カクトゥギ(大根の角切りキムチ/깍두기)

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カクトゥギ깍두기)は、大根の角切りキムチ。

名称

カクトゥギはさいの目切りにする様子を意味する「カクトゥクカクトゥク(깍둑깍둑)」という擬音を語源とする。宮中料理ではソンソンイ(송송이)とも呼ぶ。日本ではカクテキと呼ばれることも多く、またカクテギ、カクトゥキ、カットゥギといった表記も見かける。本辞典ではカクトゥギと表記する。発音表記は[깍뚜기]。

  • カクテキの由来
日本ではカクトゥギのことをカクテキと呼ぶことも多い。これは江原道、慶尚道、全羅南道、忠清道で方言として使われる「カクテギ(깍대기)」が語源とされる。在日コリアンは慶尚道出身者が多いため、チョレギ(浅漬けキムチ、재래기)や、チヂミ(지짐이)など、日本で定着した料理名に慶尚道方言が使われている事例は多い。

概要

カクトゥギは、大根の角切りキムチ。さいの目に切って塩漬けにした大根を、粉唐辛子、ニンニク、ショウガ、塩辛などを混ぜ合わせた薬味ダレに漬け込んで作る。主に家庭の常備菜、副菜として作られるほか、飲食店でも副菜のひとつとして提供される。中でもソルロンタン(牛スープ/설렁탕)や、コムタン(牛スープ/곰탕)といったスープ料理との相性がよいとされ、これらを専門とする店ではカクトゥギを自慢とするところが多い。また一部の店ではカクトゥギの汁を、スープに入れて味付けにしたりもする。類似の料理としては、ムキムチ(大根のキムチ/무김치)チョンガッキムチ(小大根のキムチ/총각김치)などがある。

歴史

カクトゥギのもっとも古い記録は、18世紀中ごろに成立したとされる韓国の代表的な説話『春香伝(춘향전)』に登場する。詳しい調理法は19世紀末に書かれた『是議全書(시의전서)』に見ることができ、20世紀に入るとさまざまな種類のカクトゥギが料理書に掲載され始める。なお、カクトゥギの歴史について日本語で読める資料としては、佐々木道雄著『キムチの文化史』(福村出版)に詳しい[1]

文献上の記録

『春香伝』(18世紀中ごろ?)の記述
韓国の代表的な説話『春香伝(춘향전)』にカクトゥギが登場している[2]。『春香伝』の成立時期は定かでないが、18世紀中ごろから後半にかけてと推測されている。
『是議全書』(19世紀末)の記述
19世紀末に書かれた『是議全書』(原著者不詳)のキムチ(김치)という項目には、チョンム(젓무)という大根を用いたキムチの調理法が紹介されている。チョン(チョッ、)は塩辛、ム()は大根を意味し、直訳をすれば大根の塩辛漬けになるが、材料に粉唐辛子や長ネギ、ニンニクが用いられており、大根を「真四角に切って(네모반듯하게 썰어)」との表現もあることから、カクトゥギの原型であるとされる。また、冒頭にはキュウリを使ったウェジョンム(외젓무)の作り方も付記されており、こちらはオイカクトゥギ(キュウリの角切りキムチ、오이깍두기)の原型と考えられる。該当の記述は以下の通りである。
「キュウリのチョンム(カクトゥギ)は、オイキムチ(キュウリのキムチ/오이김치)のように具を入れ、アミの塩辛(새우젓)は刻んで粉唐辛子と長ネギ、ニンニクも刻んで合わせ馴染ませる。白菜の内側部分は四等分に切り、大根はザクザクと真四角に切って、オイジ(キュウリ漬け、오이지)も入れる。アミの塩辛は刻んでおき、長ネギとニンニクはすりばちでつぶし、粉唐辛子と混ぜてひとつの混ぜ合わせ、味を調えておく。チョンムは上に覆いをかけてこそよく漬かり味もよい」(原文1)
【原文1】
외젓무는 외김치처럼 소를 넣고 새우젓은 다지고 고춧가루와 파 마늘도 다져서 합하여 익힌다. 배추속대는 4절로 썰고 무 도독도독 네모반듯하게 썰어 외지도 넣는다. 새우젓은 다져 넣고 파와 마늘은 절구에 찧어 고춧가루와 섞어 한데 버무려 간 맞추어 넣는다. 젓무는 위를 많이 덮어야 잘 익고 맛이 좋다.[3]
『朝鮮料理製法』(1921年)の記述
方信栄(방신영)によって1917年に初めて書かれ、その後も増補を重ねた『朝鮮料理製法(조선요리제법)』にはカクトゥギの調理法が紹介されている。カクトゥギという名前で文献に登場するのはこれが初めてである(目次では「깍둑이」、本文では「각뚝이」と表記されている。1921年の版で確認)[4]
『朝鮮無双新式料理製法』(1930年)の記述
李用基(이용기)によって1924年に書かれた『朝鮮無双新式料理製法(조선무쌍신식요리제법)』にはカクトゥギ(表記は깍뚝이)、ウェカクトゥギ(キュウリの角切りキムチ、表記は외깍뚝이)、クルカクトゥギ(牡蠣を入れた大根の角切りキムチ、表記は굴깍뚝이)、ヘッカクトゥギ(初物の大根を使った角切りキムチ、表記は햇깍뚝이)、チェカクトゥギ(大根の千切りキムチ、表記は채깍뚝이)、スッカクトゥギ(茹でた大根の角切りキムチ、表記は숙깍뚝이)という6種類が掲載されている[5]

