唐津市の料理

提供: 韓食ペディア
ナビゲーションに移動 検索に移動
この記事はウィキペディアではありません。「韓食ペディア」はコリアン・フード・コラムニストの八田靖史が作る、韓国料理をより深く味わうためのWEB百科事典です。以下の内容は八田靖史の独自研究を含んでいます。掲載されている情報によって被った損害、損失に対して一切の責任を負いません。また、内容は随時修正されます。
沔川面に2本並ぶ樹齢1100年のイチョウの木

唐津市(タンジンシ、당진시)は忠清南道の北部に位置する地域。本ページでは唐津市の料理、特産品について解説する。

地域概要

高麗時代の伝承が残る湧き水のアンセム(안샘)

唐津市は忠清南道の北部に位置する地域。市の北部は黄海と牙山湾に面し(韓国では珍しく北部のみが海に面している)、東部は忠清南道牙山市、南部は忠清南道礼山郡、南西部から西部は忠清南道瑞山市と接する。人口は16万8253人(2022年12月)[1]。代表的な観光地としては、一帯に遊園地やキャンプ場などが集まった人造湖の挿橋湖(サプキョホ、삽교호)や、日の出、日没、月の出を見られるウェモク村(ウェモンマウル、왜목마을)、1845年に韓国で初めてキリスト教の司祭となった金大建(キム・デゴン、김대건)神父の生誕地であるソルメ聖地(ソルメソンジ、솔뫼성지)などがある。また、市南部の沔川面(ミョンチョンミョン、면천면)には、伝統薬酒「沔川杜鵑酒(ミョンチョントゥギョンジュ、면천두견주)」の伝承にまつわる、アンセム(湧き水、안샘)や、樹齢1100年のイチョウの木が残る。ソウル市から唐津市までのアクセスは、ソウル高速バスターミナルから唐津バスターミナルまで高速バスで約1時間40分の距離である。

  • 唐津市の地名由来
百済時代に「唐と往来をする港」という意味で、唐津浦(タンジンポ、당진포)と呼ばれる港があった[2]。統一新羅時代の757年に、地域の名前が旧称の伐首只(ポルスジ、벌수지)県から、唐津県へと改称された[3]
  • 市への昇格
2012年1月1日に、唐津郡から唐津市へと昇格した。

食文化の背景

隣接する礼山郡と、唐津市の一帯は広大な平野であり、両者の頭文字を取って礼唐平野(イェダンピョンヤ、예당평야)と呼ばれる。韓国を代表する穀倉地帯のひとつであり、稲作を中心とした農業が盛んである。2022年の米の生産量は14万7050トンと全国の市郡でもっとも多く、2016年以降は7年連続で1位の座を守り続けている[4]。北部を中心に港町として海産物が豊富であり、ワタリガニ(꽃게)、イイダコ(주꾸미)、シラス(실치、シラウオなどの稚魚)、アサリ(바지락)などが名産として知られる。市南部の沔川面(ミョンチョンミョン、면천면)地区は、ツツジの花の名所であり、これを原料に加えた薬酒の「沔川杜鵑酒(ミョンチョントゥギョンジュ、면천두견주)」が銘酒として知られる。

代表的な料理

シルチフェ(生シラスの刺身和え、手前)、シルチジョン(生シラスのチヂミ、左)、シルチクッ(生シラスとホウレンソウの味噌鍋、奥)

シルチフェ(生シラスの刺身和え/실치회)

シルチフェ(실치회)は、生シラスの刺身和え。シルチ(シラス、실치)は「糸のような魚」という意味で、正確にはシラウオ(뱅어)やギンポ(베도라치)などの稚魚を意味する。生シラスをセリやキャベツなどの生野菜とともに、甘辛酸っぱいタレで和えて食べる。市北西部の長古項(チャンゴハン、장고항)港が名産地で、地元の漁業関係者によれば「港からすぐのところに漁場があるため、鮮度を維持したまま水揚げできる」のが自慢であるという(八田靖史の取材記録より、2017年4月18日)。港近くの水産物流通センターや、近隣の飲食店ではシルチフェのほか、シルチクッ(生シラスとホウレンソウの味噌鍋、실치국)や、シルチジョン(生シラスのチヂミ、실치전)、シルチバプ(生シラスのビビンバ、실치밥)などの料理を味わえる。最盛期は4月から5月初め頃で、この時期には「長古項シラス祭り(장고항 실치축제)」が開催される。
  • 唐津のシルチ
韓食ペディアの執筆者である八田靖史が、地元の漁業関係者に聞いたところ、唐津市でとれるシルチはシラウオ(뱅어)の稚魚ではないかとのことであった(八田靖史の取材記録より、2017年4月18日)。資料によっては、ギンポ(베도라치)や、ギンポの一種である「흰베드라치(和名未詳)」の稚魚としている場合もある。シルチを干したものは、ペンオポ(たたみ干し、뱅어포)と呼ばれる。
  • ペンオポ(뱅어포)
ペンオポ(たたみ干し)作りの様子
ペンオポ(뱅어포)は、たたみ干し。唐津市ではシルチを板状に干したものを指す(たたみいわしと同様の製法)。そのまま炙って食べるほか、コチュジャンや水飴を混ぜたタレを表面に塗ってから焼くこともある。かつてはペンオポを「ニブシ(니부시)」とも呼び、日本語の「煮干し」がなまったものと推測される。

