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== 歴史 ==
 
== 歴史 ==
 
1883年に[[仁川市の料理|仁川市]]で仁川港(インチョンハン、인천항)が開かれると、中国の山東省などから大勢の中国人が渡ってきた。現在の韓国で親しまれている主要な中華料理は、19世紀後半から20世紀初頭に伝えられ、時代とともにローカライズしていった。タンスユクに関する記録は1920年代から新聞、雑誌などに見られ、早くからウドン(ダールー麺、[[우동2|우동]])、[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)]]、ヤンジャンピ(板春雨の冷菜、[[양장피2|양장피]])などと並んで、代表的な中華料理として親しまれた。1950年代以降は、[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)]]や[[チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)]]が中華料理の代表格として台頭していくが、タンスユクはこれらの麺料理と組み合わせて注文する大皿料理として定着する。1990年代にはタンスユク専門のフランチャイズ店が急増する大きなブームがあり、2000年代に入ってからもチャプサルタンスユク(もち粉酢豚、[[찹쌀탕수육]])、キムピタン(キムチピザ酢豚、[[김피탕]])の登場や、後述する甘酢あんにまつわる論争など、途切れることなく話題を集め続けている。
 
1883年に[[仁川市の料理|仁川市]]で仁川港(インチョンハン、인천항)が開かれると、中国の山東省などから大勢の中国人が渡ってきた。現在の韓国で親しまれている主要な中華料理は、19世紀後半から20世紀初頭に伝えられ、時代とともにローカライズしていった。タンスユクに関する記録は1920年代から新聞、雑誌などに見られ、早くからウドン(ダールー麺、[[우동2|우동]])、[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)]]、ヤンジャンピ(板春雨の冷菜、[[양장피2|양장피]])などと並んで、代表的な中華料理として親しまれた。1950年代以降は、[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)]]や[[チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)]]が中華料理の代表格として台頭していくが、タンスユクはこれらの麺料理と組み合わせて注文する大皿料理として定着する。1990年代にはタンスユク専門のフランチャイズ店が急増する大きなブームがあり、2000年代に入ってからもチャプサルタンスユク(もち粉酢豚、[[찹쌀탕수육]])、キムピタン(キムチピザ酢豚、[[김피탕]])の登場や、後述する甘酢あんにまつわる論争など、途切れることなく話題を集め続けている。
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=== 1920~30年代 ===
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タンスユクは1920~30年代から、主要な中華料理として新聞、雑誌記事に記述が多く見られる。外食としての需要のみならず、レシピの紹介や講習会の案内もあり、家庭料理としての普及も進んでいたとみられる。
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==== 飲食店 ====
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:飲食店では、中国酒のパイカル(高粱酒、[[배갈]])と一緒に注文している例も多く、酒肴として人気があったと考えられる。
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;『別乾坤』(1927~32年)の記述
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*1927年1月1日発行号(第3号)<ref>[http://db.history.go.kr/id/ma_015_0030_0210 別乾坤變裝記者暗夜探査記(별건곤 제3호)] 、韓国史データベース、2022年3月3日閲覧</ref>
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::ルポ記事「変装記者暗夜探査記」内に出前料理としてタンスユクの記述がある。饅頭売りに変装した記者が夜の町を探査する内容で、記者は「色酒家(女性の接待する居酒屋、[[색주가]])」に中華料理の出前が届いた際、「女性主人が[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]])、タンスユク、テンプラ(豚肉の唐揚げ、[[덴뿌라1|덴뿌라]])の器を受け取っている間に」(カッコ内は訳注)、饅頭を売るふりをして中にどんな客がいるのかを確かめた。
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*1930年1月1日発行号(第25号)<ref>[http://db.history.go.kr/id/ma_015_0230_0300 大大風刺 社会成功 秘術(別乾坤 第25号)] 、韓国史データベース、2022年3月3日閲覧</ref>
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::記事「大大風刺 社会成功 秘術」内に、文人になる皮肉的な秘訣として、「知り合いの文士にタンスユクとパイカル(高粱酒)をご馳走して新聞に『文人印象記』を書いてもらうよう懇願せよ」(カッコ内は訳注)との記述がある。
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*1931年9月1日発行号(第43号)<ref>[http://db.history.go.kr/id/ma_015_0230_0300 내가 만일 싀집을 간다면 新式 家庭으로 갈까? 舊式 家庭으로 갈까?(별건곤 제43호)] 、韓国史データベース、2022年3月3日閲覧</ref>
