スンドゥブチゲ(柔らかい豆腐の鍋/순두부찌개)

2015年3月27日 (金) 01:47時点におけるHatta (トーク | 投稿記録)による版
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スンドゥブチゲ순두부찌개)は、柔らかい豆腐の鍋。アサリや豚肉、タマネギ、キノコなどを具とし、粉唐辛子を加えてピリ辛の味わいに仕立てる。仕上げに生卵を落とすことも多い。韓国では専門店もある人気料理であるが、家庭料理としても親しまれている。1990年代からはアメリカで人気を集め、また2000年代前半からは日本でも専門店が増えるなど、ワールドワイドな広がりを見せている韓国料理のひとつである。

スンドゥブチゲ

名称

スンドゥブはにがりを打って押し固める前の豆腐を意味し、チゲは汁気の少ない鍋料理を総称する。また、スンドゥブのドゥブは漢字語の豆腐であり、漢字で全体を「純豆腐」、「順豆腐」と表記することもあるが、スンドゥブのスンは語源が明らかになっておらず当て字に過ぎない。語源としては水豆腐(ストゥブ)が転化したとの説や、スナントゥブ(柔らかい豆腐、순한 두부)が転化したとの説がある。飲食店のメニューではチゲを省略してスンドゥブとだけ表記をしたり、定食を意味するペッパン(백반)をつけてスンドゥブペッパンとすることもある。また、日本ではスントゥブ、スンドゥーフ、スンドゥプといった表記も見られるが、本辞典においては「スンドゥブチゲ」を使用する。発音表記は[순두부찌개]。

概要

スンドゥブチゲは、柔らかい豆腐(=スンドゥブ)を主材料として作る鍋料理。アサリや豚肉、タマネギ、長ネギなどの野菜、キノコなどを具とし、味付けには塩、粉唐辛子、ニンニク、ゴマ油などを用いる。仕上げとして生卵を落とすことも多い。飲食店では主に1人前のトゥッペギ(뚝배기、チゲ用に使う素焼きの鍋)で調理をするが、大きな鍋で作ったものをシェアして食べることもある。韓国にはスンドゥブチゲの専門店が多数あり、また食堂や居酒屋などでもメニューに載る。家庭料理として作られることも多い。専門店では牡蠣、エビ、イカなどを入れたものや、キムチ、牛肉、餃子などをメインの具としたものも提供する。

食べ方

  • 石釜ごはん
 
石釜ごはんに水を注いだところ
専門店では注文ごとに1人前ずつ炊いた石釜ごはんが提供されることも多い。この石釜ごはんは器に取り分けた後、残ったおこげに水、または麦茶、コーン茶などを注いでヌルンジ(おこげ湯、누룽지)とする。ヌルンジは石釜によって熱され、即席の茶漬けのようにして味わう。香ばしさを楽しむとともに、消化を助けるという働きも持つ。
 
卓上に用意されたスンドゥブチゲ用の卵
スンドゥブチゲは提供の直前に生卵を落とすことが多い。ただし、店によってはスープが薄まるとして嫌う場合もあり、特に釜山(プサン)を中心とした南部地域では入れないことのほうが多い。専門店では好みによって入れるかどうかを決められるよう、卓上に生卵を用意しておき、客が自ら割り入れるようにしているところもある。
  • ピビムパプ
専門店では大豆モヤシなどの野菜と、刻み海苔、すりゴマ、ゴマ油などを混ぜたものが大きな器に入って用意されることがある。これはごはんとスンドゥブチゲを好みで入れて、よくかき混ぜ、即席のピビムパプ(混ぜごはん、비빔밥)として味わうためのものである。一部の専門店によれば、混ぜて食べることでアツアツのスンドゥブチゲが適度に冷めるため、忙しいランチタイムに短時間で食べられるよう始まった工夫だと語られる。

歴史

1960年代

 
チゲではない薬味醤油をかけて食べるスンドゥブ

もともとスンドゥブはチゲとしてでなく、出来たての豆腐そのものに薬味醤油をかけて食べるものであった。現在のようなスンドゥブチゲは1960年前後に、ソウル市庁近くの小公洞(ソゴンドン)、西小門洞(ソソムンドン)あたりで専門店が増えたことから広まったとされる。これらのエリアは有名繁華街の明洞(ミョンドン)からも近いため、発祥と明洞として語るケースもままある。その背景としては、近隣に大きな豆腐工場があったため、そこから仕入れをする形で近隣にスンドゥブチゲの専門店が増えたと説明される。

