インジョルミ(きなこ餅/인절미)

提供: 韓食ペディア
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インジョルミ인절미)は、きなこ餅。もち米を蒸してついたものに、きな粉をまぶして作る。インジョルミはかつて「引切米」「引節米」と書き、韓国ではうるち米を使って作る餅も多いが、もち米を使って作る餅としては代表的な種類のひとつである。伝統餅店、市場などで販売されるほか、伝統茶店でも提供される。近年はインジョルミときな粉をトッピングしたスイーツの人気も高く、中でもデザートカフェ「ソルビン(설빙)」のインジョルミピンス(きな粉餅カキ氷、인절미빙수)は2013年から14年にかけて大ブームとなった。こうしたインジョルミ風のスイーツは定番化しており、インジョルミ味のスナック菓子や、アイスクリームなども登場している。

カクトゥギ

名称

飲食店の卓上に常備されたカクトゥギ。ハサミで食べやすい大きさに切って味わう

インジョルミは「引切味」「引切米」などの漢字を当てることが多く、引っ張って長く伸ばし食べやすいように切った餅との意味を表す。かつてはインジョルビョン(引切餅、인절병)とも呼んだ。本辞典ではインジョルミと表記する。発音表記は[인절미]。

概要

インジョルミ인절미)は、きなこ餅。もち米を蒸してついたものに、きな粉をまぶして作る。少量の砂糖を加えることも多い。韓国ではうるち米を使って作る餅も多いが、もち米を使って作る餅としては代表的な種類のひとつである。伝統餅店、市場などで販売されるほか、伝統茶店でも提供される。近年はインジョルミときな粉をトッピングしたスイーツの人気も高く、中でもデザートカフェ「ソルビン(설빙)」のインジョルミピンス(きな粉餅カキ氷、인절미빙수)は2013年から14年にかけて大ブームとなった。こうしたインジョルミ風のスイーツは定番化しており、インジョルミ味のスナック菓子や、アイスクリームなども登場している。

歴史

インジョルミのもっとも古い記録は、16世紀中ごろに書かれた

成立したとされる韓国の代表的な説話『春香伝(춘향전)』に登場する。詳しい調理法は19世紀末に書かれた『是議全書(시의전서)』に見ることができ、20世紀に入るとさまざまな種類のカクトゥギが料理書に掲載され始める。なお、カクトゥギの歴史について日本語で読める資料としては、佐々木道雄著『キムチの文化史』(福村出版)に詳しい[1]

文献上の記録

『春香伝』(18世紀中ごろ?)の記述
韓国の代表的な説話『春香伝(춘향전)』にカクトゥギが登場している[2]。『春香伝』の成立時期は定かでないが、18世紀中ごろから後半にかけてと推測されている。
『是議全書』(19世紀末)の記述
19世紀末に書かれた『是議全書』(原著者不詳)のキムチ(김치)という項目には、チョンム(젓무)という大根を用いたキムチの調理法が紹介されている。チョン(チョッ、)は塩辛、ム()は大根を意味し、直訳をすれば大根の塩辛漬けになるが、材料に粉唐辛子や長ネギ、ニンニクが用いられており、大根を「真四角に切って(네모반듯하게 썰어)」との表現もあることから、カクトゥギの原型であるとされる。また、冒頭にはキュウリを使ったウェジョンム(외젓무)の作り方も付記されており、こちらはオイカクトゥギ(キュウリの角切りキムチ、오이깍두기)の原型と考えられる。該当の記述は以下の通りである。
「キュウリのチョンム(カクトゥギ)は、オイキムチ(キュウリのキムチ/오이김치)のように具を入れ、アミの塩辛(새우젓)は刻んで粉唐辛子と長ネギ、ニンニクも刻んで合わせ馴染ませる。白菜の内側部分は四等分に切り、大根はザクザクと真四角に切って、オイジ(キュウリ漬け、오이지)も入れる。アミの塩辛は刻んでおき、長ネギとニンニクはすりばちでつぶし、粉唐辛子と混ぜてひとつの混ぜ合わせ、味を調えておく。チョンムは上に覆いをかけてこそよく漬かり味もよい」(原文1)
【原文1】
외젓무는 외김치처럼 소를 넣고 새우젓은 다지고 고춧가루와 파 마늘도 다져서 합하여 익힌다. 배추속대는 4절로 썰고 무 도독도독 네모반듯하게 썰어 외지도 넣는다. 새우젓은 다져 넣고 파와 마늘은 절구에 찧어 고춧가루와 섞어 한데 버무려 간 맞추어 넣는다. 젓무는 위를 많이 덮어야 잘 익고 맛이 좋다.[3]
『朝鮮料理製法』(1921年)の記述
方信栄(방신영)によって1917年に初めて書かれ、その後も増補を重ねた『朝鮮料理製法(조선요리제법)』にはカクトゥギの調理法が紹介されている。カクトゥギという名前で文献に登場するのはこれが初めてである(目次では「깍둑이」、本文では「각뚝이」と表記されている。1921年、1937年の版で確認)[4][5]
『朝鮮無双新式料理製法』(1930年)の記述
李用基(이용기)によって1924年に書かれた『朝鮮無双新式料理製法(조선무쌍신식요리제법)』にはカクトゥギ(表記は깍뚝이)、ウェカクトゥギ(キュウリの角切りキムチ、表記は외깍뚝이)、クルカクトゥギ(牡蠣を入れた大根の角切りキムチ、表記は굴깍뚝이)、ヘッカクトゥギ(初物の大根を使った角切りキムチ、表記は햇깍뚝이)、チェカクトゥギ(大根の千切りキムチ、表記は채깍뚝이)、スッカクトゥギ(茹でた大根の角切りキムチ、表記は숙깍뚝이)という6種類が掲載されている[6]

