ネンミョン(冷麺/냉면)

2017年1月3日 (火) 06:03時点におけるHatta (トーク | 投稿記録)による版 (→‎概要)
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ネンミョン냉면)は、朝鮮半島で食べられている冷麺のこと。韓国では主に専門店で食べられるほか、焼肉店では最後の食事メニューとしても親しまれる。現在は北朝鮮に位置する平壌(ピョンヤン)、咸興(ハムン)が主な本場とされ、韓国においてもこれら地域の出身者やその子孫らが専門店を営んでいることが多い。

名称

ネンミョンは漢字で「冷麺」と書き、朝鮮半島で食べられている冷たい麺料理を指す。韓国で食べられているネンミョンは大きく、冷たいスープに麺を入れて食べるムルレンミョン(물냉면)と、辛い薬味ダレを麺に絡めて食べるピビムネンミョン(비빔냉면)に分けられ、ネンミョンはこれらの総称でもある。また、北朝鮮では同様の漢字語をレンミョン(랭면)と発音する。日本では冷麺(れいめん)と呼ばれることも多いが、本辞典では「ネンミョン」を使用する。発音表記は[냉면]。

概要

ネンミョンは朝鮮半島で食べられている冷たい麺料理のこと。そば粉、でんぷん(サツマイモ、ジャガイモ、緑豆などを原料とする)を用い、押し出し式(生地に圧力をかけて小さな穴から押し出す方式)で麺を作るのが大きな特徴である。麺を冷たいスープに入れて食べる場合と、辛い薬味ダレと絡めて食べる場合があり、前者をムルレンミョン(スープ冷麺、물냉면)、後者をピビムネンミョン(비빔냉면)と呼び分ける。そのほか具や麺の原料によって、さまざまな種類の冷麺が存在する。もともとは朝鮮半島の北部で盛んに作られた料理であり、現在は北朝鮮に位置する平壌、咸興の2地域が主な本場とされる。そば粉を主体とする冷麺を平壌冷麺(ピョンヤンネンミョン、평양냉면)、でんぷんを主体とする冷麺を咸興冷麺(ハムンネンミョン、함흥냉면)と呼ぶこともある。現在の韓国においてはムルレンミョンの本場を平壌、ピビムネンミョンの本場を咸興とする飲食店が多く見られるが、現在の両地域における実態とはやや異なっている(「平壌冷麺と咸興冷麺」参照)。具には茹でた牛肉や豚肉の薄切り、大根、キュウリ、ゆで卵、梨などが載る。

ムルレンミョン

ムルレンミョンは冷たいスープに麺を入れて味わう冷麺。「ムル(水)」と「ネンミョン(冷麺)」の合成語だが、発音変化が起こって「ムルレンミョン」となる。発音表記は[물랭면]。ムルレンミョンのスープは、牛肉や牛骨を主体とするもの、牛肉や豚肉、鶏肉(またはキジ肉)を主体とするもの、ムルキムチ(水キムチ/물김치)を主体とするもの、また肉系のスープとムルキムチを混ぜ合わせたものなどが代表的である。塩、醤油、酢、砂糖などで味付けをし、店によっては韓方材を加えることもある。

ピビムネンミョン

ピビムネンミョンは辛い薬味ダレを麺と絡めて味わう冷麺。「ピビム(混ぜるという動詞の名詞形)」と「ネンミョン(冷麺)」の合成語である。ピビムネンミョンの薬味ダレは粉唐辛子、醤油、ゴマ油、砂糖、ニンニク、ネギなどを混ぜ合わせて作り、店によっては果物の汁などを混ぜることもある。

平壌冷麺と咸興冷麺

ネンミョンはもともと北部地域の郷土料理であり、現在は北朝鮮に位置する平壌、咸興の2地域が有名であった。平壌冷麺は(ピョンヤンネンミョン、평양냉면)そば粉を主として麺を作るのが特徴で、コシを出すためにでんぷんを加える。咸興冷麺に比べて麺は太めであるが、コシは強くとも噛み切れないほどではなく、ぷっつりと心地よい食感を残す程度である。対して、咸興冷麺はジャガイモやサツマイモのでんぷんだけで麺を作り、極細の麺でありながらも噛み切るのが容易でなく、むしろその強靭なコシを楽しむのが粋であるとされる。また、韓国においては麺の原材料だけでなく、平壌冷麺はムルレンミョンを主体とし、咸興冷麺はピビムネンミョンを主体とするとの認識も一般的である。ただし、本場である北朝鮮にはそういった常識がなく、韓食ペディアの執筆者である八田靖史の調査によれば、平壌在住のガイド、咸興在住の旅行社スタッフ、咸興でもっとも有名な冷麺店の「新興館」店員にそれぞれ確認したところ、咸興冷麺もスープのあるムルレンミョンが主流であると語った[1]。もちろんピビムネンミョンが存在しない訳ではなく、平壌でも咸興でもピビムネンミョンは食べることができる。

食べ方

  • ハサミ
 
石釜ごはんに水を注いだところ
ネンミョンの麺はたいへんコシが強いため、とくにでんぷんだけで作る麺の場合は、容易に噛み切れない場合も多い。事前に飲み込みやすい長さにしておくため、韓国の飲食店では提供時に店員がハサミで麺を切ってくれる場合や、最初からハサミが卓上に用意されている場合が多い。ただし、北朝鮮においては麺を切ることは人の縁を切ることに通ずると避ける場合が多く、韓国においても冷麺通の間ではハサミの利用は邪道とされる風潮がある。
  • 酢とカラシ
 