  • 「小公洞トゥッペギチプ」の開店
「小公洞トゥッペギチプ(소공동 뚝배기집)」は1962年に小公洞で創業し[1]、現在の韓国においてはもっとも古いスンドゥブチゲ専門店とされる。2代目のホ・ヨンソク社長は「父が店を始める前に市場などでチゲとして販売するケースはあったようだが、店舗として構えたのは『小公洞トゥッペギチプ』が初めて」(八田靖史の取材記録より、2010年2月)と語っており、それを根拠とすれば1950年代後半から1960年代前半にはスンドゥブチゲが料理として存在していたと推測される。
  • 「チョンウォンスンドゥブ」の開店
「チョンウォンスンドゥブ(정원순두부)」は1969年に西小門洞で創業した。店では「当時、小公洞、西小門洞の付近には豆腐工場があり、そのため近隣にスンドゥブチゲ店がたくさんあった」(八田靖史の取材記録より、2009年2月24日)と説明している。

1980~90年代

1980年代から90年代にかけて、韓国系移民によるスンドゥブチゲ専門店がアメリカで増えていった。代表的な店舗には「ニュージャージー小公洞スンドゥブ(뉴저지 소공동순두부)」(1984年創業)、「ビバリースンドゥブ(베버리 순두부)」(1986年創業)、「BCD TOFU HOUSE(북창동순두부)」(1996年創業)などがある。これらの店はコリアンタウンを中心に店舗を拡大し、やがてアメリカ人からもヘルシーフードとして人気を集める。これが後に日本での定着へと影響していった(日本における定着参照)。

アメリカにおける進化

アメリカで専門店が増えたことによって、スンドゥブチゲは韓国とはまた違った独自の進化を遂げることとなった。大きくは以下のような特徴があげられる。これらの進化はやがて韓国にも逆輸入されたり、また日本をはじめとした第三国におけるスンドゥブチゲの普及にもおおいに役立った。

  • 段階的に辛さを選べる(1辛~5辛など)
  • 具をトッピングとして選べる
  • サイドメニューに焼肉があり、セットにもできる

種類

スンドゥブチゲには次のような種類がある。

  • ヘムルスンドゥブチゲ(해물순두부찌개)
牡蠣、エビ、イカなどの海産物を入れたスンドゥブチゲ
  • クルスンドゥブチゲ(굴순두부찌개)
 
牡蠣を入れたクルスンドゥブチゲ
牡蠣を入れたスンドゥブチゲ
  • キムチスンドゥブチゲ(김치순두부찌개)
キムチを入れたスンドゥブチゲ
  • プデスンドゥブチゲ(부대순두부찌개)
ソーセージやランチョンミート、チーズなどを入れたプデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)風のスンドゥブチゲ
  • ソゴギスンドゥブチゲ(소고기순두부찌개)
牛肉を入れたスンドゥブチゲ
  • テジゴギスンドゥブチゲ(돼지고기순두부찌개)
豚肉を入れたスンドゥブチゲ
  • ポソッスンドゥブチゲ(버섯순두부찌개)
キノコを入れたスンドゥブチゲ
  • マンドゥスンドゥブチゲ(만두순두부찌개)
餃子を入れたスンドゥブチゲ
  • トゥルケスンドゥブチゲ(들께순두부찌개)
エゴマを入れたスンドゥブチゲ
  • カレースンドゥブチゲ(카레순두부찌개)
カレー味のスンドゥブチゲ

日本における定着

日本では2000年代前半からスンドゥブチゲの専門店が誕生し始め、2000年代後半にかけて急速に広まっていった。2003~4年頃からの韓流人気とも同調する形であったが、当初は韓国よりもアメリカでのブームを輸入するという例が目立った。むしろ両者の相乗効果によって大きな知名度を獲得できたとも言える。

2003年

日本における専門店の登場は大阪がもっとも早かった。2003年にパイオニア的な2軒がオープンしている。

  • 「まん馬」の開店
2003年8月に大阪、堂島で「まん馬」がオープン。日本で店を開いたことについて、岡田正比古社長は「アメリカ旅行をした際、ロサンゼルスのコリアンタウンでスンドゥブチゲと出合ったのがそもそものきっかけだった。初めて食べる味だったが、辛さのなかにもまろやかさとコクがあって美味しい。これを日本に持ち帰ったら人気が出るのでは、との思いから大阪に戻って店を開いた」[2]と語っている。
  • 「OKKII」の開店
2003年10月に大阪、豊中で「OKKII」がオープン。以前からスンドゥブチゲの店を日本で出したいと考えていた金友香社長は「アメリカで専門店が展開しているのを知り、すぐさま現地での修行を決意。ロサンゼルスの専門店に飛び込みで承諾をもらい、料理のレシピや、提供のノウハウを一つひとつ習得していった」[3]と語っている。