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::記事「万が一、私が結婚するなら新式家庭にするか? 旧式家庭にするか?」内で、回答者のひとりが新式家庭を指し、「義理の両親が『ライスカレー』や『タンスユク』のようなものをよく召し上がるのが新式だろう(もちろんすべてがそうだという訳ではないが)」と述べている。
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*1932年7月1日発行号(第53号)<ref>[http://db.history.go.kr/id/ma_015_0510_0180 連作滑稽小說, 시골아저씨의 서울구경 (별건곤 제53호)] 、韓国史データベース、2022年3月3日閲覧</ref>
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::記事「連作滑稽小説、田舎のおじさんソウル見物」内に、ソウルの中国料理店に入り、「タンスユク、[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]]、[[マンドゥ(餃子/만두)|マンドゥ(餃子)]])、そしてパイカル(高粱酒)」(カッコ内は訳注)を注文した記述がある。
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;『東亜日報』(1932~34年)の記述
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*1932年1月3日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1932010300209207013 한낮에 꿈꾸는 사람들(二)] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::戯曲「昼から夢見る者たち(二)」内に、登場人物のひとりが仕事を円滑に進める賄賂がわりとして、「タンスユク1皿に、ヤンジャンピ(板春雨の冷菜、[[양장피2|양장피]])、[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]]に、パイカル(高粱酒)でも準備しろ」(カッコ内は訳注)と語るセリフがある。
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*1933年11月3日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1933110300209103015 무지개(40)] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::小説「虹(40)」内に、登場人物のひとりが「食べ終えてソースだけ残ったタンスユクを私のほうにひっくり返し」たとの描写がある。
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*1935年2月5日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1935020500209103005 三曲線(101)] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::小説「三曲線」内に、中華料理店に入った登場人物に対し、店員が「お酒にしましょうか。[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]]になさいますか? タンスユクは?」(カッコ内は訳注)と問いかける描写がある。
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;『朝鮮日報』(1936年)の記述
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*1932年5月25日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1932052500239207009 二等當選長篇小説 제 힘(27)] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::小説「私の力」内に、中国料理店で登場人物のひとりが「タンスユクひとつ、テンプラ(豚肉の唐揚げ)ひとつ、麺をふたつ、それとビールと牛肉の缶詰をひとつ先に持って来て!」と注文する描写がある。
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*1936年2月14日<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1936021400239204009 불르기쉬운 탕수육과잡채] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::さまざまな中国料理を紹介する記事。「注文しやすいタンスユクと[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]]) しかし中国料理は世界的 探求すると限りがない」(カッコ内は訳注)と見出しにあり、タンスユクや[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ]]を身近な中国料理と表現しつつ、中国の地方料理や調理法ごとの種類を紹介。
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*1936年4月21日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1936042100239103003 市内中國料理價引上] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::記事「市内中国料理価引き上げ」は、原材料の高騰を理由に京城府内の中国料理店が4月21日から各料理を5~10銭値上げすることを伝えるもの。「『ウドン(ダールー麺、[[우동2|우동]])、タンスユク、『テンプラ(豚肉の唐揚げ)』などは大衆がよく食べる料理だけに、与える影響が相当に大きいだろうと思われる」(カッコ内は訳注)と分析した。
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==== 家庭料理 ====