コッケジャン(ワタリガニの醤油漬け/꽃게장)

コッケジャン(꽃게장)は、ワタリガニの醤油漬け。カンジャンケジャン(간장게장)とも呼ぶ(「カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け/간장게장)」の項目も参照)。唐津市ではワタリガニ(꽃게)が名産品であり、専門店ではコッケジャンのほか、コッケタン(ワタリガニ鍋/꽃게탕)コッケチム(ワタリガニ蒸し/꽃게찜)などの料理も提供する。

ケンムクテンジャンチゲ(エゴマ入り味噌チゲ/깻묵된장찌개)

ケンムクテンジャンチゲ
ケンムクテンジャンチゲ(깻묵된장찌개)は、エゴマ入り味噌チゲ。ケンムク(깻묵)は、ゴマ油(참기름)やエゴマ油(들기름)などのしぼりかすを意味し、テンジャンチゲは(된장찌개)味噌仕立ての鍋を指す(「テンジャンチゲ(味噌鍋/된장찌개)」の項目も参照)。もともとはエゴマ油を取った後のしぼりかすを利用してテンジャンチゲを作ったが、現在はエゴマ粉を使用して作る。唐津市の郷土料理であり、家庭料理として作られるほか市内の定食店などで提供される。ケンムクチゲ(깻묵찌개)、ケンムクテンジャン(깻묵된장)と呼ばれることもある。

コモクチ(大根の葉の塩漬け/꺼먹지)

コモクチジョンシク
コモクチ(꺼먹지)は、大根の葉の塩漬け。コモクチとは「黒い漬け物」という意味で、大根の葉が熟成を経て黒くなることから名前がついたとされる。コモクチは炒めて副菜とするほか、ケンムクテンジャンチゲ(エゴマ入り味噌チゲ/깻묵된장찌개)に入れたり、ピビムパプ(ビビンバ/비빔밥)ポッサム(茹で豚の葉野菜包み/보쌈)の具として味わう。専門店ではこれらを組み合わせた、コモクチジョンシク(大根の葉の塩漬け定食、꺼먹지정식)を提供するところもある。
  • 唐津コモクチピビムパプ
唐津コモクチピビムパプ(당진꺼먹지비빔밥)は、唐津市の郷土料理であるコモクチを具として利用したピビムパプ(ビビンバ/비빔밥)。2014年8月に、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇訪問を記念して唐津市で開かれた「天主教アジア青年大会(천주교 아시아 청년대회)」で提供された。2015年6月には、唐津市農業技術センターの申請により、「唐津コモクチピビムパプ(당진꺼먹지비빔밥)」の名前で商標登録されている[5]

ウロンイサムパプ(タニシの包みごはん/우렁이쌈밥)

ウロンイサムパプ
ウロンイサムパプ(우렁이쌈밥)は、タニシの包みごはん。ウロンイ(우렁이)はタニシ、サムパプ(쌈밥)は葉野菜でごはんを包んで食べる料理を指す(「サムパプ(葉野菜の包みごはん/쌈밥)」の項目も参照)。ウロンサムパプ(우렁쌈밥)とも呼ぶ。茹でたタニシを、テンジャン(味噌、된장)、豆腐などと混ぜてウロンイサムジャン(タニシ味噌、우렁이쌈장)を作り、ごはんとともに葉野菜で包んで味わう。このウロンイサムジャンがメニューとして掲載され、そこに葉野菜やごはんがついてくるところも多い。専門店では、ウロンイテンジャンチゲ(タニシの味噌チゲ、우렁이된장찌개)、ウロンイチョムチム(タニシと野菜の和え物、우렁이초무침)といった料理も提供し、これらを組み合わせた定食も提供する。市東部の新平面道城里(シンピョンミョン トソンニ、신평면 도성리)地区のシンダン交差点(신당교차로)付近に専門店が集まっている。
  • 味噌の種類
豆腐を入れてつくるウロンイサムジャン(タニシ味噌、우렁이쌈장)は、ウロンサムジャン(우렁쌈장)、あるいは単にサムジャン(쌈장)とも呼ぶ。このほか、カンテンジャン(濃く煮詰めた味噌、강된장)にタニシを加えた辛口の「トクチャン(덕장)」や、チョングッチャン(納豆に似た香りの味噌、청국장)にタニシを加えた「タムブクチムジャン(담북찜장)」を提供する店もある。

