「済州道の料理」の版間の差分

 
(同じ利用者による、間の10版が非表示)
29行目: 29行目:
  
 
== 代表的な料理 ==
 
== 代表的な料理 ==
[[ファイル:18070804.JPG|thumb|300px|ヘムルトゥッペギ]]
+
[[ファイル:18070804.JPG|300px|thumb|ヘムルトゥッペギ]]
 
済州道の料理は、たいへん多彩かつ他地域と比べても独特である。本稿では魚介、肉、野菜など素材ごとに大別し、それぞれの代表的な調理法など特徴を紹介する。
 
済州道の料理は、たいへん多彩かつ他地域と比べても独特である。本稿では魚介、肉、野菜など素材ごとに大別し、それぞれの代表的な調理法など特徴を紹介する。
  
132行目: 132行目:
 
==== 馬肉料理 ====
 
==== 馬肉料理 ====
 
[[ファイル:18070814.jpg|thumb|300px|馬肉料理のコース]]
 
[[ファイル:18070814.jpg|thumb|300px|馬肉料理のコース]]
韓国では一般的に馬肉を食べる習慣がなく、済州道でのみ日常的な食材として親しまれている。その背景として、高麗時代の13世紀に元の支配を受けた際、済州道に牧場が設けられたことがあげられる。1276年に160頭の馬が元から持ち込まれたことがきっかけとなり、本格的な馬の飼育が始まった<ref name="horse">[http://www.heritage.go.kr/heri/cul/culSelectDetail.do?pageNo=5_2_1_0&ccbaCpno=1363903470000 천연기념물 제347호 제주의제주마 (濟州의濟州馬)] 、文化財庁国家文化遺産ポータル、2018年3月25日閲覧</ref>。済州道の馬は済州馬([[제주마]])、またはチョランマル([[조랑말]])と呼ばれ、1986年2月8日に国の天然記念物第347号に指定された<ref name="horse"></ref>。
+
:韓国では一般的に馬肉を食べる習慣がなく、済州道でのみ日常的な食材として親しまれている。その背景として、高麗時代の13世紀に元の支配を受けた際、済州道に牧場が設けられたことがあげられる。1276年に160頭の馬が元から持ち込まれたことがきっかけとなり、本格的な馬の飼育が始まった<ref name="horse">[http://www.heritage.go.kr/heri/cul/culSelectDetail.do?pageNo=5_2_1_0&ccbaCpno=1363903470000 천연기념물 제347호 제주의제주마 (濟州의濟州馬)] 、文化財庁国家文化遺産ポータル、2018年3月25日閲覧</ref>。歴史書の『高麗史節要(고려사절요)』には、1276年8月の項目に「元から塔剌赤(タムナルジョク、탑랄적)を送り、耽羅の達魯花赤(ダルガチ、地方行政官)とみなして馬160頭を運んで来て飼育するようにした」【原文1】<ref>[https://db.history.go.kr/id/kj_019r_0020_0030_0080_0070 高麗史節要巻19 忠烈王2年8月 원에서 탐라돌로화적을 두고 말을 목축하게 하다] 、韓国史データベース、2025年10月30日閲覧</ref>との記録がある。済州道の馬は済州馬([[제주마]])、またはチョランマル([[조랑말]])と呼ばれ、1986年2月8日に国の天然記念物第347号に指定された<ref name="horse"></ref>。
 +
 
 +
:【原文1】
 +
:「元遣塔剌赤爲耽羅達魯花赤, 以馬百六十匹來牧」
  
 
;マルコギヨリ(馬肉料理/말고기요리)
 
;マルコギヨリ(馬肉料理/말고기요리)
168行目: 171行目:
  
 
=== 餅・菓子・甘味 ===
 
=== 餅・菓子・甘味 ===
[[ファイル:18070817.JPG|thumb|300px|東門市場のピントク屋台]]
 