逸話

忠清南道公州市とインジョルミの逸話
忠清南道公州市には、インジョルミの由来について以下のような逸話が伝わっている[7]。1624年に時の王である仁祖(インジョ、인조)は、家臣による反乱事件(李适の乱)が起こった際、公州市まで避難をした。そのとき近所に住む、任(イム、임)という人物が仁祖王にきな粉餅を進上したのだが、仁祖王はこれをことのほか喜び、なんという名前の餅かを尋ねた。ところがその名前を知っている者がいなかったため、仁祖王は「イム氏が作る絶味(ジョルミ=非常に美味しい、절미)の餅)」という意味で、「イムジョルミ(임절미)」と名付けるよう指示をした。これがなまって、後にインジョルミとして定着するに至ったという話である。しかし、実際は1624年以前に書かれた文献にもインジョルミという名前の記述があり、後世に作られたエピソードである可能性も高い。公州市ではこれらの逸話にちなんで、インジョルミを公州餅(コンジュトク、공주떡)と呼ぶとともに、毎年「公州インジョルミ祭り(공주인절미축제)」を開催している。ただし、先にもあるようにインジョルミという名称自体は少なくとも16世紀にはすでに見られる。

種類

アガミカクトゥギ

カクトゥギには次のような種類がある。

材料のバリエーション

キュウリで作るカクトゥギ。

具のバリエーション

  • クルカクトゥギ([[굴깍두기)
生牡蠣を入れて作るカクトゥギ
スケトウダラのエラを入れて作るカクトゥギ。ミョンテソドリカクトゥギ(명태서더리깍두기)とも呼ぶ。ミョンテ(명태)はスケトウダラ、ソドリ(서더리)は魚のアラを意味する。スケトウダラの産地である江原道高城郡の郷土料理として知られる。

調理法のバリエーション

茹でた大根で作る柔らかなカクトゥギ

日本における定着

日本の伝統餅店では他の餅と並んで定番のひとつとなっている。

2010年代

ソルビンの進出
インジョルミピンス(きなこ餅カキ氷、인절미빙수)を看板メニューとするデザートカフェ「ソルビン(설빙)」が2016年5月東京・原宿に日本1号店を出店した。

エピソード

韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、留学時代の2000年に初めてインジョルミを食べた。待ち合わせに遅れた友人のひとりが、「これを買っていて遅くなった」と言い訳したのがインジョルミであり、そのエピソードは著書『八田式「イキのいい韓国語あります。」』にも収録されている[8]

地域

インジョルミの名称は公州市から生まれたとの説がある。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

<ソウル>

  • 河東館(하동관)
住所:ソウル市中区明洞9キル12(明洞1街10-4)
住所:서울시 중구 명동9길 12(명동1가 10-4)
電話:02-776-5656
備考:カクトゥギの汁を入れて食べるコムタン専門店。

脚注

  1. 佐々木道雄, 2009, 『キムチの文化史』, 福村出版, P139-142
  2. 열녀춘향수절가(烈女春香守節歌) 하 、DAVINCI 지식지도、2017年11月24日閲覧
  3. 이효지 외(엮음), 2004,『시의전서』, 신광출판사, P173
  4. 깍두기, 조선요리제법(1921) 、韓国伝統知識ポータル、2018年1月28日閲覧
  5. 方信栄, 1937, 『朝鮮料理製法』, 悦話堂, P3, 99-100
  6. 李用基, 1930, 『朝鮮無双新式料理製法』, 永昌書館, P103-105
  7. 원조 한류스타의 화려한 컴백, 2017 공주 백제문화제 、公州市文化観光、2017年12月23日閲覧
  8. 八田靖史, 2003, 『八田式 イキのいい韓国語あります。』, 学習研究社, P215-216

外部リンク

制作者関連サイト

関連項目