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== 地域概要 == | == 地域概要 == | ||
[[ファイル:18070802.JPG|thumb|300px|城山日出峰]] | [[ファイル:18070802.JPG|thumb|300px|城山日出峰]] | ||
− | 済州道(チェジュド、제주도)は韓国の南部に位置する島嶼地域。正式には済州特別自治道(제주특별자치도)であり、一般的な道よりも高度な自治権を保証された地方自治団体である。主要島である済州島(チェジュド、제주도)を含む9の有人島と、55の無人島で構成される。人口は67万6119人(2023年10月)であり、広域地方自治団体(特別市、広域市、道、特別自治道、特別自治市)の中では特別自治市の[[世宗市の料理|世宗市]]に次いで2番目に少ない<ref>[https://jumin.mois.go.kr/ 주민등록 인구통계] 、行政安全部ウェブサイト、2023年11月8日閲覧</ref>。面積は1850.3平方キロ(2021年)<ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=116&tblId=DT_MLTM_2300&conn_path=I2 행정구역별・지목별 국토이용현황_시군구] 、KOSIS(国家統計ポータル)、2023年1月26日閲覧</ref>。[[済州市の料理|済州市]]と、[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の2市で構成されており、道庁所在地は[[済州市の料理|済州市]]。済州島の中央には標高1947mで韓国最高峰の漢拏山(ハルラサン、한라산)がそびえ、かつての火山活動による大小の山々と洞窟郡が周辺に広がる。その独特な景観は「済州火山島と溶岩洞窟群」として2007年にユネスコの世界自然遺産としても登録されている<ref>[http://unesco.or.jp/isan/list/asia_2/ 世界遺産一覧 地域別リスト(アジア②)] 、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟ウェブサイト、2017年7月20日閲覧</ref> | + | 済州道(チェジュド、제주도)は韓国の南部に位置する島嶼地域。正式には済州特別自治道(제주특별자치도)であり、一般的な道よりも高度な自治権を保証された地方自治団体である。主要島である済州島(チェジュド、제주도)を含む9の有人島と、55の無人島で構成される。人口は67万6119人(2023年10月)であり、広域地方自治団体(特別市、広域市、道、特別自治道、特別自治市)の中では特別自治市の[[世宗市の料理|世宗市]]に次いで2番目に少ない<ref>[https://jumin.mois.go.kr/ 주민등록 인구통계] 、行政安全部ウェブサイト、2023年11月8日閲覧</ref>。面積は1850.3平方キロ(2021年)<ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=116&tblId=DT_MLTM_2300&conn_path=I2 행정구역별・지목별 국토이용현황_시군구] 、KOSIS(国家統計ポータル)、2023年1月26日閲覧</ref>。[[済州市の料理|済州市]]と、[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の2市で構成されており、道庁所在地は[[済州市の料理|済州市]]。済州島の中央には標高1947mで韓国最高峰の漢拏山(ハルラサン、한라산)がそびえ、かつての火山活動による大小の山々と洞窟郡が周辺に広がる。その独特な景観は「済州火山島と溶岩洞窟群」として2007年にユネスコの世界自然遺産としても登録されている<ref>[http://unesco.or.jp/isan/list/asia_2/ 世界遺産一覧 地域別リスト(アジア②)] 、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟ウェブサイト、2017年7月20日閲覧</ref>。主要な観光地にはかつての噴火口跡である城山日出峰(ソンサンイルチュルボン、성산일출봉)や、巨大洞窟の万丈窟(マンジャングル、만장굴)、済州島3大瀑布と称される正房瀑布(チョンバンポクポ、정방폭포)、天地淵瀑布(チョンジヨンポクポ、천지연폭포)、天帝淵瀑布(チョンジェヨンポクポ、천제연폭포)など、自然景観を活かしたものが多い。済州道までのアクセスは、済州国際空港への飛行機便が一般的である。 |
=== 済州市の料理 === | === 済州市の料理 === | ||
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== 食文化の背景 == | == 食文化の背景 == | ||
[[ファイル:18070803.JPG|thumb|300px|トルハルバン。石のおじいさんという意味で、守り神として村の入口などに置かれている]] | [[ファイル:18070803.JPG|thumb|300px|トルハルバン。石のおじいさんという意味で、守り神として村の入口などに置かれている]] | ||
− | 済州道は島嶼地域であり、周囲に囲まれた海からの恵みが食文化の根幹を担っている。アマダイ([[옥돔]])、サバ([[고등어]])、タチウオ([[갈치]])、スズメダイ([[자리돔]])、ヤリイカ([[한치]] | + | 済州道は島嶼地域であり、周囲に囲まれた海からの恵みが食文化の根幹を担っている。アマダイ([[옥돔]])、サバ([[고등어]])、タチウオ([[갈치]])、スズメダイ([[자리돔]])、ヤリイカ([[한치]])などの魚介に加えて、海女(ヘニョ、[[해녀]])たちが採集するアワビ([[전복]])、トコブシ([[오분자기]])、サザエ([[소라]])、ウニ([[성게]])、ナマコ([[해삼]])なども特産品として有名である。これらは刺身や、焼き物、煮付け、鍋料理などに使用するとともに、乾物や塩辛などの保存食にも広く応用されている。一方で島の中央には標高1947mの漢拏山がそびえ、高原地域では牛や馬などの牧畜や、野菜、山菜、キノコなどの栽培も盛んである。漢拏山の南側に当たる[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]ではミカン([[감귤]])、デコポン([[한라봉]])などの柑橘栽培が盛んに行われている。 |