 
済州道の環境は稲作に不向きであり、粟(アワ)やソバ、小麦などを用いた餅が発達し、これらが祭祀料理としても用いられた。また、済州道は韓国内でも有数の観光地であることから、ご当地を象徴するお土産品が発達し、特産品であるミカン([[감귤]])やデコポン([[한라봉]])、サボテンの実([[선인장]])などを用いたチョコレート、クッキーなどの菓子類が多く作られている。近年はケーキやアイスクリーム、[[ピンス(かき氷/빙수)]]といったSNS映えするスイーツの充実も目覚ましい。
 
済州道の環境は稲作に不向きであり、粟(アワ)やソバ、小麦などを用いた餅が発達し、これらが祭祀料理としても用いられた。また、済州道は韓国内でも有数の観光地であることから、ご当地を象徴するお土産品が発達し、特産品であるミカン([[감귤]])やデコポン([[한라봉]])、サボテンの実([[선인장]])などを用いたチョコレート、クッキーなどの菓子類が多く作られている。近年はケーキやアイスクリーム、[[ピンス(かき氷/빙수)]]といったSNS映えするスイーツの充実も目覚ましい。
 
;オメギトク(粟餅/오메기떡)
 
;オメギトク(粟餅/오메기떡)
183行目: 185行目:
 
:モダッチギ([[모닥치기]])は、屋台料理の盛り合わせ。済州道の方言で、「みんなで力を合わせる」(모두 합치기)との意味がある。大皿に[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]、[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)]]、[[マンドゥ(餃子/만두)]]、ゆで卵、魚肉練り製品などを盛り付け、上から[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)]]をかけ回して作る。[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の西帰浦毎日オルレ市場(ソグィポ メイル オルレシジャン、서귀포 매일 올레시장)内にある「セロナ粉食(새로나분식)」が元祖として知られ、店では「もともとは客からの[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)|キムチジョン]]に[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)|トッポッキ]]をかけて欲しいとのリクエストに応えた形で生まれ、それが段々とエスカレートして現在のような形に至った」と説明している(八田靖史の取材記録より、2011年4月1日)。それが他店にも広まって現在は[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の名物として定着している。
 
:モダッチギ([[모닥치기]])は、屋台料理の盛り合わせ。済州道の方言で、「みんなで力を合わせる」(모두 합치기)との意味がある。大皿に[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]、[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)]]、[[マンドゥ(餃子/만두)]]、ゆで卵、魚肉練り製品などを盛り付け、上から[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)]]をかけ回して作る。[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の西帰浦毎日オルレ市場(ソグィポ メイル オルレシジャン、서귀포 매일 올레시장)内にある「セロナ粉食(새로나분식)」が元祖として知られ、店では「もともとは客からの[[キムチジョン(キムチ入りのチヂミ/김치전)|キムチジョン]]に[[トッポッキ(餅炒め/떡볶이)|トッポッキ]]をかけて欲しいとのリクエストに応えた形で生まれ、それが段々とエスカレートして現在のような形に至った」と説明している(八田靖史の取材記録より、2011年4月1日)。それが他店にも広まって現在は[[西帰浦市の料理|西帰浦市]]の名物として定着している。
 
;チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)
 
;チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)
:チャジャンミョンは、韓国式ジャージャー麺(「[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)]]」の項目も参照)。南部の離島である馬羅島(マラド、마라도)の名物として知られる。馬羅島は韓国最南端の有人島であり、人口が124名(2017年12月現在)と少ないのに対し<ref>[http://www.jeju.go.kr/tool/synap/convert.jsp?seq=1086427&no=2 2017년 주민등록인구통계] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>、[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)|チャジャンミョン]]を提供する店が7~8軒ある。これは馬羅島が韓国最南端を売りとした観光の島であり、定住する人口に比して、観光客の需要が大きいことを意味する。1997年に島でもっとも早く創業した「元祖馬羅島チャジャンミョンチプ(원조마라도짜장면집)」によれば、もともとは釣り客へのサービスとして提供を始めたことが、話題を呼んでいつしか島の名物となった」とのこと(八田靖史の取材記録より、2011年4月3日)。現在は店ごとに味噌に海鮮ダシを用いたり、麺にヒジキを練り込むなど、島の素材を使った[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)|チャジャンミョン]]を提供している。また、これらの店では海産物をふんだんに使った[[チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)]]を一緒に提供するところも多い。
+
:チャジャンミョンは、韓国式ジャージャー麺(「[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)]]」の項目も参照)。南部の離島である馬羅島(マラド、마라도)の名物として知られる。馬羅島は韓国最南端の有人島であり、人口が124名(2017年12月現在)と少ないのに対し<ref>[http://www.jeju.go.kr/tool/synap/convert.jsp?seq=1086427&no=2 2017년 주민등록인구통계] 、済州特別自治道ウェブサイト、2018年6月23日閲覧</ref>、[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)|チャジャンミョン]]を提供する店が7~8軒ある。これは馬羅島が韓国最南端を売りとした観光の島であり、定住する人口に比して、観光客の需要が大きいことを意味する。1997年に島でもっとも早く創業した「元祖馬羅島チャジャンミョンチプ(원조마라도짜장면집)」によれば、もともとは釣り客へのサービスとして提供を始めたことが、話題を呼んでいつしか島の名物となった」とのこと(八田靖史の取材記録より、2011年4月3日)。現在は店ごとに味噌に海鮮ダシを用いたり、麺にヒジキ([[톳]])を練り込むなど、島の素材を使った[[チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺/짜장면)|チャジャンミョン]]を提供している。また、これらの店では海産物をふんだんに使った[[チャンポン(激辛スープの海鮮麺/짬뽕)]]を一緒に提供するところも多い。
  
 
== 代表的な特産品 ==
 
== 代表的な特産品 ==
 
[[ファイル:18070819.jpg|thumb|300px|アワビをふんだんに加えた海鮮鍋]]
 
[[ファイル:18070819.jpg|thumb|300px|アワビをふんだんに加えた海鮮鍋]]
1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』は各地方から宮中へと送られた進上品の規定であり、これを見ると済州道ではアワビ、ミカン、シイタケなどが分担されている<ref name="awabi">한복진, 2005, 『조선시대 궁중의 진상식품』, 서울대학교출판부, P105</ref>。これらは現在においても済州道の特産品であり、その当時から地域を代表する食材であったことがわかる。
+
1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』は各地方から宮中へと送られた進上品の規定であり、これを見ると済州道ではアワビ、ミカン、シイタケなどが分担されている<ref name="awabi">한복진, 2005, 『조선시대 궁중의 진상식품』, 서울대학교출판부, P105</ref><ref name="awabi02">[https://jsg.aks.ac.kr/data/serviceFiles/pdf/K2-2863_001.pdf 【PDF】貢膳定例(P62~82〈66~86/157〉)] 、デジタル蔵書閣(韓国中央研究院)、2025年10月30日閲覧</ref>。これらは現在においても済州道の特産品であり、その当時から地域を代表する食材であったことがわかる。
  