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:1936年3月10日の「東亜日報」に、中国料理の講習会を告知する記事があり、「中国料理を私たちの家庭で習っておく必要については言うまでも」ないと表現している。また、同記事ではタンスユク、ヤンジャンピチャプチェ(板春雨の冷菜、[[양장피잡채]])、テンプラ(豚肉の唐揚げ、[[덴뿌라1|덴뿌라]])を例示したうえで、これらを出前で取るありふれた料理のように表現し、おそらく講習会で習えるだろう料理をより本格的なものとして比較する書き方をしている。裏を返すと、それだけこの時代にタンスユクなどの料理が身近な存在として根付いていたと推測できる。
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;『朝鮮中央日報』(1935年)の記述
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*1935年1月26日記事<ref>[https://nl.go.kr/newspaper/detail.do?content_id=CNTS-00093574832 中國料理맨드는 法 탕수육 (二)] 、国立中央図書館大韓民国新聞アーカイブ、2022年3月3日閲覧</ref>
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::レシピ記事「中国料理の作り方」としてタンスユクを紹介。料理名はハングルと併記して、漢字で「唐酢肉」と書かれている。
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;『東亜日報』(1936年)の記述
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*1936年3月10日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1936031000239204003 기다리시든 중국료리강습회] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::料理講習会の告知記事「待ちに待った中国料理講習会」内で以下の記述がある。「中国料理を私たちの家庭で習っておく必要については言うまでもなく、ご存じの通りですが、技術もなく、レシピもわからず、お客様のおもてなしに便利で費用も掛からないからといって『タンスユク』『ヤンジャンピチャプチェ(板春雨の冷菜)』や『テンプラ(豚肉の唐揚げ)』の出前を取るお宅が多いようです。また、中国料理とはこのようなものが代表的なものだと思っている方もいらっしゃるようです。しかし、中国料理のようにメニュー数が多く、変化にも富み、美味しく、見栄えもする料理において、『タンスユク』『[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]]』のようなものは、もっとも価値の低い料理です。それ以上の料理は名前ですら、ご存じの方はどれだけになるでしょうか」
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*1936年8月14日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1936081400209203001 여름철에 먹기조흔 중국요리몇가지] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::料理紹介記事「夏に食べやすい中国料理いろいろ」内に、料理名を漢字で「酢豚」と書いたレシピがある。
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;『毎日申報』(1937年)の記述
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*1937年12月7日記事<ref>[https://nl.go.kr/newspaper/detail.do?content_id=CNTS-00094869289 집안에서할수 잇는 뎀뿌라·탕수육 간단한 중국료리 뎀뿌라] 、国立中央図書館大韓民国新聞アーカイブ、2022年3月3日閲覧</ref>
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::レシピ記事「家庭で作る簡単な中国料理」で、テンプラ(豚肉の唐揚げ)とタンスユクを取り上げている。先にテンプラのレシピを紹介したうえで、それを踏まえてタンスユクを「テンプラに汁を作ってかけたもの」と表現している。
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==== 日中戦争の影響 ====
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:1937年7月7日に起きた盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が始まると、飲食店を経営した華僑の帰国が増え、休廃業が増加した。
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;『東亜日報』(1937年)の記述
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*1937年9月20日記事<ref>[https://newslibrary.naver.com/viewer/index.naver?articleId=1937092000209201019 横説堅説] 、NAVERニュースライブラリー、2022年3月3日閲覧</ref>
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::コラム「横説堅説」内に、「日支事変(日中戦争)によって京城市内の支那料理店が八割以上廃、休業! "ウドン(ダールー麺、[[우동2|우동]])" "タンスユク" "[[チャプチェ(春雨炒め/잡채)|チャプチェ(肉炒め)]]" はおろか、あれほど身近で安価な[[ホットク(蜜入りのお焼き/호떡)]]さえも味わえなくなる」(カッコ内は訳注)との記述がある。
  
 
== 種類 ==
 
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