卓上に用意されたスンドゥブチゲ用の卵
飲食店の卓上には酢とカラシが用意され、客が好みでこれらを入れて味わう。

歴史

文献上の記録

  • 『東国歳時記』(1849年)の記述
洪錫謨によって1849年に書かれた『東国歳時記』には、当時の歳時風俗が月ごとにまとめられており、11月の項目にはネンミョンに関する記述がある。文献上におけるネンミョンの記録はこれが初出とされる。「そば麺を大根キムチや白菜キムチを加え、豚肉と和えたものを冷麺と呼ぶ。また、いろいろな野菜や梨、栗、牛肉、豚肉と、油と醤油をそば麺に入れたものを骨董麺と呼ぶ。冷麺は関西地方のものがもっともよい」(原文1)と書かれており、冷麺が冬の季節料理であったことに加え、現在のピビムネンミョンに相当する骨董麺(골동면)の存在も見てとれる。もっともよいと書かれた関西地方は、現在の平壌あたりを指すもので、この時代から平壌冷麺の評判が高かったことを示す。
【原文1】「用蕎麥麵 沈菁菹菹 和猪肉 名曰冷麵 又和雜菜梨栗牛猪切肉 油醬於麵 名曰骨董麵 關西之麵最良」[2]
  • 『是議全書』(1800年代後半)の記述
1800年代後半に書かれた『是議全書』(原著者不詳)の麺部という項目にはネンミョン(原文では令麺)、ピビムネンミョン(原文では汨董麺、부븸국슈)、チャンクッネンミョン(原文では장국냉면、肉スープの冷麺を意味する)の調理法が紹介されている。それぞれの記述は以下の通りである。
  1. ネンミョン「澄んでさっぱりとしたナバッキムチ(ダイコンを薄く切り多目の塩水でつけたキムチ、나박김치)や、よくできたトンチミ(大根の水キムチ/동치미)の汁に蜂蜜を足し、麺を入れて味わう。上には牛肩バラ肉、梨、丸ごと漬けた白菜キムチの3種をすべて千切りにして載せ、粉唐辛子と松の実を振る」(原文2)
  2. ピビムネンミョン「牛肉は細かく刻んだ後、薬味ダレに漬けて炒め、緑豆モヤシとセリは下茹でする。ムク(緑豆などのでんぷんを固めたもの、)を和え、薬味ダレを整えておき、麺を混ぜて器に盛り付ける。上には肉を炒めたものと、粉唐辛子と、すりごまを振りかけるが、食卓に供する際には澄まし汁を一緒に置く」(原文3)
  3. チャンクッネンミョン「肉の澄まし汁を冷やして麺を加える。上には塩でさっと漬けてキュウリを洗って絞り、さっと炒めてすりゴマ、粉唐辛子、油、醤油で和えて、細切りにした牛肩バラ肉と一緒に混ぜて載せる。また、その上には糸唐辛子、イワタケ、錦糸卵を載せる。エホバク(カボチャの未熟果実、애호박)もキュウリと同じく炒める」(原文4)
【原文2】「청신한 나박김치나 좋은 동침이 국에 꿀을 넣어 말아 먹는다. 위에는 양지머리·배·좋은 통김치 세 가지를 모두 채쳐서 얹고 고춧가루와 잣을 뿌린다.」
【原文3】「쇠고기는 다진 후 양념에 재워서 볶고, 숙주와 미나리는 삶는다. 묵을 무치고 양념을 갖추어 넣고, 국수를 비벼 그릇에 담는다. 위에는 고기 볶은 것과 고춧가루와 깨소금을 뿌리는데 상에 낼 때에는 장국을 함께 놓는다.」
【原文4】「고기장국을 끓여 싸늘하게 식혀서 국수를 만다. 위에는 외를 채쳐 소금에 잠깐 절였다가 헹구어 짠 다음에 살짝 볶아 깨소금·고춧가루·유장에 무치고 양지머리 채 친 것을 같이 섞어 얹는다. 또 그 위에는 실고추·석이·달걀 부친 것을 채쳐서 얹는다. 호박도 외와 같이 볶는다.」[3]
  • 『婦人必知』(1915年)の記述
憑虚閣李氏によって1915年に書かれた『婦人必知』では、1903年(1909年説もある)に創業した飲食店「明月館(명월관)」の冷麺を紹介している。「トンチミの汁に麺を入れる。大根、梨、柚子を薄切りにして入れ、薄切りの茹で豚と、錦糸卵を載せる。コショウ、梨、松の実を入れると、明月館冷麺と呼ぶ」(原文5)と記述されており、飲食店のレシピを紹介したものとしてはこれが初めてである。
【原文1】「동치밋국에 국수를 만다. 무, 배, 유자를 얇게 저며 넣고, 제육을 썰고 달걀을 부쳐 채 썰어 넣는다. 후추, 배, 잣을 넣으면 명월관냉면이라 한다.」[4]

種類

ネンミョンには次のような種類がある。

  • ムルネンミョン(물냉면)
冷たいスープに麺を入れたネンミョン
  • ピビムネンミョン(비빔냉면)
辛い薬味ダレを麺と和えて食べるネンミョン
  • チンネンミョン(칡냉면)
葛粉を麺に加えたネンミョン
  • ミルネンミョン(밀냉면)
小麦粉を原料としたネンミョン。ミルミョン(밀면)とも呼ぶ。
  • フェネンミョン(회냉면)
エイやカレイ、スケトウダラなどの刺身を具としたネンミョン

日本における定着

エピソード

地域

脚注

  1. 北朝鮮報告(1)~平壌、開城、元山、咸興の各地域を食べ歩いてきました。 、韓食生活、2015年5月7日閲覧
  2. 최대림(약), 1989, 『동국세시기』, 홍신문화사, P121
  3. 이효지 외(엮음), 2004,『시의전서』, 신광출판사, P187
  4. 이효지 외(엮음), 2010,『부인필지』, 교문사, P192~193

外部リンク

関連項目