 
=== アワビ ===
 
=== アワビ ===
アワビ([[전복]])は古くから済州道の名産であり、1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』によれば、宮中への進上品として2月から9月まで毎月大量の乾燥アワビを送っていた<ref name="awabi"></ref>。アワビはヘニョ([[해녀]])と呼ばれる海女たちが、サザエ、ウニなどとともにとったが、現在は数を減らしており済州道においても天然物は希少品となっている。韓国では2000年代前半よりアワビの養殖が始まったが、そのほとんどが[[全羅南道の料理|全羅南道]]で行われており、済州道内においても[[全羅南道の料理|全羅南道]]産の養殖物が広く流通している。2022年におけるアワビの生産量は2万2167トン(沿近海漁業:107トン、海面養殖業2万2078トン)であり、そのうち[[全羅南道の料理|全羅南道]]が99.1%の2万1964トン(沿近海漁業:17トン、海面養殖業2万1947トン)を占め、済州道における生産量はわずか18トン(沿近海漁業:1トン、海面養殖業17トン)に留まっている<ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=750&tblId=DT_75001_E001068&conn_path=I2 수산물 생산량 및 판매금액(전라남도완도군기본통계)] 、KOSIS(国家統計ポータル)、2024年9月9日閲覧</ref><ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1EW0004&conn_path=I2 어업별 품종별 통계(어업생산동향조사)] 、KOSIS(国家統計ポータル)、2024年9月9日閲覧</ref>。
+
アワビ([[전복]])は古くから済州道の名産であり、1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』によれば、宮中への進上品として2月から9月まで毎月大量の乾燥アワビを送っていた<ref name="awabi"></ref><ref name="awabi02"></ref>。アワビはヘニョ([[해녀]])と呼ばれる海女たちが、サザエ、ウニなどとともにとったが、現在は数を減らしており済州道においても天然物は希少品となっている。韓国では2000年代前半よりアワビの養殖が始まったが、そのほとんどが[[全羅南道の料理|全羅南道]]で行われており、済州道内においても[[全羅南道の料理|全羅南道]]産の養殖物が広く流通している。2022年におけるアワビの生産量は2万2167トン(沿近海漁業:107トン、海面養殖業2万2078トン)であり、そのうち[[全羅南道の料理|全羅南道]]が99.1%の2万1964トン(沿近海漁業:17トン、海面養殖業2万1947トン)を占め、済州道における生産量はわずか18トン(沿近海漁業:1トン、海面養殖業17トン)に留まっている<ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=750&tblId=DT_75001_E001068&conn_path=I2 수산물 생산량 및 판매금액(전라남도완도군기본통계)] 、KOSIS(国家統計ポータル)、2024年9月9日閲覧</ref><ref>[https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1EW0004&conn_path=I2 어업별 품종별 통계(어업생산동향조사)] 、KOSIS(国家統計ポータル)、2024年9月9日閲覧</ref>。
  
 
*代表的なアワビ料理
 
*代表的なアワビ料理
 
[[ファイル:23010204.jpg|300px|thumb|チョンボッチュク]]
 
[[ファイル:23010204.jpg|300px|thumb|チョンボッチュク]]
:アワビを用いた料理としては、郷土料理として有名な[[チョンボッチュク(アワビ粥/전복죽)]]や、ヘムルトゥッペギ(海鮮味噌鍋、[[해물뚝배기]])をはじめ、刺身、焼き物、蒸し物、釜飯など多岐にわたる。飲食店では[[ヘムルタン(海鮮鍋/해물탕)]]、[[ピビムパプ(ビビンバ/비빔밥)]]、[[サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)]]、[[サムギョプサル(豚バラ肉の焼肉/삼겹살)]]といった料理にアワビをトッピングすることも多い。アワビの肝は済州道の方言でケウ([[게우]])と呼ばれ、これを塩辛にしたケウジョッ([[게우젓]])も郷土料理として有名である。近年はアワビの肝をごはんに混ぜ、[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]や、[[チュモッパプ(おにぎり/주먹밥)]]に利用する例もある。
+
:アワビを用いた料理としては、郷土料理として有名な[[チョンボッチュク(アワビ粥/전복죽)]]のほか、チョンボクフェ(アワビの刺身、[[전복회]])、チョンボクトゥッペギ(アワビ入りの海鮮味噌鍋、[[전복뚝배기]])、チョンボクトルソッパプ(アワビ釜飯、[[전복돌솥밥]])など多岐に渡る。飲食店では[[ヘムルタン(海鮮鍋/해물탕)]]、[[ピビムパプ(ビビンバ/비빔밥)]]、[[サムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)]]、[[サムギョプサル(豚バラ肉の焼肉/삼겹살)]]といった料理にアワビをトッピングすることも多い。アワビの肝は済州道の方言でケウ([[게우]])と呼ばれ、これを塩辛にしたケウジョッ([[게우젓]])も郷土料理として有名である。近年はアワビの肝をごはんに混ぜ、[[キムパプ(海苔巻き/김밥)]]や、[[チュモッパプ(おにぎり/주먹밥)]]に利用する例もある。
  