チョゲグイ(貝焼き/조개구이)

チョゲグイ(조개구이)は、貝焼き(「チョゲグイ(貝焼き/조개구이)」の項目も参照)。ハマグリ(백합)、ホタテ(가리비)、タイラギ(키조개)などの貝を網焼きにして味わう。市東部の新平面雲井里(シンピョンミョン ウンジョンニ、신평면 운정리)地区にチョゲグイの専門店が集まっており、センソンフェ(刺身/생선회)や、チョゲチム(貝蒸し、조개찜)、ヘムルカルグクス(海鮮手打ちうどん、해물칼국수)などの料理も提供する。

代表的な特産品

ヘナル米

ヘナル米(ヘナルサル、해나루쌀)は、唐津市で生産される米のブランド。ヘナルのヘ(해)は「海」、ナル(나루)は「(船の)渡し場」を意味し、「海風を受けて育った米」を意味する。主要品種は「三光(삼광)」である。

アサリ

市北東部の港、漢津浦口(ハンジンポグ、한진포구)の一帯はアサリ(바지락)の名産地として知られる。毎年5月頃には、「漢津浦口アサリ干潟体験祭り(한진포구 바지락갯벌체험축제)」が開催される。

黄土ジャガイモ

黄土ジャガイモ(ファントガムジャ、황토감자)は、黄土質の土壌で栽培されるジャガイモ(감자)。市北東部の松岳邑(ソンアグプ、송악읍)一帯では、毎年6月頃に「唐津ヘナル黄土ジャガイモ祭り(당진 해나루 황토감자축제)」が開催される。

代表的な酒類・飲料

沔川杜鵑酒

沔川杜鵑酒(면천두견주)

沔川杜鵑酒(ミョンチョントゥギョンジュ、면천두견주)は、唐津市沔川面(ミョンチョンミョン、면천면)で造られるツツジの花を用いた伝統薬酒。杜鵑酒(두견주)はツツジ酒を意味し、韓国語でチンダルレ(진달래)と呼ばれるカラムラサキツツジの花を乾燥させ、もち米、麦麹に加えて原料とする。1986年11月1日に、国家無形文化財第86-2号に指定され、沔川面城下里(ソンハリ、성하리)に位置する「沔川杜鵑酒保存会(면천두견주보존회)」が管理団体として技術を継承している[6]。現在まで韓国で国家無形文化財に指定された酒は、沔川杜鵑酒のほか、京畿道金浦市のムンベ酒(문배주、第86-1号)、慶尚北道慶州市の校洞法酒(교동법주、第86-3号)の計3種のみである。
  • 伝承
沔川杜鵑酒を造る様子
高麗王朝の成立期である10世紀に活躍した将軍の卜智謙(ポク・チギョム、복지겸)は、故郷の沔川にて原因不明の病に倒れた。心配した娘のヨンランが、近隣の峨眉山(アミサン、아미산)で百日祈祷を捧げたところ、最終日に天から「峨眉山のツツジと湧き水で酒を造って飲ませ、イチョウの木を植えて祈るべし」とのお告げがあった。その通りにしてみると、たちまち卜智謙の病は治ったという。伝承の舞台となった峨眉山や、酒造りに用いたアンセム(湧き水、안샘)、このとき植えたとされる樹齢1100年のイチョウの木(면천은행나무)は、いずれも沔川面に史跡として残っている。

白蓮マッコリ(백련막걸리)

白蓮マッコリ
白蓮マッコリ(ペンニョンマッコルリ、백련막걸리)は、新平面金川里(シンピョンミョン クムチョンニ、신평면 금천리)に位置する「新平醸造場(シンピョンヤンジョジャン、신평양조장)」が生産するマッコリ(韓国式の濁酒/막걸리)。唐津市産のヘナル米(해나루쌀)を原料に、蓮の葉を加えて醸造する点を特徴とする。2代目のキム・ヨンセ(김용세)氏が考案したもので、寺で飲んだヨンニプチャ(蓮の葉茶、연잎차)からヒントを得て、マッコリ造りに活かすことを思いついた(八田靖史の取材記録より、2017年4月19日)。2009年には青瓦台の晩餐会場にて展示品目のひとつに選ばれた。また、新平醸造場では代表銘柄である白蓮マッコリのほか、清酒の「白蓮マルグンスル(백련 맑은술)」も生産しており、こちらは2014年にサムソングループの李健煕(イ・ゴンヒ、이건희)会長が新年会で乾杯酒として使用した。
  • 新平醸造場(신평양조장)
新平醸造場は、1933年に初代の金順植(キム・スンシク、김순식)氏が、前身である「和信醸造場(화신양조장)」として創業した[7]。現在は金順植氏の息子であるキム・ヨンセ(김용세)氏と、孫のキム・ドンギョ(김동교)氏が継承している。2013年6月に、伝統酒の蔵元を観光名所として結びつける「訪ね行く醸造場(찾아가는 양조장)」に、(忠清北道丹陽郡の「大崗醸造場(テガンヤンジョジャン、대강양조장)」)とともに韓国で初めて指定された[8]。2018年11月30日には、2代目のキム・ヨンセ氏が大韓民国食品名人第79号に指定された[9]
  • Chez Maak(셰막)
新平醸造所が運営するマッコリダイニング。2011年7月にソウル市の江南区駅三洞(カンナムグ ヨクサムドン、강남구 역삼동)にオープンした。

