大田訪問の年~1930年代から名声を誇る大田駅名物の立ち食いうどん

 大田駅名物のカラッククス(うどん)。

 その歴史は日本統治時代までさかのぼる、との情報を得て調べてみたら、ズバリの史料があった。1933年7月3日付の釜山日報に「美人のサービスで大田駅食堂繁盛 ホームのうどんも好評」とある。大田の食を紐解くうえでたいへん貴重だ。

 深夜1時~朝5時まで営業。1杯8銭。最大100数十杯を販売。「値段に比して頗るの美味とて今や全鮮的に大田駅のウドンが有名となり多数旅客の中には夜行列車で通過する度毎に駅の立食を唯一の楽みとして大田到着を待つと言ふ熱心なファンも次第に増し」との評価は、まさに後のカラッククス人気と重なる。

 現在の大田駅構内にはカラッククスの専門店が営業し、また駅前にも専門店や屋台がある。屋台のテントに大田名物「カッキウドン(각기우동)」と書いてあって、最初その意味がわからなかったのだけど、これは「かけうどん」がなまったものらしい。ただの屋台うどんだろうけど、食べておけばよかった。

 それと一緒に思い出したのが、大邱の中華料理店で見かけた「カッキウドン(가끼우동)」という表記。韓国語のスペルが少し違うけど、これも「かけうどん」。大田も大邱も1905年に京釜線が通った主要地域であり、当時移り住んだ日本人も多かった。大邱との近似性も大田の食を探るカギになるだろうか。

 現在の大田で愛されるカルグクス(韓国式の手打ちうどん)の背景としても、大田駅における立ち食いうどん人気は、その一因と考えてよさそう。そこへ朝鮮戦争後の救援物資として大量の小麦粉が、鉄道の要衝地である大田に集まったという経緯が加わる。朝鮮戦争も大田の食を理解する重要なキーワードだ。

 大田の象徴ともいえる老舗ベーカリー「聖心堂」の創業者夫妻は咸鏡南道咸州郡の出身で、朝鮮戦争時に南へと避難して大田へと移り住んだ。同様の例に、スッコル冷麺の元祖「スッコルウォン冷麺」の平壌式冷麺や、大田駅前の中央鉄道市場にある「ケチョン食堂」の咸鏡道式マンドゥ(餃子)などがある。

 そのほか大田6味として掲げられる、ソルロンタン(牛スープ)、サムゲタン(ひな鶏と高麗人参の鍋)、トルソッパプ(釜飯定食)などは大田駅近くに老舗が集まっており、駅を中心に町が成長してきた過程がうかがえる。地下鉄の大田駅~中区庁の区間を徒歩でウロウロするとそれがよく感じられて楽しい。

 なお、中区庁に隣接して旧・忠清南道庁舎があり、この中には「大田近現代史展示館」が入っている。ほぼ韓国語での展示にはなるが、大田市の歴史がひとまとまりになっているので、地域の概要を知るにはたいへん役立つ。大田駅、木尺橋から一直線上の位置にあり、入口から木尺橋が見えるのも印象深い。

 大田駅すぐ裏手(東側)の蘇堤洞(ソジェドン)地区には、日本統治時代の鉄道官舎や旧鉄道庁の補給倉庫などが残る。古い町並みの散策が好きな人は、ふらふら歩くのもいいかも。僕は以下のサイトを参考にしました。

ソウルナビ
https://www.seoulnavi.com/special/5046601
韓国古建築散歩
http://liumeiuru.hacca.jp/2014/05/111/

 ということで大田駅を中心として地域の食文化を見たのが今回のまとめ。「見どころも名物料理も何もない」と語られる大田だけど、決してそんなことはなく、駅周辺だけでも充分に楽しかった。ソウルから日帰りでも行きやすい町だと思うので、気になった方はぜひ。2019~21年までは大田訪問の年!

 最後に余談ひとつ。1933年7月3日付の釜山日報記事に、立ち食いうどん店の名前が「菊水」とあるんだけど、これをそのまま韓国語にすると「국수(ククス)」で「麺」という意味になる。カラッククスのククスと同じ。偶然なのか、はたまた狙ったダジャレか。ダジャレだったとしたら面白すぎるよねぇ。

 

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