 
*アワビとトコブシ
 
*アワビとトコブシ
204行目: 206行目:
  
 
*歴史
 
*歴史
:柑橘類は古くから済州道の名産であった。もっとも古い記録は『高麗史』にある1052年の記録であり、「壬申の年(1052年)、三司(高麗時代の財政担当官庁)からの奏上があり『耽羅国から毎年捧げる柑橘を100包子に改定し、これを恒久の制度としていただきたい』とのことでこれを受け入れた」(原文1)との内容になっている<ref>[http://db.history.go.kr/KOREA/item/level.do?itemId=kr&types=o#detail/kr_007_0080_0030_0060 高麗史世家巻第七 文宗6年3月 탐라국에서 바치는 귤의 양을 정해주다] 、韓国史データベース、2018年6月27日閲覧</ref>。少なくともこの時期には、済州道において柑橘が特産品として知られ、中央に送られるほどの名産として定着していたことが推測できる。また、1776年に編纂された『貢膳定例(공선정례)』を見ると、この時期にはさらに進上品としての物量が増えており、またその種類も多様化している。韓福眞著『朝鮮時代宮中の進上食品』によれば、「済州の柑橘類は10月と11月に船で20回に渡って漢陽(現在のソウル)まで運送された。柑橘の種類は柚子、柑子、青橘、洞庭橘、金橘、乳柑、唐柚子(ブンタン)など多様化しているが、現在はなくなった種類も多い」(カッコ内は訳注)とのことである<ref>한복진, 2005, 『조선시대 궁중의 진상식품』, 서울대학교출판부, P104</ref>。なお、今日の日本や韓国で一般的にミカン([[귤]]、[[감귤]])と呼ばれているのはウンシュウミカン([[온주밀감]])であり、済州道においては1911年にフランス人神父のEsmile J. Taque氏が日本から送られたものを植えたのが始まりとされている<ref>[http://citrus.mice-nice.com/site_m/citrus/kor/contents/index.php?mid=020102 감귤의역사] 、済州国際柑橘博覧会ウェブサイト、2018年6月27日閲覧</ref>。
+
:柑橘類は古くから済州道の名産であった。もっとも古い記録は『高麗史』にある1052年の記録であり、「壬申の年(1052年)、三司(高麗時代の財政担当官庁)からの奏上があり『耽羅国から毎年捧げる柑橘を100包子に改定し、これを恒久の制度としていただきたい』とのことでこれを受け入れた」【原文2】との内容になっている<ref>[http://db.history.go.kr/KOREA/item/level.do?itemId=kr&types=o#detail/kr_007_0080_0030_0060 高麗史世家巻第七 文宗6年3月 탐라국에서 바치는 귤의 양을 정해주다] 、韓国史データベース、2018年6月27日閲覧</ref>。少なくともこの時期には、済州道において柑橘が特産品として知られ、中央に送られるほどの名産として定着していたことが推測できる。
  
:【原文1】
+
:1611年に許筠(ホギュン、허균)が地方の特産品と料理をまとめた「屠門大嚼([[도문대작]])」(『惺所覆瓿藁([[성소부부고]])』第26巻説部5に収録)には、済州道の特産品として、金橘(キンカン、[[금귤]])、甘橘(ミカン、[[감귤]])、青橘(青ミカン、[[청귤]])、柚柑(ユコウ、[[유감]])、柑子(コウジ、[[감자]])、柚子(ユズ、[[유자]])といった柑橘類が紹介されており<ref>[http://db.itkc.or.kr/inLink?DCI=ITKC_BT_0292A_0270_020_0010_2000_003_XML 惺所覆瓿藁 / 第26巻説部5(屠門大嚼)] 、韓国古典総合DB、2025年2月10日閲覧</ref>、また、1776年に編纂された『貢膳定例([[공선정례]])』を見ると、この時期にはさらに進上品としての物量が増えて、その種類も多様化している。
 +
 