*耽羅 | *耽羅 | ||
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;ムルフェ(冷汁風刺身/물회) | ;ムルフェ(冷汁風刺身/물회) | ||
− | :ムルフェ(물회)は、冷汁風の刺身(「[[ムルフェ(水刺身/물회)]] | + | :ムルフェ(물회)は、冷汁風の刺身(「[[ムルフェ(水刺身/물회)]]」の項目も参照)。大きな丼状の器に生野菜と刺身を盛り付け、氷水、コチュジャン、酢などを加えて作る。伝統的な製法ではテンジャン(味噌、된장)で味付けをする。済州道の特産品である、アワビ、サザエ、ナマコ、スズメダイ、ヤリイカなどを主材料として作ることが多い。済州道方言でチェピ([[제피]])と呼ばれるケカラスザンショウの葉を、香りのアクセントとして加えることもある。 |
;クイ(焼き物/구이) | ;クイ(焼き物/구이) | ||
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;フッテジグイ(黒豚焼き/흑돼지구이) | ;フッテジグイ(黒豚焼き/흑돼지구이) | ||
[[ファイル:18070809.JPG|thumb|300px|フッテジグイ(モクサル)]] | [[ファイル:18070809.JPG|thumb|300px|フッテジグイ(モクサル)]] | ||
− | :フッテジグイは黒豚の焼肉。[[オギョプサル(皮付き豚バラ肉の焼肉/오겹살)]]、[[モクサル(豚の肩ロース焼き/목살)]]、[[ハンジョンサル(豚トロの焼肉/항정살)]] | + | :フッテジグイは黒豚の焼肉。[[オギョプサル(皮付き豚バラ肉の焼肉/오겹살)]]、[[モクサル(豚の肩ロース焼き/목살)]]、[[ハンジョンサル(豚トロの焼肉/항정살)]]などの各部位をそのまま塩焼きにしたり、薄切りにした黒豚を[[テジプルコギ(豚肉の味付け焼肉/돼지불고기)]]として調理したりする。脂の乗った[[オギョプサル(皮付き豚バラ肉の焼肉/오겹살)]]がもっとも人気の部位であるが、かつてはその理由として皮付きだと黒い毛を視認できるため、安価な白豚を黒豚と偽って提供される心配がないとの理由があった。また、済州産の黒豚の皮部分にはそれを証明するスタンプが押されており、その部分をわざわざ見せるようにして提供する店も多い(食べても害はない)。近年は黒豚の生産量も増え、皮のない部位を提供する店も増えてきている。 |
− | * | + | *クンゴギ(1斤肉/근고기) |
− | :一部の飲食店には、クンゴギ(塊肉、[[근고기]] | + | :一部の飲食店には、クンゴギ(塊肉、[[근고기]])と呼ばれるメニューがある。クンゴギとはもともと「1斤の肉」を意味し、1斤=600gをひと単位として提供する方式を指している。多くの店では、[[オギョプサル(皮付き豚バラ肉の焼肉/오겹살)]]、[[モクサル(豚の肩ロース焼き/목살)]]をセットにして600gで提供する。 |
*黒豚通り | *黒豚通り | ||
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;トムベゴギ(済州島式の茹で豚/돔베고기) | ;トムベゴギ(済州島式の茹で豚/돔베고기) | ||
[[ファイル:18070810.JPG|thumb|300px|トムベゴギ]] | [[ファイル:18070810.JPG|thumb|300px|トムベゴギ]] | ||
− | : | + | :トムベゴギ([[돔베고기]])は、済州島式の茹で豚。トムベ([[돔베]])は済州島方言でまな板(標準語ではトマ、[[도마]])。ゴギ(=コギ、[[고기]])は肉。茹でた豚バラ肉を食べやすい大きさに切り、まな板ごと提供する。茹でる際にはショウガや長ネギ、テンジャン(味噌、[[된장]])を加えて雑味を取る。茹で上がった豚肉はサンチュ、エゴマの葉、白菜、古漬けのキムチ([[묵은지]])などに包み、サムジャン(包み味噌、[[쌈장]])を載せて味わうほか、塩辛につけても食べる。家庭料理として作られるほか、郷土料理店、豚焼肉店などで提供される。 |
;トゥルチギ(済州島式の豚肉炒め/두루치기) | ;トゥルチギ(済州島式の豚肉炒め/두루치기) | ||
− | : | + | :トゥルチギ([[두루치기]])は、豚肉炒め(「[[トゥルチギ(豚肉の炒め物(または鍋)/두루치기)]]」の項目も参照)。済州道では、ピリ辛に味付けをした豚肉を鉄板や鍋で炒め、そこに副菜の[[コンナムルムチム(大豆モヤシのナムル/콩나물무침)]]や、ムチェキムチ(千切り大根のキムチ、[[무채김치]])、パジョリ(白髪ネギの和え物、[[파절이]])などを混ぜ込んでさらに炒めたトゥルチギが定着している。これにアワビなどの魚介を加えた豪華なアレンジもある。 |
;コギグクス(豚スープ麺/고기국수) | ;コギグクス(豚スープ麺/고기국수) | ||
[[ファイル:18070811.JPG|thumb|300px|コギグクス]] | [[ファイル:18070811.JPG|thumb|300px|コギグクス]] | ||
− | :コギグクス([[고기국수]])は、豚スープ麺。コギ([[고기]])は肉、グクス(=ククス、[[국수]])は麺を表す。豚骨、豚肉を煮込んだ濃厚なスープに、中太の小麦麺を入れて作る。具にはスライスした茹で豚のほか、ニンジン、長ネギ、海苔などを加え、好みでタデギ(唐辛子ペースト、[[다대기]])を入れて辛味を足すこともある。道内には数多くの専門店が営業しており、中でも店舗の密集した済州市一徒2洞(제주시 일도2동)一帯は、2009年に「ククス文化通り(국수문화거리)」として指定された。コギグクスの専門店では、煮干しダシに素麺を入れたミョルチグクス([[멸치국수]])や、ミョルチグクスのスープにコギグクスの具を載せたミョルゴグクス([[멸고국수]] | + | :コギグクス([[고기국수]])は、豚スープ麺。コギ([[고기]])は肉、グクス(=ククス、[[국수]])は麺を表す。豚骨、豚肉を煮込んだ濃厚なスープに、中太の小麦麺を入れて作る。具にはスライスした茹で豚のほか、ニンジン、長ネギ、海苔などを加え、好みでタデギ(唐辛子ペースト、[[다대기]])を入れて辛味を足すこともある。道内には数多くの専門店が営業しており、中でも店舗の密集した済州市一徒2洞(제주시 일도2동)一帯は、2009年に「ククス文化通り(국수문화거리)」として指定された。コギグクスの専門店では、煮干しダシに素麺を入れたミョルチグクス([[멸치국수]])や、ミョルチグクスのスープにコギグクスの具を載せたミョルゴグクス([[멸고국수]])を出す店もある。 |
