン([[동래파전]])が郷土料理として知られる。
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== 種類 ==
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=== トンネパジョン(東莱式のネギ焼き/동래파전) ===
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:トンネパジョンは東莱地区に伝わるネギのチヂミ。トンネは東莱という地名、パがネギ、ジョンがチヂミを意味する。朝鮮時代より東莱地区は葉ネギ([[쪽파]])の産地として知られ、東莱区福泉洞(トンネグ ポクチョンドン、동래구 복천동)に位置する東莱市場(トンネシジャン、동래시장)での扱いも多かった。市場内にはパジョンを作って販売する店が集まり、これが広まって地域の名物としての名声を得るに至った。トンネパジョンの特徴としては、生地に米粉やもち粉を用いること、魚介類をふんだんに入れること、蒸し焼きにして全体をとろっと柔らかな食感に仕上げること、チョコチュジャン(唐辛子酢味噌、[[초고추장]])をつけて食べること、などがあげられる。葉ネギの旬は春であり、かつては旧暦の3月3日(サムジンナル)に食べる習慣もあった。
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*「東莱ハルメパジョン」の創業
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:トンネパジョンの老舗として東莱区福泉洞の「東莱ハルメパジョン(동래할매파전)」がある。創業は1940年とされるが、1930年代から東莱市場にて初代のカン・メヒ(강매희)さんが露店を営んでいたとされる。店を構えたのは1950年代であり、その当時は「第一食堂(제일식당)」という名前であった。1970年代に現在の「東莱ハルメパジョン」に店名を変更。時代とともに嫁から嫁へと代が受け継がれ、2代目の李允善(이윤선)さん、3代目の金玉子(김옥자)さんに続いて、現在は4代目の金貞姫(김정희)さんが店を切り盛りしている。
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*「東莱ハルメパジョン」における調理手順
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:「東莱ハルメパジョン」では店内に調理スペースを置き、一連の流れを見ることができるようになっている。調理の手順は以下のようになる(八田靖史の取材記録より、2017年8月25日)。
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#鉄板に油をしき、葉ネギを縦方向に載せる。
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#葉ネギの上に具を載せる。具は季節ごとに多少異なり、アサリ、ハマグリ、タイラギ、エビ、テナガダコ、牛肉のほか、冬季は牡蠣、ムール貝も加える。
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#2の上に葉ネギをさらに載せる。このとき最初に敷いた葉ネギとは、葉先と根を互い違いにする。
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#生地を上から流しかける。生地はごくゆるめであり、米粉、もち粉、ダシ汁、ジャン(醤、[[장]])などが入る。この生地を店ではマックンムル(맛국물)と呼んでいる。
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#へらで全体をひっくり返し、90度回して縦と横を入れ替える。
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#全体を縦に長く伸ばし、上から油をかける。
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#全体に生地(マックンムル)をかける。
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#形を正方形に整える。この縦に長く伸ばしたり、正方形に整えたりする作業を、4代目店主の金貞姫さんは「アコーディオンを演奏するように」と表現している。
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#全体を90度回して縦と横を入れ替えた後、全体をひっくり返す。
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#卵をひとつ器に割り入れ、ざっと溶いたものを生地にかける。
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#全体をフタで覆って蒸し焼きにする。
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#卵が半熟に固まったらフタを取り、大皿に移して提供する。
  
 
== 脚注 ==
 
== 脚注 ==

2024年6月8日 (土) 23:43時点における最新版

この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。

パジョン파전)は、ネギのチヂミ。

東莱パジョンの調理風景

概要

パ()はネギ、ジョン()は漢字では「煎」と書いて、野菜、魚介、肉などに、小麦粉や溶き卵の衣をつけて鉄板で焼いたものを表す(「チョン(チヂミ/전)」の項目も参照)。ネギは葉ネギを使用し、小麦粉を溶いた生地とともにフライパンなどで焼いて作る。具には葉ネギとともに、アサリ、牡蠣、エビ、イカなどの魚介類や、豚肉なども用いる。家庭料理として作られるほか、居酒屋、民俗酒場では定番のメニューであり、特にマッコリ(韓国式の濁酒/막걸리)との相性がよいとされる。具に魚介を多く用いたパジョンは、ヘムルパジョン(海鮮ネギチヂミ、해물파전)と呼ばれる。また、釜山市の東莱(トンネ、동래)地区は古くから葉ネギの産地であり、地域名を冠した東莱パジョン(동래파전)が郷土料理として知られる。