2004年

  • 「BSD DUBU HOUSE」の日本進出
2004年6月に韓国で展開する「LA北倉洞スンドゥブ(LA북창동순두부)」の日本進出店として名古屋で「BSD DUBU HOUSE」がオープンした。

2005年

  • 「BCD TOFU HOUSE」の日本進出
2005年11月に東京、新大久保でアメリカに拠点を持つ「BCD TOFU HOUSE」の日本進出1号店がオープン。この時点で「BCD TOFU HOUSE」は韓国、中国、タイなどにも進出していた。日本におけるスンドゥブチゲブームの草創期を担った1軒だが、2010年7月に閉店している。

2006年

2006年はスンドゥブチゲが大きく知名度を高めた年であった。

  • ドラマ「輪舞曲(ロンド)」の放送
ドラマ「輪舞曲(ロンド)」2006年1月15日よりTBS系列で放送された[4]。このドラマは日韓共同制作であり主役を竹野内豊、ヒロインをチェ・ジウが務めた。劇中でチェ・ジウが扮するユナは、妹のユニとともにスンドゥブチゲの専門店を開き、まだ一般的には馴染みの薄かったスンドゥブチゲという料理を広めるのに貢献した(平均視聴率15.5%)。
  • 「チャメ」のオープン
劇中に登場したスンドゥブチゲの専門店「チャメ(姉妹)」は、東急田園都市線・大井町線の溝の口駅から直結する西口商店街の空き店舗を改装してロケ地とした。また、この店舗はセットでなく、実際に営業をするものとしても作られ、その運営は「牛角」などを展開する外食企業のレインズインターナショナルが担当した。営業はまだドラマが放映中である2006年2月26日に開始し、撮影のある日は臨時休業となるものの、ドラマに出てくる店で実際の料理を味わえるという試みは大きな話題を集めた。また、レインズインターナショナルは系列店舗である「牛角」「牛角食堂」「土間土間」でもスンドゥブチゲとして提供し[5]、またコンビニエンスストアの「am/pm」でも「チャメのスンドゥブチゲ」という商品を販売するなど相乗効果を狙っていった[6]。溝の口の「チャメ」は2007年5月をもって閉店したが、2006年4月25日に恵比寿でオープンした2号店は、経営元を変えつつ2015年3月現在も「チャメ」の名前で営業を続けている。
  • 「東京純豆腐」のオープン
2006年4月12日に東京、青山で「東京純豆腐(とうきょうスンドゥブ)」がオープンした。運営元であるブラスアンドカンパニーは当時教育事業を柱とする企業であったが、ロサンゼルスのコリアンタウンで社長がスンドゥブチゲに出合い、それを日本に持ち込むことを思い付いて外食事業へ参入することとなった(八田靖史の取材記録より、2006年8月24日)。「東京純豆腐」はスンドゥブチゲをカレーやラーメンのような日本の国民食に仕立てることを目指し、従来の韓国料理にはない新しい要素を追加していったところに特徴がある。「明太子チーズスンドゥブや、牛すじスンドゥブといった個性的な具のトッピングに始まり、味噌バタースンドゥブ、カレースンドゥブといったベースとなる味の組み換え、さらには女性を意識した根菜スンドゥブ、緑野菜スンドゥブ、潤健美スンドゥブ(コラーゲンボール、ヒアルロン酸のジュレ入り)といった商品」[7]など、いくつもの新しい工夫を加えて、日本におけるスンドゥブチゲの枠組みを大きく広げていった。また、「東京純豆腐」は創業直後の早い段階から多店舗展開を行い、2015年3月現在、北は北海道から南は沖縄まで30店舗以上をオープンさせている。全国津々浦々にスンドゥブチゲを浸透させたという意味でも大きく寄与したと言える。2013年4月12日にはスンドゥブチゲとバル業態を融合させた「0,19 TOKYO SUNDUBU BAR(ゼロコンマイチキュー トウキョウスンドゥブバル)」をオープンした。

