坡州市の料理

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この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。
北側から見た板門店。正面の建物は韓国側の連絡事務所「自由の家(자유의 집)」

坡州市(パジュシ、파주시)は京畿道の北西部に位置する地域。本ページでは坡州市の料理、特産品について解説する。

地域概要

京義線の都羅山(トラサン、도라산)駅。韓国側から見ると軍事分界線のひとつ手前の駅になる。ひとつ先の駅は軍事分界線の北に位置する板門(パンムン、판문)駅

坡州市は京畿道の北西部に位置する地域。市の北部は京畿道漣川郡、東部は京畿道楊州市、南部は京畿道高陽市、南西部は京畿道金浦市と接する。また、北西部は軍事分界線を挟んで朝鮮民主主義人民共和国と面する。人口は49万5315人(2022年12月)[1]

食文化の背景

市北西部の板門店(パンムンジョム、판문점)は、1953年7月27日に朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた場所であり、軍事分界線を挟んで南北が対峙する共同警備区域となっている。南北の分断を象徴する最前線の地域であり、臨津江(イムジンガン、임진강)を越えた地域は民間人統制区域に指定され、住民や軍関係者以外は所定の手続きを踏まなければ立ち入りが禁止されている。その反面、民間人統制区域内は人の往来が少ないことから、清浄な環境が保たれた地域として農産物への評価が高く、名産品であるチャンダンコン(長湍産の大豆、장단콩)をはじめ米、果物、高麗人参などを自慢としている。臨津江でとれるウナギ(뱀장어)、メフグ(황복)、チュウゴクモクズガニ(참게)も有名であるが、近年は漁獲量が減っている。代表的な郷土料理には、チャンダンコンを用いたトゥブポッサム(豆腐と茹で豚の葉野菜包み/두부보쌈)や、トゥブジョンゴル(豆腐の鍋/두부전골)チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)、ファンボクフェ(メフグの刺身、황복회)、チャムゲタン(チュウゴクモクズガニの鍋、참게탕)などがある。

代表的な料理

チャンオグイ

チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)

チャンオグイ(장어구이)は、ウナギ焼き(「チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)」の項目も参照)。坡州市内を流れる臨津江(イムジンガン、임진강)は、ウナギが名産であり、川沿いに専門店が集まっている。ただし、近年は天然物が激減しており、現在はほとんどが養殖されたウナギを用いて作る。専門店では、メギタン(ナマズ鍋/메기탕)、チャムゲタン(チュウゴクモクズガニの鍋、참게탕)といった料理も扱う。なお、現在の臨津江は軍事上の理由から民間人の立ち入りや写真撮影を制限している場所がある。韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2010年11月に初めて臨津江沿いの専門店でチャンオグイを食べたが、店の裏手でウナギを焼いているところを撮影しようとした際、カメラを向けた先が軍事地域であったためスタッフに慌てて止められた経験がある。

ファンボクフェ(メフグの刺身/황복회)

ファンボクフェ(황복회)は、メフグの刺身。ファンボク(황복)はメフグ。フェは()は刺身を意味する。メフグは4~5月頃になると産卵期を迎え、海から臨津江へと遡上してくる。この時期を旬として、刺身や鍋料理にして味わう。近年は漁獲量が減少して希少になっている。

マヌルパン(ガーリックパン/마늘빵)

バゲットタイプのマヌルパン
マヌルパン(마늘빵)は、ガーリックパン。2軒の有名ベーカリーがそれぞれ異なるマヌルパンを自慢としている。炭県面城洞里(タニョンミョン ソンドンニ、탄현면 성동리)に本店を構える「リュ・ジェウンベーカリーハウス(류재은 베이커리하우스)」はバゲットタイプのマヌルパンを、炭県面法興里(タニョンミョン ポプンニ、탄현면 법흥리)に本店を構える「PROVENCE BAKERY(프로방스 베이커리)」はリングタイプのマヌルパンを販売する。なお、日本では丸型のパンに6片の切れ込みを入れた「ユッチョクマヌルパン(6片種ニンニクのガーリックパン、육쪽마늘빵)」がマヌルパンとして有名だが、それは江原道江陵市のベーカリー「Pain Famille(팡파미유)」を元祖とする商品である。

プデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)

プデチゲ(부대찌개)は、ソーセージ鍋(「プデチゲ(ソーセージ鍋/부대찌개)」の項目も参照)。市内の文山邑(ムンサヌプ、문산읍)地区に専門店が多く、近隣地域である京畿道議政府市のスタイルに近いとされる。具に春菊(쑥갓)を入れることをひとつの特徴とする意見がある。「サムゴリ食堂(삼거리식당)」「チョンミ食堂(정미식당)」といった有名店がある。

その他の料理

  • メギメウンタン(ナマズの辛い鍋/매기매운탕)
  • ポリパプ(麦飯定食/보리밥)広灘面霊場里
  • チャムゲジャン(チュウゴクモクズガニの薬味醤油漬け/참게장)

