広尾「NewKorean HASUO(ハスオ)」日本で味わう本格モダンコリアン。

 今年7月、広尾にオープンした「HASUO(ハスオ)」。

 「HASUO」とは漢字で「何首烏(하수오)」と書き、ツルドクダミの根茎を指す生薬名です。日本語では何首烏と書いて「カシュウ」。いずれの読み方でも難解ですが、店名の第一印象からは身体によさそうなイメージが伝わってきますね。

 そのうえでポイントとなるのが「NewKorean」というコンセプトでしょう。

 韓国においてニューコリアン、モダンコリアンという表現が盛んに使われるようになったのは2009年頃から。ちょうど「韓食の世界化」がキーワードとして立ち上がってきた時期で、世界に届く韓国料理の形が模索されていた時代です。宮中料理、郷土料理、家庭料理の基礎を振り返りつつ、外国料理の最新技術や提供方法を取り込んで、新たに洗練を加えた韓国料理をニューコリアン、モダンコリアンと称しました。

 その解釈はシェフの技量にゆだねられるところが多く、個人的には個々の料理よりも、韓国料理をどうとらえるかという、シェフの世界観を楽しむのが魅力ではないかなと思っています。

 広尾の「HASUO」は、朴洙炯(パク・スヒョン)さんがオーナーシェフを務める店。

 かつて外苑前にあった「OSURI」のシェフ、といえばご記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。どことなく店名の語感も似た感じ。広尾の路地裏に店舗を移し、より隠れ家的なお店としてスタートしました。

 座席数は写真の12席に加えて、半個室が4席。

 広尾駅からは徒歩3分という距離ですが、地図を見ながら行っても迷うぐらいの立地でした。とはいえ住宅街の中ではあるものの、周囲にはイタリアン、和食の店もあったりして、全体的にお忍びで行くような店が集まっている場所ですね。

 ディナーのメニューは5000円(税抜)のコースのみ。一部の代表的な看板メニューは残しつつ、月ごとに料理を入れ替えているそうです。

 まず登場したのは、「旬のOKAZU」という16種類の副菜。

 木の板に載せられた真鍮の器はそれだけで迫力がありますが、それ以上に16種類という量のインパクトが圧倒的です。中身は日々かわるでしょうから、とりあえずこの日の16種類ということになりますが、こんな感じの面々でした。

・黒ゴマを振ったモヤシのナムル
・大根のナムル
・鶏の胸肉の煮物
・ホウレンソウのナムル
・シメジのナムル
・さきイカの和え物
・カボチャサラダ
・かつおぶしの煮物
・干しダラの煮物
・イカの塩辛
・干しエビの炒め物
・ジャコの炒め煮
・白菜キムチ
・岩海苔とレモンの和え物
・大根の角切りキムチ
・春菊の白和え

 品数もさることながら、どれも丁寧に作られているのが伝わってきました。これをちょこちょことつまむだけでも、かなり飲めるのではないかと思いますが、これを贅沢な箸休めとしつつ、コースの料理が続々と出てきます。

 2品目「旬の前菜」。

 大皿は持って驚くぐらいにしっかり冷やされており、そのあたりにもシェフの気遣いが感じられます。中央にちょこんと配されているのは……。

 花をあしらった生のマッシュルームでした。最近の韓国における流行りといってもよいかと思いますが、鮮度のよいキノコを生で食べることが増えています。ほんのりと塩味がつけられていて、エゴマの実がぷちぷちとした食感のアクセントになります。

 3品目「チルチョルパン」。

 宮中料理のクジョルパン(宮中式クレープ包み/구절판)が8種類の具材を用いるのに対し、6種類で作るものをチルチョルパン(칠절판)と呼びます。中央のミルチョンビョン(小麦粉の薄焼き、밀전병)はクチナシで色をつけているとのこと。添えられているピンクペッパーとエンドウマメの幼葉にも美学が感じられます。

 6種類の具材は右手前のキュウリから時計回りに、

・キュウリ
・パプリカ
・黄色いビーツ
・紅芯大根
・ニンジン
・うずまきビーツ

 といった感じ。

 いずれも極細の千切りになっており、もっちりとしたミルチョンビョンの食感と、シャクシャクと軽快な具材の組み合わせが見事でした。添えられているのはエゴマのソース。一般的にはマスタードソースが定番の料理ですが、このへんも柔軟に新しい切り口に仕立てています。