2007年

スンドゥブチゲの名前が世に知られるようになり、2007年頃から家庭で手軽に作れるスンドゥブチゲの素が多くの食品メーカーから発売され、スーパーマーケットなどに並ぶようになった。これ以降、お湯を注ぐだけで食べられるカップタイプのスンドゥブチゲや、スンドゥブチゲ風のラーメンなど、多くの派生商品が開発されるに至った。

  • 丸大食品の参入
家庭用スンドゥブチゲの素を販売している代表的なメーカーのひとつに丸大食品がある。丸大食品は2007年9月に発売した「スンドゥブ(辛口)」、2009年2月に発売した「スンドゥブ(マイルド)」などで評判を集め、2012年以降はスンドゥブチゲの素として「売上NO.1」(丸大食品調べ、KSP-POSデータより)をパッケージに掲げている。2009年10月2日(豆腐の日)にはスンドゥブチゲの知名度を高めるため、独自の応援歌として「平成スンドゥブ節」[8]をリリースするなど、ユニークな発信も試みている。なお、この「平成スンドゥブ節」は、もともと海軍小唄で、ザ・ドリフターズ、氷川きよしら多くの歌手によってリメイクされた「ズンドコ節」を原曲としており、丸大食品の社員によってつけられた歌詞を、同社社員やナレーターの鈴木裕介、韓食ペディアの執筆者である八田靖史らが歌い手として参加している。なお、この楽曲は2010年4月1日よりカラオケDAMでも配信された。

2009年

  • 「小公洞トゥッペギチプ」の日本進出
1962年に創業した韓国でもっとも古いスンドゥブチゲ専門店の「小公洞トゥッペギ」は、複数の業態がコラボしてひとつの店を成すというコンセプトの韓国料理店「KollaBo」[9]の一角として、同店がオープンした2012年10月30日に日本進出を果たした。

2012年

  • 「ゼスン食堂」の開店
2012年12月27日に東京、赤坂で「ゼスン食堂」がオープンした。「ゼスン食堂」は、韓国で「セマウル食堂」や「本家」を展開する有名外食企業のTHE BONE(더본)が運営する店である。

エピソード

  • 韓食ペディアの執筆者である八田靖史は留学時代の2000年に延世語学堂の学生食堂で当時1800ウォンのスンドゥブチゲをよく食べていた。また、たまの贅沢として語学堂の近所にある粉食店「タルギコル(달기골)」にて、3300ウォンのキムチスンドゥブを食べるのを至福の喜びとしていた。

地域

  • 江原道江陵市草堂洞
草堂洞は古くから豆腐作りが盛んで、現在も豆腐料理店や豆腐工場が集まっている。この地域の豆腐は、にがりのかわりに東海岸の海水を用いるのが特徴。この地域では薬味醤油をかけて食べる昔ながらのスンドゥブを味わえる。
  • 慶尚北道慶州市北軍洞
普門湖の周辺にスンドゥブチゲの専門店が集まっている。この地域では大豆を石臼でひいて豆腐を作ったメットルスンドゥブ(石臼豆腐、맷돌순두부)を自慢としている。
  • 全羅北道益山市金馬面
弥勒寺址周辺にスンドゥブチゲの専門店が集まっている。
  • 全羅北道完州郡花心里
花心里には古くから豆腐工場があり、1960年代に近くを訪れる登山客のためスンドゥブチゲを提供したところ話題となった。店頭で揚げるおからドーナツ(비지더넛)も有名。

脚注

  1. 소공동 뚝배기집 역사, 연혁 、소공동 뚝배기집、2015年3月27日閲覧
  2. 八田靖史, 2013, 『韓国料理には、ご用心!』, 三五館, P67
  3. 八田靖史, 2013, 『韓国料理には、ご用心!』, 三五館, P67
  4. 輪舞曲-ロンド- 、TBSチャンネル、2015年3月26日閲覧
  5. 西荻窪の「牛角食堂」でスンドゥブチゲ。 、韓食生活、2015年3月26日閲覧
  6. am/pmが「チャメのスンドゥブチゲ」を発売。 、韓食生活、2015年3月26日閲覧
  7. 八田靖史, 2013, 『韓国料理には、ご用心!』, 三五館, P65
  8. 『平成スンドゥブ節 春夏秋冬編』カラオケ配信決定!! 、丸大食品、2015年3月27日閲覧
  9. 提携店紹介 、KollaBo、2015年3月27日閲覧

外部リンク

関連項目