;スンデ(済州島式の腸詰/순대) | ;スンデ(済州島式の腸詰/순대) | ||
− | :スンデ([[순대]])は、腸詰め(「[[スンデ(韓国式の腸詰/순대)]]」の項目も参照)。済州道の伝統的なスンデは、スエ([[수애]] | + | :スンデ([[순대]])は、腸詰め(「[[スンデ(韓国式の腸詰/순대)]]」の項目も参照)。済州道の伝統的なスンデは、スエ([[수애]])とも呼ばれ、豚の血液とそば粉、少量の野菜を混ぜて具を作る。他地域に比べて野菜の量が少ないため、密度の濃い仕上がりになるのが特徴である。また、豚の直腸([[막창]])を使って作るマクチャンスンデ([[막창순대]])、別名チャンドルムスンデ([[창도름순대]])も済州道特有のスンデである。 |
;アガンバル(済州島式の豚足/아강발) | ;アガンバル(済州島式の豚足/아강발) | ||
− | :アガンバル([[아강발]])は、豚足の爪先部分、またはそれを煮込んだ料理。一般的には[[チョッパル(豚足の煮物/족발)]]として総称されるが、済州道においては豚足の爪先部分だけをアガンバルと呼び、残りの部位を[[チョッパル(豚足の煮物/족발)|チョッパル]] | + | :アガンバル([[아강발]])は、豚足の爪先部分、またはそれを煮込んだ料理。一般的には[[チョッパル(豚足の煮物/족발)]]として総称されるが、済州道においては豚足の爪先部分だけをアガンバルと呼び、残りの部位を[[チョッパル(豚足の煮物/족발)|チョッパル]]と呼んで区別をする。肉付きの少ない部位ではあるが、骨まわりの肉にかじりついて味わう妙味がある。[[チョッパル(豚足の煮物/족발)|チョッパル]]や、[[スンデ(韓国式の腸詰/순대)]]の専門店、あるいはコギグクス(豚スープ麺、[[고기국수]])の専門店で提供されることが多い。 |
;コサリユッケジャン(豚とワラビのスープ/고사리육개장) | ;コサリユッケジャン(豚とワラビのスープ/고사리육개장) | ||
[[ファイル:18070812.jpg|thumb|300px|コサリユッケジャン]] | [[ファイル:18070812.jpg|thumb|300px|コサリユッケジャン]] | ||
− | :コサリユッケジャン([[고사리육개장]])は、豚肉とワラビのスープ。コサリ([[고사리]])はワラビ、ユッケジャンは本来牛肉の辛いスープを指すが、済州道においては豚肉とワラビのスープを指してユッケジャンと呼んでいる(「[[ユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)]] | + | :コサリユッケジャン([[고사리육개장]])は、豚肉とワラビのスープ。コサリ([[고사리]])はワラビ、ユッケジャンは本来牛肉の辛いスープを指すが、済州道においては豚肉とワラビのスープを指してユッケジャンと呼んでいる(「[[ユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)]]」の項目も参照)。豚骨、豚肉を煮込んだスープに、下煮をして細く裂いた豚肉、下茹でをして繊維をほぐしたワラビを加え、醤油、塩、ニンニクなどで味を調えて作る。仕上げにはそば粉を加えてとろみをつける。道内の郷土料理店、スープ料理店などで提供される。 |
;チョプチャクピョクッ(豚スープ/접짝뼈국) | ;チョプチャクピョクッ(豚スープ/접짝뼈국) | ||
− | :チョプチャクピョクッ([[접짝뼈국]])は、豚スープ。チョプチャクピョ([[접짝뼈]] | + | :チョプチャクピョクッ([[접짝뼈국]])は、豚スープ。チョプチャクピョ([[접짝뼈]])は豚の背骨や前足の骨を指す。クッ([[국]])はスープの意。豚骨を煮込んでスープを作り、骨回りの肉と大根などを具として加える。味付けは塩で整え、仕上げにはそば粉を加えてとろみをつける。道内では定食店、郷土料理店などで提供される。 |
=== 肉料理(豚肉以外) === | === 肉料理(豚肉以外) === | ||
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;チェジュフグ(済州黒牛/제주흑우) | ;チェジュフグ(済州黒牛/제주흑우) | ||
− | : | + | :チェジュフグ([[제주흑우]])は、済州黒牛(済州道で飼育される黒毛種の韓牛)。フグ(黒牛、[[흑우]])、またはフッカヌ(黒韓牛、[[흑한우]])とも呼ばれる。済州道の固有種として古くから飼育されてきたが、かつては黄牛と飼育上の区別がなく、1970~80年代にかけて頭数を大きく減らした。1990年代に入ってその希少さが知られるようになり、地元の畜産協同組合を中心に純血種の保護と育成に力が注がれるようになった(八田靖史の取材記録より、2011年4月5日)。その成果が実って、2010年8月には精肉店と焼肉店を兼ねた「西帰浦市畜協黒韓牛名品館(서귀포시축협흑한우명품관)」をオープンし、地域のブランド牛として広くPRされるようになった。2013年7月22日には、国の天然記念物第546号にも指定されている<ref>[http://www.heritage.go.kr/heri/cul/culSelectDetail.do?pageNo=5_2_1_0&ccbaCpno=1363905460000# 천연기념물 제546호 제주 흑우 (濟州 黑牛)] 、文化財庁国家文化遺産ポータル、2018年3月25日閲覧</ref>。なお、天然記念物として畜産振興院で飼育される済州黒牛とは別途、食用とされるものが畜産農家にて飼育されている。主に焼肉、[[ユッケ(牛刺身/육회)]]として味わう。韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、著書『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品! ぶっちぎり108料理』において、済州道のチェジュフグを厳選したベスト8の4位として紹介した<ref>八田靖史, 2014, 『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品! ぶっちぎり108料理』, 三五館, P14-15</ref>。 |
==== 馬肉料理 ==== | ==== 馬肉料理 ==== | ||
135行目: | 135行目: | ||