飲食店情報

以下は韓食ペディアの執筆者である八田靖史が実際に訪れた店を列挙している。

  • キルモク(길목)
住所:忠清南道唐津市牛江面徳平路616(松山里396-7)
住所:충청남도 당진시 우강면 덕평로 616(송산리 396-7)
電話:041-363-5505
料理:コモクチジョンシク(大根の葉の塩漬け定食)
  • 唐津第一コッケジャン(당진제일꽃게장)
住所:忠清南道唐津市白巌路246(彩雲洞250-4)
住所:충청남도 당진시 백암로 246(채운동 250-4)
電話:041-353-6379
料理:コッケジャン(ワタリガニの醤油漬け)
  • テアウロンイ専門食堂(대아우렁이전문식당)
住所:忠清南道唐津市新平面西海路7437(道城里499-2)
住所:충청남도 당진시 신평면 서해로 7437(도성리 499-2)
電話:041-362-4456
料理:ウロンイサムパプ(タニシの包みごはん)
  • 沔川杜鵑酒(면천두견주)
住所:忠清南道唐津市沔川面城下路250(城下里18-6)
住所:충청남도 당진시 면천면 성하로 250(성하리 18-6)
電話:041-355-5430
料理:沔川杜鵑酒
  • ミニョンイネ(민영이네)
住所:忠清南道唐津市石門面長古項路341(長古項里620-15)
住所:충청남도 당진시 석문면 장고항로 341(장고항리 620-15)
電話:041-353-7893
料理:シルチフェ(生シラスの刺身和え)
  • 新平醸造場(신평양조장)
住所:忠清南道唐津市新平面新平路813(金川里350-1)
住所:충청남도 당진시 신평면 신평로 813(금천리 350-1)
電話:041-362-6080
料理:マッコリ(韓国式の濁酒)
  • 二橋カムジャタン(이교감자탕)
住所:忠清南道唐津市唐津中央2路17-5(邑内洞626-9)
住所:충청남도 당진시 당진중앙2로 17-5(읍내동 626-9)
電話:041-354-3343
料理:ケンムクテンジャンチゲ(エゴマ入り味噌チゲ)

エピソード

韓食ペディアの執筆者である八田靖史は、2013年9月に初めて唐津市を訪れた。マッコリをテーマとしたグルメツアーであり、その年「訪ね行く醸造場(찾아가는 양조장)」に指定されたばかりの「新平醸造場(신평양조장)」へ、まさしく訪ね行くことができたのはたいへんタイムリーであった。

脚注

  1. 주민등록 인구 및 세대현황 、行政安全部ウェブサイト、2023年1月10日閲覧
  2. 당진포리 、デジタル唐津文化大典、2023年5月8日閲覧
  3. 역사와유래 、唐津市ウェブサイト、2023年5月8日閲覧
  4. 시군별 논벼 생산량(조곡) 、KOSIS(国家統計ポータル)、2023年5月15日閲覧
  5. 보도자료/당진시, 교황방문 기념‘당진꺼먹지비빔밥’상표등록 、唐津市ウェブサイト、2023年5月13日閲覧
  6. 국가무형문화재 면천두견주 (沔川杜鵑酒) 、文化財庁国家文化遺産ポータル、2023年5月14日閲覧
  7. 신평양조장 역사 、新平醸造場ウェブサイト、2023年5月14日閲覧
  8. 지역의 우수한 ’찾아가는 양조장‘ 5개소 선정 、農林畜産食品部ウェブサイト(2023年4月13日報道資料)、2023年5月14日閲覧
  9. 대한민국식품명인 지정 현황 (2022. 12.7. 기준) 、農林畜産食品部ウェブサイト、2023年5月14日閲覧

外部リンク

関連サイト
制作者関連サイト

関連項目