代表的な特産品

民間人統制区域内の統一村(トンイルチョン、통일촌)で作られたDMZ米

代表的な特産品に、長湍豆(チャンダンコン、장단콩)、臨津江米(イムジンガンサル、임진강쌀)、坡州開城人参(パジュケソンインサム、파주개성인삼)があり、この3種を指して「長湍三白(チャンダンサムベク、장단삼백)」と総称する。

長湍豆(장단콩)

長湍豆(チャンダンコン、장단콩)は、長湍(チャンダン、장단)産の大豆。地名を冠して坡州長湍豆(パジュチャンダンコン、파주장단콩)とも呼ばれる。長湍はかつて長湍郡(チャンダングン、장단군)として独立した地域であったが、朝鮮戦争によって地域が南北に分断されてしまい、現在は周辺地域に編入されている。長湍郡は古くより良質の大豆を産する地域として知られ、1894年刊行の『国家経済会報告 37』には「京畿道長湍府下の産を再良質とし円形金色を帯び普通物に比し加倍の大粒にして通称長湍大豆と云ふもの是れなり」[2]とあり、1901年刊行の『朝鮮開化史』には「臨津江沿岸一帯大豆ノ産地ニシテ仁川ヲ経テ海外ニ輸出スルモノ莫大ノ数ニ上リ称シテ長湍大豆トス」と紹介されている[3]。1913年には当時の代表品種である「長湍白目(チャンダンベンモク、장단백목)」が、韓国初の大豆奨励品種に指定された。現在は長湍豆を用いた味噌(된장)、豆腐(두부)作りも盛んであり、市内の専門店では、テンジャンチゲ(味噌鍋/된장찌개)チョングッチャン(韓国式の納豆汁/청국장)ピジチゲ(おからの鍋/비지찌개)トゥブポッサム(豆腐と茹で豚の葉野菜包み/두부보쌈)トゥブジョンゴル(豆腐の鍋/두부전골)などの料理を味わえる。

臨津江米(임진강쌀)

臨津江米(イムジンガンサル、임진강쌀)は、坡州市内を流れる臨津江(イムジンガン、임진강)付近で栽培される米()。地名を冠して坡州臨津江米(パジュイムジンガンサル、파주임진강쌀)とも呼ばれる。

坡州開城人参(파주개성인삼)

坡州開城人参(パジュケソンインサム、파주개성인삼) は、坡州市で生産される高麗人参(인삼)。高麗時代より名産地として名高い、開城(ケソン、개성)産の流れを汲む高麗人参として、そのブランド価値をアピールしている。毎年10月には、坡州開城人参祭り(파주개성인삼축제)が開催され、そのテーマは「坡州人参は開城人参です。(파주인삼은 개성인삼입니다.)」となっている[4]

代表的な酒類・飲料

板門店やDMZ(非武装地帯)を訪れるツアーに参加した場合、行程中に訪れる売店では朝鮮民主主義人民共和国で作られた酒類を販売していることがある。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

  • リュ・ジェウンベーカリーハウス(류재은 베이커리하우스)
住所:京畿道坡州市炭県面セオリ路73(城洞里82-15)
住所:경기도 파주시 탄현면 새오리로 73(성동리 82-15)
電話:031-944-8107
料理:ベーカリー
  • 伴鴎亭ナルトチプ(반구정 나루터집)
住所:京畿道坡州市汶山邑伴鴎亭路85番キル13(沙鶩里208-3)
住所:경기도 파주시 문산읍 반구정로85번길 13(사목리 208-3)
電話:031-952-3472
料理:チャンオグイ(ウナギ焼き/장어구이)
  • 統一東三豆腐村(통일동산두부마을)
住所:京畿道坡州市炭県面必勝路480(城洞里664-2)
住所:경기도 파주시 탄현면 필승로 480(성동리 664-2)
電話:031-945-2114
料理:長湍豆の豆腐料理
  • PROVENCE BAKERY(프로방스 베이커리)
住所:京畿道坡州市炭県面ヘイリマウルキル59-29(法興里1652-174)
住所:경기도 파주시 탄현면 헤이리마을길 59-29(법흥리 1652-174)
電話:070-8778-3100
料理:ベーカリー

エピソード

韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2009年11月に初めて坡州市を訪れた。板門店(パンムンジョム、판문점)の共同警備区域や烏頭山(オドゥサン、오두산)統一展望台を訪れるツアーに参加するのが目的であり、南北分断の現場を見て、物理的な距離の近さに比して、現実の距離が遠いことを改めて実感した。

脚注

  1. 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2023年1月31日閲覧
  2. 1894, 『国家経済会報告 37』, 国家経済会, P57 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号30)、2023年6月15日閲覧
  3. 恒屋盛服, 1901, 『朝鮮開化史』, 博文館, P99 、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号65)、2023年6月15日閲覧
  4. 인삼축제 축제소개 、坡州市ウェブサイト、2023年6月15日閲覧

外部リンク

関連サイト
制作者関連サイト

関連項目