;マルコギヨリ(馬肉料理/말고기요리) | ;マルコギヨリ(馬肉料理/말고기요리) | ||
− | :マルコギヨリ([[말고기요리]])は、馬肉料理。マルコギ([[말고기]])は馬肉。ヨリ([[요리]])は料理。済州道で食用とされる馬肉は、その多くが済州山馬([[제주산마]])、または漢拏馬([[한라마]])と呼ばれる交雑種である。済州山馬は競走馬としても、馬肉としても利用される。代表的な料理としては、マルコギグイ(馬肉の焼肉、[[말고기구이]])、マルコギユッケ(馬肉のユッケ、[[말고기육회]])、マルコギフェ(馬刺し、[[말고기회]])などがある。牛肉の調理法を応用して、[[カルビチム(牛カルビの煮物/갈비찜)]]、[[コムタン(牛スープ/곰탕)]]、あるいはハンバーグ([[햄버그]] | + | :マルコギヨリ([[말고기요리]])は、馬肉料理。マルコギ([[말고기]])は馬肉。ヨリ([[요리]])は料理。済州道で食用とされる馬肉は、その多くが済州山馬([[제주산마]])、または漢拏馬([[한라마]])と呼ばれる交雑種である。済州山馬は競走馬としても、馬肉としても利用される。代表的な料理としては、マルコギグイ(馬肉の焼肉、[[말고기구이]])、マルコギユッケ(馬肉のユッケ、[[말고기육회]])、マルコギフェ(馬刺し、[[말고기회]])などがある。牛肉の調理法を応用して、[[カルビチム(牛カルビの煮物/갈비찜)]]、[[コムタン(牛スープ/곰탕)]]、[[ユッケジャン(牛肉の辛いスープ/육개장)]]、あるいはハンバーグ([[햄버그]])などを馬肉で作ることもある。珍味のひとつとして腸を茹でたものをコムンジルム(馬の腸茹で、[[검은지름]])と呼んで珍重する。コムンジルムは黒い脂という意味である。 |
==== 鶏肉料理 ==== | ==== 鶏肉料理 ==== | ||
[[ファイル:18070815.JPG|thumb|300px|タッペクスク]] | [[ファイル:18070815.JPG|thumb|300px|タッペクスク]] | ||
− | 済州道の鶏肉料理は[[済州市の料理|済州市]]の朝天邑橋来里(チョチョヌプ キョレリ、조천읍 | + | 済州道の鶏肉料理は[[済州市の料理|済州市]]の朝天邑橋来里(チョチョヌプ キョレリ、조천읍 교래리)地区に地鶏([[토종닭]])料理の専門店が集まっており、タッペクスクシャブシャブ(鶏の丸茹でしゃぶしゃぶ、[[닭백숙샤브샤브]])が名物となっている。 |
− | ; | + | ;タッペクスクシャブシャブ(鶏の丸茹でしゃぶしゃぶ/닭백숙샤브샤브) |
− | :タッペクスクシャブシャブ([[닭백숙샤브샤브]] | + | :タッペクスクシャブシャブ([[닭백숙샤브샤브]])は、鶏の丸茹でと鶏しゃぶしゃぶをセットにした料理。タッ([[닭]])は鶏。ペクスク([[백숙]])は鶏の丸茹で(「[[タッペクスク(丸鶏の水煮/닭백숙)]]」の項目も参照)。シャブシャブ([[샤브샤브]])はしゃぶしゃぶ。[[タッペクスク(丸鶏の水煮/닭백숙)|タッペクスク]]専門店で忙しい観光客へのサービスとして、先に胸肉だけを薄切りにし、しゃぶしゃぶで提供するようになったのが始まりである。胸肉のしゃぶしゃぶを食べ終えた頃に、タイミングよく胸肉以外を用いた[[タッペクスク(丸鶏の水煮/닭백숙)|タッペクスク]]が茹で上がる。最後は鶏を煮込んだスープにごはんと緑豆を入れて煮込んだノクトゥジュク(緑豆粥、[[녹두죽]])を提供し、そこまでが一連のコースとなる。 |
==== キジ肉料理 ==== | ==== キジ肉料理 ==== | ||
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;クォンゴギヨリ(キジ肉料理/꿩고기요리) | ;クォンゴギヨリ(キジ肉料理/꿩고기요리) | ||
− | :クォンゴギヨリ([[꿩고기요리]])は、キジ肉料理。クォンゴギ([[꿩고기]])はキジ肉。ヨリ([[요리]] | + | :クォンゴギヨリ([[꿩고기요리]])は、キジ肉料理。クォンゴギ([[꿩고기]])はキジ肉。ヨリ([[요리]])は料理。済州道にはキジ肉料理の専門店が多く、さまざまなキジ肉料理を提供している。代表的な料理としては、クォングイ(キジ肉焼き、[[꿩구이]])、[[クォンシャブシャブ(キジのシャブシャブ/꿩샤브샤브)]]、クォンマンドゥ(キジ肉餃子、[[꿩만두]])、クォンメミルグクス(キジ肉そば、[[꿩메밀국수]])などがある。一部の店においては、キジの狩猟施設を併設するなど体験観光とも結びついている。 |
;クォンヨッ(キジ飴/꿩엿) | ;クォンヨッ(キジ飴/꿩엿) | ||
− | :クォンヨッ([[꿩엿]])は、キジ飴。クォン([[꿩]])はキジ。ヨッ([[엿]] | + | :クォンヨッ([[꿩엿]])は、キジ飴。クォン([[꿩]])はキジ。ヨッ([[엿]])は飴の意。炊いた粟(アワ)と麦芽を混ぜて発酵させ、煮詰めて水飴状にしたところへ茹でて裂いたキジ肉を加えて作る。済州道の伝統食品であり、タンパク質を補給する栄養食品として親しまれてきた。現在は土産物店などでビン詰めしたものを販売している。 |
=== 野菜料理 === | === 野菜料理 === | ||
− | + | 済州道では温暖な気候を活かした野菜の栽培が盛んであり、ブロッコリー([[브로콜리]])、ニンジン([[당근]])、キャベツ([[양배추]])、コールラビ([[콜라비]])などは全国的な主産地として知られる。ワラビなどの山菜類や、シイタケなどのキノコ類も名産であり、これらは乾物としても全国に出荷される。野菜、山菜を利用したナムルが豊富である。 | |
;ナムル(白菜の菜花のナムル/동지나물) | ;ナムル(白菜の菜花のナムル/동지나물) | ||
169行目: | 169行目: | ||
=== 餅・菓子・甘味 === | === 餅・菓子・甘味 === | ||
[[ファイル:18070817.JPG|thumb|300px|東門市場のピントク屋台]] | [[ファイル:18070817.JPG|thumb|300px|東門市場のピントク屋台]] | ||
− | + | 済州道の環境は稲作に不向きであり、粟(アワ)やソバ、小麦などを用いた餅が発達し、これらが祭祀料理としても用いられた。また、済州道は韓国内でも有数の観光地であることから、ご当地を象徴するお土産品が発達し、特産品であるミカン([[감귤]])やデコポン([[한라봉]])、サボテンの実([[선인장]])などを用いたチョコレート、クッキーなどの菓子類が多く作られている。近年はケーキやアイスクリーム、カキ氷といったSNS映えするスイーツの充実も目覚ましい。 | |