種類

トンネパジョン(東莱式のネギ焼き/동래파전)

 
東莱パジョンの調理風景
トンネパジョンは東莱地区に伝わるネギのチヂミ。トンネは東莱という地名、パがネギ、ジョンがチヂミを意味する。朝鮮時代より東莱地区は葉ネギ(쪽파)の産地として知られ、東莱区福泉洞(トンネグ ポクチョンドン、동래구 복천동)に位置する東莱市場(トンネシジャン、동래시장)での扱いも多かった。市場内にはパジョンを作って販売する店が集まり、これが広まって地域の名物としての名声を得るに至った。トンネパジョンの特徴としては、生地に米粉やもち粉を用いること、魚介類をふんだんに入れること、蒸し焼きにして全体をとろっと柔らかな食感に仕上げること、チョコチュジャン(唐辛子酢味噌、초고추장)をつけて食べること、などがあげられる。葉ネギの旬は春であり、かつては旧暦の3月3日(サムジンナル)に食べる習慣もあった。
  • 「東莱ハルメパジョン」の創業
トンネパジョンの老舗として東莱区福泉洞の「東莱ハルメパジョン(동래할매파전)」がある。創業は1940年とされるが、1930年代から東莱市場にて初代のカン・メヒ(강매희)さんが露店を営んでいたとされる。店を構えたのは1950年代であり、その当時は「第一食堂(제일식당)」という名前であった。1970年代に現在の「東莱ハルメパジョン」に店名を変更。時代とともに嫁から嫁へと代が受け継がれ、2代目の李允善(이윤선)さん、3代目の金玉子(김옥자)さんに続いて、現在は4代目の金貞姫(김정희)さんが店を切り盛りしている。
  • 「東莱ハルメパジョン」における調理手順
「東莱ハルメパジョン」では店内に調理スペースを置き、一連の流れを見ることができるようになっている。調理の手順は以下のようになる(八田靖史の取材記録より、2017年8月25日)。
  1. 鉄板に油をしき、葉ネギを縦方向に載せる。
  2. 葉ネギの上に具を載せる。具は季節ごとに多少異なり、アサリ、ハマグリ、タイラギ、エビ、テナガダコ、牛肉のほか、冬季は牡蠣、ムール貝も加える。
  3. 2の上に葉ネギをさらに載せる。このとき最初に敷いた葉ネギとは、葉先と根を互い違いにする。
  4. 生地を上から流しかける。生地はごくゆるめであり、米粉、もち粉、ダシ汁、ジャン(醤、)などが入る。この生地を店ではマックンムル(맛국물)と呼んでいる。
  5. へらで全体をひっくり返し、90度回して縦と横を入れ替える。
  6. 全体を縦に長く伸ばし、上から油をかける。
  7. 全体に生地(マックンムル)をかける。
  8. 形を正方形に整える。この縦に長く伸ばしたり、正方形に整えたりする作業を、4代目店主の金貞姫さんは「アコーディオンを演奏するように」と表現している。
  9. 全体を90度回して縦と横を入れ替えた後、全体をひっくり返す。
  10. 卵をひとつ器に割り入れ、ざっと溶いたものを生地にかける。
  11. 全体をフタで覆って蒸し焼きにする。
  12. 卵が半熟に固まったらフタを取り、大皿に移して提供する。

脚注


外部リンク

制作者関連サイト

関連項目