 4品目「ビーツチャプチェ」。

 朴洙炯シェフといえばこの料理、という印象が強いですね。真っ赤な色合いが目を引きますが、ビーツの風味もしっかり効いています。というか、直前のチルチョルパンに2種類のビーツが入っていたので、その風味が余韻として残ったまま、チャプチェ(春雨炒め/잡채)でもう1度花開くといった感じでした。

 このあたりでドリンクをクラフトビールから、自家製レモンサワーにチェンジ。自家製という表現が気になって尋ねてみると、レモンの砂糖漬けを作っているそうですね。それを使ってサワーに仕立てたそうです。このレモンの砂糖漬けがまたたまらない美味しさで、このままおかわりでレモンサワーを飲み続けました。普段からのレモンサワー好きとしてはたまらない贅沢でしたね。

 5品目「旬の海鮮チヂミ」。

 赤いチャプチェのあとに、真っ黒なチヂミというダイナミックな振り幅に驚かされます。この黒さはイカスミを使ったもので、もっちりとした食感の中からはぷりぷりのイカも登場。ヤンニョムジャン(薬味ダレ)につけていただきます。

 6品目「サム野菜プレート」。

 サムとは本来包むという意味で、肉料理と一緒に提供するサンチュ、エゴマの葉といった野菜を指すことが多いですが、ここではひと口大の野菜がたっぷり出てきました。これとセットになっているのが……。

 7品目「牛骨付ワンカルビ」。

 巨大な状態で出てきた牛カルビを切り分け、さらにアルコールをかけた石の上に載せて火をつける、という一連のパフォーマンスが鮮やかです。もう大騒ぎで写真を撮るしかないという感じ。さすが魅せ方をよくご存じです。

 プレートとともに葉野菜も出てきましたので、牛カルビとともにプレートの野菜も包んで食べてみました。普段食べている焼肉よりも、食感に変化がつくのはもちろん、野菜の瑞々しさがぐんと増しますね。もちろん箸休め的に、野菜それぞれを食べてもよしです。

 8品目「サムゲタン」。

 と聞いて気持ちの準備をしていたところに、このビジュアルはまたもやいい意味で裏切られた感じです。

「なんですか、これは!?」
「ヤクタンギと申します」
「ヤクタンギ?」

 という会話が今後もずっとこの店では繰り広げられるのでしょう。漢字で「薬湯器」と書いて韓方材を煎じるための道具。実際に韓方を煎じる用途で使用されていたものを使っているそうです。

 これをサムゲタン(ひな鶏のスープ/삼계탕)の器にするというアイデアも素晴らしいですし、なにやら余計に薬効が染み出てくるのではとも思ってしまったり。

 まあ、器からの薬効を期待するまでもなく、ソウルの京東市場から直送されるというたくさんの韓方材が一緒に煮込まれていますし……。

 極めつけはコレですよ。

 鹿の角を薄く切ったもの。鹿角(ノッカク、녹각)と呼ばれ、かなり高価な韓方材のひとつです。これ自体はかなりケモノ臭が強いので、ひとしきり眺めたら骨入れの器に遠ざけるぐらいでよいと思いますが、ここまで立派なサイズのものは初めて見ました。あえて韓方材の名前を店名につけた「HASUO」の本気を見た思いです。

 9品目「韓国伝統茶」。

 この日はサンファチャ(双和茶/쌍화차)でしたが、ただのサンファチャではなくたいへんな濃厚仕立て、かつショウガがガツンと効いたものでした。ショウガが主役と思いきや、それがまた韓方のフレーバーとよく合っている。贅沢なコースを締めくくるにふさわしい見事な1杯でした。

 いやはや大満足以上の超満足。

 最終的なお会計はアルコールを含めてひとり7500円ぐらいでした。5000円というコースの設定も含め、「ずいぶん安いな」というのが食後の感想です。ひとつひとつの料理に手がかかっていますし、韓国から仕入れている素材にも高級なものが多く、これならもうちょっと取ってもいいのにと思わせるぐらいでした。広尾といえども、ご夫婦ふたりで切り盛りしていらっしゃるので、そのあたりでお手頃価格を実現しているのかもしれません。

 静かな雰囲気で、洗練された韓国料理を楽しみたい人にはぜひおすすめ。

 ランチもやっているので、まずそこから足を運んでみるのでもいいかもしれません。
 

店名:HASUO(ハスオ)
住所:東京都渋谷区広尾5-10-3フロストバード広尾1階
電話:03-6456-4377
https://www.newkoreanhasuo.com/

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