;オメギトク(粟餅/오메기떡) | ;オメギトク(粟餅/오메기떡) | ||
− | :オメギトク([[오메기떡]] | + | :オメギトク([[오메기떡]])は、済州道で作られる伝統的な粟(アワ)餅。オメギ([[오메기]])は「お酒を仕込むために作る丸くて真ん中に穴がある粟モチ」を指す<ref>[https://www.jeju.go.kr/culture/dialect/dictionary.htm?indexP=IS08S&page=5&act=view&seq=6776 오매기] 、済州特別自治道ウェブサイト(方言辞典)、2018年6月23日閲覧</ref><ref>[https://www.jeju.go.kr/culture/dialect/dictionary.htm?indexP=IS07S&page=4&act=view&seq=6758 술오매기] 、済州特別自治道ウェブサイト(方言辞典)、2018年6月23日閲覧</ref>。トク([[떡]])は餅。もち粟の粉を熱湯で練り、丸めたものを茹でて作るのが伝統的な方式である。もともとはオメギスル(粟酒、[[오메기술]])を作るためのものであるが、近年は醸造用よりも間食用としての利用が増えている。もち粟にもち米やヨモギを混ぜて作った餅にアンコを詰め、表面にもアズキをまぶしたものをオメギトクと呼んで販売することが多い。もち粟を使用せず、単なるヨモギ餅を利用するなど簡略化も進んでいる。あるいはヨモギのかわりに名産であるデコポン([[한라봉]])を練り込んだり、表面にアズキでなくナッツをまぶしたりするアレンジも見かける。道内には複数のオメギトク専門店があり、持ち帰り用として販売するほか、店内にイートインスペースを設けているところもある。また、市場の餅店などでも販売される。 |
;ピントク(そばクレープ/빙떡) | ;ピントク(そばクレープ/빙떡) | ||
:ピントク([[빙떡]])は、そばクレープ。ピンはくるくる巻くことを意味する「빙빙(ピンピン)」という擬態語。トク([[떡]])は餅。そば粉の生地をフライパンで薄焼きにし、さっとゆがいて塩、すりゴマなどで味付けをした千切り大根をくるくると巻いて作る。済州道においては祭祀膳に捧げたり、慶弔時にも作る重要な伝統料理のひとつである。現在も道内の在来市場にはピントクを焼いて販売する露店がある。 | :ピントク([[빙떡]])は、そばクレープ。ピンはくるくる巻くことを意味する「빙빙(ピンピン)」という擬態語。トク([[떡]])は餅。そば粉の生地をフライパンで薄焼きにし、さっとゆがいて塩、すりゴマなどで味付けをした千切り大根をくるくると巻いて作る。済州道においては祭祀膳に捧げたり、慶弔時にも作る重要な伝統料理のひとつである。現在も道内の在来市場にはピントクを焼いて販売する露店がある。 | ||
;アイスクリーム(아이스크림) | ;アイスクリーム(아이스크림) | ||
− | : | + | :観光地を中心に特産品を使ったアイスクリーム([[아이스크림]])が人気を集める。ブランドミカンの天恵香([[천혜향]])や、デコポンのほか、離島の牛島(ウド、우도)では島の名産であるピーナッツ([[땅콩]])のアイスクリームを味わえる。 |
=== 済州道のB級グルメ === | === 済州道のB級グルメ === | ||
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地域ごとに発達した独特のB級グルメがあり、観光客からの人気も高い。 | 地域ごとに発達した独特のB級グルメがあり、観光客からの人気も高い。 | ||
;モダッチギ(屋台料理盛り合わせ/모닥치기) | ;モダッチギ(屋台料理盛り合わせ/모닥치기) | ||
− | :モダッチギ([[모닥치기]])は、屋台料理の盛り合わせ。済州道の方言で、「みんなで力を合わせる」(모두 합치기)との意味がある。大皿に[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]、[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)]]、[[マンドゥ(餃子/만두)]] | + | :モダッチギ([[모닥치기]])は、屋台料理の盛り合わせ。済州道の方言で、「みんなで力を合わせる」(모두 합치기)との意味がある。大皿に[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]、[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)]]、[[マンドゥ(餃子/만두)]]、ゆで卵、魚肉練り製品などを盛り付け、上から[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)]]をかけ回して作る。[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の西帰浦毎日オルレ市場(ソグィポ メイル オルレシジャン、서귀포 매일 올레시장)内にある「セロナ粉食(새로나분식)」が元祖として知られ、店では「もともとは客からの[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)|キムチジョン]]に[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)|トッポッキ]]をかけて欲しいとのリクエストに応えた形で生まれ、それが段々とエスカレートして現在のような形に至った」と説明している(八田靖史の取材記録より、2011年4月1日)。それが他店にも広まって現在は[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の名物として定着している。 |
;チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면) | ;チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면) | ||