 +
:韓福眞著『朝鮮時代宮中の進上食品』によれば、「済州の柑橘類は10月と11月に船で20回に渡って漢陽(現在のソウル)まで運送された。柑橘の種類は柚子、柑子、青橘、洞庭橘、金橘、乳柑、唐柚子(ブンタン)など多様化しているが、現在はなくなった種類も多い」(カッコ内は訳注)とのことである<ref>한복진, 2005, 『조선시대 궁중의 진상식품』, 서울대학교출판부, P104</ref>。なお、今日の日本や韓国で一般的にミカン([[귤]]、[[감귤]])と呼ばれているのはウンシュウミカン([[온주밀감]])であり、済州道においては1911年にフランス人神父のEsmile J. Taque氏が日本から送られたものを植えたのが始まりとされている<ref>[http://citrus.mice-nice.com/site_m/citrus/kor/contents/index.php?mid=020102 감귤의역사] 、済州国際柑橘博覧会ウェブサイト、2018年6月27日閲覧</ref>。
 +
 
 +
:【原文2】
 
:「壬申 三司奏, “耽羅國歲貢橘子, 改定一百包子, 永爲定制.” 從之.」
 
:「壬申 三司奏, “耽羅國歲貢橘子, 改定一百包子, 永爲定制.” 從之.」
 
:(韓国史データベースによる現代語訳)
 
:(韓国史データベースによる現代語訳)
212行目: 218行目:
  
 
*品種
 
*品種
:現在の済州道で人気を集めているブランド品種は、ミカンとオレンジを交配したタンゴール(tangor)と呼ばれる交雑種がほとんどである。いずれも日本で品種改良されたものが済州道へと渡り、新しい韓国名で販売されている(下記参照)。中でもハルラボン(漢拏峰、不知火・デコポンと同品種、[[한라봉]])、チョネヒャン(天恵香、せとかと同品種、[[천혜향]])はブランド価値が高く、これらを利用したジュース、アイスクリームなども人気を集めている。ハルラボンは「済州ハルラボン(제주한라봉)」として、農林畜産食品部が地域の名産品を認証する地理的表示農産物の第100号に登録されている<ref>[http://kpgi.co.kr/page/?mo_id=specialty&id=181&wr_id=192 제주한라봉] 、韓国地理的表示特産品連合会ウェブサイト、2023年8月31日閲覧</ref>。
+
:現在の済州道で人気を集めているブランド品種は、ミカンとオレンジを交配したタンゴール(tangor)と呼ばれる交雑種がほとんどである。いずれも日本で品種改良されたものが済州道へと渡り、新しい韓国名で販売されている(下記参照)。中でもハルラボン(漢拏峰、不知火・デコポンと同品種、[[한라봉]])、チョネヒャン(天恵香、せとかと同品種、[[천혜향]])はブランド価値が高く、これらを利用したジュース、アイスクリームなども人気を集めている。ハルラボンは「済州ハルラボン([[제주한라봉]])」として、農林畜産食品部が地域の名産品を認証する地理的表示農産物の第100号に登録されている<ref>[http://kpgi.co.kr/page/?mo_id=specialty&id=181&wr_id=192 제주한라봉] 、韓国地理的表示特産品連合会ウェブサイト、2023年8月31日閲覧</ref>。
 
:・ハルラボン(漢拏峰、[[한라봉]]) = 不知火(デコポン)
 
:・ハルラボン(漢拏峰、[[한라봉]]) = 不知火(デコポン)
 
:・チョネヒャン(天恵香、[[천혜향]]) = せとか
 
:・チョネヒャン(天恵香、[[천혜향]]) = せとか
32,549

回編集