逸話

洪善杓の報告(19世紀初め?)
日本統治時代に朝鮮食饌研究所(조선식찬연구소)を運営していた洪善杓(홍선표)は、1937年11月10日付けの東亜日報にてカクトゥギに関する逸話を以下のように紹介している[6]
「カクトゥギは200年前、正祖王の時代に正祖の婿である永明尉、洪顕周(ホン・ヒョンジュ)の夫人が王にさまざまな料理を新しく作って捧げたとき、初めて大根を切ってカクトゥギを作って差し上げたところ、たいへん賞賛なさり、召し上がった日から下々にまで伝播した。そのとき名前を刻毒気(カクトッキ)と称した。民間に伝播したのは、大臣の中で名前は記録されていないものの、公州に落郷した人物がカクトゥギを作って食べたことから、カクトゥギが公州より民間で作られ始めた関係で、今日まで公州カクトゥギとして有名なのである」(原文2)
【原文2】
깍두기는 二百여년전 정종조(正宗朝)때 정종조의 사위되는 영명위(永明尉)홍현주(洪顕周)의 부인이 임금님에게 여러가지 음식을 새로히만들어 들일때 처음으로 무를쓰러깍두기를 만들어 드렷더니 대단히 칭찬하시고 잡수인 일로부터 여염가 까지 전파하엿다는 것인대 그때일흠을 각독기(刻毒気)라하엿고 민간에전파하기는 그때대신중에 일흠은 기록된곳이 없음니다마는 공주에 낙향하야 깍두기를 맨들어먹엇든 까닭으로 깍두기가 공주에서부터 민간으로는 시작된관계로 오날까지 공주깍두기라고 유명한 것임니다.
ただし、ここに出てくる洪顕周の夫人であり正祖の娘である淑善翁主(숙선옹주)は1793年生まれであり、正祖が死去した1800年時にはまだ幼かったことを考えると、カクトゥギを捧げたのは次代の王である純祖であったか、または全体が俗説であることも考えられる。史実かどうかはともかく、この逸話をもとに忠清南道公州市では、2017年8月に第1回公州カクトゥギ祭り(공주깍두기축제)を開催している[7]
  • エピソード
韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2008年に公州カクトゥギにまつわる由来を知って、その壮大な歴史にいたく感銘を受け、メールマガジン「コリアうめーや!!第169号(公州の王女が作った新しいキムチ!!)」にて、一連の話をフィクションとしてまとめた[8]

種類

カクトゥギには次のような種類がある。

材料のバリエーション

キュウリで作るカクトゥギ。

具のバリエーション

  • クルカクトゥギ([[굴깍두기)
生牡蠣を入れて作るカクトゥギ
スケトウダラのエラを入れて作るカクトゥギ。ミョンテソドリカクトゥギ(명태서더리깍두기)とも呼ぶ。ミョンテ(명태)はスケトウダラ、ソドリ(서더리)は魚のアラを意味する。スケトウダラの産地である江原道高城郡の郷土料理として知られる。

調理法のバリエーション

茹でた大根で作る柔らかなカクトゥギ

日本における定着

1910年代

佐々木道雄の報告

佐々木道雄は著書『キムチの文化史』において、1913年1月刊の「朝鮮人ノ食ニ就テ」(大西亀次郎、『総督府月報』第三巻第一号、5頁)に記述がある「大根ノ塩鹹漬」を指して、「塩と塩辛汁と多量の唐辛子粉を混ぜるとあるが、これが真っ赤なカクトゥギの初出と考えられる」[9]と述べている。

地域

脚注

  1. 佐々木道雄, 2009, 『キムチの文化史』, 福村出版, P139-142
  2. 열녀춘향수절가(烈女春香守節歌) 하 、DAVINCI 지식지도、2017年11月24日閲覧
  3. 이효지 외(엮음), 2004,『시의전서』, 신광출판사, P173
  4. 方信栄, 1921, 『朝鮮料理製法』, 悦話堂, P3, 99-100
  5. 李用基, 1930, 『朝鮮無双新式料理製法』, 永昌書館, P103-105
  6. 지상김장강습 일년중 제일 큰 행사인 조선가정의 김장 (2) 、NAVERニュースライブラリー、2017年11月23日閲覧
  7. 2017 공주깍두기축제’ 성황리에 열려 、特級ニュース、2017年11月23日閲覧
  8. 2017 공주깍두기축제’ 성황리에 열려 、コリアうめーや!!第169号(公州の王女が作った新しいキムチ!!)、2017年11月23日閲覧
  9. 佐々木道雄, 2009, 『キムチの文化史』, 福村出版, P141-142

外部リンク

関連項目