− | :チャジャンミョンは、韓国式ジャージャー麺(「[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)]]」の項目も参照)。南部の離島である馬羅島(マラド、마라도)の名物として知られる。馬羅島は韓国最南端の有人島であり、人口が124名(2017年12月現在)と少ないのに対し<ref>[http://www.jeju.go.kr/tool/synap/convert.jsp?seq=1086427&no=2 2017년 주민등록인구통계] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref> | + | :チャジャンミョンは、韓国式ジャージャー麺(「[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)]]」の項目も参照)。南部の離島である馬羅島(マラド、마라도)の名物として知られる。馬羅島は韓国最南端の有人島であり、人口が124名(2017年12月現在)と少ないのに対し<ref>[http://www.jeju.go.kr/tool/synap/convert.jsp?seq=1086427&no=2 2017년 주민등록인구통계] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>、[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)|チャジャンミョン]]を提供する店が7~8軒ある。これは馬羅島が韓国最南端を売りとした観光の島であり、定住する人口に比して、観光客の需要が大きいことを意味する。1997年に島でもっとも早く創業した「元祖馬羅島チャジャンミョンチプ(원조마라도짜장면집)」によれば、もともとは釣り客へのサービスとして提供を始めたことが、話題を呼んでいつしか島の名物となった」とのこと(八田靖史の取材記録より、2011年4月3日)。現在は店ごとに味噌に海鮮ダシを用いたり、麺にヒジキを練り込むなど、島の素材を使った[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)|チャジャンミョン]]を提供している。また、これらの店では海産物をふんだんに使った[[チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)]]を一緒に提供するところも多い。 |
== 代表的な特産品 == | == 代表的な特産品 == | ||
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=== 柑橘類 === | === 柑橘類 === | ||
[[ファイル:18070820.JPG|thumb|300px|天恵香]] | [[ファイル:18070820.JPG|thumb|300px|天恵香]] | ||
− | 済州道はミカン([[귤]])、ハルラボン(不知火、デコポン、[[한라봉]])といった柑橘類の名産地である。主に南部の[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]で栽培されており、道内の市場やスーパーマーケットなどで広く販売される。柑橘類を用いた菓子や飲料も多く、これも済州道の名物として知られる。 | + | 済州道はミカン([[귤]]、[[감귤]])、ハルラボン(不知火、デコポン、[[한라봉]])といった柑橘類の名産地である。主に南部の[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]で栽培されており、道内の市場やスーパーマーケットなどで広く販売される。柑橘類を用いた菓子や飲料も多く、これも済州道の名物として知られる。 |
*歴史 | *歴史 | ||
− | :柑橘類は古くから済州道の名産であった。もっとも古い記録は『高麗史』にある1052年の記録であり、「壬申の年(1052年)、三司(高麗時代の財政担当官庁)からの奏上があり『耽羅国から毎年捧げる柑橘を100包子に改定し、これを恒久の制度としていただきたい』とのことでこれを受け入れた」(原文1)との内容になっている<ref>[http://db.history.go.kr/KOREA/item/level.do?itemId=kr&types=o#detail/kr_007_0080_0030_0060 高麗史世家巻第七 文宗6年3月 탐라국에서 바치는 귤의 양을 정해주다] 、韓国史データベース、2018年6月27日閲覧</ref>。少なくともこの時期には、済州道において柑橘が特産品として知られ、中央に送られるほどの名産として定着していたことが推測できる。また、1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』を見ると、この時期にはさらに進上品としての物量が増えており、またその種類も多様化している。韓福眞著『朝鮮時代宮中の進上食品』によれば、「済州の柑橘類は10月と11月に船で20回に渡って漢陽(現在のソウル)まで運送された。柑橘の種類は柚子、柑子、青橘、洞庭橘、金橘、乳柑、唐柚子(ブンタン)など多様化しているが、現在はなくなった種類も多い」(カッコ内は訳注)とのことである<ref>한복진, 2005, 『조선시대 궁중의 진상식품』, 서울대학교출판부, P104</ref>。なお、今日の日本や韓国で一般的にミカン([[귤]])と呼ばれているのはウンシュウミカン([[온주밀감]])であり、済州道においては1911年にフランス人神父のEsmile J. Taque氏が日本から送られたものを植えたのが始まりとされている<ref>[http://citrus.mice-nice.com/site_m/citrus/kor/contents/index.php?mid=020102 감귤의역사] 、済州国際柑橘博覧会ウェブサイト、2018年6月27日閲覧</ref>。 | + | :柑橘類は古くから済州道の名産であった。もっとも古い記録は『高麗史』にある1052年の記録であり、「壬申の年(1052年)、三司(高麗時代の財政担当官庁)からの奏上があり『耽羅国から毎年捧げる柑橘を100包子に改定し、これを恒久の制度としていただきたい』とのことでこれを受け入れた」(原文1)との内容になっている<ref>[http://db.history.go.kr/KOREA/item/level.do?itemId=kr&types=o#detail/kr_007_0080_0030_0060 高麗史世家巻第七 文宗6年3月 탐라국에서 바치는 귤의 양을 정해주다] 、韓国史データベース、2018年6月27日閲覧</ref>。少なくともこの時期には、済州道において柑橘が特産品として知られ、中央に送られるほどの名産として定着していたことが推測できる。また、1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』を見ると、この時期にはさらに進上品としての物量が増えており、またその種類も多様化している。韓福眞著『朝鮮時代宮中の進上食品』によれば、「済州の柑橘類は10月と11月に船で20回に渡って漢陽(現在のソウル)まで運送された。柑橘の種類は柚子、柑子、青橘、洞庭橘、金橘、乳柑、唐柚子(ブンタン)など多様化しているが、現在はなくなった種類も多い」(カッコ内は訳注)とのことである<ref>한복진, 2005, 『조선시대 궁중의 진상식품』, 서울대학교출판부, P104</ref>。なお、今日の日本や韓国で一般的にミカン([[귤]]、[[감귤]])と呼ばれているのはウンシュウミカン([[온주밀감]])であり、済州道においては1911年にフランス人神父のEsmile J. Taque氏が日本から送られたものを植えたのが始まりとされている<ref>[http://citrus.mice-nice.com/site_m/citrus/kor/contents/index.php?mid=020102 감귤의역사] 、済州国際柑橘博覧会ウェブサイト、2018年6月27日閲覧</ref>。 |
:【原文1】 | :【原文1】 | ||
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*品種 | *品種 | ||
− | : | + | :現在の済州道で人気を集めているブランド品種は、ミカンとオレンジを交配したタンゴール(tangor)と呼ばれる交雑種がほとんどである。いずれも日本で品種改良されたものが済州道へと渡り、新しい韓国名で販売されている(下記参照)。中でもハルラボン(漢拏峰、不知火・デコポンと同品種、[[한라봉]])、チョネヒャン(天恵香、せとかと同品種、[[천혜향]])はブランド価値が高く、これらを利用したジュース、アイスクリームなども人気を集めている。ハルラボンは「済州ハルラボン(제주한라봉)」として、農林畜産食品部が地域の名産品を認証する地理的表示農産物の第100号に登録されている<ref>[http://kpgi.co.kr/page/?mo_id=specialty&id=181&wr_id=192 제주한라봉] 、韓国地理的表示特産品連合会ウェブサイト、2023年8月31日閲覧</ref>。 |
:・ハルラボン(漢拏峰、[[한라봉]]) = 不知火(デコポン) | :・ハルラボン(漢拏峰、[[한라봉]]) = 不知火(デコポン) | ||
:・チョネヒャン(天恵香、[[천혜향]]) = せとか | :・チョネヒャン(天恵香、[[천혜향]]) = せとか | ||
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[[ファイル:23062605.JPG|300px|thumb|済州道産のソバ粉を使用したトゥルギルムマッククス(エゴマ油そば)]] | [[ファイル:23062605.JPG|300px|thumb|済州道産のソバ粉を使用したトゥルギルムマッククス(エゴマ油そば)]] | ||
;ソバ | ;ソバ | ||
− | :ソバ([[메밀]] | + | :ソバ([[메밀]])の主産地であり、2022年の生産量は1,264トンで全国の63.8%を占める<ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1ET0024&conn_path=I2 통계청,「농작물생산조사」, 2022, 잡곡생산량] 、KOSIS、2023年11月8日閲覧</ref>。稲作に不向きな済州道において、粟(アワ)などの雑穀とともに広く利用されてきた。そば粉の生地を薄焼きにして茹でた大根の千切りを巻いたピントク(そばクレープ、[[빙떡]])や、キジ肉を煮込んだスープにそばを入れたクォンメミルグクス(キジ肉そば、[[꿩메밀국수]])といった郷土料理があるほか、[[モムクッ(ホンダワラのスープ/몸국)]]、コサリユッケジャン(豚とワラビのスープ、[[고사리육개장]])といったスープ料理にとろみをつける意味でそば粉を加える。近年は地元産のそば粉を用いた[[マッククス(冷やしそば/막국수)]]が人気を集めている。 |
;ワラビ | ;ワラビ | ||
:ワラビ([[고사리]])は済州道を代表する山菜のひとつで、幅広く利用されている。下茹でをして炒めたものをナムルとするほか、豚肉と一緒に煮込んだコサリユッケジャン(豚とワラビのスープ、[[고사리육개장]])が郷土料理として有名である。4~5月が旬であり、毎年4月下旬には「漢拏山清浄ワラビ祭り(한라산청정고사리축제)」が開催される<ref>[http://www.jejugosari.net/ 한라산청정고사리축제] 、漢拏山清浄ワラビ祭りウェブサイト、2018年6月28日閲覧</ref>。 | :ワラビ([[고사리]])は済州道を代表する山菜のひとつで、幅広く利用されている。下茹でをして炒めたものをナムルとするほか、豚肉と一緒に煮込んだコサリユッケジャン(豚とワラビのスープ、[[고사리육개장]])が郷土料理として有名である。4~5月が旬であり、毎年4月下旬には「漢拏山清浄ワラビ祭り(한라산청정고사리축제)」が開催される<ref>[http://www.jejugosari.net/ 한라산청정고사리축제] 、漢拏山清浄ワラビ祭りウェブサイト、2018年6月28日閲覧</ref>。 | ||
;シイタケ | ;シイタケ | ||
− | : | + | :シイタケ([[표고버섯]])は、古くから済州道の名産であり、朝鮮時代には宮中への進上品としても用いられた。『世宗実録』に書かれた1421年1月13日の記録には、済州道からの進上品としてミカンやアワビなどとともに、シイタケを意味する「標蒿(표고)」という文字が見える<ref>[http://sillok.history.go.kr/popup/viewer.do?id=kda_10301013_004&type=view&reSearchWords=&reSearchWords_ime= 예조에서 각도 진상 물품의 허실에 대해 아뢰다] 、朝鮮王朝実録、2018年7月8日閲覧</ref>。現在の済州道においても漢拏山地域などで栽培が盛んにおこなわれている。 |
== 代表的な酒類・飲料 == | == 代表的な酒類・飲料 == | ||
[[ファイル:18070821.JPG|thumb|300px|スーパーに並ぶ済州マッコリ(下段)]] | [[ファイル:18070821.JPG|thumb|300px|スーパーに並ぶ済州マッコリ(下段)]] | ||
− | + | 済州道の主要島である済州島は火山島であり、地下から汲み上げた火山岩盤水が名産になっている。これを利用して、ミネラルウォーター、マッコリ、焼酎、地ビールなどが生産されており、いずれも済州道を代表する酒類、飲料として人気が高い。また、済州道は稲作に不向きであることから雑穀の利用が発達し、もち粟(アワ)を利用した伝統酒も造られている。 | |
=== マッコリ === | === マッコリ === | ||
− | 済州道を代表するマッコリとしては、「株式会社済州マッコリ(주식회사 | + | 済州道を代表するマッコリとしては、「株式会社済州マッコリ(주식회사 제주막걸리)」の「済州マッコリ(제주막걸리)」がもっとも広く流通している。そのほか済州道の特産品を用いた、ミカンマッコリ(감귤막걸리)、牛島ピーナッツマッコリ(우도땅콩막걸리)、粟がらマッコリ(조껍데기막걸리)などのフレーバーマッコリが多彩である。 |
;済州マッコリ | ;済州マッコリ | ||
236行目: | 236行目: | ||
;フレーバーマッコリ | ;フレーバーマッコリ | ||
− | : | + | :済州道の特産品を活かした、ミカンマッコリ(귤막걸리)、デコポンマッコリ(한라봉막걸리)、牛島ピーナッツマッコリ(우도땅콩막걸리)、粟がらマッコリ(조껍데기막걸리)などが道内に流通する。ただし、醸造元は道外であることも少なくない。 |
;シュィンダリ | ;シュィンダリ | ||
242行目: | 242行目: | ||
=== 伝統酒 === | === 伝統酒 === | ||
− | + | 済州道の伝統酒にはもち粟(アワ)を用いた醸造酒のオメギスル([[오메기술]])と、それを蒸留したコソリスル([[고소리술]])がある。 | |
;オメギスル | ;オメギスル | ||
:オメギスル([[오메기술]])は、済州道で作られる伝統的な粟酒。清酒である。もち粟の粉を熱湯で練り、これを穴の開いた円形にまとめてオメギトク([[오메기떡]])と呼ばれる粟餅を作る。このオメギトクを蒸して水、麦麹と混ぜ、発酵させて造る。かつては家庭で造ったが、現在は酒造会社によって造られたものが市販されている。 | :オメギスル([[오메기술]])は、済州道で作られる伝統的な粟酒。清酒である。もち粟の粉を熱湯で練り、これを穴の開いた円形にまとめてオメギトク([[오메기떡]])と呼ばれる粟餅を作る。このオメギトクを蒸して水、麦麹と混ぜ、発酵させて造る。かつては家庭で造ったが、現在は酒造会社によって造られたものが市販されている。 | ||
;コソリスル | ;コソリスル | ||
− | :上記のオメギスルを蒸留したものを、コソリスル([[고소리술]] | + | :上記のオメギスルを蒸留したものを、コソリスル([[고소리술]])と呼ぶ。コソリ([[고소리]])とは済州道の方言で、伝統的な蒸留器を意味する。 |
*城邑民俗村での酒造り | *城邑民俗村での酒造り | ||
:[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の城邑民俗村(ソンウプミンソンマウル、성읍민속마을)では、伝統的な製法でオメギスル、コソリスルを造っている。城邑民俗村のオメギスルは済州道の無形文化財第3号に<ref>[https://www.jeju.go.kr/culture/culturalAssets/culturalAssets.htm?category=21&act=view&seq=27707 무형문화재 성읍민속마을 오메기술(무형문화재 제3호)] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>、コソリサルは無形文化財第11号に指定される<ref>[https://www.jeju.go.kr/culture/culturalAssets/culturalAssets.htm?category=21&act=view&seq=27679 제주의문화재 무형문화재 고소리술(무형문화재 제11호)] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>。技能保有者はどちらも城邑民俗村に在住の金乙貞(キム・ウルジョン、김을정)氏である。 | :[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の城邑民俗村(ソンウプミンソンマウル、성읍민속마을)では、伝統的な製法でオメギスル、コソリスルを造っている。城邑民俗村のオメギスルは済州道の無形文化財第3号に<ref>[https://www.jeju.go.kr/culture/culturalAssets/culturalAssets.htm?category=21&act=view&seq=27707 무형문화재 성읍민속마을 오메기술(무형문화재 제3호)] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>、コソリサルは無形文化財第11号に指定される<ref>[https://www.jeju.go.kr/culture/culturalAssets/culturalAssets.htm?category=21&act=view&seq=27679 제주의문화재 무형문화재 고소리술(무형문화재 제11호)] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>。技能保有者はどちらも城邑民俗村に在住の金乙貞(キム・ウルジョン、김을정)氏である。 | ||
367行目: | 367行目: | ||
:電話:064-739-3120 | :電話:064-739-3120 | ||
:料理:トルソッパプ、黒豚焼肉、郷土料理コース | :料理:トルソッパプ、黒豚焼肉、郷土料理コース | ||
+ | |||
+ | *o'sullocティーミュージアム(오설록티뮤지엄) | ||
+ | :住所:済州道西帰浦市安徳面神話歴史路15(西光里1235-1) | ||
+ | :住所:제주도 서귀포시 안덕면 신화역사로 15(서광리 1235-1) | ||
+ | :電話:064-794-5312 | ||
+ | :料理:ノクチャ(緑茶)、緑茶ケーキ | ||
*オルレグクス(올레국수) | *オルレグクス(올레국수) |